第15話
【アルデール王国】
僕は小さな大陸にあるアルデールという国に生まれた。
父は騎士団の副団長で母は元騎士団員で今は引退して主婦をしている。
僕には3つ上の兄のティムがいる。
兄は15歳のときに剣士の才能を女神様にもらい、すぐに騎士団に入団した。
僕の自慢の兄さんである。
そして今日は15歳になった僕の女神様からの恩恵を受ける日、【聖刻の儀】が神殿で執り行われる。
年に一回、その年の15歳になる子たちが一同に集まる。
子供たちは家族に見守られ、祭壇に置かれた大きな水晶に手をあてる。
すると雷が落ちるようにその子の手首に印が現れるのだ。
剣なら剣士、杖なら魔法使い、商人ならコイン、漁師なら魚といった具合にそれぞれの才能を示す。
稀に剣と杖など複数の印を持つ子もいる。
自分の子が複数の印を持つ子だとわかると親は喜ぶ。
将来を約束されたようなものなのだそうだ。
父には剣、母には杖、兄には剣ときている。
僕はなんとなく杖が出たらいいなと思っていた。
この国で魔法を使える人はそんなに多くない。
貴重な存在として働き口がたくさんあると母が言っていた。
神殿内では印を受けるたびに歓声が湧き上がっていた。
幼馴染のトムは親と同じ商人の印が出て、親は喜び、トムは恥ずかしそうな顔をしていた。
才能を受けると言ってもその職業に絶対つかないといけないと言うわけでもない。
漁師の印が出たのに狩猟をしている人もいれば、剣の印が出たのに商人をやっている人もいる。
あくまで才能をもらうというだけで、その人の努力があればどんな職業にでもつけるということだ。
騎士団の中にも剣の印を持たない人がたくさんいると父は話してくれていた。
だから僕も気軽な気持ちでその儀式に向かった。
水晶は遠くから見るよりもずっと大きく見え、両手をあてるとひんやり冷たかった。
普通ならすぐに印が出るのだが、僕が両手をあててもなかなか印は現れなかった。
神官が不思議そうに僕を見て首を傾げた。
神殿内が静まり返った。
印が出ないという子の話は聞いたことがない。
そしてザワザワと「まさか?」とか「そんなことが?」という声が聞こえてきた。
僕は焦った。
なんでもいいから早く出てくれと思った。
すると水晶は光りだし、見てられないくらい眩しくなった。
僕はそれでも水晶から手を離さなかった。
絶対に印をもらうんだ。
光がおさまり、僕は目を開けた。
すると僕の腕にはびっしりと見たことのない印が刻まれていた。
「なんだこれは?」
神官は僕の腕を掴み、それらを見た。
そしてすぐに僕の腕を服で隠した。
「儀式が終わったら神官室に来なさい。」
神官は怖い顔で僕を睨みつけ、そう言った。
家族も僕の異変に気がついているようで、まわりの人に見えないように僕を部屋の隅に連れて行った。
儀式は何事もなかったかのように再開され、すぐに次の子の才能を祝う拍手が聞こえた。
「ルイ、どういうこと?」
母は小声で僕にそう言って服の袖を捲り上げた。
そこにはたくさんの印が刻まれていた。
兄はその中に剣をみつけ喜んでいた。
母はすぐに僕の腕を隠した。
父も母も怖い顔をしていた。
複数の印が現れたら親は喜ぶものだと思っていたのに、僕の両親は喜ぶどころか怯えているように見えた。
「終わったら神官室に来いって。」
僕がそう言うと父と母はため息をついた。
────
儀式は滞りなく終わった。
神官は「皆に祝福を!」と言って場を締めた。
そして僕の方をギロっと向いて、こっちに来いと手招きをした。
僕は両親に手を引かれ、神官室に入った。
兄は初めてのことになんだかワクワクしているようだった。
そんな兄を見て僕もなんだかワクワクした。
神官は僕に服を脱ぐように言った。
僕は言われたとおりに服を脱いだ。
僕の左腕にはびっしりと何かの印が刻まれている。
「これはいったい…どういうことじゃ…」
神官は大きな紙を持ってきて印を描き写した。
手首のあたりから「これは剣、これは狩猟…」と1つずつ描いている。
印は全部で50くらいあった。
その中でわかっているのは10程度で他は見たこともないと神官は言った。
母は怯えながら、「この子は…呪われたのでしょうか?」母は僕の腕にあるドクロマークを見てそう言った。
「わからん。こんなことは初めてだ。本部に問い合わせてみる。何かわかるまで、これは秘密じゃ。この腕を誰にも見せてはいけない。わかったか?」
神官はとても真面目な顔で僕にそう言った。
僕はウンウンと何度も頭を縦に振った。
────
家に帰るとなんだか両親はぐったりしていて、がっかりもしているようだった。
「2つ出たらすごいなんて言ってたけど、50も出るなんてな…。」
父はまたため息をついた。
母も「欲をかかずに1つでいいってお祈りすればよかったわ」と言ってため息をついた。
「ごめんなさい。」
僕はなんだか悲しくなってきて、みんなに謝った。
兄だけは元気だった。
「何謝ってるんだよ!ルイはすごいよ!みんなの50倍すごいよ!それに剣の印がある!騎士団に入れるぞ!」
兄は僕が騎士団に入りたがっていたのを知っていた。
いつも元気でまわりを明るくしてくれる兄。
僕はそんな兄が大好きだった。
いつも僕の手本となってくれるとてもいい兄だ。
「そうね!お祝いしないとね!」
母は手を叩いて笑顔を見せた。
父も「そうだな」と諦めたように言うと母の料理の手伝いを始めた。
「僕も手伝う!」
僕は普段料理の手伝いなんてしない。
不器用だから母は僕に包丁を持たせてくれなかったのだ。
母は僕を見て少し躊躇した。
「ほら!包丁の印があるよ!」
兄は僕の腕に包丁の印をみつけて母に見せた。
母は「試しに」と言って僕にジャガイモと包丁を渡した。
家族の視線を集め、僕はジャガイモの皮を剥いた。
「おぉ!!!」
みんな驚いた。
本人である僕ですら驚いた。
僕はまるで曲芸でもするかのようにジャガイモの皮をスルスルと剥いたのだ。
あっという間にジャガイモはきれいに剥かれた。
母はその後も人参や玉ねぎも僕に渡した。
僕はすべて完璧に皮を剥くことができた。
兄は僕の腕の鍋の印をみつけ、「まさかね?」と言った。
父は面白がって僕に鍋を渡した。
僕は野菜を切り刻み、鍋に水を入れ、野菜を煮込むと家にあった調味料を躊躇なく鍋に入れた。
そして美味しそうなスープが完成したのである。
疑いようがなかった。
不器用だった僕は女神様から才能を賜ったのだ。
それから家族で印の解読が始まった。
剣→剣士
コイン→商人
弓→狩猟
魚→漁師
葉っぱ→薬師
包丁→包丁さばき
鍋→料理
本→学者
ハンマー→鍛冶師
金床→金属加工
ノコギリ→大工
レンガ→石工
針→縫製
わかっているものに加え、わかっていないものを調べると職業の才能以外にも細かい才能がたくさんあるのがわかった。
まだ何に使えるのかもわからないものがたくさんあった。
調べれば調べるほど、超人になっていく気がした。
見た目は何も変わっていないのに、力持ちになったり速く走れたりした。
きっと力こぶと脚の印のおかげだろう。
力こぶ→力持ち?
脚→足が速くなる?
僕と家族は他の人に隠しながら僕の印が何なのか一緒に考えた。
最初は絶望していた両親も今では兄と一緒に「ルイはすごい」と楽しそうに印の話をしてくれる。
────
数日が経ったある日、神官の使いが家にやって来た。
家族一同が神殿に呼び出された。
神殿の中にはこの前の神官とその他に5人の神官がいた。
僕は祭壇の前に立たされ、前のように服を脱ぐように言われた。
神官たちは僕を見るなり驚き、神に祈りだす神官もいた。
そして一人の神官が僕の腕を掴み、こう言った。
「これは銃という武器の印です。この世界にはないものです。私は以前これと同じものを見ました。彼は異世界からやって来たと私に話しました。きっと君もそうでしょう。この印はこの世界にないものだから。」
その神官の言葉に神殿は静まり返った。
僕は何を言っているのかさっぱりわからなかった。
「ルイは…僕の弟は異界から来たというのですか?!」
兄は真剣な顔をして神官に食い下がった。
「おそらく厳密に言えばそうではありません。しかし彼には前世の記憶があるでしょう。それはきっと異世界のものです。」
「あの…うちの子はどうなるんでしょうか…」
父は眉にシワを寄せて神官をみつめた。
「どうもしませんよ。異質なものだと恐れる人もいるかもしれません。しかし彼はこの国に生まれたのでしょう?前世の記憶があれど立派なこの国の国民です。」
両親はそれを聞いて安堵した。
兄も「ルイ!よかったな!」と叫んだ。
しかし神に祈っていた神官が祭壇をバンっと叩いた。
「国民であろうが異質なものに変わりはない!厄災をもたらす前に追放すべきだ!」
神殿内の空気が一気に変わった。
神官たちは自分の主張を話し、揉めだした。
僕はオロオロとそれを見ていた。
母は僕に服を着せてくれた。
「この子は俺の子です!厄災なんてもたらせません!」
父は揉めている神官たちに向かってきっぱりとそう言った。
「この子は騎士団に入ると言っています!国のために働くと言っているんです!何か文句でもありますか?」
母もすごい剣幕でそう捲し立てた。
神官たちは怯んだ。
相手は騎士団副団長と魔法使いだ。
敵に回すには厄介だとでも思ったのだろう。
「ルイよ。君ほど才能豊かな青年は見たことがない。奢らず、威張らず、その才能を皆のために使うと誓えるか?」
異世界の話をした神官が僕に向かって優しい顔でそう問いかけた。
僕は大きな声で「はい!」と答えた。
「よろしい。何かがあったら私が責任を取りましょう。」
「神官長?!よろしいのですか?」
神官長と呼ばれたその人は「はい」とにこやかに頷いていた。
「では失礼します。」
父はそう言って深くおじぎをした。
母と兄も同じように頭を下げたので僕も焦って頭を下げた。
帰り際に神官長さんが僕に言った。
「聞きたいことがあればここに来なさい。私は1ヶ月くらいここに滞在しています。」
「はい!ありがとうございます!」
僕はどうやら普通じゃない。
それだけはわかった。
────




