第5話
僕はとても忙しくなった。
なぜか次から次へとプレイヤーがやってくるようになった。
レベルは100をこえて、わけのわからないスキルもたくさんもらった。
たくさん倒していて気がついたことがある。
プレイヤーを倒すとアイテムボックスが出現する仕様のようだった。
僕はそれを知ってからプレイヤーが来るのを楽しみに待っている。
今では気配を感じたら相手を確認する前に斬り倒している。
そう、アイテムボックスの中から刀が出てきたのだ。
まるで武士になったようでかっこいい。
その他にも便利なものがたくさん出現した。
欲しかったノコギリや金槌と釘も手に入った。
大工道具がどんどん揃っていったが、家を作る暇もない。
ありがたいのはアイテムボックスから食料が出ることだ。
最近は水を濾過しなくてもペットボトルの水がたくさん手に入る。
────
いつものように侵入者を倒すと見慣れないメッセージが出た。
"1000人斬りおめでとうございます"
僕はどうやら1000人のプレイヤーを倒したようだった。
目の前に金色のアイテムボックスが現れた。
中にはカタログギフトが入っていた。
パラパラと捲ると、家電や重機など大型の商品が並んでいた。
僕はその中にログハウスキットというものをみつけた。
自分で建てないといけないようだが、加工された木材がセットなっているらしい。
僕は迷わずにそれを選んだ。
目の前に木材がドーンとどこかからか現れた。
僕は【建築】というスキルと【怪力】というスキルを持っている。
説明書通りにサクサクと組み立てることができた。
あっという間に立派なログハウスができた。
施錠のできるドアと窓がついている。
これで夜は少しでも安心して眠れるかもしれない。
僕は窓を割られないようにログハウスのまわりに罠を仕掛けた。
近づいてきたやつは一網打尽にしてやる。
ログハウスの中に囲炉裏を作り、家の中で過ごせるようにした。
荷物を移動しているときに何かを落としてしまった。
山田の日記だった。
僕はなんとなく人の日記は読まないほうがいいと思って読んでいなかった。
しかし落とした拍子に開いたページには不穏なことが書かれていた。
"誰かに見られている"
"全ては仕組まれている"
"私は客寄せパンダだ"
読むと山田が何かに怯えているのがわかった。
精神的に少しおかしくなっていたようにも見えた。
最後のページには、ぐにゃぐにゃの文字でこう書かれていた。
"見えない何かに支配されている"
僕には意味がよくわからなかった。
支配するも何も、ゲームの中なんだから、それ以上でもそれ以下でもないだろう。
僕はそっと山田の日記を箱に戻した。
────
ログハウスができてから僕の生活の水準は格段に上がった。
心に余裕ができた。
僕はこの辺で島を一周してみようと考えた。
リュックに必要な物資を詰め込み、早朝にログハウスを出た。
川がない側の海岸線を歩いてみることにした。
歩いていても襲撃者はやって来た。
僕は刀を片手に歩くことにした。
この島はいったい何なのだろうか。
僕の記憶にはこんなにプレイヤーが来る島なんてない。
シナリオを進めていたら出てきたのだろうか。
悩んだが今さらどうにもできないので考えるのをやめた。
とにかく今は殺られないように気をつけるしかない。
ゲームの中にいるけど僕が死んだらどうなるのかは不明だ。
コンテニューできなければ終わりだ。
僕は【探知】というスキルを発動させながら歩いた。
近くにあるいろいろなものを発見してくれる便利なスキルだ。
美味しそうなベリーや動物、それにプレイヤーが出てきてもわかる。
最近わかったのだがスキルは使えば使うほど練度が上がるようだ。
惜しみなく使えるときに使っていこうと思う。
この島からは他の島が見えない。
船やイカダで渡ってくるとは思うのだが、あの数のプレイヤーが来るのは変だ。
直接この島にスポーンしているとしか思えない。
そんなイベントでもあったのかなぁ?
僕は自分が戦いよりも建築や資源集めに専念していたことを思い出した。
あのプレイスタイルじゃこうはならなかったのかもしれない。
僕は近くの島へ資源や物資を探しに行くくらいだったから。
────
この島はとても大きいことがわかった。
数時間歩いたけど一周できていない。
ここから見えるところに大きな滝が流れていた。
あの川の正体だろう。
大きな岩がゴロゴロと転がっていてそれが高く積み重なっているように見える。
つまり海岸線を歩いてすすめるのはここまでだ。
見える範囲は全て崖になっている。
僕は戻ることにした。
振り向くとそこにニヤニヤ笑う男が立っていた。
探知スキルに引っかからないとは彼はなかなかできるプレイヤーのようだ。
「どうして俺を倒そうとするんだい?」
僕はずっと聞きたかったことを彼に聞いてみることにした。
「知らないのか?おまえはラスボスなんだよ。おまえを倒すと賞金がもらえるんだ。リアルマネーで100万だぜ。」
男はニヤニヤしたままジリジリとこちらに寄ってくる。
「お前を倒し…」
僕は何かを言おうとしていたその男を刀で真っ二つに斬った。
「あ、ごめん。何か言いたかった?」
男はきれいに真っ二つに倒れた。
このゲームのいいところは血がたくさん出ないところだ。
グロいところはカットされている。
そもそもそういうのを楽しむホラー的なゲームではない。
僕は歩いていない内側の道から拠点に帰ることにした。
さっきの男は僕をラスボスと言っていた。
そもそもこのゲームはサウンドボックス系のゲームでゴールなんてないと思っていた。
僕が死んでそんなシナリオが追加されたのだろうか。
みんなを飽きさせないために運営もいろいろ考えている。ありがたいことだ。
しかし僕にとってはあまり楽しいものではない。
のんびり生活を楽しみたいのにこのままじゃゆっくり昼寝もできない。
僕はアイテムボックスをみつけた。さっきの男を倒した報酬だろう。
中身はスーツだった。
実に機能性がない。
しかし僕はその場で着替えることにした。
ラスボスだと言うのなら見た目も大事だろう。
これはきっと運営からの見えない圧力だ。従ってあげよう。
初めて新品のスーツを着た。
パリッとしていてとても気持ちがいい。
黒に近いグレーでよく見るとキラキラしたストライプが入っていた。
ホストとしては少し地味かもしれないが僕にはちょうどいい。
ポケットチーフは上品な色の白だった。
このゲームのキャラクターの猫の絵がついていた。
なかなか凝っている。
僕は猫がちょこんと見えるようにポケットチーフを折ってポケットに入れた。
この格好なら革靴がいいのだろうけどジャングルを歩くのには向いていない。
そこは運営もわかってくれているようで靴はセットに入っていなかった。
しかしリアルマネーで100万とはどういうことだろうか。
ここに来るまでにかなり課金しないといけないということだと思うが、そんなに課金要素があっただろうか?
特に強い感じでもないし、武器もナイフやバットばかりだ。
銃でもあれば僕だってやられてしまうかもしれない。
僕は立ち止まり考えた。
このゲームには銃がなかった気がする。
それは僕にとってはありがたいことだ。
探知スキルを掻い潜る人がいるなら遠距離攻撃は僕にとって弱点になるだろう。
しかし弓はあった気がする。
まだ弓の使い手に会っていないが対策をしておくほうがいいかもしれない。
帰る途中にもプレイヤーは現れ、僕に殺された。
僕のレベルは147になっていた。
このゲームでレベルなんて気にしたことがなかった僕には、これがすごいのかすごくないのかわからない。
とりあえずアイテムボックスを開けるのは好きだったからありがたい。
帰り道もいろいろあったが難なく戻ってこられた。
弓のことを考えていたら矢が手に入った。
弓がないので使えないが少し楽しみが増えた。
ログハウスの中に武器庫を作った。
使いみちのわからない武器はここに保管している。
売ったり買ったりすることはできないので欲しい武器があったら奪うしかない。
しかし僕は武器のために誰かを殺すなんて野蛮なことはしたくない。
のんびりゆったりスローライフとかいうやつをおくりたいだけなのに。
ため息をついていたら外から物音が聞こえてきた。
僕は窓から外を覗いた。
外は真っ暗で街灯もない。
探知するとどうやら3人いる。
複数人で現れるのは初めてだった。
確かに協力プレイの方が勝率は上がるだろう。
僕は一人しかいない。
3人同時にかかってこられたら勝てないかもしれない。
僕は【夜目】というスキルを使った。
字の感じから多分夜に使うと目が良くなるような感じだろう。
窓の外を見ると効果は一目瞭然だった。
まるで昼間のような明るさだ。
隠れていた男の顔がよく見えた。
僕は窓から手を振った。
彼はスコープのようなものでこちらを覗いている。
スコープ付きのライフルとかだったら僕はすでに殺されていたかもしれない。
少し不安になって隠れた。
知らない間にアップデートして銃が追加されているかもしれない。
さて、どうしようか。
ドアを壊すか窓を割らないと入ってこられないだろうが、3人もいたら何を仕掛けてくるかわからない。
その時、窓の方から「ギャッ」という短い悲鳴が聞こえた。
そういえば窓の近くに罠を設置していたんだっけ。
敵の位置からさっき窓から見えた男が罠にかかっているようだ。
他の二人は裏側にいるようだ。
僕はさっき覗いた窓を開けてそこから外に出た。
罠にかかった男はぐったりと倒れたまま動かなかった。
踏んだら挟まる系の罠に採集した毒草の汁を塗っておいただけの簡単なものだった。
男はピクッと動いた。まだ生きているようだ。
僕はナイフでとどめを刺してあげた。
どうせ死ぬのだから長く苦しむことはない。
残りの二人はまだ裏側にいるようだ。
このログハウスに裏口などない。
窓だって人が通れるくらいの大きさの窓は裏側にはない。
僕は少し嫌な予感がした。
そしてそれは的中した。
彼らはこのログハウスを燃やす気だ。
僕はそこからの記憶が曖昧だった。
とても怒っていたのは確かだと思う。
気がつくと僕は両手に襲撃者の首を持っていた。
どうやら首をはねたようだった。
火事は大事に至らなかった。裏に置いてあった薪や空の木箱が少し燃えただけで消すことができた。
雨水を貯めておいたおかげだ。
僕は放火の犯人二人を岩場に並べた。
頭をゴロンと転がし、彼らの持っていたライターで火をつけた。
服が燃え始めると僕はそこに薪を置いた。
「火が好きなんだろう?きれいに燃えるといいね。」
火は薪に移り、火柱が上がった。
僕は軽蔑的な目でそれを見て家に戻った。
とても不愉快だった。
────




