第13話
「ルイくん…。」
僕は声がする方を見た。
そこにはミサちゃんが立っていた。
気のせいか震えているように見えた。
「ミサちゃん、具合でも悪いの?」
僕はミサちゃんを椅子に座らせて囲炉裏に火を入れた。
「あの、ごめんね、来ないでって言われたのに来ちゃって。」
ミサちゃんは気まずそうにそう言った。
「あぁ、そうだったね。」
僕はそんなことも忘れていた。
時間の感覚がない。生きているのか、死んでいるのか、それさえもわからない。
「食事してないでしょ?囲炉裏の火、借りるね。」
ミサちゃんはそう言って持ってきたカバンの中から小さな鍋を出した。
そこにペットボトルの水を入れ、レンジでチンするご飯を入れた。
そんなアイテムもあったのか。
ミサちゃんは黙って鍋の中をぐるぐるとかき混ぜた。
そして器に盛り付け僕に渡した。
「お粥だよ。胃が弱ってるときはこういうのがいいはず!」
ミサちゃんは久しぶりに僕に向かって笑顔を見せた。
僕は受け取り、一口食べた。
温かい食事はいつぶりだろうか。
なんてことない水でゆるくなったご飯だった。
僕はお母さんを思い出した。
僕が珍しく熱を出したときに、お母さんがレトルトのお粥を買ってきてくれたことがある。
ラーメンの丼に入れて、レンジで温めてくれた。
お母さんはそれをテーブルに置いて「食べれば治るよ」と言って仕事に行ってしまった。
僕は熱で苦しくて、動くのも辛かったけど、無理してテーブルまで行って食べようとしたんだ。
だけど箸しかなくて、スプーンを取りにいけなくて。
僕は箸で食べようとしたんだけど、うまくいかなくて。
結局冷めたから、僕は両手で丼を持って直接口に流し入れた。
食べれば治るなんて、小学生の僕にだって嘘だってわかった。
だけどお母さんがせっかく作ってくれたから、僕は残さずに食べた。
洗い物をしないと怒られるけど、僕にはそんな力は残ってなくて、布団に戻ることもできなくて、僕はそのまま眠ってしまった。
寒くて起きると空っぽの丼が目に入った。
熱は下がっているようだった。
その時思ったんだ。お母さんは嘘をついていないって。
僕は起き上がって丼を洗った。
そして布団に戻ってまた眠った。
ミサちゃんの作ったお粥はお母さんの作ってくれたお粥よりも美味しくなかった。
それでも食べたら元気になる気がした。
「ありがとう。」
僕は無意識にそう言っていた。
「よかった!お粥なんて作ったことなかったから!」
ミサちゃんはそう言って笑っていた。
僕はおかわりをして鍋を空にした。
「あのね、実はいいものが手に入ってね、これを渡しに来たんだ。」
ミサちゃんは何かの機械を出した。
「これは何?」
「私にもよくわかんないんだよね。多分、ゲームだとは思うんだけど…。これだけ持ってても使えないみたいで。」
僕はテレビを持っていることを思い出した。
武器庫の片隅に置いてある。
僕はそれを持ってきてゲームらしい機械から出ているケーブルをテレビに繋いだ。
いきなり音がしてテレビに何かが映った。
「やっぱりゲームだね!」
ミサちゃんは嬉しそうにコントローラーを手にして動かしている。
「テレビでやるゲームは初めてなんだ。」
僕はこれがレトロゲームと呼ばれるものだとわかった。
ミサちゃんは僕にもう1つのコントローラーを渡した。
僕はミサちゃんに使い方を教えてもらった。
いくつものソフトが入っているようでタイトルを見るだけでも面白い。
ゲームとしては単純なものが多い。
横スクロールアクションやシューティングゲームなど、僕は初めてやった。
「ルイくん、初めてとは思えないくらい上手だね。」
ミサちゃんはやはりゲームが苦手なようだった。
「あ、そろそろ寝ないと!明日も仕事なんだ。」
ミサちゃんはレンジでチンするタイプのご飯をたくさん置いていった。
「お湯で温めたら食べれるからね。」
僕はそれを受け取り「ありがとう」と伝えた。
ミサちゃんはそれ以上何も言わず、ログアウトしていった。
耳心地のいいゲームサウンドだけが残った。
僕はミサちゃんが持ってきたゲームを楽しんだ。
こんなに楽しいものが昔からあるなんて、日本人はすごいと思った。
────
僕はゲームがしたいのに襲撃者は容赦なくやって来る。
ログハウスまで来れば僕は仕方なく外に出て倒すことにしている。
しかしなかなか近づいてこない人もいる。
何がしたいのかわからないがそういう人たちはプレイヤー同士で戦う羽目になる。
この島ではエンカウントすると強制的に戦闘モードに突入する。
ミサちゃんと僕が戦闘モードにならないのは、おそらく滝から落ちたからだろう。
あの時、システム上ではミサちゃんは死亡扱いになったのかもしれない。
それからずっと死亡扱いのままここに出てくるのではないかと思う。
実際はわからない。
このゲームの仕様を考えても僕が入ることでいろいろ矛盾が生じてしまう。
深く考えるだけ無駄、というのが一番いい。
僕はミサちゃんが置いていったテレビゲームを手に取る。
僕が小さいときにこういうものと出会っていたら、もう少し違う人生だったのかな。
そんなこと考えても無駄か。
僕は無心でゲームをした。
外はなんだか騒がしいが勝手にやってくれ。
───────────
【冴島かおり】
別荘でオムライスを食べた後、私は須藤さんを連れて都内に戻った。
須藤さんはルイに会えて嬉しそうにしていた。
彼女と連絡交換をして彼女の行く予定だったスーパーの前で降ろした。
「まだ間に合いますかね。」
「大丈夫です!買い物して帰ります。」
私は須藤さんと別れ、車を走らせた。
私は抱えているハッカーの家に来た。
平田みくる、24歳独身彼氏なし。
彼女はとても若いのにとても優秀な子である。
優秀ではあったが精神的にはまだまだ子供だった。
ホストに熱を上げてあっという間に借金を作ってしまった。
そこで警察に突き出す代わりに「あなたの得意なことは?」と聞いて、なかったらキャバクラにでも売ろうと思っていたのだが、彼女は「ハッキング」と答えたのだ。
そんなの抱え込むしかないだろう。
彼女には十分な報酬を払っている。
しかし全てホストにつぎ込む。
私としては何も痛くない話であるが、バカな女だなぁとは思う。
若さゆえというやつなのだろうか。
「かおりさん!わかりましたよ!」
「ミクは本当に優秀ね。」
ミクはパソコンの画面を私に見せ、ドヤ顔をしていた。
そこにはあの女の関わっている某国の怪しい医療機器メーカーの写真があった。
どうやら20年ほど前にミヤシタ機器とこの弱小メーカーは業務提携をしていたようだった。
「ミヤシタがこの会社の技術を抜くために業務提携とか言ってたみたいです。」
なるほど、と思った。
技術を買うよりもその方が安価だったのだろう。
「それで今その会社は動いてるの?」
「いいえ、もう実態はないみたいですね。でも…」
ミクは別の写真を出してみせた。
「この病院、その会社のあった場所にあるんですけど、建て替えとかしてないでそのまま病院になったみたいなんですよ。」
「居抜きで病院なんて珍しいわね。」
「ですよね。それでこの防犯カメラてす。」
ミクはその病院が映る近隣の防犯カメラの映像を見せてくれた。
そこにはあの女がバッチリ映っていたのだ。
「でかしたわ!ルイはここにいるわね!」
ミクは頭を撫でられて嬉しそうな顔をした。
「この病院のデータ送っておきますね。」
「ありがとう!」
私はすぐに旅行の準備をした。
宮下潤子…、待ってなさい。
─────
私は秘書の新山を連れて某国にやって来た。
新山にはずっとホストクラブを見てもらっていたのだが、さすがの私も一人で外国に乗り込むのは怖かった。
新山は元ホストだ。
見た目はとてもいいがホスト向きな性格ではなかった。
真面目で冷酷で情に流されないところは秘書向きだろうと私がスカウトした。
最初は驚いていた新山だったが、私の仕事を手伝わせるとその才能を開花させた。
細身だったが空手の黒帯を持っていてボディガードとしても優秀だ。
サカイとタケダは別荘に置いてきた。浜田の相手をしてもらっている。
────
私はミクから情報をもらいながら宮下潤子の動向を調べた。
宮下はなかなか一人にならない。
唯一カフェで過ごす小一時間だけだった。
私は新山に接近するように頼んだ。
「私には向いてないと思いますよ。」
新山は真顔でそう言ってカフェに入って行った。
宮下の真後ろでレジに並んでいる。
宮下はいつものように会計を済ませ、商品受け取り口の方へ移動した。
新山はスマホを出して翻訳して何とかカフェオレを買おうとしていた。
しかしなかなか注文が通らない。
「あなた日本人?その翻訳じゃこの店を買うって言ってるようなものよ。」
宮下は笑顔で新山に近づいた。
私はニヤリとした。
「日本人です!カフェオレが欲しいだけなんですけどね。」
宮下はレジの人にカフェオレを注文してくれたようだった。
「ありがとうございます。助かりました。」
新山は恥ずかしそうな顔で笑っていた。
宮下は新山を舐めるように見ていやらしい笑顔を見せた。
かかった!
宮下はその後も新山と話をしていた。
そして新山は宮下を見送り戻ってきた。
「今日の夜、食事に誘われました。」
新山の言葉に私はガッツポーズをしてしまった。
新山はどことなくルイに似ている。
真面目でシャイな感じは宮下好みなのだろうと思った。
思惑通りになるのは気分がいい。
私たちは一度ホテルに戻り準備をすることにした。
できるだけいいクラスのホテルを取った。
日本以外では街の治安を信用していない。
多少高くなっても必要経費だ。
私は隣の部屋にいる新山を呼び出した。
新山は私が用意したスーツを見事に着こなしていた。
「うん、いいね。」
「こんな高級なスーツ着たことないです。」
「この先も必要になるかもしれないから大事にしてね。」
新山は「はい」と嬉しそうに布地の滑らかさを楽しんだ。
私はルイに誰かの着なくなったスーツをあげていた。
大きかったり丈が短かったりしていたが、ルイはそれを含めて上手に着こなしていた。
新品のスーツの一着くらい買ってあげればよかった。
しかし後悔しても遅い。
今は作戦に集中しないといけない。
私は黒いパンツのセットアップを着た。
本当ならジャージとかのほうが動きやすいだろうけど高級ホテルでは浮いてしまう。
レンタカーに荷物を積み、新山を見送った。
昼間のカフェで待ち合わせをしているということだった。
行き先はまだわからない。
新山にはカメラとマイクとイヤホンのついたメガネをかけさせた。
インテリ感が増してなかなかいい。
新山のまわりの音声はある程度近くにいれば受信できる。
どこぞの探偵のようで少し興奮した。
まずは新山に頑張ってもらうしかない。
宮下は大のワイン好きだ。
新山もホストをやっていただけあって酒には強い。
私はレンタカーの中で新山目線の映像を見ている。
小走りに宮下が登場した。
「トオルくん!なんて素敵なの!」
宮下の目がハートになっている気がして私は吹き出してしまった。
さぁ、ディナーの始まりだ。
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