17話 ガキと決闘
わしはガイスの強さを知っておったし、決して弱い訳では無い。なんなら上から数えた方が早いほど、やつには腕前があった。だが、わしはなぜか不思議と、少年が負けるとは思っておらんかった。
定刻になり、いよいよ両者が位置について向かい合う。
「そんじゃ、立会人はあたしが務めるぜ」
周りがざわつく。
「えっ?ヴィクトリアの姉貴がやんのか?」
「姉貴が立会人するなんて珍しいな...」
「てか、ほんとにこれ大丈夫なのか?」
ガヤガヤ騒がしいギャラリーを、手で制したヴィクトリアはいつになく真剣になる。
「これより決闘を始めるぜ!両者構えッ!」
ガイスと少年が木剣を構え相対する。
「ガキ相手なんざ嫌だが、姉貴の指示だ。悪く思うなよ!」
少年はただガイスを見つめている。
「はじめッ!!」
合図と同時にガイスが踏み込み、一気に間合いを詰める。
「ふんっ」
ガイスが腹のそこから声を鳴らしながら、少年にむかい左から右へ横薙ぎをする。
嶺神流は最初、横薙ぎで牽制を行い、そこから相手の動きを見ながら攻撃を繋げるのが定石だ。そう、ガイスは何気に基本に忠実だ。そこが彼を強くした理由の一つでもある。
少年は横薙ぎと見るや受けの体制に入る。
木刀同士がぶつかると、勢いとは裏腹にコツっと小さくおとがなる。ガイスは素早く木刀の軌道を逆になぞり、体で木刀の軌道を遮りながら、斜め上から振り下ろす。
恐ろしいほどの精度と初見殺しの技。多くの観衆が少年の心配をするが、それは杞憂に終わる。
「なにッ!」
少年は振り下ろされた木剣を、半歩下がり薄皮一枚のところで避ける。
多くの者の場合、これで終わるはずだった。少なくともガイスはそのつもりでやった。だが躱された。
少年はガイスの木剣の軌道を把握し、あまつさえ正確な足運びで躱してみせたのだ。
ガイスは木刀を空振りしたせいで、体勢を崩す。
少年はすかさずガイスの懐に入り込み反撃を入れる。
横腹、左足、肩、手首、少年はものすごい勢いで木刀を打ち込み続ける。
「...がァはア!...ぐふォお!」
威力は子供のそれだが、量が異常だ。叩かれよろめいた方向からまた叩かれる。少年の猛攻は止まるところを知らない。
そして、木剣がガイスの首元に差し向けられた時。
「そこまでッ!!」
周りから歓声の声が上がる。
「うぉおお!勝ちやがった!」
「ガキがガイスに勝ったぞ!」
少年にヴィクトリアが近づく。
「まだまだ、荒いところがあるが間違いねえな。ガキ、名前はなんつうんだァ?」
「...オリヴィエ」
「いい名前じゃねえか!オリヴィエおまえ、うちに入りたいんだったか?」
「...うん」
「そうかい。あたしからしたら、つよい奴ァ大歓迎だぜ!そういやおまえいくつだ?」
「...7だと思う...」
「うーん、てなると」
ヴィクトリアはそう言うと周りを見渡して叫ぶ。
「おぉい!スクリーバはいるか?」
「...は、はい!」
一人の少年が人混みをかき分けて出てくる。
「おまえが一番オリヴィエと歳が近いから、こいつの世話を任せる」
「わ!わかりました!」
少年は勢いよく返事をした。
わしはオリヴィエの戦いぶりを見て、心臓の鼓動が早まっていくのがわかった。
今考えるとこれは、強者への好奇心と、オリヴィエという少年の瞳の力に惹きつけられていたからだとわしはおもうな。




