第11話
僕はカタログギフトを貰っていたのを忘れていた。
確か2000人を倒したときにアイテムボックスから出てきたやつだ。
今住んでいるログハウスもこれでもらったものである。
今気がついたのだが、ここに来てからトイレに行きたくならない。ゲームだから気にしていなかったが、これは自分が人間ではないという証明にもなる。
サバイバルゲームだから食べたり飲んだりしないと死んでしまう。
それなのにトイレという概念がなかったことに驚いた。
僕はいったい何なんだろう。
ミサちゃんの話を聞くと自分が異質なものだとどうしても思ってしまう。
僕はいつからか、死んだらどうなるのだろうか、ということばかり考えるようになっていた。
それでも襲撃者が来たら反射的に倒してしまう。
レベルがどんどん上がって僕のステータスはかなりすごいことになっているだろう。
ミサちゃんがレベル100にするだけでもすごく大変だと言っていた。
対人戦をやれば効率はいいかもしれないが、このゲームは基本的に島1つにつき1人と決まっている。
たくさんの人を倒すにはたくさんの島に行かないといけないということだ。
船や筏があったとしても効率良くやるには大変そうだ。
僕はカタログギフトを持ったままボーッと考え事をしていた。
ページをめくると家や車が出てきた。
家はわかるが車はどうやって使うのだろうか。
ここに船があればもらいたかったが船も筏もなかった。
そしてそれをみつけた。
ライフルがあったのだ。
【NEW】というマークがついている。
やはり銃が解禁されたのだ。
しかしプレイヤーを2000体殺さないと手に入らないならかなりのレアアイテムだ。
持っているだけで狙われそうな品物である。
僕は悩んでライフルをもらうことにした。
なぜかライフルの弾は武器庫にたくさんある。
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ライフルは思ったよりも軽かった。
僕の攻撃力や体力の数値がすごいことになっているからかもしれないが。
僕はさっそく崖の上に行くことにした。
高いところから狙撃をしてみたかったのだ。
銃に関するスキルは何個か取得済である。
僕は試しに細い木の枝を狙ってみた。
弾は命中し、枝がポロリと落ちた。
待っている時に限って敵は出てこないものだった。
僕は飽きてスコープを覗いて面白いものがないかを探した。
見慣れた森は何も変わらずにここにあった。
実に退屈である。
ミサちゃんはほぼ一週間に一度のペースで来てくれている。
こちらとあちらの時間の流れが違っているので、僕の待ち時間は長い。
僕にはここの時間が早く流れているだなんて気がつかなかった。
やっと襲撃者がやって来た。
ちゃんと崖の下に出てきてくれた。
僕はスコープを覗き込み、狙いを定めた。
息を吸いながら引き金を引いた。
スキルのおかげだろう、ちゃんと頭に命中した。
爽快感と共に恐怖を感じた。
これが逆の立場だったら、僕には弾を避ける自信がない。
僕はすぐにログハウスに戻った。
ミサちゃんが課金して武器を買ったと言ってたのを思い出した。
もしかしたら誰にでも手に入るものなのかもしれない。
それから僕は引きこもるようになってしまった。
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僕が引きこもろうと関係なく襲撃者たちはやってくる。
僕が倒しに行かないものだから、島には人がたくさん滞在するようになってしまった。
強いものは拠点でも構えたのだろう。毎日同じ場所に戻っていく。
僕は探知のスキルでそれを観察している。
ログハウスをみつけて近づいてくる者たちもたくさんいる。
僕はログハウスの屋根に上がってそこから狙撃することにした。時には窓から、ドアから、とにかくこの場所を離れないようにしていた。
ミサちゃんには来ないでほしいと言った。
あの時の目を見開いた顔が忘れられない。
ミサちゃんは「わかった。またね。」とだけ言って、それから来なくなった。
僕はだんだんどうでもよくなってきていることに気がついた。
ここで生きるのに理由がない。
ただこの地獄のような場所で生かされている。
それでも体は勝手に動く。襲撃者が来れば倒してしまう。
もう、こんなこと、したくないよ。
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【須藤美沙子】
ゲームを起動してルイくんに会いに行くことが私の日課であり楽しみだった。
そのために毎日仕事をがんばれたし、毎日楽しかった。
それなのに突然、「もう来ないでほしい」とルイくんに言われた。
私にとってその言葉は世界の滅亡のような言葉だった。
何も言えず、私はログアウトしてきた。
スマホを置いて部屋を見た。
私の部屋、こんなに汚かったっけ?
コンビニで買ってきた弁当の容器が転がっている。
服は脱ぎっぱなしで洗濯物も溜まっている。
ルイくんはもしかしたら、私のこんな状況を知っていたのかもしれない。
こんな生活、誰が見てもだめだ。
私はその日、泣きながら家の掃除をした。
パンパンのゴミ袋が積まれていく。
洗濯も1回や2回では終わらなさそうだ。
少しきれいになった部屋を見てため息をついた。
ルイくん、大丈夫かな。
私は毎日会いに行っていたのだが、ルイくんの時間軸では1週間くらい過ぎている。
行くたびに元気がなくなった気がする。
口数も減って、外にも出ていない感じがした。
ルイくんはもしかして…
死のうとしているんじゃないか…
私は急に怖くなった。
だから私に見せたくないから来ないでと言ったんじゃないのか。
私はスマホを眺めた。
今すぐにでも会いに行きたい。
でもそれはルイくんの望まないこと。
私はいったいどうしたらいいのだろうか。
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私は結局何もできず、週末になった。
本来なら喜んで朝からゲームをしていただろう。
しかし私は怖くてスマホを見ないようにしていた。
家の中の必要なものがいろいろなくなっていた。そう言えばコンビニ以外に買い物に行ったのはいつが最後だっけ。
私は買い出しに出ることにした。
あいにくの雨模様で、歩く人もまばらだった。
スーパーまでは歩いて5分くらい。
ちょっと暗い感じの道を通ると近道になる。
そこを歩いていると前から黒い大きな車がやって来た。
私はすれ違えるように道の端っこに立って車が通り過ぎるのを待った。
しかし車は止まり、中から怖い感じの男の人が出てきた。
「須藤美沙子さんですね?ルイのことで聞きたいことがあります。」
車の中からきれいな女の人が私に向かってそう言った。
私は傘を閉じて自分から車に乗り込んだ。
普段なら悲鳴を上げて逃げていただろう。
でも今は行くべきだと心の中の何かが言った。
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「はじめまして、冴島かおりです。」
冴島さんは少し拍子抜けという顔をしていた。
強そうな男の人たちを連れてきたということは無理矢理にでも車に乗せようと思っていたのだろう。
「今日はお休みですよね、何か予定ありましたか?」
「あ、いえ。日用品の買い出しくらいです。」
私はこんな状況なのに落ち着いていた。
彼女たちから私をどうこうしようという気配が一切なかったからだ。
「急に申し訳ありません。どうしてもあなたに協力していただきたいことがありまして。」
「ルイくんのことですか。」
「はい。詳しいことは現地についてからお話しますね。少し時間がかかりますのでゆっくりしていてください。」
冴島さんはそう言ってペットボトルのお茶とデパートで買ったような高そうなチョコレートを渡してくれた。
私はそれを一つ摘み、口に放り込んだ。
甘くて、ほろ苦くて、とても美味しいチョコレートだった。
冴島さんはそんな私を見て微笑んでいた。
変な顔で食べていたのかもしれないと思って少し恥ずかしくなった。
車は高速に乗ったようだった。
遠出をするのはいつぶりだろうか。
私は窓から見える景色をただ眺めた。
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山奥の森の中にそれはあった。
ホテルかと思ったが個人の別荘なのだそうだ。
私は冴島さんのあとをついていった。
中には執事のようなおじいさんがいて、私が到着するとすぐに温かい紅茶と焼き菓子を持ってきた。
「松井さん、ありがとうございます。」
冴島さんは丁寧にお礼をしていた。
私もペコリと頭を下げた。
「急にこんなところまで連れてこられてびっくりしてるでしょう。」
冴島さんは私のティーカップに紅茶を注いでくれた。
「はい。」
アールグレイのいいにおいがする。
私は紅茶をいただいた。
「須藤さん、ルイがいたホストクラブを覚えているかしら?私はそこのオーナーなんです。」
冴島さんの言葉でハッとした。
確かに何度か似たような人を店で見かけたような気がする。
「単刀直入に言いますね。須藤さん、ゲームの中でルイに会いましたよね?」
私はびっくりした。
ホストクラブのオーナーがそんなことまで知っている。
私は間をおいて「はい」とだけ答えた。
何が起きているのか私の頭の中はフル回転で考えた。
それでもルイがゲームの中にいるという言葉がすでに常識の範疇を超えている。
「私は彼を助けたいと思っています。彼は…おそらく…この現実世界で生きていると思われます。」
ガシャンという音と共に手が熱いのを感じた。
私は紅茶をこぼしていた。
すぐに松井さんが冷たいおしぼりを持ってきてくれた。
ルイくんが生きている?
私は気がついたら涙をこぼしていた。
何度も何度もそうだったらいいのにと思っていた。
しかし、テレビでは死亡したとはっきり言ってたし、ネットニュースにもそう書いていた。
「信じられませんよね。私も未だに信じられません。」
冴島さんは悲しそうな笑顔で笑っていた。
そして大きな窓の向こうの美しい森を眺めている。
「ルイくんはどこにいるんでしょうか?」
「日本にはいません。今調べている途中ですが、おそらく中国かロシアあたりかと。」
探すには広大すぎた。
私がどうにかできるようなことではなかった。
「ホスト時代の客の一人がルイの死亡が確認されてすぐにルイの遺体を持ち去ったというところまではわかりました。病院はそのことを隠蔽していて私たちはそれを信じた。」
「死亡は確認されたんですね。じゃあ…」
「はい、その時点では心臓が止まっていたことになります。出血多量でしたし、ルイの血液はとても珍しい型だったようで…。
しかし遺体を盗むなんで狂気の沙汰じゃありません。よっぽどのことです。」
「そうですよね。」
「それで監視カメラの映像を調べ尽くしてある女にたどり着いたんです。彼女の名前は宮下潤子、国内医療機器メーカー最大手ミヤシタ機器の会長の一人娘でした。」
「医療機器メーカー?」
私はその言葉を聞いてもしやと思った。
「ルイくんは何らかの機器で命をつないだ?」
「はい、私はそう考えています。あぁいう世界では世に出ていない試作品をたくさん抱えていますでしょうし、彼女の財力があれば秘密裏に死体を一体くらいどこかに運ぶくらい簡単なことでしょう。」
「ルイくんが生きてる…。」
私は感情が爆発して声を上げて泣いてしまった。
冴島さんは私の横に来て背中をさすってくれた。
ルイくんが生きている!!
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