第29話
僕が騎士団に入ってから一週間が経った。
訓練場での訓練に加え、近隣にあるダンジョンをまわった。
初日以降ダンジョンにおかしなところはなかった。
僕は第1部隊での連携プレイを学び、才能をコントロールすることに集中した。
僕は剣を持つと人が変わったようになってしまう。
『僕がそうだったからかもしれない』
レンは自分がゲームの中にいたときのことを話してくれた。
最終的には意思と関係なく体が動き、まったくやる気のない状態でも勝手に敵を倒していたのだそうだ。寝ていても関係なく、体は敵を察知して刀を持ち、敵をサクッと斬ってしまうのだと言った。
『君にはそんなふうになってほしくない』とレンは言う。僕だってそんなのはごめんだ。
だから意識的に斬ったり、動かないで待ったりができるように、そのことばかりに集中して訓練を受けている。
もちろん僕が一人でスパスパと斬って回ったほうが早い。それくらいダンジョンの魔物は弱い。
しかしそれでは他の人の訓練にならない。それにあまり目立つとライオットさんに怒られる。
だから僕は動かず見守るという修行を積んだ。
体はどうしても動きそうになってしまう。それを我慢するという何の訓練なのかわからないことばかりしていた。
そのかいがあったのか、僕は状況判断能力がかなりついた。
第1部隊の人たちの癖や得意なことや苦手なことがよく見えてくる。
僕はみんなの足りないところを補うような動きをすることにした。
そうしているうちにみんなとの連携がうまくできるようになった。
喜んでばかりはいられなかった。
王都の西にある山脈に見たこともない大きな空飛ぶ魔物が巣を作ったとの連絡が来たのだ。
ライオットさんは第1部隊に討伐の命令を出した。
────
山脈までは馬車で半日以上かかる。
移動途中にもおかしな魔物が出てきて、討伐しながら進んでいたので山の麓についた頃には夜になっていた。
魔物は山に囲まれてできた窪地にいるのだそうだ。
ここからは確認できない。
僕は探知をしてみた。
とても強そうなものが10匹くらいぐるぐると飛び回っている。
薄い反応を示すものも5個くらいあるようだった。
それは全く動く気配がない。
『卵かな?そこに巣があるのかもね。』
レンは空飛ぶ魔物と聞いてからなぜか楽しみにしているようだった。
山の麓で野営することになり、テントを張った。
新人たちは料理をすることになる。僕は途中で倒した魔物の肉を持ってきていた。
厨房からも調味料をもらってきていて、準備はバッチリだった。
部屋が一緒の3人と4人で調理をするのだが、僕があまりにもテキパキやるので3人は驚いて見守るだけだった。
すぐにいいにおいの料理ができた。
「いいにおいね、これは何かしら?」
メディアさんはクンクンと匂いを嗅いで一口食べた。
「適当に作ったので料理名はないです。」
僕にも何ができたのかわからない。
「うん!おいしいわ!」
みんな喜んで食べてくれてあっという間に鍋は空になった。
片付けはワンさんたちがやらせてくれと言うので3人に任せた。
僕がボーッとしていると隣にメディアさんがやって来た。
「ルイくんには剣以外の才能もたくさんあるのね。」
そう言われて僕はびっくりしてメディアさんを見た。
そして印が出てきてしまったのかと思って腕をまくりあげた。
そこには剣の印しかない。僕は焦って「いえ、剣だけです。」と言ってメディアさんに印を見せた。
メディアさんはプッと吹き出した。
「そういうことじゃないわよ。女神様に賜らなくてもルイくんの中には剣以外の才能があるねって話よ。例えば料理とか、掃除とか、あとは馬に好かれる才能とかね。」
僕はメディアさんがどこまで知っていてどこまでの話をしているのかわからなくなってパニック状態になった。
「いえ、そんなことは…。」
僕が焦ってしどろもどろになっているとメディアさんはクスクス笑いだした。
「嘘をつく才能はないみたいね。」
僕はどう返答をしていいかわからなくなった。
バレているのか?
それともただかわれているのか、もしかして褒められているのか?
メディアさんほどの鋭い人なら何らかの疑問を持ってそれに答えをみつけたとしてもおかしくはない。
「あんまりいじめるんじゃないぞ。」
隊長のショウさんがメディアさんの頭をコツンと叩いた。
「隊長!ごめんなさい。ルイくんの反応がおもしろくて。」
メディアさんはそう言って「ごめんね」と言っていなくなった。
どうやらからかわれていただけのようだった。
ショウさんは「ゆっくり休みなさい」と言ってテントの方へ行ってしまった。
僕は心臓がドキドキしたまま片付けを手伝った。
早く終わらせてテントに入りたかったのだ。
『メディアさんにバレてないよね?』
僕はレンに聞いてみた。
『そうだね、普通に褒められただけだと思うよ。あんな場所で才能をいっぱい持ってるでしょなんて言わないと思うよ。』
レンがそう言ったので僕も納得した。
極秘の機密扱いになるようなことを誰が聞いているかわからないような場所で話すわけはないだろう。
僕はなんだかスッキリしなかった。
秘密を抱えて生きるというのはとても面倒で疲れるものだった。
────
翌朝、僕の作る朝食はまた大好評でみんなはやる気にあふれているように見えた。
しかしそれはすぐに打ち砕かれることになった。
山を少し登ると魔物の姿が見えた。
大きなトカゲのような顔に大きな翼、長い尻尾。
見たことのない姿に僕たちはしばしパニック状態になった。
『やっぱりドラゴンだね!』
レンだけはなんだか興奮していて嬉しそうだった。
『ドラゴンっていうの?強い?』
『きっと強いよ!炎や冷気を吐くやつもいる。ブレス攻撃ってやつね。鳥よりも自由に空を飛べるはずだよ。』
レンはきっとドラゴンが好きなんだと僕は思った。
しかし人間を襲うなら敵である。
剣士は空を飛ぶ魔物との相性が悪い。
魔法使いたちがまず攻撃をして動きを止めて剣士がとどめを刺すという作戦になった。
『ねぇ、本当にドラゴンは人間を襲うの?』
レンは少し怒っているようにそう聞いてきた。
『え?そうだと思っていたけど…。どうなんだろう?』
『人間を襲わないなら倒さなくていいと思うんだよね。』
レンはやっぱりドラゴンが好きなようだ。
確かにこんな山奥に住んでいるだけなら問題ないように思う。
『下っ端の僕が意見しても聞いてもらえるかどうか。みんな倒す気まんまんだし。』
『ドラゴンってとても頭のいい生き物なんだよ。話ができないかな。』
『まさかそんなことある?』
僕は半信半疑のまま作戦の所定の位置についた。
ドラゴンたちは飛ぶのをやめて巣にいるようだった。
ここからはその姿が見えない。
『ねぇ!やっぱり納得いかないよ!何もしてないのに倒されるなんて!』
レンのその言葉にハッとした。
ドラゴンが好きなんじゃなくて、レンはゲームの中にいた頃の自分と重ねているんだと気がついたのだ。
僕はいてもたってもいられなくなった。
隣にいたメディアさんに「ごめんなさい」と言って飛び出した。
「ルイくん?!」
メディアさんの怒った声が聞こえたが僕は山を登りドラゴンの巣へと向かった。
────
遠くから戻って来いというジェスチャーが見えた。
僕はそれにごめんなさいのジェスチャーで応えた。
ドラゴンは全部で10頭くらいいるようだった。
僕が近づくとその中の一頭が気がついたようでこちらを見た。
「こんにちは!お休みのところ申し訳ありません!」
僕は両手を上げてドラゴンたちの前に出ていった。
ドラゴンたちは一斉に僕を見た。
「僕はこの国の騎士団の者です。実はあなたたちがここにやって来たと報告を受けまして。人間に危害を加えるようなら戦うことになっちゃうんですけど、そんなことしないですよね?」
ドラゴンたちは僕の言葉を理解しているのかわからないが一斉に臨戦態勢になった。
「あの、僕は戦いたくないんです。僕の友達があなたたちはとても賢くてそんなことをするような種族じゃないって言うんです。」
僕は必死にレンの言葉を伝えた。
一頭が空に向かって炎を吐いた。
僕は驚いて尻もちをついた。
「やめなさい、ジュウトよ。人間の子、驚かせて申し訳ない。我々はこの土地の人間に危害を加えるためにやって来たのではない。話を聞いてくれるか?」
「わぁ!やっぱり!話せるんですね!!」
僕は持ってきていた刀をドラゴン側に置いた。
「僕はこれで何もできません。話を聞かせてください。」
ジュウトと呼ばれたドラゴンは僕の刀を自分の方に引き寄せた。
「我々は隣の大陸に住んでいた。しかしおぞましい魔女が誕生してな。我々は魔女に倒され、絶滅寸前じゃった。それでここに命からがら逃げてきたのだ。なんとしても卵を守らなければならない。
人間が戦う気なら我々も全力で応戦する。しかし我々はそれを望まない。」
「隣の大陸の魔女…。ひどいですね。」
僕は気がつかないうちに涙を流していた。
レンの悲痛な叫びが聞こえるようで、悲しくてしかたなくなった。
「僕が命がけで騎士団の人たちを説得します!少し時間をください!」
ドラゴンが頷いたので僕は急いでみんなのところに戻った。
魔法使いたちがこちらに杖を向けていたので「やめてください」とドラゴンたちの前に立った。
「ルイ!何をしてる?!」
ショウさんが怒って僕に剣を向けた。
「ドラゴンは敵じゃありません!彼らの話を聞きました。どうか落ち着いてください!」
「隊長、魔物たちはこちらに気がついているのに攻撃してきていません。ルイくんの話を聞きましょう。」
メディアさんが隊長の肩をポンと叩いてそう言ってくれた。
僕は必死に彼らの言葉を伝えた。
人間のことばを理解して話せるということを騎士団のみんなはなかなか信じてくれなかった。
「わかった。私が話をしてくる。」
隊長は僕と一緒にドラゴンのところに行くことになった。
みんなが見守る中、僕と隊長はドラゴンの前にやって来た。
「隊長を務めているショウと申します。この度は国王より魔物の討伐を命じられここに参りました。この者の話ではあなた方は普通の魔物ではないようですが本当ですか?」
「わしはこの竜族の長、ガロンじゃ。我々は魔物ではない。人間が共存を望むならそれもできるだろう。しかし隣の大陸ではそれは叶わなかった。」
ショウさんは驚いているようで目を見開いていた。
「竜族ですか。勉強不足で申し訳なかった。我々は戦う意志のない者たちと戦う気はない。竜族は人間を襲わないと報告をしてもよろしいですか?」
「我々はここで静かに暮らしたい。こちらから人間を襲うようなことはしないと誓おう。」
ショウさんは「承知しました!」と敬礼をした。
「話をしてくれてありがとうございました。」
僕はドラゴンたちに向かって深いおじぎをした。
ジュウトは刀を返してくれた。
「人間と話をするのは初めてだ。」
ジュウトはそう言って笑ったように見えた。
本来なら握手をしたいところだが手が見当たらなかったので諦めた。
僕はその日、みんなから怒られた。
勝手にありえない行動をしたからしかたがない。
しかしドラゴンと話ができると誰しもが思っていなかった。
レンはとても喜んでいた。僕はそれが、一番嬉しかった。
────




