第28話
屋敷に戻るとカオリさんたちは揃って僕を出迎えてくれた。
「騎士団入団おめでとう!」
「ありがとうございます。」
僕はなんだか照れくさくなってしまった。
「荷物はまとめてございます。お茶を用意しましたのでどうぞ。」
ヤンさんはそう言ってみんなをダイニングテーブルへと案内した。
そこには見たこともない美しい菓子や軽食が並んでいた。
「すごいですね!」
僕が叫ぶと「お祝いでございますから」とヤンさんは嬉しそうにしていた。
セルジオさんは少し不機嫌で「急なんだよ」とブツブツ言っていた。
「お父様、近所なんですから会おうと思えばいつでも会えますわ。」
カオリさんはそう言ってセルジオさんを叱りつけていた。
僕はそれがおかしくて笑ってしまった。
笑っていたが急に寂しくなった。
家を離れてここに連れてこられて、寂しく思っていた僕にここのみんなはとても良くしてくれた。
大事な家族だった。
そんな場所を離れると思うとなんだか悲しくなってしまった。
泣きそうな僕を見てカオリさんは目頭を押さえた。
「嫌ね!お祝いだって言ったでしょ!」
僕は涙をこらえて「ありがとうございます」と言った。
それから試験の話で盛り上がった。
僕はキリの話をしてみんなの意見を聞いた。
「でもレンが邪悪なものじゃないって言うならそうなんじゃないの?レンの探知能力はレベルMAXだったわよね?」
「うん、そう聞いてる。でもなんだか近くに来られるとゾワゾワするんだよね。」
「ルイくん、油断しないで警戒を続けてください。」
カイは真剣な目で僕の手を握った。
「うん、そうするよ。」
僕も真剣な顔で頷いた。
「そろそろお戻りになられたほうがよろしいかと。」
ヤンさんは焼き菓子を包んでくれて僕にこっそり渡してくれた。
「ではみなさま、お世話になりました。」
僕は少ない荷物を持って玄関で深いおじぎをした。
みんなは笑顔で手を振ってくれた。
僕は泣きそうになったからくるっと後ろを向いて走った。
振り向いたら泣いてしまいそうだったから振り向かなかった。
辺りはすでに真っ暗で、外を歩いている人も少ない。
僕は走るのをやめなかった。
────
部屋に戻ると誰もいなかった。
この時間はミーティングがあると、さっき教えてもらっていた。
僕の参加は明日からになる。
明日は入団式があるとメディアさんが言っていた。
入団式と言っても名前と所属先をみんなの前で発表するくらいだからと教えてもらった。
ベッドの横にタンスがある。
僕は少ない荷物をタンスに片付けた。
ベッドに座るとギギギと音が鳴った。
実家のベッドを思い出して懐かしくなった。
家族への連絡は禁止されていた。下手なことを手紙に書いて情報が漏れるのを避けるためだと言われている。
家族はきっと騎士団入団を喜んでくれるだろう。
僕はベッドに横になった。
疲れがどっと出てきてすぐに目を閉じてしまった。
────
僕は昨日、気を失うように晩御飯も食べずに寝てしまったようだった。
部屋の人たちが起こそうとしてくれたが起きなかったのだそうだ。
時間通りに起床して、洗顔を済ませ、朝食に向かう。
宿舎は部隊ごとに別れている。騎士団本部の裏に3棟ある。
食堂は1階にあり、時間内に食べないと食事抜きになってしまう。
僕はお腹がペコペコでたくさん盛り付けて食べた。
ヤンさんの作る料理とは違って見た目は豪快で脂っこい料理が多かった。
味は比べたら申し訳ないが、食べごたえは満載だった。
食事を終えるとメディアさんが制服を持ってきてくれた。
式典用と普段用と訓練用がある。
「今日は式典用を着てね。終わったら訓練用に着替えていいわ。」
僕は礼をしてそれらを受け取った。
部屋のタンスの横にかけるところがある。
僕は式典用の制服に着替えた。
白い衣装はとてもかっこよかった。
部屋のみんなは着替え終わっていた。
「これを着るとなんだか緊張するよな!」
トゥイさんはそう言って僕の肩を叩いた。
「失敗しないようにがんばります。」
────
入団式は城の中にある謁見室で行われた。
国王の前でそれは行われる。
名前を呼ばれて返事をするだけだと聞いていたが、それが国王や大臣など偉い人たちに囲まれるのは聞いてなかった。
「第1部隊所属、ルイ・ドラグ」
「はい!」
僕は名前を呼ばれ、ライオットさんの前に行き、制服に第1部隊のバッジをつけてもらった。
握手をしておじぎをして戻るだけだったが緊張して動きがカクカクしていた。
団員たちが笑いをこらえているのがわかった。
イグとキリもバッジを受け取り、入団式はすぐに終わった。
「国王様からお話があります。」
と案内があり、一瞬ざわついた。どうやら予定にはないことだった。
「騎士団の諸君、日頃からの活躍、まことにありがとう。
さて、ここで私から皆にお願いがある。詳しくはライオットから話してもらうが、単刀直入に言うと王国の危機が訪れている。
隣の大陸に邪悪な何かがやって来て暴れ回っていると報告を受けた。
それはいつ海を渡ってこちらに来るかわからない。
皆にはそれを倒し、国民を守ってほしいと思っている。
備えてほしい。邪悪なものに負けない力をつけてほしい。」
国王はそう言ってみんなに向かって頭を下げた。
騎士団はそれを受けて敬礼をした。僕もすぐに真似をした。
宿舎に戻り着替えをする。その間も国王の言っていた邪悪なものの話で持ちきりだった。
訓練場に行くと隊長がその話をしてくれた。
「先程の話、ライオット殿より説明を受けたので報告する。
隣の大陸、主にカンソウ王国からの報告で大陸の中央にある山脈に真っ黒な城が建てられ、そこに魔女がいるということがわかった。
最近の魔物の変異などもその魔女の仕業ではないかと考えられている。
今はこちらの大陸には渡ったのは確認されていないが手下がすでにこちらに入っているかもしれないという噂もある。
魔物の件がその魔女の仕業だとすれば、これは明らかな我々に対する宣戦布告である。
我々はそれを武力を持って受けることとなった。
今はカンソウ王国からの報告を精査している。相手が未知の存在であるのでこちらはあらゆる状況にも対応するしかない。
よって訓練を強化することとなった。覚悟してくれ。」
「はい!」
団員たちは一斉に敬礼をした。
僕もタイミングがわかってきて遅れないで敬礼できた。
────
第1部隊の訓練が異常だと言っていた意味はすぐにわかった。
第3部隊のそれとはレベルが違いすぎる。
ここは戦場かと思わせるほどに緊張感が張り詰めている。油断したらすぐに怪我をするだろう。
これをさらに強化するとはどうなってしまうのだろうか。
僕は初日ということもあって見学するように言われていた。
とは言っても剣や魔法が飛んできて、ただ見ているだけなんて無理だった。
僕は訓練用の剣を借りて飛んでくるものを避け、斬った。
なんて油断できない見学だろうか。
「午後からは演習場へ向かう。昼食を取ったら移動しておくように。」
僕は見学していただけなのに汗だくになっていた。
「怪我しなかったんだな!優秀だな!」
サンドさんはニコニコとそう言ってハイタッチを求めた。ハイタッチすると「ウェーイ」と楽しそうだった。サンドさんは第1部隊の中では珍しくお調子者のようだった。
「普段使っている剣を持っていくように。」
メディアさんは昼食をとっていると隣にやってきてそう言った。
「はい!」
「初日から演習場へ行くことになり、君には申し訳ないと思っている。演習場では実戦形式の訓練を行う。魔物も出てくるので覚悟しておくように。」
「わかりました。」
メディアさんはとても面倒みがいい人のようでいろんな人に話しかけて回っていた。
みんなもメディアさんを慕っているのがよくわかる。
僕もそんなふうになりたいと思った。
────
演習場へは馬、もしくは馬車での移動となった。
馬は全員分はないので下っ端は馬車移動になる。
時間がかかる分、早めに出発する必要がある。
僕はみんなの動きを見てついていくのがやっとだった。
「活躍して認められたら馬がもらえるぞ。」
トゥイさんが僕の横で羨ましそうにそう言った。
演習場は少し離れたところにある森だった。
演習場と言うには小さな森だったので僕は変だと思った。
こんなに街の近くで魔物なんているのだろうか。
「ダンジョンに行くんだよ。さすがに街の近くで魔物を用意するのは難しいからね。」
ワンさんがキョロキョロしている僕にドヤ顔で教えてくれた。
このダンジョンの入り口は大きな木の幹にあった。
木が裂けているように穴になっている。
これもまた入りにくそうな大きさの入口だった。
全員が現地に揃うのを確認した隊長は先頭で中に入って行った。
僕は最後尾のメディアさんの前にいた。
「ダンジョンは2回目ね。ここは初級だから安心して。」
「はい!がんばります!」
僕はワクワクしていた。ダンジョンは魔物がたくさん出てきてとても楽しいイメージがある。
この中は砂漠のようになっていた。
時々大きな岩があり、向こうには山も見える。
「山の麓まで移動する。出てきた魔物は倒すように。無理だと思ったら報告して助けを待つこと。」
初級のダンジョンは内部構造も簡単になっていて出てくる魔物も比較的弱い。しかもここはかなり広い。空があるかのように天井は見えない。
素材もレアなものは期待できないので一般の人もあまり来ない。
つまり訓練にはちょうどいい。
僕らは剣を構え、前方に見える山の方へと歩いていく。
僕は念のため探知を使った。
初級らしい弱そうな魔物がゴロゴロといた。
しかし1匹だけなんだか強そうなやつが真ん中でじっとしている。
僕はそれを後ろを歩いていたメディアさんに報告した。
直前で倒したウサギみたいな魔物を指差して、
「これが1なら150くらいのレベルの魔物です」と補足した。
「150って言われてもわからないなぁ。」
メディアさんはちょっと困った顔をした。
その時、鹿のような魔物が飛び出してきて僕は反射的にそれを斬った。
「今のはどれくらい?数字にすると。」
「そうですね、3くらいかな。」
僕がそう言うとメディアさんはもっと嫌な顔をした。
「先に行くわね。」
メディアさんはそう言うとすごい速さで進んで行った。僕はそれを必死に追いかけた。
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メディアさんはあっという間に先頭にいた人を追い越した。僕はなんとかついてこれている。
「あ、そろそろです。」
僕がそう言うとメディアさんは一度止まり呼吸を整えた。
何もなかったところに急に大きな壁が現れた。
僕は驚いてそれを見上げた。
それは壁ではなく目が2つギョロっとついている。
「なによこれ?!」
メディアさんは驚きながらもそれに向かって行った。
「硬い!刃が通らないわ!」
メディアさんは一度下がってきた。
「魔法使いが来るのを待つしかないかしら。」
壁のような魔物はこちらを睨み付けているが動こうとはしない。
ギィという音がして魔物はこちらに向かって倒れようとしているのがわかった。
僕はまた反射的に飛び出し、刀でそれを斬った。
「斬れないわよ!」
メディアさんの声が響いた。
バタンと倒れた魔物は横半分に切れて折りたたんだ感じになった。
「え?斬れたの?」
「はい、多分。でもまだ倒してません。」
折りたたまれた上半分がモゴモゴと動いた。
それは半分だけで起き上がりまたこちらを睨みつけた。さっきよりも怒っているように感じた。
他の団員も追いつき、壁の魔物はみんなに囲まれる状態になった。
魔法使いたちが魔法を放ったが壁はどうやら魔法を吸収できる体質のようだった。
「魔法やめ!」
隊長が止めた。
睨み合いになった。
目の前にいる魔物の正体がわからない。
剣も通らないくらい硬い。
幸運なのは相手の動きが遅いということだ。
何度か剣で倒そうとチャレンジする人がいたがダメだった。
「ルイくん、どうやって斬ったの?」
「えっと、微妙に継ぎ目みたいなのが見えて…。」
「そんなのある?」
「なんとなく見えたんです。」
よく見ると色が濃くなっていて線のようになっている場所がある。
「あぁ、なるほど。」
メディアさんは「ありがと」と言って魔物の方へ飛びかかった。
そしてそれを切り刻んだ。
「やった!」
見守っていた団員から拍手がおこった。
動かなくなった魔物をみんなで観察した。
金属ほどに硬い素材で、生き物っぽさの欠片もない。しかしギョロっとした目はちゃんと動いていた。
『ぬりかべみたい』
レンがボソッとそういった。
『ぬりかべって何?』
『僕がいた世界に妖怪っていう架空の化物みたいなのがいるんだけど、これにそっくりなんだ。』
結局それが何かはわからなかった。
隊長は小さな欠片を持ち帰ることにした。
その後僕らは無事に山の麓まで行き、そこにあった出口から外に出た。
初めての初級ダンジョンは謎を残して終わった。
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