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第6話

僕はレベル200になった。

自分のステータスを確認する方法がわからないのでどれくらい強くなったのかはわからない。

スキルは「スキル」と発言すると一覧が目の前に見える。

発動するときはスキルの名前を直接言う。

単純だが、言葉を発せられないときはスキルも発動できないということである。


このゲームの中に来ておそらく1ヶ月くらい経過した。

ずっと一人なので時間の経過がよくわからない。

ここにやってくるプレイヤーの数も減ったように思う。きっと飽きたのだろう。

負けてみたい衝動にも駆られるが、いつも反射的に倒してしまう。


仕事の合間にやるゲームと違って、24時間やってるわけだから飽きてきた。

運営に監視されてる気がして僕は試しに「ハンバーガーが食べたい!」と叫んでみた。

すると次に出てきたアイテムボックスの中にハンバーガーが入っていた。

ときどき叫んでみようと思う。


山田の日記にあった誰かに見られているというような書き込みはこれのことだろう。

どういう仕組みなのかわからない。

僕だけログアウトできないのか、僕だけこの世界に住んでいるのか、科学的にありえないことなので、もしかしたら夢を見ているだけという可能性もある。


とにかく僕は望んでここにいるわけではない。

虚無な生活から抜け出せて最初は嬉しかった。

自由なんて僕には一生縁のないことだと思っていた。


しかし、ここに自由はなかった。

ホストとして働いていたときとそんなに変わらない。僕は今、この大きな箱の中でプレイヤーを倒すというやりたくもないことをやらされているだけだ。



────────────


【須藤美沙子】


「あぁ!!もぅ!!難しい!!」

私はルイに会いに行くためにゲームをやっている。

のんびり派から戦闘系まで楽しめるサバイバルゲームという売りのスマホゲームだ。

その中に突如現れたラスボスのような存在、それがルイにそっくりなのである。


私は自分寄りのキャラクターを作り直し、ルイのところに行けるようにレベルを上げていた。

ある程度の実力がないとそこまで行けないのである。

課金要素もあるのでお金の力を借りて装備を整えた。

いくら防御力が高くなっても攻撃が当たらないと敵を倒せない。


小さな狼は1匹ずつ倒すことができるようになった。しかしその後に出てくる大きな熊がどうしても倒せない。

こんなところで躓いていたら到底ルイのいる島になんて行けない。

賞金100万円の懸賞金がかけられたと動画で言っていた。いろんな人が挑戦していたがルイに近づくと問答無用で倒されてしまう。

あまりの速さに動画でもスローにして再生してくれていたがそれでも残像しか見えなかった。


ルイの姿をよく見たいのに。

配信者は何度も挑戦しているようだったがルイに見つかったが最後、次の瞬間には倒されてしまっていた。


そんな中、配信者たちが時間を合わせて3人同時に挑むという挑戦をしていた。

このゲームには協力プレイのようなものはないので結局はとどめを刺した人の手柄になる。

彼らは賞金を山分けすることを条件に協力し合うようだった。


彼らの作戦は単純で家を囲み、家に火をつけ、出てきたところを3人でボコボコにすると言うものだった。

3人は予定通り家を囲んでいた。

一人の画面に窓の様子が映されていた。そこに人影が現れたかと思うとこちらを見て手を振ったのである。

配信者は驚いて草むらに隠れた。

「みつかった。やられる前にやりに行く。」

彼はパニックを起こし作戦を無視して窓の方に向かった。

その時、ガシャッという音が鳴り、配信者のキャラは倒れ、動かなくなった。

何かが刺さったのか彼は身動きできないようだった。

「やられちゃいましたね。でもギリギリ生きてるみたいだし逃げられるかな。」

配信者はキャラクターを動かそうと試みては「だめか」と残念そうにしていた。


天を仰ぐ視点に急に人影が映った。

ルイだった。ルイは生きてるのか死んでるのかを確かめたようだった。

そして生きているとわかると心臓を一刺しにした。

配信者のキャラクターはそこで死亡して真っ暗な画面になった。


残る二人は家に火をつけようとしていた。

ライターで火をつけた布を薪の上に置いた。

火は少しずつ大きくなり、勢い良く燃えだした。

二人はうまくいったと言って家を離れようとした。

その瞬間、視界が地面に落ちたかのように足元が一瞬映ったかと思うと真っ暗な画面になった。


配信者たちは悲鳴をあげて「今の何?!」と叫んだ。

視聴者たちはそれぞれ考察をコメント欄に書き込んだ。

それらをまとめると1つの推論にたどり着いた。


「二人同時に首を落とされた」

二人の視界にルイは映っていなかった。

家を背にしていたから家から出てきたルイが映らなかったのだろう。

二人は近くを歩いていたから刀で二人同時に斬ることは可能である。


この配信で恐怖を感じたプレイヤーたちは挑戦するのを次々とやめていった。

「トラウマになる」と言われるようになり、ルイはラスボスというよりも悪魔のような存在になっていた。


テレビのニュースやバラエティ番組でも取り上げられ、スーツ姿で刀を振るうルイについて深堀されていた。

しかしゲームを運営する会社はこんなキャラクターを作っていないと言うだけだった。

と言うことは誰かが操作しているということになる。


配信者たちはそれが誰なのか調査をするという動画を出していたが結局は謎のままだった。

マンネリ化しつつあるコンテンツだったらしく、今回の騒動でかなり売上に繋がったという噂だ。

ついには運営の用意したチートキャラだろうと言われ、ユーザーは右肩下がりに減っていったと言われていた。


私は今がチャンスだと思った。

ルイの島に行くと強制的にプレイヤーバトルが発生してしまう。

ルイに会う前に誰かに会ったら自分が先に倒されてしまう可能性がある。挑戦する人が減れば減るほど自分の勝算が上がるということになる。


諦めかけていたが少しやる気に繋がった。

私はまた課金をして強い武器を買った。

それで熊をワンパンで倒せるようになった。


すでにホストのルイに会うときの1回分の金額をゲームに課金してしまった。

なんたか本末転倒な気もしてきた。

それでもルイに会いたい。

私は時間を作りゲームをやり込んだ。


ルイの島に行くのにはアイテムが必要だとわかった。

かなりレアアイテムで強い敵がランダムでドロップすると言うものだった。

ここまで来て運要素かと愕然とした。

何度も続けてチャレンジできないのはこのせいだったようだ。


その強い敵というのが『汚染されて怪物になった元人間』というなんだかでかいゾンビみたいなやつだった。

これを何体も倒さないといけないのかと思うと泣けてきた。

しかも倒してから次のがスポーンされるまで時間がかかるらしい。

私が一日にゲームのできる時間が限られているので長期戦になりそうな予感がした。


職場では私の様子がおかしいと噂になっていた。

小耳に挟んだ話によると、『貢いでいた男に捨てられてショックを受けて休暇を取り、元気になった今は復讐に燃えている』というような感じである。

遠からず、近からずという感じで笑ってしまった。


たしかに今の私は燃えている。

しかし復讐ではなく、愛に燃えているだけである。

ゲームの中に本物のルイがいるだなんて信じてはいない。

そんなことが現実に起きるわけない。

ただゲームの中にいるのなら、それを動かしている人間がどこかにいるはずだ。

それが運営かもしれないけれど、今のところ運営は否定しているらしい。


配信者の映像を見るとルイは鬼のようにプレイヤーを倒している。

こんなイベントのようにされて本人がどう思ってるのか聞きたい。

そしてなぜルイのアバターを使うのか聞きたい。


私はそこまで考えて、やっぱりルイはゲームの中で生きていると思いたい自分がいることに気がついた。

ルイがこの世から消えてしまったなんて考えたくなかった。

会えばわかる。今はそれだけしかなかった。だから黙々とアイテムをゲットするまでやるしかない。


────


死んだ場所からコンテニューするにはアイテムが必要だ。

ときどきレアドロップするらしいが私には大量に必要になる。

私が倒したいゾンビのボスみたいな敵は一定の時間攻撃がなかった場合、自動で全回復する。


通常の初期位置でのリスポーンだと完全に間に合わず全回復されてしまう。

じゃあ複数人で袋叩きにすればいいかと思うだろうが、そこは運営も対策済みで複数の攻撃者がいる場合、その人数によってゾンビは強くなる。

その数値が尋常じゃないからみんなソロでの攻撃という暗黙のルールが作られていた。


誰かがやっていたらプレイヤーが倒されてゾンビが全回復するまで待たないといけない。

もちろん倒されてしまったら次のスポーンまで数時間待つことになる。

挑戦者が減ったとはいえ、まだまだいるようだった。

リスポーンした瞬間、最初に攻撃を当てた人が戦う権利を得るというルールのようだ。


私はこの瞬発力を試されるようなことが苦手だった。

ランダムな場所に現れるから探すわけなのだが、そういう地道な作業は苦にならない。

集中力と運が必要だった。


あの優しかったルイがゲームの中で冷徹にプレイヤーを倒しているのを見るのは私にとって辛いことだった。

きっとやりたくてやっているはずないと私は思っている。

ルイの過去の話を少しだけ聞いたことがある。

ルイはそれを普通のことのように話していたが、それは全然普通じゃなかった。

何が普通で何がひどいことなのかの区別が、ルイには常識的な判別がついていない気がする。


あれがルイの思念みたいなもので動いている可能性があるならば助けてあげたいと思うようになった。

私はアイテムをなかなかドロップできず、ゲームの実況者たちは入れ代わり立ち代わりでチャレンジしていた。

一瞬しか映らないルイの姿を見るたびに心が傷んだ。


その瞳は悲しみに溢れているようにしか見えなかったんだ。


私のキャラクターのレベルが58になった。

どれだけやり込んでも100までいくのは難しいらしい。

レベルが上がるとステータスが上がり、体力や攻撃力も上がる。

そうなると少しずつ戦いが楽になる。


ゾンビの動きや攻撃パターンもわかってきた。

課金してコンテニューできるアイテムもたくさんある。


ルイ、会いに行くからね。


────


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