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第2話

僕は高校を卒業してすぐに施設を出て住み込みで働ける工場勤務についた。

寮があり、食事もついていた。

僕にとってはありがたい職場である。

3交代制の8時間勤務、残業代もしっかりもらえる。

田舎にあるからお金を使うこともない。


僕は初めてスマホを手に入れ、世の中を知った。

世界は情報に溢れ、好きなときに好きなことを調べることができる。

そして僕は運命の出会いをする。


スマホゲームというものだ。


今まで娯楽という娯楽はなかった。

学校が終わるとまっすぐ施設に帰り、小さい子たちのお世話を手伝った。

僕にとってはみんな大事な家族だ。

自分の時間がなくても構わない。


学校のみんなは楽しそうにスマホをいじっていたが僕には関係のない世界だと思っていた。

しかし、いざ手に入れてみると世界が大きく変わった。

中でもサバイバルゲームと言われるゲームにどっぷりハマってしまった。

作業ゲームと言われる部類が特に好きで素材集めや建築などめんどくさいと言われるものは苦なくできた。


仕事とゲームの両立で僕の人生は充実していた。

しかし人生はそんなに簡単なものではなかった。

僕は工場の先輩に騙され、借金の連帯保証人にされた。

まんまとその先輩はどこかに逃げてしまい、僕はヤクザのような怖い人に捕まってしまった。


────


工場へは退職願を出すように言われ、僕はどこかの事務所のような場所に連れて行かれた。

「腎臓を売るか、船に乗るか、闇バイトをするかどれがいい?」

怖い男の人たちに囲まれ、僕は闇バイトを選択した。


電話をかけて老人を騙す典型的な手口だと同僚の人が教えてくれた。

僕は言われるがままマニュアル通りにやった。

しかし向いていないと上司の男に殴られた。

僕はお母さんを思い出した。

いい子にしていないと殺されるかもしれないと思った。


そんなときに上司の彼女が僕を見て言った。

「この子、私に預けてくれない?」

彼女は冴島かおりという名前で繁華街にホストクラブを経営していた。


かおりさんは僕を美容室に連れていき、まるで別人のようにしてくれた。

誰かのお下がりのスーツを着せられ、僕はホストになった。

「あなたはそのままのキャラでいけると思うわ。」

かおりさんは女性に嫌な思いをさせないことだけ気にしていなさいと僕に教えてくれた。


僕はそこでホストとしての才能を開花させた。

元々、顔だけはいいと言われていた。

お母さんもとても美人だったから、僕の見た目がいいのはお母さんのおかけだ。


お客様の理不尽な態度にも僕はうまく対応した。

お母さんを思い出して接客するとたいていはうまくいった。

僕はあっという間に人気者になった。


そうなると今まで活躍していた人たちが面白くないと言い出す。

僕はそれも見越して絶対にNo.1にはならなかった。

僕はそうやってこの世界で生き抜く力を身に着けた。


僕はもう、あの頃の僕ではなくなった。


────


ホストという仕事は見た目の派手さだけではなく、見えない部分での努力が大事な仕事だった。

顧客管理もしっかりしなくてはいけないし、先輩たちを盛り立てないといけない。

うっかり売り上げが上がってしまえば調子に乗るなと叩かれる。


僕はどんどん狡猾になり、僕が嫌いだった嘘で塗り固められた存在になっていた。

表ではいいことばかり言い、裏では怒り、妬み、憎しんだ。

そんな僕の安定剤になるものはゲームだった。

ゲームをしている時間だけが、唯一僕が僕でいられる時間だった。


ホストになって3年目、僕は不動のNo.2と言われるようになっていた。

客の数も増え、管理がパンクしそうになっていた。

いや、すでにパンクしていたのかもしれない。


勤務を終えて帰宅しようと歩いてた午前3時、僕は客の一人にメッタ刺しにされてしまう。

彼女はとてもおとなしく、いい客だった。

僕は彼女を大事に扱っていたのだが、彼女の中で僕という存在がバグってしまったらしい。


「あなたは私の物よ!」

そう言って彼女は僕を何回も刺した。


薄れゆく意識の中、僕はこれで解放されると喜んだ。

もう誰も僕を殴る人はいない。

だって死んだ人を殴る人なんてこの世界にはいないでしょう。


────


僕の考えは少し甘かったようだった。

僕は死んだはずなのに、なぜか知らない人に殴られていた。

たくさん嘘をついたから地獄に来てしまったのかと思った。


僕を殴っていた人はどうやら僕の荷物を奪って逃げて行った。

借金の返済でお金はほとんどない。

僕から奪えるものなど貰い物のブランド品くらいだろう。

そんなものには未練がない。

死ぬくらいならそんなものいくらでもくれてやる。


僕は痛みを我慢しながらその場に立ち上がった。

そこはどう見ても繁華街ではなかった。

どこかの山奥に捨てられたのだろうか。

まわりはいかにも森の中という感じだった。


お下がりでもらったスーツに革靴の姿には似つかわしくない場所だった。

近くに人の気配はなかった。

地獄がどういうところなのかは知らないが僕はとりあえず歩いてみることにした。


少し歩くと見たことのあるボックスが現れた。

黄色いそれは僕の大好きなゲームに出てくるものだった。

僕はほぼ反射的にそれを開いていた。

中にはペットボトルの水とナイフと缶詰が入っていた。

荷物を奪われたのでカバンやリュックはない。

僕はスーツの上着のポケットにそれらを押し込んだ。


すると急に目の前に文字が現れた。

"ペットボトルを獲得"

"ナイフを獲得"

"缶詰を獲得"

僕は夢の中でゲームをやっているのかと思った。

それくらいやり込んでいたから夢に出てきてもおかしくはない。


試しに落ちている枝を拾ってポケットに入れてみた。

"枝(小)を獲得"

また目の前に文字が出た。

やはりこれは僕の好きなゲームだ。


僕は思ったんだ。

あの時、僕は死んでしまって、今はクリア後のボーナスステージが発生したのではないかと。


あれだけやり込んだゲームだ。

このステージもクリアしてみせる。


────


ゲームは船が座礁して漂流するところから始まる。

主人公はなんとか無人島にたどり着く。

そこで未知との敵に遭遇しながらも生活の地盤を作り、快適な生活を目指す。

無人島は小さく、資源や物資は限られている。

だから違う島を探したりライバルの島を襲撃したりする。


僕はすでに森の中にいる。

森の中は敵にみつかりにくいが平地と違って何かするには整地しないといけない。

このゲームにおいて1番大事なのは水の確保だ。

近くに川がないか探そう。


僕は歩きながら何か使えそうなものがないか慎重に見ながら進んだ。

丈夫なツタはロープ代わりに使える。

"ツタを獲得"


森が開けて砂利が出てきた。

思っていたよりも大きな川があった。

この川を渡るのは少し大変そうだ。

それは後回しだ。僕には欲しいものがある。

砂利の中から僕はあるものを探した。

火打ち石の材料だ。

できるだけ硬い石が欲しい。

あとは鋼製の何かがあれば完璧だ。


僕は川辺を探索しながら下流へと向かった。

ゲームなら島は小さく、すぐに海に出るのだがここはそうではないらしい。

しばらく歩くと海が見えてきた。


海は美しかったが浜辺はそうでもなかった。

どこからか打ち上げられた文明の跡がそこらじゅうに落ちている。

プラスチックが自然に還るにはかなりの長い時間が必要だと聞いたことがある。

便利なものが時として自然を破壊することになる。


しかしここはゲームの世界だ。

僕は反射的に使えそうなものを拾っていた。

"網を獲得"

"ブルーシートを獲得"

"発泡スチロールの箱を獲得"


僕は網に荷物をまとめて風呂敷のようにして運ぶことにした。

日が暮れる前に拠点になる場所をみつけたい。


────


僕は海辺にある大きな岩と岩の間に目をつけた。

ここなら雨風くらいならしのげるだろう。

荷物をそこに置いて敷物になりそうな大きな草を探すことにした。

砂の上なら寝ても背中が痛くなることはないだろうけど、砂だらけになるのは嫌だった。

僕は不潔が嫌いだから。


ジャングルのような植物がたくさん生えていて重ねればいい寝床になりそうだった。

僕はナイフで草を刈り、さっきの拠点まで運んだ。

いい感じに岩の上に草を並べて重ねてみた。


初日にしては悪くないだろう。

夕日が沈もうとしていた。

僕には海に海水浴に行った記憶はない。

修学旅行で初めて海を見て感動したが、それとは違う何かがここにはあった。


僕は革靴を脱ぎ、靴下も脱いだ。

そのまま砂浜を歩くとサラサラの砂に足が埋もれる感覚はなかなかクセになりそうだった。

このまま倒れ込んで寝そべりたい気持ちを抑えて僕は大事な作業が残っていることに気がついた。


火を起こさなくてはいけない。

僕は枯れ葉や乾いた木の皮と薪になりそうな乾いた枝をたくさん拾った。

材料はある。あとは火をつけるだけである。


ゲームの中ではアイテムを拾えばあとは"使う"を選択するだけだ。

しかし行動を決めるコマンド的なものはどこにもない。

自力で火をつけないといけないようだ。


僕は硬そうな石と拾った金属片を使って火花を出そうと頑張った。

イメージは完璧だったがなかなかうまくいかない。

このゲームの難易度は高めの設定なのかもしれない。


回数を重ねるといい感じに火花が散るようになった。

木の皮に小さな火種が移り、燃えそうになる。

僕は優しく息を吹きかけた。

イメージではボッと火がつくはずだった。

実際は惜しいところで何度も消え、僕は繰り返しその作業を続けた。

ゲームと違って疲れる。

心が折れそうになる。

辺りはすでに真っ暗で、何か獣でも出てきそうな雰囲気だった。


こんな序盤でリタイヤするわけにはいかない。

僕の人生がこのボーナスステージの後も続くとは限らない。

気分を変えたのがよかったのか、火はすぐについた。


僕はホストとして仕事をする上で大事なのは情報だと思っていた。

時事問題は当たり前として、どんなお客様とも話を合わせられるようにありとあらゆる情報を頭に入れた。

キャンプなんてしたことなかったけど知識だけはある。

どうやって薪を組むといいのか、効率的なかまどの組み方とか、基本的な知識だけは頭にある。


今は鍋もないし、焼く素材もない。

せっかくつけた火を消さないようにすることが大事である。


僕は横になりながらボーッと炎を見つめていた。

何も考えなくていい時間は久しぶりだった。

ゆっくり目を閉じると僕はすぐに眠ってしまった。


────


物音がして僕は目を覚ました。

何かが近づいてきている。

僕はそっと起き上がり、岩の影に隠れた。


昨日、僕を殴ったやつだった。


そいつは僕が留守なのをいいことに荷物を漁り始めた。

僕の中で何かのスイッチが入るのがわかった。

左手で持っていた木の棒を思い切りそいつに向けて振り下ろした。


棒は頭に当たり、そいつはその場に倒れた。

虚ろな目を僕を確認すると一瞬で恐怖の表情に変わった。

僕は躊躇することなく、右手で持っていたナイフでそいつを刺した。

そいつは、声も上げずに息絶えた。

"経験値15030を獲得"

"レベルが10になりました"

"スキル【採集】を獲得"

対人プレイで経験値を稼ぎレベルを上げるのは僕の知っているゲームと同じだった。

レベルを上げると体力が上がり、時々スキルも獲得できる。

採集とは序盤で誰もがゲットできるスキルで食べられるものと食べられない者を分別することができるスキルだ。

これで毒のある植物なんかを食べずに済む。


ゲームならこの死んだ場所からリトライできる。

死体でいられる時間は5分。時間がすぎると初期位置からのスポーンになる。

スポーンとはゲーム用語でプレイヤーやアイテムが出現することを言う。


僕は昨日奪われた僕のものだと思われるリュックを奪い返した。

"リュックを獲得"

中には食料とサバイバルナイフと水が入っていた。


僕は水を飲みながら死体を眺めた。

時間の感覚があまりないが、すでに30分くらいは経っているだろう。

しかし死体は動き出すどころか消えもしない。


僕の知っているゲームとは少し仕様が違うようだった。

このままここに死体を置いておくわけにはいかない。

僕は死体からブーツとズボンを剥ぎ取った。

装備を盗むのはこういうゲームでは常套手段である。

上着は血がついていたのでやめた。


死体をこのままにしておくと野生動物がやって来る危険性がある。

埋めるのはしんどいので僕は燃やすことにした。

拠点から少し離して、僕はまた火を起こしてそれを着ていた服に着けた。

火が消えそうになったので急いで枝や枯れ葉を持ってきた。


いつの間にかキャンプファイヤーのようになった。

なんだか、嫌な臭いがしたのでその場を離れた。

ゲームにしては生々しい。


僕は食べるものを探すことにした。

昨日歩いているときにベリーっぽい赤い実をみつけていたのだ。

それはわりとすぐ近くにあった。

1つ摘んでみると甘酸っぱくて美味しかった。

僕は熟れている美味しそうな実だけを選んだ。


ゲームの中では最初は必ず誰もいない島に漂着する。

しかし僕が来たときにはあいつがすでに島にいた。

と言うことは、あいつの拠点がどこかにあるかもしれないということだ。


僕はあいつの拠点を探すことにした。


────


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