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第17話

僕は神官長さんの部屋に来ている。

そのテーブルの上で猫の形をしたぬいぐるみが動き、喋っている。


「これは本当に…何と言っていいか。私も初めての事態です。」

神官長さんは興味津々でそのぬいぐるみを観察している。


「あの、あなたもルイさんなんですよね?僕の前世はぬいぐるみではないということですよね?」

僕は少し冷静になり、ぬいぐるみに質問してみることにした。


「僕が君の前世なのかなんて知らないよ。さっきも言ったけど僕はこんな姿じゃなかったよ。日本っていう国に生まれた人間だったよ。まだ19歳で…誕生日になる前に刺されて…。多分そこで死んだ。でもその後にゲームの中に入れられて…。地獄みたいなところにいた。僕は小さな世界に閉じ込められてやりたくもないことを…。」


「ゲームの中って何ですか?牢獄みたいなところですか?」


「そうだね、出たくても出られないってところは牢獄と似てるね。」

ぬいぐるみはゲームというものが架空の世界だと言った。

その世界の中に閉じ込められて知らない人と戦わせられていたと話した。


僕も神官長さんもそれがよくわからなかったのだが、スキルという言葉を聞いて何となく繋がるような気もした。


「そのスキルっていうのは才能みたいなものだね。」

「はい、僕もそう思いました。」


「僕はそのゲームの中で無敵の存在になったんだ。スキルは敵を倒しているとレベルが上がってたまにもらえるんだ。採集とか探知とか狩猟とか剣豪とかいうのもあったかな。あと狙撃とか、料理とか戦いに関係ないのもたくさんあったと思うよ。」


僕と神官長さんは目を合わせた。

確かに僕の腕に現れた印と似ている。


「とにかくぬいぐるみのルイくんはこちらのルイくんの関係者で間違いないでしょう。しかし名前が同じだと呼びにくいですね。」


「じゃあ僕のことはレンとでも呼んでよ。僕の本名は連谷ルイ。レンタニじゃ長いから、どうかな?」

ぬいぐるみはテーブルの上にちょこんと座ってそう言った。

「よろしくお願いします、レン。」

神官長さんがそう言うので僕も「よろしくお願いします」と言ってレンに向かってペコリとおじぎをした。


────


レンは魔法のスキルを持っていなかったと言った。

それも僕と同じだった。僕は魔法に少し憧れていたのに残念だ。

レンはスキルについては把握しきれていないと言う。僕は印の答え合わせがしたかったのに、なんだか頼りない気がした。


僕は神官長さんと相談してレンの扱い方を決めた。

この世界には魔物をペットにする奇特な人がいる。

しかしぬいぐるみが喋ることはない。

誰かに何か言われたらぬいぐるみの皮をかぶった魔物だと言うことになった。

もちろんそんなものはいない。


「空を飛ぶスキルとかはなかったの?」

僕はレンを肩に乗せて家に帰るところだった。

「ないね。飛べたらいいのにね。」

話しているうちにレンがとてもいい子だと気がついた。穏やかで優しい感じがする。


家に帰ると母が心配していた。

「ルイ!大丈夫?心配してたのよ。」


僕は母に神官長さんと話したことを伝えた。

「じゃあこの子がルイの前世ってことなのね?」

母も僕の説明だけじゃ理解できなかったようだ。


「このぬいぐるみの姿じゃなくてちゃんとした人間だったみたいなんだけどね。」

母は不思議そうにレンを眺めた。


「あの、実は僕、ルイさんの中に戻れる気がしてるんです。やってみていいですか?」

僕も母もピンとこなかった。

「わかんないけど、やってみていいよ。」


僕がそう言うとぬいぐるみは魂が抜けたようにコロンと転がって動かなくなった。


『僕です。レンです。聞こえますか?』

「えっ?何?レン??どこにいるの?」

母は不思議そうに僕を見ている。


『ルイさんの中に入りました。おそらくこれが正常な位置なんだと思います。ここにいるとしっくりくるので。』

「どういうこと?僕の頭の中にいるの?」


「ちょっとルイ?一人で何を言ってるの?」

「えっ?お母さん、レンの声が聞こえないの?」

「聞こえないわよ。そこに転がってるじゃない。」

お母さんはぬいぐるみを指差している。


『どうやら君にしか聞こえないみたいだね。僕はこのままここにいたいけど、邪魔ならさっきのぬいぐるみに戻るよ。』


レンはどうやら僕の中で僕に直接話しかけているようだった。

これが前世の記憶というやつなのだろうか?

なんだか違う気がする。


「邪魔ではないけど、レンと話すと僕は独り言をしてるみたいに見えるんだよ。変な人だと思われちゃうよ。」


『心の中で話しかけてもだめかな?さっきから君の心の声が聞こえてるんだよね。』

僕はそう言われて急に恥ずかしくなった。


『レンがそこに居たいならぬいぐるみに戻らなくてもいいよ。きっと元々そこにいたってことでしょ?』

『そうだね、記憶はないけどそんな気がするよ。』

僕はレンと頭の中で会話することができた。

レンが言うとおり僕にも違和感がない。


「お母さん、レンは僕の一部だったみたい。今は僕の中にいるよ。」

「これは?」

母はぬいぐるみを手に取った。


「多分それは僕の中でレンが生まれるきっかけになっただけのものかも。」

母は首を傾げてまだぬいぐるみを見ていた。


「ルイはそれで大丈夫だと思うのね?」

「うん。」

「じゃあ母さんは何も言わないわ。でも困ったらすぐに相談してね。」

「ありがとう。」

僕はぬいぐるみをいつも使っているリュックに入れた。


その日、父と兄が帰ってきてから、僕はもう一度最初からレンの話をした。

父は母と同じで半信半疑という様子だった。

兄はなぜか興奮して「なんかすごいな!」と喜んでいた。


レンは用事がないときはおとなしくしている。

こちらから話しかければ応答してくれる。

新しい友達ができたような、不思議な感覚がした。


────


僕は暇をみつけるとレンと印とスキルの答え合わせをした。

レンがスキルをほとんど把握していなかったのでなかなか進まない作業だったがそれは楽しかった。

二人で印の形から意味をみつける。

レンは『謎解きみたいだね』と言って『苦手なんだよね』と続けた。


『今一番の問題は僕の腕に印がたくさんあることなんだ。こんな人いないみたいでね。知らない人が見たら驚いちゃうと思うんだよね。』

『普通は1つだって言ってたもんね。』

『せっかくもらった才能だからどれも消したくはないんだけどね。うまく隠せたらいいんだけど。』


僕がそう言うとレンは少し悩んで僕についている印の話をした。

『印の中に筆で色を塗ってるようなやつがあるでしょ?それって肌に肌色を塗って印を隠したりできないかな?』

レンの言いたいことはなんとなくわかった。


『でも僕、絵の具なんて持ってないし、塗ったとしてもすぐに取れちゃうよ?』

『本当に絵の具を塗るんじゃなくて…。なんだかできる気がするんだよね。僕は触れるだけで物の色を変えるスキルを持ってたんだ。確かペイントとかなんとかいう名前のスキルだった気がする。』


僕はレンが言うとおりに目の前にあるカップを触って『黒くなれ』と念じてみた。

すると真っ白だったカップは真っ黒になった。

「わぁ!!」

僕は驚いて声を出してしまった。


『できたね。やっぱりペイントのスキルみたいだ。』

レンは嬉しそうにそう言って、次は腕にやってみろと言った。

『才能が消えたりしないかな?』

『なくなってもよさそうなやつで試してみたら?』


僕はパンの形の印を塗りつぶしてみることにした。

きっとこれはパン屋になれる印だろう。

僕はパン屋になるつもりはないから消えても構わない。

パンの印を触りながら『皮膚と同じ色になれ』と念じた。

するとパンの印は見えなくなった。


『できたけど…どうやって確認しよう。』

『パンを作ってみるしかないね。』

レンにそう言われて違う印で試せばよかったと後悔した。


僕はキッチンに行ってパンの材料を探した。

パンなんて作ったことないのに、僕はテキパキと材料を合わせ、こねだした。

そしてあっという間にパン生地が出来上がった。

鉄の鍋にオイルをひいてパン生地を入れ、さらに上からもオイルをかけた。


こんなパン見たこともないと思いながら僕は鉄の鍋をコンロで火にかけ、蓋をして焼きはじめた。


「いい匂いね、何してるの?」

母が鍋を覗いてニコニコしている。

「えっと、実験中。」


そしてあっという間に見たことのない平べったいパンができた。

オイルのいいにおいがして表面がカリッとして中はふわっと美味しかった。

『どうやらスキルは作用しているようだね。』

レンはなんだか嬉しそうだった。


僕は普通の人の印の出る場所、手首にある印を一つだけ残すことにした。

それは剣の印で父と兄とお揃いである。


僕はすぐに母にそれを見せた。

「え?他の才能は?消えちゃったの??」

母は僕の腕がスッキリしたのを見て驚いていた。

「隠しただけで才能はそのままみたいだよ。」

僕はそう言って腕をさわりながら『元に戻れ』と念じた。

腕には変わらずびっしりと印が出てきた。


「まぁ!便利ね!」

母は僕が印を消すのも見て感心していた。

そしてその夜、僕はみんなに「騎士団に入りたい」と言った。

みんなは嬉しそうにその決断を応援すると言ってくれた。


────


騎士団の入団テストは3ヶ月に一度行われている。

小さな国だったが国中から集まることもあって毎回10人くらいは集まると言うことだった。


僕が受ける今回は僕を入れて7人集まっている。

いつもなら副団長の父がこの試験を取り仕切るのだが、今回は息子がいるということで外されたようだ。


「本日のテストを監督する第一部隊長のハルクです。みなさんよろしくお願いします。」


ハルクさんはまだ若いのに花形である第一部隊を任されたかなり有能な人材であると父が言っていた。

ハルクさんは先に身体検査をすると言って男女を分け部屋に誘導した。


男性は5人、女性は2人、別々の部屋で身長や体重、握力や脚力などを調べ、印を確認された。


「ルイくんは父上と同じ剣士なんですね。がんばってくださいね。」

ハルクさんは僕の印を見てそう言ってくれた。


他の人の印を見ると剣士ではない人ばかりだった。

「俺は漁師の才能をもらったんだけどこの辺に海はないだろう?最初は海の近くまで引っ越そうとも思ったんだけどなんか違うなって。

才能を無駄にするのはもったいないかもしれないけど、俺はどうしても騎士団に入りたいんだ。」

隣にいたナッチという人が僕の印を見て「いいな」と言っていた。


身体検査が終わると実技試験が始まった。

受験者はいろんな長さの木の棒から好きなのを選べと言われ1本ずつ持った。


『僕は刀という剣が得意だったんだ。きっと君もそうだよ。細くて少ししなっているくらいの1mくらいの棒を探して。』

僕はレンに言われたとおりの棒をみつけた。

みんなは太い棒や長い棒を選んだ。

僕のだけなんだか貧弱に見えた。


『これで大丈夫かな?』

『大丈夫。自分を信じて。』


僕は小さいときから兄や父と剣の練習をしていた。

その時はもっと太くて短い棒を使っていた。


「では、二人組みを作ってください。女性は女性同士がいいでしょう。ルイくんは一人余るので私がお相手しますね。」


剣の印を持つのが僕だけだったからだろう。


「勝ち負けを見るものではありません。剣さばきやまわりを見る判断力なども見ます。審査は騎士団のメンバーです。では始めましょうか。」


ハルクさんはそう言って笛を鳴らした。

僕は自分の中で何かスイッチが入るのがわかった。


────


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