19話 勝ち逃げ
「お前ぇぇえエエ!!」
オリヴィエが激昂しながら異形に斬りかかる。
「オット、アブネェナァ」
異形の右手の青刃に軽くいなされる。オリヴィエは構わず、連続で剣を叩き込む。
しかし、何度攻撃してもオリヴィエを上回る速さで防御され、力で押し返される。異形にこれといった技術はまるで感じない。あるとすれば間違いなく圧倒的なまでの身体能力の差だ。
「...つ...よい!」
オリヴィエは徐々に体力をすり減らしていく。
異形はそのままオリヴィエを押し返すと、腹部に強烈な蹴りを入れる。
「...グハァア...!」
オリヴィエは後方に大きく跳ね飛ばされ、大きな音を立てて壁にぶつかる。
「ガハッ...ゲホッ...」
受け身を取ったため少しは衝撃を逃がせたが、内臓にダメージが入ったせいで吐血する。
「オマエ、ナカナカツヨイナ。ダガモウ、チカラガノコッテナイヨウダナ」
そう言いながら異形はドスッ、ドスッ、と音を立ててオリヴィエに近づく。
オリヴィエは剣で体を支えながら立とうとするが力が入らない。
異形はオリヴィエの前まで行くと、オリヴィエの髪を掴み持ち上げる。オリヴィエが持っていた剣が手から滑り落ち、カランと情けない音を立てて地面に落ちた。
異形はニヤリと醜い口の口角を吊り上げる。
「オレサマノ、カチダナ」
◇◇◇
スクリーバは音のした方向へ赴いて、オリヴィエを探す。
もう少し進んで開けた場所に出ると、スクリーバは息をつまらせる。
そこには無惨にも頭と胴が切り離されたヴィクトリアの姉貴の遺体が転がっていた。そして奥には...
「オリヴィエ!!」
青刃の異形が、オリヴィエを持ち上げ刃を向けていた。そしてオリヴィエがこちらに気づく。
「...スクリーバ...約束...守れなくて悪い。お前だけでも逃げろ...」
オリヴィエは痛みを我慢し微笑んだ。
「やめろォオ!!」
そんな叫びも虚しく、異形はその青刃で、一突きで胸を貫いた。
青刃を掴んでいたオリヴィエの腕がだらりと垂れ下がる。
異形は青刃を抜くと、興味がなくなった玩具のようにオリヴィエを投げ捨てる。
「オット、スコシアソビスギタナ。ハヤクカエラナイト、ボス二オコラレル」
そう言うと異形は驚異的な身体能力で、地面を蹴り飛び去っていった。
スクリーバはすぐさま、オリヴィエに駆け寄る。だが、もうすでに手遅れだった。
オリヴィエはもう事切れていた。
スクリーバはその場にバタンと膝をつく。
「...勝ち逃げは許さないって...いっただろッ...」
スクリーバはオリヴィエとヴィクトリアの亡骸を抱えて道場に戻った。スクリーバの歩いたあとの地面は、ポツポツと濡れていた。
――◇◇◇――
大陸日記 その5
「嶺神流の宗主編」
嶺神流の宗主はオリヴィエがガイスと戦う半年前に病で無くなっており、その後も任命式は開催されていなかったため、実質的にヴィクトリアが宗主のような立ち位置だった。
予定では、オリヴィエが18になったら任命式を執り行うはずだったが、その前にミクレスがこの世界に出現した。




