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第20話

収穫をひかえた小麦が金色に美しく輝いている。

僕はそれを馬車の中から見ていた。


王都に行ってから1週間、あっという間に過ぎてしまった。

僕は格好だけは立派な剣士に見えた。

ライオットさんにもらったお金で立派な装備一式を揃えたからだ。

それでもお金は余った。

父はルイを売るようで嫌だと言ってそのお金を使わなかった。

全部持たせてくれて、足りないものがあったら買うようにと言われた。


行った先でどのような待遇になるかわからない。

極秘であるゆえに隠された拠点で過ごすことになるかもしれないと父は悲しそうに言った。

噂レベルの恐ろしい話を父は次から次へと僕に聞かせて母に怖がらせるなと怒られていた。

しかしそれはもう手遅れで、今僕はとても怯えている。


迎えに来た馬車が騎士団のものではなく、明らかにボロかったからだ。

そのおかげなのかこの馬車は盗賊に狙われることもなく王都に到着した。


僕は城でも騎士団でも神殿でもなく、ある家の前で降ろされた。

かなり立派な家で僕は高級な宿か何かだと思った。

中からおじいさんが出てきて僕を中に案内してくれた。


「ルイ様のお荷物はお部屋に置いておきますね。」

おじいさんは「執事のヤンです」と言っていた。

執事とは確か家の世話をする役職だったと思う。


立派な家を見ればなんとなくわかる。

こんな大きな家を一人で掃除するのは大変だ。


「やぁ、よく来たね。」

そこにはニコニコ笑顔の神官長さんがいた。


「神官長さん?どういうことですか?」

「今から大事な話をするよ。私の部屋に来てくれるかな。」

神官長さんはそう言って2階の奥にある部屋に僕を案内した。


神官長さんは大きな立派な机の椅子に座った。

僕はその向かえにある椅子に座るように言われた。


「さて、君の扱いについてはかなり悩んだんだ。誰がどのように保護するかという点でね。」

「保護?ですか?」

僕は思っても見ない言葉が出てきて驚いた。


「そうだよ。君は15になったばかりだ。一般的には大人という扱いにはなるがまだまだ子供だろう。」

僕は確かに、と思った。


「君のことはごく一部の人間しか知らない。そのごく一部の人間がこぞって君の保護を申し出たんだ。」

「なぜそんな?」

僕はシンプルに驚いた。

どちらかと言えば厄介者の扱いをされると思っていたからだ。


「ある者は力を、ある者は利権を、ある者は影響力を、とにかくみんな君を囲うことは将来のためになると思ったのだろうね。だって、才能が50もあるなんて、宝の山をみつけたようなものだからね。」

僕は自分がそんないいものではないと思っている。


「それで少し揉めてね。1番利害が生まれない神殿が預かることになったんだよ。聖職者でもない、魔法も使えない君が神殿に入るのは変だと言ったんだがね。」

神官長さんは苦笑いをした。

なんだか歓迎されてない雰囲気で僕は戸惑った。


「そこで私は考えたんだ。君を神官見習いにすべきかどうかと。でもいくら剣が上手くても神官にはなれないんだ。」

僕はそうだろうなと思った。

「うちには君と同じ歳の娘がいる。カオリという名で聖職者の印を賜った。力も強く、次期神官長という声も出ているくらいだ。」

神官長さんは急にデレデレした感じで娘を褒めちぎった。


「君をカオリの護衛として雇うことにしたよ。まぁ、それは表向きの話で実際には君には学んでもらいたいこともやってもらいたいことも出てくるとは思うが。歳も近いしお互い楽しくやってくれるんじゃないかと。」

「お父様、楽しくなんてできる自信ありませんわよ。」

後ろから声がして振り向くと白い衣装をまとった女の人が立っていた。


「おや、早かったね。カオリ、こちらがルイくんだよ。ルイくん、これがうちの娘のカオリです。」


カオリはキョトンとした顔で僕を見た。

「あ、あの。ルイです。イチルの街から来ました。」

僕は深めのおじぎをした。


「あなた、ルイって言うのね…。へぇ。」

カオリは「よろしく」とだけ言って部屋を出ていってしまった。


「僕、、嫌われたみたいですね。」

僕が苦笑いをすると神官長さんは頭をポリポリと掻いた。

「すまないね、ちょっとわがままに育ってしまって。どうにかうまくやってくれたまえ。あと、君は私の遠い親戚ということにした。私のことはセルジオと呼んでくれ。」

「セルジオ様でよろしいですか?」

「そうだな、それならまわりも怪しまないだろう。」


「僕は具体的に何をしたらいいんでしょう?カオリさんの後ろに張り付いていたらいいですか?」

「いや、カオリはこれから神殿で神官になるための修行を行う。それは君にとっても有効だろうと考える。まぁ、魔法を使うような場面ではどうにもならないだろうが。

一緒に学び、君の才能がどう関与するのか、どのような場面で有効なのか、観察させてほしいのだよ。将来、君が何をするか、何ができるかを国として見極めないといけないからね。

王からの勅命とはそんな感じのぼやっとしたものなんだ。秘密だよ。」


セルジオさんはそう言って笑っていた。

みんな未知の僕を把握しておきたいと言うことなのだろう。


「あの、僕、騎士団に入りたいと思っていたのですが、それは無理ってことでしょうか?」

「そうだったね。すぐには無理だけど、君の才能がどの程度なのかを把握できて、騎士団に入っても大丈夫だと判断されたら入団できるとは思うよ。」

僕は今のところ厄介者のようだと思った。しかし騎士団に入るチャンスがなくなったわけでもないと知って少し安心した。


「この屋敷の中で君のことを知るのは私と私の妻ミハルとカオリと執事のヤンだけだ。印は常に隠しておくこと。他のものに悟られることないように過ごしてほしい。何かあれば私かヤンに相談してくれ。」

「わかりました。」

「では私は神殿に戻る。君は今日はゆっくり休むといい。明日から頼むよ。」

セルジオさんはそのまま神殿へと向かっていった。

僕はヤンさんに案内されて部屋に入った。


「必要なものがありましたら言ってくださいね。」

ヤンさんはおじいさんだったが背筋はシャキッとしてとてもかっこいい人だった。不思議と安心感を感じる。

「ありがとうございます。」


部屋はとても広く、トイレもお風呂もついていた。

僕はポツンと広い部屋の真ん中にある椅子に座った。

家族と離れて暮らすのは初めてだった。

『大丈夫だよ。僕がいるよ。』

レンは僕の気持ちがわかる。

少し恥ずかしくなったがその言葉は心強かった。

『ありがとう!僕は一人じゃなかった!』


僕は立ち上がり窓の外を見た。

この部屋は2階だったがかなりの高さがある。

1階ごとの天井の高さゆえだろう。

玄関を入るのに階段を上がっている。きっと地下室があるのだろうと思った。


そこまで考えて僕は『ん?』と思った。

建物を見ただけで構造を把握するなんておかしい。

僕は腕の印を出してみた。

『多分、建築のスキルだよ。僕も持ってた。』

レンがそう言い、僕は建物の形をした印をみつけた。

『建築士の才能か!』

『実際に家を建てたりするときにも効果があると思うよ。』

僕は大工として家を建てるイメージをした。

それはそれで楽しそうだった。


僕はついでに他の印を見た。

まだまだわかっていない印がある。

その時ドアがノックされた。僕は急いで印を隠した。

「はい!」

僕は急いでドアを開けた。

そこにはメイドを引き連れたカオリが立っていた。

「ちょっとお邪魔するわよ。」

カオリはそう言うとズカズカと中に入ってきた。


「ここに用意して。置いたら行っていいわ。」

「かしこまりました。」

連れてきたメイドたちはテーブルにお茶と焼き菓子をセットすると部屋を出ていった。


カオリは椅子に座り、「何してるの?お茶にするわよ。」と言った。

僕は「はい」と言って向かい側の椅子に座った。


カオリからはなんとなく敵対心というか、嫌われているような感じが伝わってくる。

僕は先のことを考え、できるだけ問題を作りたくないと思った。


カオリは優雅にお茶をすすり、僕にクッキーを勧めた。

「いただきます。」

きっととても美味しいクッキーなんだろうけど、今の僕には味なんてわからなかった。それくらい緊張していた。


『カオリさん…。』

レンがボソリとそう呟いた。

『レン、どうしたの?』

『あぁ、ごめん。僕の知り合いにもカオリっていう名前の人がいたのでね。』

レンはそれだけ言って黙り込んだ。邪魔しないようにと思ったのだろう。


「ルイ、あなた、私をどう思う?」


カオリはとても真剣な顔で僕に問いかけた。

僕は質問の意図がわからず混乱してしまった。

「えっと、とても美しい人だと思います!」

僕が焦ってそう言うとカオリは笑いだした。


「ごめんね、知ってる人に似ていたものだから…。おかしな質問をしてごめんなさい。」

カオリは明らかに僕への警戒心を解いた感じがした。


「それで、似てましたか?」

「ぜんぜん。彼なら言わないような答えだったわ。」

僕はこれがいいのか悪いのかわからなかったけどカオリが笑っていたので第一関門クリアという感じがした。


「急に知らない家に連れてこられて大変だったわね。私にできることがあれば協力するから遠慮なく言ってね。」

カオリは優しい顔で座っている僕の頭を撫でた。


『カオリさん?!』

その瞬間またレンが叫んだ。

僕はビクッとなった。

「ごめんなさい!頭を撫でるなんて子供にするようなことを…深い意味はないのよ!」

カオリはとても慌てていた。きっと、無意識だったのだろう。

「いえ、大丈夫です。なんだか懐かしい気持ちになって心が温かくなりました。」

それは本当だった。

なぜかとても懐かしい気がしたのだ。


カオリは顔を真っ赤にさせたまま「では、夕食でね」と言って部屋を出ていった。

僕はクッキーをつまんだ。

バターの香りがしてとても美味しいクッキーだった。


『レン?大丈夫?』

『そんなこと絶対にないとは思うんだけど…カオリっていう子、僕の知ってるカオリさんの気がするんだ。カオリさんもたまにあぁやって僕の頭を撫でたんだ。』

『名前も一緒だし…疑うのはわかるけど…。カオリさんも、死んだってことになるよ?』

『あぁ、そうだったね。カオリさんはまだ30歳くらいだった。死ぬには早すぎるね。』

レンはそう言って黙ってしまった。

きっとレンにとって大事な人だったのだろうと思った。

大事な人が側にいるとわかるだけで嬉しいものだろうから。


明日からのことを思うと少し胃が痛くなった。

まったく未知の世界に飛び込むことになる。

カオリさんやセルジオさんがいるとはいっても、他の人に僕のことを知られてはいけない。

初めてのことをするのと、嘘をつかないといけないかもしれないことを考えると憂鬱になった。


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