第16話
僕は15歳になると行われる女神様から才能を賜る儀式でおかしなことになった。
普通なら1個、多くても2個か3個現れる印が僕には50個もあった。
それについて神殿で問題とされ僕は神官に呼び出された。
国外追放という厳しい言葉も出たが、神官長さんが僕のことを信じてくれた。
そして聞きたいことがあれば神殿に来いと言ってくれた。
そんなわけで、僕は今、神殿にやって来ている。
神官長さんの部屋に通され、椅子に座って待っている。
「やぁ、待たせてすまないね。」
神官長さんはにこやかに部屋に入ってきた。
「いえ!急にお邪魔して申し訳ありません。」
僕は立ち上がりペコリとおじぎをした。
「さて、聞きたいのは何かな?」
「はい、あの、家族とも話したのですが"異世界"とかそのへんの意味が全くわからなくて。」
「そうだろうね。私も最初は信じられなかったよ。しかし彼はこの世界にはない技術を私たちに伝えたんだ。この電力というシステムも彼のおかげでここまできたんだよ。」
「あの風車のことですか?」
「そう。彼は電力を作る方法をいろいろ教えてくれた。私たちが選んだのは風車だったがね。」
「すごい人なんですね。」
僕は自分はそんなんじゃないとわかっていた。
昔の記憶なんて何もなかったからだ。
「彼には見たことのない印が何個もあった。さすがに50個もなかったけどね。」
神官長さんはクスッと笑った。
「その人に会えたりできますか?僕、話を聞いてみたいです。」
「それがね…彼は今、行方不明なんだ。もう3年になるかな…。どこかで生きていてほしいと願っているんだがね。」
僕は少しがっかりした。
異世界という話は実に面白そうだったからだ。
「あの、僕にはその前世とか異世界の記憶がまったくないんです。だからもしかしたら、その人とは違うんじゃないかなって。その、そうだったらごめんなさい。」
「なるほど。全く何も覚えていないと言うんだね。」
神官長さんはそう言って僕をじっと見つめた。
僕はなんだか居心地が悪くなった。
「あの。僕、異世界のやつじゃなかったら殺されたりしますか?何か悪いものとかそんなんで。」
「いや、そんなことはさせないよ。私はこれでも聖職者の印を持つ者だよ。善悪の判断はつくと自負している。君から悪は一切感じないよ。」
「ふぅ、よかった。」
「前世の記憶がないって言ったね。でもこれから何か思い出したりするかもしれない。ほら、印を賜ったからね。」
「たしかに。」
僕はついでに解読できていない印について神官長さんに聞いてみた。
「そうだね…これは銃という遠距離武器の印らしい。そしてこれはそろばんという名前の計算をする道具の印、それからこれは、天秤の印で弁護士という職業の印だと聞いたよ。あとはわからないな。彼についていた印は全部で5個だったからね。」
「あとの2つはこの世界のものってことですか?」
「そう、商人のコインと剣の印があったよ。」
神官長さんは弁護士という職業について教えてくれた。
この世界で言う裁判官のような職業で法律で戦う人だと言った。
僕にはその意味がいまいち理解できなかった。
「こちらで把握できていない印の意味がわかったら私か他の神官に報告してほしい。記録に残したいからね。」
「わかりました。」
僕は他に何を聞いていいのかわからなくて「もういいです」と言って部屋を出てきた。
────
家に帰ると父と兄が喧嘩をしていた。
僕はすぐに止めに入った。
「どうしたの?二人とも!」
「父さんがルイの騎士団入りに反対だって言うんだ!ルイは騎士団に入るのが夢だろう?」
「それは父さんだって知ってる!だが、あの印を他の人たちに見せるわけにはいかないんだ。神官に言われただろう?」
騎士団の入団テストには身体検査もある。
もちろんそこで印を見られる。
そのことで二人は揉めていた。
「あの…、確かに今は見られないほうがいいと思う。だって知らない人が見たら呪いだとか言われそうだよ。」
僕の言葉は本心だった。
僕が他の子にこんなにたくさん印がついていたら嘘か呪いだろうと思うに違いない。
兄は僕の言葉を聞いて黙ってしまった。
父は兄の肩をポンと叩いた。
兄は父を見て「ごめんなさい」と言った。
僕は兄が自分のことを親身に考えてくれたことが嬉しかった。
「それで、神官長は何か教えてくれたかい?」
父は心配そうに僕を見た。兄と母も黙って僕の方を見た。
「この世界にはない印について何個か教えてもらったのと、異世界から来た人のことも少し教えてもらったよ。電気を発明したのはその彼なんだって。」
3人はそれを聞いて驚いていた。
まさか違う世界の技術がこの世界で役立っているとは思ってもいなかったのだ。
「でもルイにはそんな記憶ないんだろう?」
「うん、まったくないんだよね。でも印を賜ったことで記憶が戻ったりすることもあるかもって。」
僕がそう言うと兄は目を輝かせた。
「ルイにも発明の才能があるかもしれないな!」
そう言って僕の腕を探したけど発明っぽい印はみつからなかった。
「才能じゃなくて記憶で発明したみたいだよ。」
僕は残念そうにする兄に向かってそう言った。
「そっか!じゃあルイにも記憶が戻るといいな!」
僕は兄のこういう楽天家のようなところが大好きだ。
────
幼馴染たちがどんどん仕事を決めていくのを見るのはなかなかに辛いものだった。
「ルイの印は何だったの?」
と聞かれたが「恥ずかしいから教えない」と言って逃げてきた。
仕事もしていない僕を見て可哀想だと思ったのか、みんなそれ以上聞いてこなかった。
確かに今の僕の状況は可哀想だ。
才能をたくさんもらったのに何者にもなれていない。
僕はやることがないので母の手伝いをよくした。
料理も洗濯も掃除も才能のおかげか完璧にこなせた。
ある日、母は縫い物をしていた。
カバンを作って町で売るという。
僕はなんとなく針と糸を手に取った。
すると手が勝手に動いた。
白い布をハサミでチョキチョキ切ったと思えばチクチクと縫いだした。
そしてあっという間に猫のぬいぐるみを作ってしまったのだ。
「あら、かわいいわね。」
母はそれを手に取ろうとした。
しかしぬいぐるみはヒョイッと動いて母は掴みそこねた。
僕が意地悪をしていると思った母は僕を睨みつけた。
僕は両手を上げて「僕じゃない」と言った。
母はまたぬいぐるみに手を伸ばした。
ぬいぐるみはまたピョコンと動いて母に捕まらなかった。
僕と母は顔を見合わせた。そしてぬいぐるみを見た。
ぬいぐるみはまるで本物の猫のように動いていたのだ。
「お母さん、魔法を使ってるの?」
「使ってないわ。あなたは?」
「僕には魔法の才能はないんだよね。」
ぬいぐるみは僕たちを見ているようだった。
「あの、君は誰?」
僕はおそるおそるぬいぐるみに訪ねた。
「僕は、ルイ。ここはどこ?地獄?」
ぬいぐるみは自分の名前をルイだと言った。
「えっと、僕もルイっていう名前なんだけど…あと、ここは地獄じゃないです。アルデール王国です。」
ぬいぐるみは首を傾げていた。
「名前が同じだなんて奇遇だね。僕はどうやら外国に来ちゃったみたいだね。」
ぬいぐるみはキョロキョロと家の中を見回していた。
「あの、言いにくいんですが、君は僕が今作ったぬいぐるみです。えっと猫の形をしています。」
「えぇ?!」
ぬいぐるみが驚いていたので僕は鏡を持ってきて姿を写してあげた。
「これが僕?でもこれってあのゲームのキャラクターだよ。」
ぬいぐるみはわけのわからないことを言い出した。
僕は急にめまいがした。
目を閉じるとそこには何か映像が流れた。
誰かの腰で揺れるぬいぐるみが見えた。
目を開けるとそっくりのぬいぐるみが目の前にいた。
今のは何だったんだろう。
僕はぬいぐるみを捕まえて神殿に向かって走った。
ぬいぐるみは「ひぇぇ」と情けない声を出していた。
逃げようともがいていたが何かの才能が発揮されていたのだろう、ぬいぐるみは逃げることができないでいた。
神殿につくと僕は門番に「事件が起きて、今すぐ神官長さんに会わないといけない!」と叫んだ。
僕があまりにも切羽詰まっていたので門番は慌てて中に入っていった。
「中へどうぞ!」
門番は走って戻ってきてくれた。
僕は急いで神官長さんの部屋に向かった。
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神官長さんは部屋の前で僕を待っていた。
「どうしたんだい?大丈夫かい?」
心配そうに僕を上から下へと確認するように見た。
「あの…中で話してもいいですか?」
僕が気まずそうにそう言うとすぐに部屋の中に入れてくれた。
僕はすぐに掴んでいたぬいぐるみを差し出した。
神官長さんは不思議そうにぬいぐるみを受け取った。
ぬいぐるみは神官長さんに掴まれ、また逃げようともがいた。
「なんだ?!」
神官長さんは驚いてぬいぐるみを落としてしまった。
ぬいぐるみはボトッと床に転がった。
「落とすなんてひどいよ。」
神官長さんは喋るぬいぐるみに釘付けになっていた。
僕は逃げ出しそうなぬいぐるみをまた捕まえた。
「これ、僕がさっき縫って作ったんですが、なぜか勝手に動くし、話もするんです。しかも名前はルイだって言うんです。」
神官長さんはまだ目をパチパチさせてモゴモゴ動いているぬいぐるみを見ていた。
「僕は人間だったんだけど…多分、死んじゃったんだ。よくわからない…。突然目の前が真っ暗になったから。」
神官長さんは「そうか」と言った。
僕はぬいぐるみの話がよくわからなかった。
「ルイくん、これは君の前世かもしれない。」
「僕の前世?」
「そう。だから同じ名前なんだよ。死んだって言うし、生まれ変わったのが君なんだよ。きっと。」
神官長さんはなんだか歯切れの悪い喋り方をした。
きっと確信は持ててないのだろう。
「ねぇ、このぬいぐるみと同じものを腰につけて歩いてた?」
僕はさっき頭の中に浮かんだイメージをぬいぐるみに向かって聞いてみた。
「そうだね、ゲームの中の僕がベルトループにつけてたよ。僕のお気に入りだったな。」
ぬいぐるみはウンウンと頷いているように見えた。
「ゲームの中ってどういう意味なの?」
「ここにはスマホゲームがないの?発展途上国なのかな?」
「スマホ?」
僕とぬいぐるみの話は全く噛み合わなかった。
「スマホとは四角い板のようなものだね?」
急に神官長さんが会話に入ってきた。
「そうです。電話もできるし、調べ物もできるし、とても便利なものです。」
神官長さんはその話を聞いて「うんうん」と頷いていた。
「君に話した異世界から来た人がね、スマホという物の話をしていたよ。ここの技術じゃ再現できないとも言ってた。残念そうにね。」
神官長さんは確信しているようだった。
僕を見て、「この子は異世界から来た子だよ」と目を輝かせている。
「ここは異世界なの?すごい、アニメみたいだね。」
ぬいぐるみはニコッと笑ったように見えた。
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