16話 70年もの前の話
「師匠が話があるって言ってたけど、なんのことだろう?」
グラディオルは前日にスクリーバに「大事な話がある。装備を整えてから広場に来い」と言っていた。
「話をするのに装備なんて必要か?」
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、スクリーバの待つ広場についた。
「おはようございます」
「きたか。まずは座れ」
グラディオルは頷いて、スクリーバに促されたところに座る。
「それで話とはいったい...?」
「実は、わしが小僧にしてやれることが残っておらん。つまり、今日が最後の修行の日...ということになるな」
「...え?」
スクリーバとの修行はグラディオルにとって大変ではあったが苦ではなかった。なんなら良く思っていた方だ。それが唐突に今日で最後と言われ、かなり驚いてしまった。
「じゃから、今から小僧に話せる全てのことを話そう...。そうじゃな、嶺神流を今まで続けてきた理由でもある、わしがどれほど鍛錬を積もうと叶わなかった、親友でありライバルであったわしの友の話をしよう」
◇◇◇
時は70年前。まだミクレスがこの世にのさばるよりも前の話じゃ。この道場で、たしか雪の日じゃったかのぅ。道場に訪れる、薄汚れた服を着た黒髪の一人の少年がおった。
「ここはてめぇみてぇな、物乞いが来る場所じゃねぇ。孤児院は向こうのほうだろ、とっとと失せな!」
門前にいた嶺神流の門下生が声を荒げる。
「ガイスおめぇ、ガキ相手にデケェ声出すんじゃじゃねえよ。うるせぇじゃねえか」
「あ、ヴィクトリアの姉貴!す、すいやせん...」
姉貴と呼ばれた女は、組紐で真っ赤な長髪を組紐でまとめてある根本を花型で結んであり、周りとは一風を期した雰囲気をまとっている。
ヴィクトリアは服の下から腹をかき、あくびをしながら門に近づく。
女は少年を見て、なにかに気づく。
「なるほどな...。おい、ガイス。このガキとサシで戦ってみろ!」
「え!?俺がこんなやつとっすか!?ガキ相手に喧嘩するなんざ、さすがの俺でもそこまで落ちぶれちゃあいやせんよ!」
「そういうことじゃねぇ!いいからさっさと木剣もって準備してこい!ガキもそれでいいなっ!」
少年はコクっと頷く。
数分後には、道場中にガイスと少年の決闘の話が広まり、ドタバタと騒がしくなってきた。
「ガイスの野郎が、子供と決闘だってよ!」
「まじか!あいつなに考えてんだよ」
「広場だってよ!早く行くぞ!」
当時8歳だったわし含め、多くの門下生がガイスと少年が決闘すると聞いて広場に集まったのじゃ。
そして、初めて少年を目にした時わしは思った。なんて真っ直ぐで自信に満ちた瞳をしているんだろう、とな。




