第3話
僕は奪ったブーツに履き替えた。
革靴ではジャングルも砂浜も歩きにくかったからだ。
人が履いていたものを履くのにはちょっと抵抗があったが贅沢を言っている場合じゃない。
さっきのあいつの服が濡れていなかったから泳いできたとは考えにくい。
近くに船らしいものも見当たらない。
川を渡るにしても橋があるわけではないから濡れずに来るのは不可能だろう。
と言うことはあいつは川のこちら側から来たことになる。
捜索の範囲が半分になったと思えば少し気が楽だった。
僕はとりあえずあいつに襲われた地点まで行くことにした。
川上へと進み、右に少し行った辺りだろう。
僕は他にもプレイヤーがいる可能性を考えて、手に硬そうな棒を持っていた。
ガサガサ音がした。
僕は目を凝らしてそれの正体を探した。
僕はお母さんがテレビを観せなかったおかげで視力がとてもいい。
そして隣の家のテレビの音を聞く訓練のおかげで耳もとてもいい。
ガサガサの正体はウサギだった。
あれは後で捕まえて食料にしよう。
襲われた地点まで戻ってくることができた。
二人分の足跡がくっきりとついている。
僕はあいつの足跡をたどることにした。
おかしなことに僕の足跡はそこから始まっているようにしか見えなかった。
つまりこんな森の中でスポーンしたことになる。
ゲームの仕様が変わったのか、チュートリアルをスキップしてしまったのかは不明だ。
足跡はわざとつけたのかと思うくらいくっきりついていてあっさりとあいつの拠点をみつけることができた。
丸太を並べて家のようにしようと努力した痕跡がみられた。
わりと大きな動物の骨のようなものも落ちていた。
この森には獲物になりそうな動物がいるようだ。
特に目ぼしいものはなかった。
1冊のノートを拾うと"山田の日記を獲得"と出た。
あいつの名前は山田だったらしい。
僕はそこで山田の日記と鉛筆3本と鍋と炭をゲットした。
山田もまだ序盤だったのだろう。
家すらまともにできていない。
僕は荷物をリュックに入れて戻ることにした。
鍋を手に入れたのはでかい。
これで水を煮沸できるし、料理もできる。
サバイバルで怖いのは病気である。
病院も薬もない世界で生き延びるためには病気にならない、怪我をしないというのが大事になる。
僕は帰り道でまたアイテムボックスをみつけた。
これは不定期に出てくるもので回収しなければ自然に消えてしまう。
中身は斧だけだった。
僕のやっていたゲームでは斧は初期装備だった。
木材の確保が大事なゲームだからだろう。
これで僕も木を切って家を作ることができそうだ。
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僕は拠点に戻り、飲み終わった水のペットボトルの底を切り落とし、ろ過装置を作ることにした。
スーツのポケットに入っていたポケットチーフを飲み口の方に巻きつけて蓋をした。
そして砂を入れ、小さな砂利をいれ、石を入れ、炭を入れた。
順番は微妙だったがやらないよりはマシだろう。
川の水はきれいだったが飲めるとは限らない。
僕は鍋と、ろ過装置を持って川に向かった。
川の水をすくってろ過装置に入れて鍋で出てきた水をためた。
川から水を汲んだことなどなかったのでビシャビシャになってしまった。
しかし鍋に溜まった水はきれいで飲めそうな雰囲気がした。
僕は拠点に戻り、くすぶっていた焚き火を大きくした。
一度沸騰させれば大抵の菌は死滅するはずだ。
沸騰するまでの間、僕はウサギを捕まえるための罠を作ることにした。
ツタを輪っかにするだけのシンプルなつくりだ。
輪っかに引っかかるとギュッと絞まる。
イメージは完璧だったが実際はどうなるかわからない。
とりあえずウサギが通りそうな場所にたくさん設置してみることにした。
ベリーを置いておけば近寄ってくるだろう。
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僕の作戦は完璧だった。
水を煮沸している間にウサギが罠にかかっていた。
僕は暴れるウサギの首の後ろを掴み持ち上げた。
茶色のウサギはイメージしているウサギよりも耳が短くて顔が大きかった。
逃げようと、もがいている。
僕はウサギを殺すことができなかった。
ペットを飼ったことのない僕だったから、目の前にいる小さな生き物がなんだか愛おしく感じてしまった。
こんなかわいいものを食べようとしていたなんて、自分が嫌になる。
懐いてくれたら撫でたかったが、このウサギにはそんな余裕はないらしい。
僕は掴んでいた手をそっと離した。
ありがとうとでも言ってくれるのを期待したがウサギは猛ダッシュで逃げて行った。
しかたない。魚を捕まえる方法を考えよう。
僕は拠点に戻って今持っている物資を確認した。
大事な釣り糸がないことに気がつく。
さすがにツタではその役目を果たさないだろう。
僕は海岸線を歩いて探すことにした。
焦げた臭いがする。
山田を燃やした臭いだろう。
黒焦げの木が転がっていた。
しかし山田の姿がない。
こんな短時間で灰になったとは考えられない。
死体になってから消えるまでの時間が僕の思っているのと違ったのかもしれない。
消えてくれるなら焼く必要はなかった。
海岸線にはいろいろなものが落ちていた。
ペットボトルには日本語ではなく中国語や韓国語が目についた。
海外のゲームも日本語版があるから気軽に楽しめる。
これも外国で作られたゲームなのだろうと思った。
釣り糸はすぐにみつかった。
針までついている親切設計だ。
あとは適当な棒に括りつけて針に虫でもつけたら魚が釣れるだろう。
大きな川だし、釣りなんてやったことのない僕だけどゲームの中だし釣れるだろう。
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魚釣りはなかなかうまくいかなかった。
お腹が空いた僕はしかたなく缶詰を開けることにした。
豆の絵がついている。
サバイバルナイフに缶切りがついていた。
山田がいなかったら僕は餓死していたかもしれない。
山田に感謝して豆を食べた。
僕は小さいときから訓練されているので何を食べても不味いとは思わない。
口に入って栄養になるものなら何でもウエルカムだった。
半分まで食べて残すかどうかを考えた。
この気温だし、置いておくと腐る可能性もある。
僕は一気に食べることにした。
「助けて…」
後ろから女性のか細い声が聞こえてきた。
僕は食べていた豆をそっと地面に置いて後ろを向いた。
大きな草をかき分けて女性が歩いてきた。
僕は襲撃されると思い、近くにあった木の棒を手に取った。
女性はフラフラと僕の前に出てきた。
手には何も持っていない。
ピチピチのTシャツとピチピチのジーンズを履いたきれいなお姉さんだった。
「食べ物をわけて…。」
お姉さんは目を潤ませて僕を見た。
僕はお姉さんに近づき、棒で頭を殴った。
お姉さんは「なんで?」と言い、その場に倒れた。
"経験値13350を獲得"
"レベルが14になりました"
"スキル【狩猟】を獲得"
お姉さんの背中には大きなナイフが隠されていた。
これで僕を殺そうとしていたに違いない。
ゲームの中ではこういった油断させて奪うという人がたくさんいた。
アバターをきれいなお姉さんにして純粋なプレイヤーを騙すのである。
僕は何度も騙されて、こういったきれいなお姉さんは信じないことにしていた。
どうせ中身はハゲたおっさんだろう。
お姉さんはまだ息をしていたのでお姉さんが持ってきたナイフでとどめを刺してあげた。
山田が消えるまでにかかった時間はおそらく2時間くらいだろう。
僕はお姉さんから時計を奪った。
今はどうやら午後3時17分だ。
どれくらいで死体が消えるのか検証してみようと思う。
お姉さんがどこから来たのかわからないが手ぶらだったのでスポーンしたてなのかもしれないと思った。
最初に会ったのが僕だなんて運のない人だ。
僕は釣りをしながらお姉さんが消えるのを待った。
なかなか消えない。
消える前に魚が釣れた。
時刻は午後7時を過ぎていた。
僕は初めて釣れた魚を枝に刺して焼くことにした。
魚の焼けるいいにおいがする。
食べながらお姉さんの方をちらっと見るとまだそこにいた。
焼かないと消えないのだろうか?
それともプレイヤー自身が何かしないといけないのだろうか。
まったくこのゲームの仕様がわからない。
深夜になってもお姉さんは消えなかった。
僕は見ていることに疲れて寝てしまった。
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朝起きるとお姉さんは消えていた。
消える瞬間を見るのはなかなか難しいことなのだろう。
これでとりあえず死体は何もしなくても勝手に消えることがわかった。
僕は安心して拠点作りを始めることにした。
今のままではまた人が来たときにすぐにやられてしまう。
序盤からこんなにプレイヤーと出会うなんてなかなかのハードモードのようだ。
僕は扱いやすそうな太さの木をたくさん切った。
枝を落として丸太にしていく。
ゲームのときはサクサクと作業をしていたけど実際にやるとかなりしんどい。
しかし自分だけの家を持つことは僕の夢のひとつでもあった。
僕は今まで自宅と呼べるような家に住んだことがない。
ホストをやっていたときも寮に入れられ、逃げないようにと監視されていた。
きつい作業なので休みながらやった。
合間に網を使って魚の罠を作った。
狩猟のスキルのおかげで罠を簡単に作ることができた。
僕は川に罠を仕掛け、また伐採に戻った。
自分のやりたいことを自分で考えてやるのはとても気分がいい。
僕は夢中になっていた。
こんな気持ちは生まれて初めてだった。
僕はこの人生のボーナスステージにワクワクしていた。
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