3話 不穏そして愛
母に別れを告げ、頼まれた手紙を届けに行っている最中、雨が降り始めたので、体で手紙が濡れないようにかがみなから少し急ぎ足で隣町に移動する。
◇◇◇
「カルロスの方ですね。ありがとうございます。それではお戻りの際は気をつけておかえりください。」
少年は手紙を医者に渡して一礼してその場を後にした。
「結構雨降ってるなー」
水音を立てながら走る少年は手でかさを作りながら言う。
歩きで往復半日ほどかかるが、少年はこう見えて鍛えているので体力はあるため、太陽が上り切る前には家に帰れる。
走っていると、カルロスの方から雨雲でも霧でもない黒い煙が上がっていることに気づく。
「なんだあれ?」
もう少し近づくとその煙が上がっている原因がわかった。いや、わかってしまった。
――ミクレスだ!
「なんでこんなところにミクレスがッ!前線からはかなり距離があるのに!」
少年はぼぼ全速力で町へ向かった。みんなが無事であることを祈って。
◇◇◇
肩で息をしていると、目に入ってきた光景はまさに絶望だった。
周りの家屋は燃え広がっていて、喧騒と恐怖に満ちている。ミクレスの集団から逃げ惑う人々、亡き骸を抱える女、咽び泣く子供。
「クソッ、なにがどうなってんだ!?」
母さん、セラ無事でいてくれ!そう思いながら少年は家に真っ先に向かうと、言葉を失った。
扉は殴り倒されていて恐る恐る中に入ると、膝から下が切り落とされ腹を大きく抉られた母が床に横たわっている。
「か、母さんッ!」
母はまだ息をしているがもう死に体だ。
「グラ...ディ...。ゲホッ!」
とても苦しそうに吐血した。
「ッ!母さんそれ以上喋ったら体がもたないよ...」
嗚咽が家の中に響く。
「いい...のよ...。グラディ...きいて...」
「…うん」
「わたしは...あなたといっ...しょにすごせて...とてもしあわせ...だったわ...」
「僕もだよ…」
僕は母さんの手を取り、母さんは僕の頬に手を添えた。その手はいつも温かくて僕が大好きな母さんの手。目尻から涙が溢れ、母さんの手に滴る。
「わた...しはいつでも...あなたのそばに...いるわ...。さようなら...。...わたし...の......かわ...いい...グラ...ディオ......ル......」
手の温もりが消えていく。
「今までありがとう。僕は母さんを...心から愛しているよ。」
苦痛で歪んでいた母さんの顔は、気づいた時には今までと同じ幸せの笑顔を浮かべていた。まるでこの世界が地獄でないかのような笑顔を。




