第26話
穏やかな日々が続いた。
カオリさんは粛々と神官の務めを果たし、カイはその補佐をした。
僕には特にやることもない。
セルジオさんはそんな僕を不憫に思ったのか騎士団の訓練に混ぜてもらえるように取り計らってくれた。
ロキはそれを快諾し、ロキたち3人がいる小隊の訓練を受けさせてもらえることが決まった。
僕は刀は置いていくことにした。
これはあまりにも強すぎる。
その代わり木で彫った木刀を持っていくことにした。
「ルイくん!こっちだよ!」
騎士団本部の入口前でメイが待っていてくれた。
訓練は城の中で行うということだった。
中に大きな訓練場があり、それは市民や他国には機密扱いになっていると教えてくれた。
「たいしたことをしているわけじゃないんだけどね。スパイに見られてこちらのレベルを知られるのは良くないでしょ。」
僕はなるほどと思った。
城の中は想像の10倍は広く、小さな街がそのまますっぽり入っているような感覚になった。
訓練場は城の奥にある大きな建物の中だという。
僕はメイさんのあとをついていきながらキョロキョロとしてしまった。
「珍しい?不審者だと間違われないようにね。」
メイさんはそう言ってクスッと笑った。
僕はハッとしてキョロキョロするのをやめた。
「こちらが話していた神官護衛のルイくんだ。彼はこう見えてもここの誰よりも剣が速い。油断するとやられちまうぞ!」
ロキはまたふざけるようにそう言った。
騎士団たちは冗談だと思って笑っているように見えた。
メイは僕の横をキープして詳しく訓練内容を教えてくれた。
「みんな訓練用の剣を使うけど、ルイくんはその棒でいいの?」
「はい、これでお願いします。」
「打ち合いになって折れるかもだけど…。まぁやってみて。」
訓練は思っていたよりもハードだった。
剣を持つ前に基礎体力上げるために走り込みや筋トレをした。
僕は不慣れで不器用さも相まってみんなとなかなかテンポが合わなかった。
団員たちはそれを見てクスクス笑っている。
僕はこんなところで脱落してはいけないと頑張った。
あっという間に昼になり、訓練場の横にある食堂へ向かった。
おにぎりと汁物という質素な食事だったがヘロヘロになっている僕にはちょうどよかった。
「たくさん食べないと強くなれないよ!」
メイがやって来て僕の背中をバンっと叩いた。
「はい。」
僕はできるだけ元気に答えたのだがその声は弱々しかった。
まわりの団員がクスクス笑っているのが聞こえてきた。僕はなんだか恥ずかしくなって下を向いてしまった。
「午後からは剣を使う。お前の独壇場だ。見せつけてやれ。」
ロキが後ろからそう言って僕の肩をたたいた。
「はい!」
やっと元気な声が出て少し安心した。
────
二人一組になって試合形式で行う訓練だと説明を受けた。
僕の相手には最初から僕をバカにしていた大男のブンタが志願した。
まわりの団員は「かわいそうに」と僕を心配すらしていた。
ブンタは訓練用の長めの剣を選んだ。
僕は持ってきた木刀を構えた。
「おいおい、手加減しろってことか?そんな木の棒で相手されたら俺の訓練にならんだろう。」
ブンタはそう言って声を上げて笑った。
「いや、このくらいでちょうどいいだろう。」
ロキがやって来てブンタの肩を叩いた。「まぁ、がんばれ」と言って「はじめ!」と号令をかけた。
ブンタは「怪我しても知らな…」と言いかけてその場に倒れた。
隣で訓練していた組が呆気にとられてそれを見ていた。
「ブンタ何してるのよ?訓練始まったよ?」
ブンタは目を回して口をパクパクさせていた。
「ほらな、言わんこっちゃない。」
ロキが呆れてブンタに水をかけた。
「あの、まだ始まってなかったですか?僕、ちょっと叩いただけなんですが。」
僕はブンタが反応してくれないことに驚いた。
「いや、始まっていたよ。ルイくんは1発当てただけかい?速すぎて見えなかったよ。」
ロキはそう言って笑っていた。
うめき声を上げながらブンタは目を覚ました。
「おまえ…何をした?」
「えっと…これで脇腹を叩いただけです。」
僕はゆっくりと木刀で同じ動きをした。
「見えなかったぞ…おまえ、魔法使いか?!」
ブンタは納得いかなかったようで騒ぎ出した。
ロキは疑うなら何度かやってみろと言い、ブンタは3度倒された。
その後は他の人たちが自分も戦ってみたいと言い出し、いつの間にか僕に挑戦する人をみんなで見守るような感じになった。
目が肥えてきた団員たちは僕の剣筋を当て始めた。
それにはロキも喜び、僕を呼んでよかったと言った。
終わる頃には誰も僕をバカにしなくなっていた。
ブンタは「悪かったよ。おまえすごいな。」と言って握手を求めてきた。
僕は笑顔で答え、「また明日もよろしくお願いします!」と言った。
────
僕はカオリさんに特別な仕事がない限り騎士団の訓練に参加させてもらっていた。
初日以降はみんなの自分を見る目が好意的なのを感じている。
こうやって訓練していると本当に騎士団に入りたかったと悔しい気持ちになる。
いつものように走り込みをしていると聞き慣れない鐘の音が聞こえてきた。
「ルイくん、ごめん!私たち出動しないと!」
訓練中の団員たちはあっという間にいなくなってしまった。
僕は一人取り残され、片付けをして帰ろうと思った。
「ルイくん!でかい魔物が出たんだって!神官長に許可取ったから一緒に来て!」
メイは早く早くと僕を引っ張った。
僕はメイにそのまま馬に乗せられた。
「飛ばすから、しっかり捕まってて。」
僕はメイにしがみついた。メイの乗馬が荒いのを知っていたからだ。
「剣を持ってきてません!」
僕は大事なことに気がついて走る馬の上で叫んだ。
「わかってる!誰かの予備を借りて!」
よほど急いでいるのだろう。
それもそのはずだった。
王都に向かって大きな何かがやって来ているように見える。
メイさんは馬から飛び降りた。
「ルイくん!剣!これで我慢してくれ。」
ロキが僕に長くて重い剣を投げてよこした。
このタイプのは使ったことがない。
しかし手に持つと意外にしっくり来た。
「放て!」
騎士団の弓部隊が迫りくる魔物めがけて一斉に火矢を放った。
当たってはいるが効いているようには見えない。
次に魔法使いたちが魔法を放つ。
魔物の動きが鈍くなった。
効いているようだったがスピードが遅くなっただけでこちらにまっすぐ進んてくる。
大きな芋虫のようなそれはとても気持ちが悪い。
ライオットさんが馬に乗ったまま「行くぞ!」と声をかけた。
騎馬隊が一斉に魔物に向かっていく。
槍を持った団員たちは次々とそれに傷をつけた。
変な色の体液が辺り一面に飛び散った。
魔物は動きを止めたように見えた。
しかし頭をブンブン振ったかと思うと口から何かを飛ばしてきた。
僕の近くに飛んできたそれは草にかかりジュッと言って草は枯れてしまった。
「毒です!!」
僕は叫び、次の瞬間飛び出していた。
剣は芋虫の触覚のようなものを斬り、僕は首のあたりに剣を突き刺した。
ひどい鳴き声が辺りに響いた。
効いているように見えたが致命傷とは言えない。
僕は剣を抜き、次の攻撃を仕掛けようとしたが剣がボロボロになって崩れた。
『酸だね。金属が溶けたんだ。』
レンは一度引くように言った。
僕は一度みんなに合流して剣を見せた。
「どうやら刺すと剣がボロボロになります。」
団員たちはそれを見て焦っている。
「ルイくん!これを!」
カオリさんの声がしたかと思うと僕のところに刀が飛んできた。
僕はそれを手に取った瞬間に魔物に向かっていた。
溶かされる前に切り刻めばいい。
僕はまるで蝶のように飛び回り、大きな魔物を切り刻んだ。
そこにカオリさんは雨のように水をかけた。
『解毒剤みたいだよ』
体液を受けて溶けかかっていた服が形を保った。
解毒剤は魔物にも効いていた。
魔物はついに動かなくなった。
僕は急いで団員たちの方に戻り乾いている布をくれと叫んだ。
急いで刀を拭き取ったが刃こぼれもなく美しいままだった。
僕は心から安心した。
そしてその場にバタンと倒れた。
解毒剤に溺れて具合が悪くなってしまったようだ。
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目を覚ますと僕は自分の部屋にいた。
体はきれいになっていて清潔な寝間着を着せてもらっていた。
「ルイくん!目が覚めたのね!」
ベッド脇にカオリさんとカイが心配そうな顔をして座っていた。
「なんかすみません。みなさん無事ですか?」
「大丈夫よ。負傷者は現地で回復させたわ。ごめんね、私が解毒剤を降らせ過ぎちゃって。」
僕はみんなが無事で安心した。
「王都のまわりにはあんな魔物が住んでいるんですね。イチルには小さい魔物すらあまりみかけませんでしたよ。」
「今まであんな大きな魔物は出てなかったわ。今年に入ってから何度か見たことのない魔物が出てくることはあったみたいなんだけどね。」
似たような種類の魔物はいるようだが、あんなに大きなものは誰も見たことがないと言っていたらしい。
カオリさんは「とりあえずよかった」と言ってセルジオさんに報告に行った。
「魔物たちに何かが起こっているとしたら…。備えておかないといけないかもしれませんね。いつ襲われるかわかりません。」
カイは深刻そうな顔でそう言うとため息をついた。
「僕も刀を持ち歩くことにするよ。」
カイは「そうですね」と頷いた。
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翌日、僕はライオットさんに呼ばれて騎士団本部に向かった。
セルジオさんと3人で話すことになり、僕はかなり緊張していた。
何か怒られるのではないかと、記憶を巡らせていたのだけれど、怒られそうなことばかりやっててどれなのかわからない。
「ルイくん、先日は討伐の同行ありがとう。」
ライオットさんは相変わらず怖い見た目だったがそんなに怒っている感じはしなかった。
「はい、こちらこそ連れて行っていただき、ありがとうございました。」
僕はペコリとおじぎをした。
「実はね、ルイくんをどうするかっていう話、悠長なことを言ってられなくなってしまってね。」
「神殿でカオリの護衛をさせておくのはもったいないって言われてしまってね。」
セルジオさんは残念そうにそう言った。
「騎士団に入ってもらってガンガン戦ってもらいたいと私がセルジオに頼んだんだ。ルイくん、まだ騎士団に入りたい気持ちはあるかね?」
「はい!あります!」
僕は考えてもいない申し出に驚き、喜びが隠せないでいた。
「急な話なんだが明日が入団試験の日でね。急いで呼んだというわけだ。受けてくれるかな?」
「明日ですか?もちろんです!」
僕がそう言うとセルジオさんは明らかにがっかりしていた。
「ルイくんならきっと合格するだろうけど、他の受験者の手前、受けないという選択肢はなくてね。がんばってくださいね。」
セルジオさんはそう言うと「では帰って試験の準備をしましょう」と言って騎士団本部をあとにした。
「ルイくん、もう少し君と一緒にいたかったよ。」
「セルジオさん、僕、神殿でたくさん学びました。感謝しています。」
セルジオさんは僕の頭をポンポンして撫でた。
僕に騎士団に入れるチャンスがやってきた。
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