第14話
【冴島かおり】
新山は今、いやらしい笑い方をする50歳の女性と高級中華を食べている。
新山には無理に女性を褒めたりしなくていいと伝えてある。
こういう女性は褒められ慣れている。
だからお世辞を言っても通じない。
そのかわり、料理を見て嬉しそうにしろと言った。
「トオルくん、美味しそうに食べるわね。」
「はい、とても美味しいです。紹興酒って初めて飲みましたが美味しいですね。」
「普段は何を飲むの?」
「実はワインが好きなんですよね。あ、中華料理を前に言うことじゃなかったですね。」
「あら、そうなの?私も大好きなのよ。実は中華にも合うワインがあるのよ。」
宮下はすぐにワインを持ってくるようにスタッフに言った。
新山は概ねいい感じにやっている。
あとは飲み比べのような時間に突入した。
二人ともかなりの酒を飲んだ。
宮下はホテルのカードキーを見せてここまで連れて行けと新山に言った。
新山は「しかたないですね」と言って宮下を抱えるように歩いた。
ホテルは店を出てタクシーで5分くらいのところにある。
私は店から出てきた二人の前に車を停めてまるでタクシーかのように二人を乗せた。
宮下はタクシーに乗ったとばかり思っているようで新山にべったりくっついて「トオルくんは本当にかわいいわね」などと言っている。
私は吐き気を抑えて車を走らせた。
街なかを抜け、鬱蒼とした森のような木の生い茂った道に入る。
さすがの宮下もそれに気がつき、窓の外を見た。
中国語で何か喚いている。
「トオルくん?ホテルの名前間違えた?」
「いいえ、合ってますよ。」
新山はそっと宮下の両手を掴み、結束バンドをはめた。
宮下はそれで一気に現実に戻されたようだった。
酔いの回った体で必死に抵抗しようとした。
新山は自分を蹴ろうとする宮下の両足も掴み、また結束バンドで締めた。
私は車を止めて、車から降りると後部座席のドアを開けた。
新山が嫌そうな顔のまま出てくる。
「ごめんね。ご苦労様。」
「いえ、楽勝でした。」
新山はそのまま運転席に座った。
私は暴れる宮下の頭を掴み目を合わせた。
「はじめまして、宮下潤子さん。」
宮下は恐怖を浮かべ私のことを凝視した。
「なんなの?お金なら払うわ!離してちょうだい!」
私は狭い後部座席で暴れる宮下に「黙れ」と一蹴した。
宮下は目を見開き、動かなくなった。
「お話をしましょう。手荒なことをさせないでくださいね。」
私は宮下をちゃんと座らせ、隣の席に乗り込んだ。
タブレットを出して宮下にルイの写真を見せた。
宮下はビクッとして目をそらした。
「ルイを返してくれる?」
宮下は何も答えなかった。
「自白剤って知ってる?話したくないこともペラペラ喋っちゃうとかってやつ。こっちで手に入れたから効果も期待できないし、副作用もわからないけど、使うべきかしら?」
私は青い液体の入ったアンプルを宮下に見せた。
「やめて…変なものを使わないで…」
宮下は怯えだした。
「ルイの遺体を盗んだでしょう?ちゃんと証拠もあるのよ。そしてルイを生き返らせた。医療機器メーカーですもの、怪しい機械の1つや2つあるでしょうね。」
宮下はすごい形相になり私を睨みつけた。
「そしてこの国に運んだ。あなたの親がただ当然で手に入れた会社にその装置はあった。だからルイをこの国に運び入れた。密輸入なんてお手の物よね。そっちの裏の証拠もあるわ。」
私はミクが用意してくれた不正な貨物のやり取りの証拠の書類を宮下に見せた。
「今ルイはあの病院にいるんでしょ?あの病院の図面にはないあの部屋で機械に繋がれている。」
「ルイくんを生き返らせたのは私よ!ルイくんは私のものよ!!」
宮下の目から恐怖が消え、その目には憎悪が感じられた。
「ルイは誰のものでもないわ。ルイはルイよ。全部話してもらうわ。どうやってルイにゲームをさせてるの?」
私はついにナイフを取り出した。
できれば使いたくなかったがこのおばさんにはしかたがない。
宮下はナイフを奪おうとした。
私はそれを避けて宮下の首にナイフを突きつけた。
「私が本気なのをここで知りたいのかしら?」
宮下は動かなくなりゴクリとツバを飲んだ。
「なんとかっていうゲームを作ってる企業に知り合いがいるのよ。そいつが肉体から精神を抜くだとかなんとかって、とにかくゲームの世界で生きられる装置を作ったのよ。
私はそれを思い出してそいつからその装置を奪ったの。それをルイに繋いだだけよ。」
「それってTKT GAMEっていう会社かしら?」
「そうね、そんな感じだったわ。話したからナイフをしまってくれる?」
宮下は冷や汗をかきながら必死に話していた。
「じゃあその装置を外したらルイは解放されるのかしら?」
「いいえ、ルイくんは珍しい血液でね、なんとか代替血液で生きながらえてるけど長くは生きられないわ。だから私、あの子の親を探したの。親なら血を分けるくらい当たり前でしょう?
やっとのことで母親をみつけたんだけどね、その親、ルイなんて知らないって言ったのよ。
私、腹が立ってね。だから彼女も無理矢理こっちに連れてきたの。
今頃彼女の血がルイくんの中に流れてるわ。あんな女でも貴重な血をくれる大事な人よ。感謝しないとね。」
宮下はそう言うとグフフという気持ち悪い笑い声で笑った。
「病院に行かないと。」
新山はすぐに頷き、Uターンして車を走らせた。
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宮下の口をガムテープで塞ぎ、動けないように足と手を結束バンドで繋いだ。
宮下はダンゴムシのようになっている。
病院につくとまっすぐ問題の場所に向かった。
薬品庫と書かれていてIDをかざして入室するタイプの部屋だ。
事前にミクに聞いていたので宮下のIDを借りている。
深夜の病院はひと気がない。入院施設がないのでほぼ無人だった。
警備室は一応あるが、警備している警備員はいない。
それも調査済みである。
防犯カメラもない。後ろ暗いところがあるからか、経費削減なのかはわからない。
薬品庫の鍵は宮下のIDですぐに開いた。
薬の並んでいない棚を動かすとドアが出てくる。
新山はすぐにそのドアを開けた。
中は薄暗く、微かにウィーンという機械的な音が聞こえてきた。
白いカーテンで囲われた狭い空間の中にルイがいた。
たくさんの管に繋がられ、頭にはおかしな機械が取り付けられている。
隣にはルイの母親と思われる女が冷たくなっていた。
血の気が引き、げっそりしている。
きっと大量の血液を抜かれて出血多量になったのだろう。
私はルイとその女の間にあった管を引き抜いた。
ルイの腕から真っ赤な血液がたらりと流れた。
ルイが生きている。
私はそれを目の当たりにして泣きそうになった。
体は元気そうに見えたが、この頭についているものをどうしたらいいのかわからない。
私は浜田とビデオ通話を繋いだ。
「TKTが絡んでたわよ。これ、何かわかる?」
私は浜田にルイの頭についている装置を見せた。
「あぁ、噂レベルでしか聞いたことないですが…多分、没入型のVRの試作品か何かですね。」
「なんか肉体と精神を分離させるとか言ってたわ。外しちゃって大丈夫と思う?」
「どうでしょう…脳に直接作用させているようなら危ない気もしますが。」
私は浜田にそう言われて頭の装置を細部まで観察した。
「ネジみたいなのが刺さっているように見えるけど押さえているだけのように見えるわ。」
私は覚悟を決めて1つずつネジを緩めることにした。
1つ目のネジを緩めるとカチッと何かのスイッチのような音が聞こえた。
私と新山は部屋の中を見渡した。
ピッピッという機械音が聞こえたかと思うと私の目の前が爆音と共に一気に暗くなった。
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【須藤美沙子】
浜田さんから連絡が来た。
「冴島さんが海外のガス爆発に巻き込まれて秘書と一緒に亡くなったみたいなんだ。」
私はすぐにネットのニュースを調べた。
そこには某国の病院で地下に溜まっていた何かしらのガスが爆発して病院を含む半径20mが消失したと書かれていた。
写真を見ると本当にその一体がミステリーサークルのように丸く何もなくなっているように見えた。
某国はそれを事故として処理するとともに被害者を捜索していると書かれている。
しかしどう見ても何もないのに被害者はどこにいるというのだろうか。
浜田さんは直前までビデオ通話をしており、冴島さんと秘書の人がルイくんを助けようとしていたと言った。
とても信じられる話ではなかった。
私はテレビをつけてニュースを確認した。
そこには宮下潤子氏行方不明、ガス爆発の被害者か?という見出しのニュースと共にその異様な事故現場の映像が流されていた。
私はすぐにスマホを手に取り、あのゲームにログインした。
いつもならルイくんのログハウスに出てくるはずなのだが、初期位置の自分の島に出てきた。
私はルイくんの島に行くためのアイテムを探した。
確か予備を持っていた気がする。
しかしそのアイテムはみつからなかった。
その島へ行くために倒していたゾンビも消えていて、私はパニックになった。
ルイくん、どこにいるの?
同じように不審に思っているプレイヤーも多く、同じようにぐるぐると歩き回っている。
私はログアウトしてゲームのトップ画面を見た。
そこにはお知らせ【NEW】というのがあり、開くと
【★おめでとうございます★】
未知の敵を倒そうの企画は達成者が現れたため終了いたしました。
参加してくれた皆様には限定アイテムをプレゼント!
私は目を疑った。
そこにはルイくんが倒されたかのようなことが書かれていたのだ。
浜田さんは何も言っていなかった。
私はすぐに浜田さんにメッセージを送った。
『うちの会社は関与していない。本社が勝手に終わらせたみたいだ。』
浜田さんはすぐに返事をくれた。
社内も原因不明で調査を始めたと教えてくれた。
私はそれからもゲーム内でルイくんを探した。
しかし、ルイくんはどこにもいなかった。
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本編へつづく




