第4話
ノコギリも金槌もない家造りはとても大変だった。
ナイフでは切れないし、斧では細かい作業ができない。
僕は装備が揃うまでの仮住まいとして、とりあえず壁と天井とドアのある家を作ることにした。
釘なんてないからツタを使って丸太を固定した。
屋根は大きな葉っぱをたくさん取ってきて何層にも重ねた。
イメージは瓦屋根だったが出来上がりはジャングルで簡易的に作りましたっていう屋根だった。
とりあえず雨が降ったら家の中に漏れてこないことが大事だ。
そうして僕の仮住まいは完成した。
それに伴ってなのかはわからないが襲撃される回数が増えた。
明らかに敵意を持って来る人は倒しやすいが、武器を隠している女性は一瞬悩んでしまう。
そして女性は最後に「ひどい」とか「人殺し」とか「呪ってやる」と置土産をしていく。
僕はホストクラブでいろんなタイプの女性を見てきたから女性の裏側みたいなものも少なからず知っている。
会社のお金を使い込むOLや親の金を使う女子大生や年金で来るおばあちゃんもいた。
借金地獄になって逆ギレする人もいたし、ホストを取り合って喧嘩する人たちもいた。
そんな人たちばかり見てきたから僕は女性が苦手だった。
だからといってホストが向いていなかったわけではない。
逆に女性の扱いは得意になっていた。
それも僕にとってはゲームのようだった。
お金を使わせたら自分の勝ち、我慢できなくなったら僕の負け。
刺された僕は負けだろうな。
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【須藤美沙子】
私は小さな会社で経理をしている普通の会社員の女、29歳独身。
小さな会社だから仕事が大変でも手伝ってくれる人はいない。みんな忙しいから。
人数を増やしてもらえたらみんな楽になるのだけれど、経理をやっているからわかる。
この会社、本当にギリギリだ。
だから文句も言えない。
社長も社員もいい人たちばかり。
でも疲れる。ストレスが溜まる。
そんなある日、友達にホストクラブに行こうと誘われる。
「初回は3000円だから!それ以上払わなくて大丈夫だから!」
友達は慣れた感じで私をホストクラブへと連れて行った。
3000円なら途中で帰ってもいいだろうと甘い気持ちで入った。
中は薄暗いのにキラキラで私の脳みそは完璧にバグった。
自分より若い男の子たちが自分より濃いメイクをしている。
まるで目の前で2.5次元のミュージカルが繰り広げられているようだった。
10分でホストが変わっていく初回システムで私はオロオロするばかりだった。
みんなイケメンで馴れ馴れしくて私には無理だと感じるばかりだった。
しかし最後にやってきた子だけは違った。
どう見てもノーメイクなのに美しい子だった。
どこか儚げな表情で飾らない感じだった。
「僕、まだ19歳で…お酒飲めないんです。」
彼はそう言って申し訳なさそうに笑った。
彼の名前はルイ。
お酒を飲めないのに、この店のNo.2だという。
「お疲れですか?無理して会話しようとか考えなくていいですからね。」
私はこの言葉で彼にハートを射抜かれた。
なぜか急に涙が出て止まらなくなった。
今までのホストは私を楽しませようといろいろ質問してきたり、わけのわからない話をして一人で盛り上がっていた。
それなのに彼はただ横でニコニコしているだけだった。
「何あんた酒も飲めないのにホストやってんの?!」
友達が泣いてる私にも気づかずにルイに絡み始めた。
「そうなんです。姫にはコスパがいいねってよく言われます!」
友達はそれに大爆笑していた。
「そんなんじゃ稼げないでしょー!ホストなのに!」
ルイの一言一言がその場を和ませた。
そしてあっという間に時間は過ぎた。
友達は延長したそうにしていたが私はお金がないからと断った。
帰るときに見送りの指名ができた。
私は迷わずにルイを指名した。
「賑やかすぎて最初は少しびっくりしちゃいますよね。」
ルイは私の心を読んでいるようだった。
「すいません。慣れてないもので。」
「僕も未だに慣れてませんよ。」
ルイはそう言ってえへへと笑った。
ルイは最後まで「また来てね」とは言わなかった。
来てほしくないという意味ではないのは伝わった。
私に「また来てね」と言えば、私は行かなくてはいけないと思ってしまうだろう。
それは行きたいとは別のものになる。
それをきっと察してくれていたんだ。
友達は数人のホストと連絡先を交換していた。
私は聞かれても教えなかった。
どうせ営業メールがたくさん届くだけだ。
ルイは私に連絡先を聞かなかった。
格好はちょっと古臭いスーツでいかにもホストという感じだったが、中身はまったくホストっぽさがなかった。
No.2だと聞いて納得してしまった。
彼には他にはない魅力がある。
お酒が飲めない彼にどうやって売上をあげるのかはわからないが、どうにかしてあげたいと思わせる何かがある。
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それから私の頭の中はルイでいっぱいになった。
会いたくてしかたなくなった。
でもお金がない。いや、ないわけではないけど貯金を崩すのは嫌だ。
私は月に1回だけのご褒美としてセット料金と1回の指名料の合計15000円程度でルイに会いに行くことにした。
ルイは人気者だから指名してもすぐに他のテーブルに行ってしまう。
それでも他のお客と同様に私のことも扱ってくれる。
「お金を使えなくてごめんね。」
私は他の客のシャンパンコールを聞きながらルイにそう言った。
「ここに座るだけでも十分高いよね。いつも申し訳なく思ってるよ。」
ルイは悲しそうな顔で私の手を握った。
「無理して来れなくなるよりも、たまにでも来てくれる方がずっと嬉しいんだよ。」
他のホストが言ったら白々しく思ったかもしれない。
でもルイが言うと信じてしまう。
もしかしたらあれもこれも売上を上げるための演技かもしれない。
そうだとしてもルイは許せる。
私はそれほどにルイに夢中だった。
────
『19歳のホスト、二十歳を目前に客に刺されて死亡』というニュースが流れた。
私は怖くてそのニュースの詳細を聞けなかった。
絶対に違うと自分に言い聞かせたけど悪い予感しかしなかった。
ルイの誕生日プレゼントにルイの好きなゲームのキャラクターのぬいぐるみを買って用意していたのに。
そんなことがあっていいわけがない。
「あんたの推しじゃない?刺されたの。」
友達はニュースのリンクつきでメッセージを送ってきた。
打ちのめされた。
そこにはルイの笑っている顔が映っていた。
職場にいた私は呼吸ができなくなって救急車で病院に運ばれた。
パニック発作だった。
忙しくて休むのを躊躇していた会社も有給を使って一週間休んだ。
会社の人たちは怒るどころか私が休むのはよっぽどだとかなり心配してくれた。
みんないい人たちだ。
それでも私はショックで動けなかった。
「誰かを悲しませることが僕にとって一番の恐怖」と言っていたルイ。
胸が張り裂けそうだった。
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私は1週間きっちり休んでからちゃんと出社した。
会社の人たちは「痩せちゃったね」と心配してくれた。
「必要とされていて羨ましいよ」
ルイは私が仕事の話をしたときにそう言ってくれた。
ルイの方が何倍も必要とされてると言ったが「僕は違う」と悲しげな表情を浮かべていた。
あの時の表情が忘れられない。
ルイは今元気にやっているだろうか。
天国では何も考えずに楽しくやっていてくれてるといいな。
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なかなかルイのことを忘れられない私はルイが好きだったゲームをやってみることにした。
ゲームは苦手でなかなか手を出せないでいたのだが、なんとなくやりたくなったのだ。
サバイバルゲームという部類で平和に家を作ったりもできるらしい。
人と戦うシナリオもあるようだが、ルイは平和にサバイバルするのが好きだと言っていた。
キャラクター作成画面で私は悩んだ。
自分に寄せるのか、究極の美少女を作るのか。
私は悩んだ末に男を選択してルイそっくりのキャラクターを作った。
もうそれだけで大満足で、ゲームの中にルイがいるようだった。
私は動いているルイを見るだけで楽しかったので最初の島から出ることはなかった。
レベルはほとんど上がらず、石を積んだだけの家はどんどん立派になっていった。
このゲームには人の島に遊びに行くという機能がある。
訪問中は見ることしかできない。
フレンドの島に行ってチャット機能を使って楽しんだりするのが主な用途だろう。
ときどきランダムで知らない人が島にやってくる。
私はフル無視で、なんならログアウトしてしまう。
ルイのアバターで他の人と仲良くなるなんて無理だ。
しかしなぜか私の島がバズってしまった。
レベル2なのに初期の島で石だけで豪邸を作ったやつがいると噂になったのだ。
私の島の住所は瞬く間に拡散されてしまった。
その中にルイの客がいたのだろう。
「ルイがゲームの中にいる!」
みつけた女はピチピチのTシャツにピチピチのジーンズのアバターだった。
何度もしつこく島に来てはギャーギャー騒いでいた。
私はそいつが来るたびにログアウトしていたのだが、唯一仲良くなった老人アバターの人がブロック機能を教えてくれた。
少しの間は静かになったが、すぐに新しいキャラクターを作ってまた島に来るようになった。
私はそれに疲れてゲームをやめようと思った。
そんなとき、老人キャラの子が私に似た子が無双をしていると教えてくれた。
私はすぐにその人を見に行きたかったが、レベル2ではたどり着けないところにいた。
しかたなく私は誰かの配信を観た。
視点はその人のキャラクターで、ある島に行くとその無双キャラがいるということだった。
配信者は目当ての人をみつけ、近づいた。
するとすぐにゲームオーバーになってしまった。
一瞬しかその無双キャラは映らなかったが、間違いなくルイだった。
表情はなく、どちらかと言えばなんだか怖い印象はあったけど着ていたスーツの上着に見覚えがあった。
「先輩のお下がりなんです」と恥ずかしそうに笑っていたルイを思い出した。
なぜかスボンはミリタリー風だったが、それもまたルイらしいとも言える。
私はどうしても自分でそのキャラに会いに行きたくなった。
調べるとそこはかなりのシナリオをクリアしないと行けない場所らしい。
ゲームが苦手の私にとっては難題だった。
しかし私は心に決めた。
絶対に彼に会いに行く!
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