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第12話

僕はこのまま消えたかった。

僕は何のために生まれてきたのだろうか。


僕は全部わかっていた。


僕はお母さんに愛されていなかったし、クラスメイトたちは僕を嫌っていた。

先生は僕がイジメられているのに見て見ないふりをした。

僕は貧乏で不潔でまわりの人に嫌な思いをさせていた。


施設の大人たちは僕を哀れんでいたし、子供たちは僕がお世話をしても僕をバカにして不気味だと言っていた。


工場の人たちも同じだ。

僕はバカですぐに騙せると思っていた。

優しくしてくるやつはみんな裏に何かある。

僕はまんまと騙された。

別にどうでもいい。僕なんて、いてもいなくてもこの世界は何も変わらない。


しかしそんな僕に違う世界を見せてくれた人がいる。

かおりさんだ。

かおりさんは厳しい人だったけど僕に新しい世界を与えてくれた。


ホストという世界はとても不思議な世界だった。

強い感情が渦巻いている。

僕にはそんな世界で生きるのは無理だと思った。

しかしそうではなかった。

僕のような人が生きられる場所だったんだ。


金も学歴も家さえもない。

実力と顔さえあればのし上がれる場所だった。

僕は努力を惜しまなかった。

僕の居場所はここしかないから。必死にもがいてしがみついた。


それなのに、僕は失敗してしまった。


今はなぜかこんな地獄のようなところに閉じ込められている。

死にたくても死ねない。

僕は自動で動く殺人マシンのようになってしまった。


いつの間にか増えているスキルたちが勝手に作用しあって僕は無敵になっている。

何がどうなってそうなっているのかもう僕にはわからない。

眠りたい。

そう思って目を閉じても襲撃者が来ると勝手に体は動く。


僕はもう、ここにも、いない。




───────────



【須藤美沙子】


私は森の中にある立派な別荘にいた。

隣では心配そうな顔をした冴島さんが私の背中をポンポンしてくれている。


「すみません。取り乱してしまって。」

私は松井さんが持ってきてくれた温かいおしぼりを顔にあてた。

今日はメイクもしていない。すっぴんでよかったと思った。


冴島さんはソファの向かい側に座り直し、紅茶をすすっていた。

私は大きく深呼吸をして冴島さんを正面から見た。


「私がやることは…ゲームですね。」


私がそう言うと冴島さんは「はい」と静かに言った。

そして私を隣の部屋に連れて行った。


そこには汗臭いおじさんがパソコンに向かって作業をしていた。

画面にはあのゲームの画面が映し出されている。


「須藤さんをお連れしました。」

冴島さんがそう言うとおじさんはキーボードから手を離し、こちらを見た。


「はじめまして。浜田といいます。」

浜田さんは疲れた顔をしていた。

きっとずっとここで作業をしているのだろう。


「須藤です。」

私はペコリとおじぎをした。

浜田さんはすぐに私にどうやってルイくんに近づいたのかを聞いてきた。


「はじめはすぐに斬られて死んじゃったんです。」

私はその時のことを思い出してクスッと笑ってしまった。


「そしてすぐにまたルイくんの島に行きました。スポーンしたのは崖の上で目の前にルイくんの姿が見えました。私は大声で叫んで、ルイくんは私に気がついてくれました。

それで私、嬉しくて、目の前に川があるのに…ルイくんは川の向こう側にいたのに、私そのまま突進しちゃって…川に落ちました。しかもその川はすぐに滝になっていて、流されてそのまま滝壺へとドボーンと落ちました。私はそこで気を失ってしまって…。気がつくとルイくんのログハウスで毛布に包まれていました。」


冴島さんは笑うのをこらえてるように見えた。

浜田さんはウンウンと頷いている。

「なるほど、彼は川があったから向こう側にいる須藤さんをすぐに倒せなかったんですね。実に運がいい。」


「ルイは須藤さんだとわかったんですね。」

「はい。すぐにミサちゃんって呼んでくれました。」


私はそれからルイくんに島に来ることの大変さと現実世界での話を聞かせたと二人に説明した。


「ルイくんは自分だけみんなと違うって、悲しそうな顔をしていました。」


「まさか自分が賞金首になるなんて思ってなかったでしょうしね。あれ、実は私のせいなんです。

まさか本当にルイだなんて思っていなくて、愉快犯なら捕まえたくて…。」

「そうだったんですね!ゲームの世界でも珍しいみたいなことを聞いたので、納得しました。」


「でも私のせいでルイはいつまでも狙われる立場になってしまって…。申し訳ないと思ってます。」

冴島さんは本当に後悔しているようだった。


「そこは問題ないでしょうね。彼は今レベル250を超えている。このゲームの推定MAXレベルは150です。どんなに頑張ってもそれを超えるのはなかなか難しいはずです。

それがなぜか彼はどんどんレベルを上げている。システムが有効だと言いましたが、彼には何かチート的な効果がかかっているように思います。それが何か、彼に干渉できない私たちにはわかりません。

ただわかるのはレベル200を超えると普通の攻撃はほとんど効かないだろうということです。

銃が追加されたわけですが、今の彼には銃弾も弾くくらいの防御力があると思います。

無敵ですよ。殺人マシーンです。」


浜田さんは楽しそうにそう話した。

おそらくルイくんのファンなのだろうとなんとなく感じた。


「確かにルイくんはすごく強かったです。相手に睨む時間さえ与えていなかったと思います。」


冴島さんは私たちの話を聞いて少し安心したようだった。

「それじゃ、これからどうするか相談しましょう。」


────


私たちはダイニングテーブルへと移動した。

松井さんがサンドイッチとスープを用意してくれていた。

ふわふわのパンにカリカリのベーコンと目玉焼きとトマトとレタスがサンドされていてとにかく美味しいソースがかかっていた。


「松井さんの料理、美味しいでしょ。」

冴島さんはニコニコしながら私を見ていた。

よっぽどだらしない顔をしていたのだろう。

「はい、すごく美味しいです!」

「今日はできれば夜までいてほしいんだけど…」

「大丈夫です。何も予定ありませんから。」


「食べたいものがあればご用意しますよ。」

松井さんは優しい笑顔で私に聞いてくれた。


「オムライス…。」

私はつい言葉にしてしまった。この人の作るオムライスはきっと絶品だろうと想像してしまった。

「いいわね。私も食べたいわ。」

冴島さんはクスクス笑っていた。


「すみません、子供みたいなこと言って。」

私は恥ずかしくなって両手で顔を覆った。


「いいのよ。食べたいものや好きなものがあるって素敵なことよ。だってルイなんて…」

冴島さんは急に悲しい顔になった。

「ルイは、何を聞いても何でもいいって言うだけだったわ。悲しい子…。」


私はルイくんのそういうところを覚えている。

あまり自分の話をしないルイくん。

何が好きなのか私もよく知らない。

唯一楽しそうに話してくれたのがスマホのゲームの話である。


食後に美味しいコーヒーを出してくれた。

松井さんはコーヒーを淹れるのもプロ級にうまいようだ。


「ではこれからどうするか、話し合いましょう。」

冴島さんは真面目な顔になり、タブレットを操作した。

部屋にあったモニターに冴島さんのタブレットの画面が映し出された。


「ゲームの世界と、私たちのいる現実世界と、ルイが囚われてる場所。」

冴島さんは画面に丸を3個描いた。


「今知りたいのはルイがいる場所。そしてルイがどうやってゲームをやっているかということ。

前者は私が調べるわ。あの女を徹底的に調べたら何か出てくると思うのよ。

浜田さんはゲームのシステムから接続方法を探って。」

浜田さんは「わかりました」と言って頷いた。


「須藤さんは…ゲームの中でルイがどうしているかを見てきてほしいの。そして私に報告してほしい。」


「あの、言いづらいのですが、つい先日もう来ないでほしいって言われちゃって。」

私はその時のことを思い出して泣きそうになった。


「それって…まさか。」

「私も心配してるんです。何か悪いことを考えてるんじゃないかって。」


部屋の中に沈黙が流れた。


「まぁ、自殺しようとしてもあの防御力ならなかなか死ねないでしょうね。体力もハンパないのでしばらく食べたり飲んだりしなくても死なないと思います。もし死んだとしたら…、私にはどうなるのかわかりません。そもそもシステム上では彼は存在してないことになってますので。」


浜田さんの最後の言葉の意味がわからなかった。

存在していないのにあの場所にいるのはなぜなのか。


「あの、私やっぱり一回ルイくんに会ってきます!冴島さんのことも伝えたいし、現実世界にルイくんが生きてるって知ったら、きっと喜んでくれるし、死にたいだなんて思わないんじゃないかなって!」


冴島さんは賛成してくれると思ったがそうではなかった。

「そうね、きっとルイは喜ぶと思うわ。でもね、ルイの後ろにいる人にそれが知られたらどうかしら?きっと身を隠すだろうし、最悪…ルイの命に関わる何かが起きたら…。だからそこはまだ秘密にするのがいいと思うの。」


私は確かにと思った。

ルイくんを生かしている理由もわからない今、下手なことはしないほうがいい。まだ安否さえもわかっていないのだから。


「わかりました。それはやめておきます。でもこのまま放ってはおけないですよね?」

「そうだね、今の彼はかなり投げやりになっているようだよ。」

浜田さんはため息をついた。


「来ないでって言われてるから、何か理由があれば行きやすいんだけどな。」


私がそう言うと冴島さんは「うーん」と考え込んだ。

「ルイの好きなものって何だろうって考えたけど、わかんないんだよね。」

私もわからなかった。ルイくんは食べ物なら何でも食べると言ってたし、特に何かに執着するようなこともなかった。


「自分のスマホを手に入れて、それがすごく嬉しかったとは言ってました。でもゲームの中にそんなアイテムはないですよね?」

「さすがにスマホの機能をそのままにしたアイテムは難しいねぇ。ゲーム機くらいならなんとかなるかもしれない。難しいゲームは無理だけど、昔のファミコンくらいのゲームならゲームの中でもプレイさせることができると思うよ。」


「いいじゃない!やりましょう!」

冴島さんは立ち上がり、浜田さんをパソコンの前に追いやった。


「須藤さん、用意できたらログインしてくれる?それで、こちらの話はしないでルイの様子を見てきてほしい。」

「わかりました。」


────


浜田さんは30分くらいでそのアイテムを用意した。

「使い回し出来るプログラムがちょうどあってね。」

「はいはい、お手柄よ。」

冴島さんは浜田さんの話が長くなりそうで途中で遮ったように見えた。


「ではログインしてみてください。」

「はい。」


私は手が震えていた。

拒絶されたのにそれを無視して会いに行くのは勇気がいる。


────


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