第22話
神殿に騎士団がやってきた。
侵入者たちはすぐに騎士団の人たちに連行されていった。
「二人にお話を聞きたいのですが、よろしいですか?」
「あ、はい。」
僕とカオリさんは時が止まったかのようにお互いをみつめ合っていた。
「どういった状況でこうなったんでしょうか?」
団員の一人が壊れた壁を見ながら僕たちに訪ねた。
「爆破するのは見ていません。音に気がついて駆けつけると神官のニール様が連れ去られるところでした。私はすぐに魔法を放ちました。それとほぼ同時にここにいる私の護衛が侵入者たちと交戦しました。彼らについている傷は彼の短剣によってつけられたものです。彼は剣士の印を持つものですから、致命傷にならないように手加減しています。」
「なるほど。」
団員は僕の腕の剣の印を見た。
「大事に至らなくてよかったです。お怪我はありませんか?」
「ないです。」
カオリさんがそう言ったので僕は横で頷いた。
「ありがとうございました。あとはニール殿に聞いてみます。」
団員は僕たちにペコリと頭を下げて神殿の中に入って行った。
「ルイくん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
カオリさんは誰もいなくなった裏庭のベンチに座った。
僕も隣に座った。
「ごめんね、すごく変なこと聞くよ?ルイくんの中に違うルイくんがいるよね?」
壊れた塀の部分から冷たい風が吹き込んでくる。
僕は寒くなるのは嫌だなぁなんて思いながらカオリさんの質問にどう答えるべきか悩んだ。
「おーい!今日は自宅待機になった!家に帰れって!」
神官見習いの一人が走ってやってきた。
カオリさんは「わかりました」と言って立ち上がった。
「続きは家に帰ってからね!」
カオリさんはなぜかニコッと笑ってスタスタと行ってしまった。
僕は焦って立ち上がりカオリさんのあとを追った。
────
家につくとヤンさんが心配そうにしていた。
侵入者の話はすぐに街で噂になっていたという。
「それがね、ルイくんが全員捕まえちゃってね。」
カオリさんはそう言って僕をジロッと見た。
「たまたまいい感じに倒せまして。」
僕はなぜか視線が痛かった。
「お怪我がなくてよかったです。ゆっくり休んでください。」
僕たちはそれぞれ自分の部屋に入った。
『ルイ、僕、カオリさんと話がしたい』
レンはずっと黙っていたが何かを思いつめた感じでそういった。
『わかった。どうしたらいい?』
『あのぬいぐるみ、ある?』
僕は荷物の中から猫の形のぬいぐるみを取り出した。
「ありがとう!この姿なら話が通りやすいんだ。」
僕はレンの言ってる意味がわからなかった。
コンコンと部屋をノックする音が聞こえた。
ドアの前にはメイドを引き連れたカオリさんがいた。
いつものようにお茶を用意させるとメイドを部屋から出した。
とても気まずい。
そのとき、ちょこんとぬいぐるみがテーブルの上に出た。
「カオリさん、ルイです。わかりますか?」
カオリさんはぬいぐるみが喋りだして驚いている。
しかし次の瞬間、ぬいぐるみをつかみ抱きしめた。
「ルイ…。やっと会えた…。」
カオリさんはしばらくぬいぐるみを抱きしめたまま泣いていた。
僕には何がなんだかわからなかった。
「このルイくんとは別なんだね。最初はわからなかったよ。」
カオリさんはぬいぐるみをテーブルに戻してそう言った。
「あの、僕、ちょっとよくわかってないのですが。彼は、ぬいぐるみのルイは僕の前世っていうか、えっと…。」
何をどこから説明したらいいかわからなくなった。
「別の人格として現れたのね。」
「印が出るまでは眠っていたんだ。存在してたけど存在してないみたいな。僕は全てに絶望していたから、目覚めたくなかったんだと思う。」
レンはそう言って僕を見た。
「ずっと僕の中にいたってこと?」
「たぶんね。僕にもよくわからない。ごめん。」
「急に現れたのね。私は生まれたときから私よ。びっくりしたわ。スマホもない世界に生まれたんですもの。」
カオリさんはそう言ってクスッと笑った。
スマホを知っているということは、やっぱりカオリさんは異世界の人だ。
「カオリさん…、僕たち生まれ変わったってことは…。死んじゃったってことですよね?僕は死んでいたけど、カオリさんはまだまだ若かったのに。」
「実はね、ルイ、前世のルイね、刺されたあと1度死んだんだけど宮下潤子っていう女に生き返らせられたの。
海外に連れ出されて、生命維持装置に繋がれて…頭に変な機械を付けられていてね…精神だけ分離させてゲームの中に入れられていたのよ。」
「僕は生きていた…のか…。」
レンは驚いているようだった。ぬいぐるみだから表情はよくわからないが。
「それでね、監禁されてるってわかったから新山と助けに行ったの。そしたら爆発事故が起きて…。私もその後のことはよくわからないの。そこで死んじゃったみたいだから。」
カオリさんはそう言ってエヘヘと笑った。
「そんな…。僕のせいで…。」
「ルイのせいじゃないわ。よく考えたら私がやり過ぎちゃったのよ。相手は危ない奴らだってわかってたのに…。須藤さんどうしてるかしらね。ずっとそれが気がかりなんだけど、ここじゃどうしようもないわよね。」
カオリさんはそう言って力なく笑った。
僕にはなんの話をしているのかわからなかったけど、切ない気持ちになった。
「ミサちゃん…僕のことなんて忘れて元気でやってくれているといいな。」
沈黙が流れた。
レンとカオリさんは前世での知り合いで、レンを助けようとしてカオリさんが死んでしまったということだ。
「ニイヤマって人の名前ですか?その人ももしかしたらこの世界にいますか?」
僕はなんとなくそんな気がしたので二人に聞いてみた。
「そうね、新山もいる気がしてる。実はね、神官見習いについてる従者に一人だけ使える男がいるのよ。その人の名前がカイ。新山と同じ名前なの。」
僕はその人物に心当たりがあった。
みんながオロオロする中で一人だけ動ける人がいた。
「新山さん…懐かしいな。」
レンも知っている人のようだった。
「カオリとルイが揃ってるから、彼がそうなら気がついたと思うの。聞いてみる?」
カオリさんはニヤッと笑った。
「新山さんも僕のせいで死んだんですよね…。恨まれてないかな…。」
レンはパタリと倒れた。
カオリさんはそれを両手で持ち上げた。
「ルイのせいじゃないわ。どっちかって言うと私のせいよ。でも今さらそんなこと言ってもどうにもならないわ。あの子が新山なら…。確かめないとね!」
カオリさんはそう言って僕の方を見た。
「ねぇ、ルイくん。このルイ猫を預かってもいいかしら?それとも離れるとまずいことになったりする?」
「どうでしょう?まだ離れたことがないので…なんとも。レンがいいなら僕は構いません。」
「レン?あぁ、レンタニだからね。ルイが二人だとややこしいものね。」
「カオリさん、何を考えてるんですか?僕はルイが心配だから離れるのは嫌です。」
ぬいぐるみのレンは首をブンブン振って嫌がった。
カオリさんはそれを見て「かわいい!」と喜んだ。
「あ、レンはぬいぐるみよりも僕の中にいるほうが落ち着くみたいなんです。それに喋るぬいぐるみを誰かに見られても面倒ですし。」
「そうね。わかったわ。でも今度ゆっくり話したいわ。」
カオリさんはそう言ってレンを睨みつけた。
「くれぐれもルイくんに変なことさせないでよね。」
カオリさんはそう言ってぬいぐるみを僕の方に投げ飛ばした。
僕はそれをキャッチした。
ぬいぐるみは動かなくなっていた。
「ルイくん、ぬいぐるみを持ち歩いてくれる?ルイに…、レンと話したくなるかもしれないから。」
「わかりました。」
僕はぬいぐるみを胸ポケットに入れた。
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レンはその日、僕に前世のカオリさんがどんな人だったのかを話してくれた。
やっていたことは犯罪ギリギリかアウトなこともあったようだったが、芯があってまっすぐなところは今のカオリさんと一緒だった。
自分を犠牲にしてまで他人を思いやれる心は聖職者に相応しいだろう。
僕はカオリさんのことをますます尊敬した。
『ニイヤマっていう人はどんな人だったの?』
『新山さんはカオリさんの秘書で…すごく有能な人でした。まっすぐなところはカオリさんと似ているかもしれないな。僕にとっては少し怖いイメージがあるけど、見た目っていうか、雰囲気の話だから。』
僕はレンがいた世界のことはよくわからない。
聞けば聞くほどレンが話す世界はいいところだとは思えなかった。
そんな中でレンを助けようとして死んでしまったカオリさんやニイヤマという人はとてもいい人に思える。
ひどい世界でもレンを愛してくれていた人がいたことは僕にとってもなぜかとても嬉しいことだった。
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事件の翌日、神殿に行くと裏庭の塀はもう直っていた。
街の人たちの神殿に対する意識がイチルの街とは少し違っている気がする。
こちらの方がみんなから大事にされている感じが伝わってくる。
確かにイチルの神殿には一人の神官とそれを手伝っている人が何人かいた程度だ。
結婚式や赤ちゃんが生まれた時や誰かが亡くなった時に神殿に集まるくらいで日常とは切り離されている気がする。
小さな街だとそれらは頻繁に起こることではないからあまり身近ではないのだ。
この王都にある神殿は格が違うというか、まったく別物にも感じる。
大きさやその中にいる人の人数の差もあるかもしれないが。
カオリさんはいつもどおり日課をこなす。
異世界の記憶を持つ彼女はこの世界をどんなふうに見てきたのかとても気になる。
かつて電気という概念をこの世界にもたらした転生者と同じように、この世界の不便さを嘆いたりしていたのだろうか。
僕は掃除をしながらレンに話しかけた。
『レンはこの世界をどう思ってる?前の世界に帰りたいと思う?』
『どうかな?この世界は確かに僕の知ってる世界に比べると不便なことが多いようだけど。それって便利さを知ってる人がそう思うだけで元々住んでる人は思わないよね?ルイは毎日楽しそうだし、家族とも仲良しだし、僕にとってはそれが羨ましく思えるよ。』
レンの言葉には何かある気がした。
それが何かはわからないけど、僕は幸せなんだと実感することができた。
印が50個も出てきちゃって、もっと人生めちゃくちゃになるかと思ったけど、僕のまわりにいる人たちのおかげでこうやって平和に過ごせている。
それは感謝すべきことなのだろう。
「ルイくん!お祈りに行くわよ。」
「はい!」
カオリさんはもうこの国の人だ。
深く考えるのはやめよう。
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