第7話
僕はレベル250になり、【地形操作】というチートスキルを手に入れた。
これはその名の通りスキルを発動させている間は地形を自由に作り変えることができる。
僕はかつてから行きたかった島の半分、崖から先に行くことにした。
ロッククライミングが得意でもきっと登るのは苦労するであろう。
上部が突き出していてこちらから登るには天井を移動するような感じになる。
そんなこと普通の人間には無理である。
滝を魚のように登ることも考えたが、考えただけで溺れそうになった。
僕は崖の下までやって来た。
スキルを使ってこの崖に階段を作ろうと思っている。
このスキル、練度を上げないといけないのか扱いがかなり難しい。
両手で粘土をこねているようなそんな感覚がする。
しかも硬い岩などを動かそうとするとそれなりの抵抗力を感じる。
僕は試行錯誤しながらやっと階段の1段目を作った。これはなかなか大変な作業になりそうだった。
その間にも襲撃される。
今は日に5人程度しか来なくなったが、それでもいつ来るかわからない。
幸いなのはずっと発動状態の探知スキルがレベルMAXになったことだ。
この島に誰かが来たらわかるようになった。
相手が相当なレベルの隠密のようなスキルを持っていれば別だが、今まではそこまで強いやつは来ていない。
この先どうなるかわからないので油断しないでいこうとは思っているが。
報酬のアイテムボックスには食料ばかりが出るようになった。
運営もそろそろネタ切れなのかもしれない。
僕の武器庫にはいろんなナイフや剣が並んでいる。
弓やボーガンみたいな遠距離武器も揃った。
防具や衣装系もいろいろある。
最初はいろいろ使ってみたが僕には刀が合っているように思う。
何よりも存在が美しい。
崖の下で階段を作っていると上から人が降ってきた。
襲撃に来た人だろうけどスポーン地点が悪かったのか、自殺をしに来たのか、とにかく僕の目の前の地面で瀕死の状態になっている。
僕は苦しそうにするその人のとどめを刺した。
ゲームだから操作している人間は痛みを感じないだろうとは思う。
だけど目の前で苦しまれると僕の心が痛む。
そういえば、僕はここで怪我をすると普通に痛い。
今日も足の小指だけをぶつけて、のたうち回った。
これはいったいどういうことなのだろうか。
刺されたら死ぬほど痛いのではないか。
僕はこの世界を人生のボーナスステージだと思っていたが違うかもしれない。
ここはもしかしたら地獄なのではないか。
僕に用意された、抜け出すことのできない地獄。
ずっと命を狙われて、逃げ回る。
絶望する僕の前にアイテムボックスが現れた。
中にはプリンが1つ入っていた。
とうとう運営も僕を見放し始めたのか。
僕はプリンを手に取った。
そのプリンはちゃんと器に盛り付けられている。
そしてホイップクリームとサクランボがついていた。
僕はお母さんを思い出した。
あれは僕が3歳くらいのときだ。
お母さんはその日、上機嫌で、僕の手を引き喫茶店に入った。
お母さんはコーヒーとプリンを注文した。
目の前にこれと同じようにサクランボのついたプリンが来た。
僕はそのサクランボの真っ赤な色がかわいくて、どうしても食べられなかった。
持って帰りたいとお母さんに言おうとした瞬間、お母さんはサクランボを指で摘んで口に入れた。
そしてプリンの器に種をコロンと戻した。
僕は一瞬何が起こったのかわからず固まった。
そして器の上にある少しだけ赤い部分の残った種を見た。
お母さんは「帰ろっか」と言って立ち上がった。
僕はそれからサクランボを見るとお母さんを思い出す。数少ないお母さんとの思い出だ。
僕はプリンを食べずにそのままアイテムボックスに戻した。
階段作りはなかなか進まなかった。
きれいにできた1段目は2段目を作るとそれに合わせて歪んでしまった。
ある程度上がれることができれば見た目なんてどうでもいいのかもしれない。
僕は少し悩んで崖の上へと続くなだらかな坂を作った。
そしてその坂の上に階段を設置することにした。
僕には時間だけはある。
急いで適当なものを作ってもいいが、崖の上に行くことを急いでいるわけでもない。
僕はまた1段目を作った。
さっきより早く出来上がった。
何度もやっているうちにスキルのレベルが上がる。
そうなると作りやすくなる。
小さな積み重ねが目の前に見える形でわかるのは嬉しい。
そこにまた襲撃者がやって来た。
彼は大きな鉄球に棘がついた珍しい武器を使っていた。
僕が様子を見ていたらその鉄球を投げてきた。
僕は避けたが、鉄球は階段にぶつかり、階段は壊れてしまった。
僕は怒りを感じた。
次の瞬間、僕は彼の鉄球で彼自身を潰していた。
せっかくきれいに作った1段目を僕はまた作り直す。
小学生の時の図工の時間を思い出す。
友達は僕の作った空き箱の工作が気に入らなかったのか、僕に試練を与えたかったのか、僕の作ったロボットを踏んで壊した。
ペチャンコになった僕のロボットは悲しそうな顔で床に転がった。
先生はそれを見てみないことにした。
きっと僕がどう対応するのか試したのだろう。
大人はそうやって子供のことを試すことがよくある。
僕はペチャンコになったロボットを拾い上げ、バラバラにした。やり直そうと思ったのだ。
しかしチャイムが鳴ってしまった。
僕はしかたなく空き箱だけを作品置き場に置いた。
踏まれて悲しそうな顔になった空き箱と目が合った。
先生は僕の通知表の図工のところに【もう少しがんばりましょう】の成績をつけた。
僕はその試練に合格しなかったようだ。
今日はなぜか昔のことをよく思い出す。
僕は新たに出現したアイテムボックスを開けなかった。
階段を作りたいのに全く進まない。
これもきっと運営が僕に与えた試練だ。
僕は今度こそ試練をうまく突破してみせる。
────
階段を作るのに2週間かかった。
気に入らなくて何度も作り直した。ここまでやってきたからには妥協したくなかった。
そのおかげで地形操作のスキルはかなりレベルが上がり使いやすくなった。
僕は出来上がった階段に石をレンガのように作り、それを並べて手すりをつけた。
僕は満足して、上に行くのは明日にすることにした。
今日はゆっくり休むことにしよう。
帰り道にも襲撃者が現れた。
僕は油断することなく確実に仕留めた。
"経験値16102を獲得"
"レベル268になりました"
"スキル【射撃】を獲得"
いつもならそんなに気にしないアナウンスだったが、そのスキルの名前を見て驚いた。
スキルに射撃というものがあるなんて知らなかった。
僕は嫌な予感がした。
ついにこのゲームに銃が追加されたのかもしれない。
僕は探知でより慎重に行動しようと思った。
────
ログハウスに戻り、僕はまっすぐ武器庫に向かった。
防御系のアイテムもたくさんある。
僕はその中から防弾チョッキを探した。
大小様々あった。
分厚いやつや薄いやつ、効果はよくわからないが分厚い方が強そうだ。
でもスーツの中に着るにはゴワゴワしそうだ。
スーツをやめるべきか考えた。
ここにはミリタリー系の服もたくさんある。
銃がこの世界にあるとするなら目立たないのが一番だ。
僕は軍隊のような戦闘服を選んで着てみた。
なんだかしっくりこないが撃たれるよりいいかもしれない。
そこに防弾チョッキもつけてみる。
きっとこれが1番安全なスタイルなのだろう。
ちょっと嫌だったけど明日からはこのスタイルにしようと思った。
とりあえず脱いでスウェット上下を着た。
アイテムボックスの中から出たのだが、家の中はこれがいい。
────
翌朝、僕は戦闘服を身に着けて外に出た。
どこかからか狙われているかもしれないと思うと妙な緊張感が走る。
ヘルメットもつけてくればよかったと少し後悔した。
僕は人の気配を感じた瞬間に倒しにいくことにした。
気配を消そうともせず音を立てて現れる女性がいて、僕はすぐに斬った。
いつものように一撃で倒したので苦しんだりはしていないだろう。
何気なく倒れている人を見ると誰かに似ている気がした。
「ミサちゃん?」
話しかけたところで返事があるわけではない。
大きな目を見開いて倒れている姿はホスト時代の客に似ていた。
僕は手を合わせて「ごめんね」と言った。
中身がミサちゃんならわざわざ会いに来てくれたのかもしれない。
そういう一途で優しいところのある子だった。
がんばり屋のミサちゃんなら苦手なゲームでも努力して来てくれるのは想像がついた。
だからといって顔を確認してから倒すとなるとこちらに隙が生まれるかもしれない。
やはり今までどおり油断せずに先制攻撃で行こう。
────
ミサちゃん似の子を倒したあとに出てきたアイテムボックスの中身はこのゲームのキャラクターである猫のキャラのぬいぐるみだった。
僕はすぐに気に入ってズボンについてるベルトループにつけた。
僕は上機嫌で崖に向かった。
階段は美しいままそこにあった。
僕は一段ずつ踏みしめるように上へと進んでいった。
高くなると僕が歩いてきた森を上から見ることができた。
しかし狙撃の危険性があるのを思い出して急いで崖の上に向かった。
崖の上にもたくさんの木が生えている。
こちらもジャングルのようで背の高い木がたくさんあった。
下に比べると明らかに歩きにくい。
どうやら滝は二段になっているようでさらに上がある。
下からはよく見えなかったが少し奥にさらに崖があった。僕は近くまで行って滝を見上げた。
飛沫が飛んできてあっという間に濡れてしまった。
ここが戦場のようでなければ美しい景色を楽しめただろう。
しかし今はこの場所の把握が優先だ。
見渡す限り向こう側へ渡る手段はなさそうだった。
この崖の下を奥の方からぐるっと回るしかない。
探知スキルが反応した。
僕はその方角を見た。
どうやら滝から落ちてきた水が流れる川のようになった場所の向こう側にいる。
つまり僕はあちらに行くことができない。
それはおそらく相手も同じだろう。
僕とその人は川を挟んで向かい合った。
「ルイくん!!!」
女性の声だった。
よく見るとそこには昨日倒したはずのミサちゃんがいた。
「ミサちゃん?」
僕がそう呼びかけるとミサちゃんは何を思ったのか僕めがけて走り出した。
「待って!川があるよ!!」
ミサちゃんはそのまま川に落ちてしまい、崖下の川へと流れていってしまった。
僕はそれをポカンと眺めていた。
あれは多分ミサちゃんで間違いないだろう。
僕はハッとしてすぐに階段を駆け下りた。
川に向かい、ミサちゃんを探した。
川は深いように見えたから、岩にぶつかっていなければ生きているかもしれないと思ったのである。
僕はミサちゃんを探しながら川の下流へと進んでいった。
大きな倒木に何かが引っかかっているのが見えた。
近づくとミサちゃんだとわかった。
僕はなんとか引き上げた。
死んでいないことを確認し、ミサちゃんを背負い上げ、ログハウスへ向かった。
タオルで拭き取り、囲炉裏に火を入れた。
ミサちゃんは気を失っているようだった。
特に大きな怪我の兆候はない。切り傷が何ヶ所かあるだけだった。
毛布で包み温めていたらミサちゃんは目を覚ました。
そして僕をみつけた。
「やっと会えた。ルイくん。」
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