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残念王妃の小さな事件簿 ―刺繍の好きな王妃様は、今日もほわほわと周りを振り回しているようです―  作者: 青風ぱふぃん


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7. 残念王妃の昔の話:奔放な令嬢による遭難サバイバル事件

なろうラジオ大賞の「サバイバル」で応募しようと思ったけど、全然1000文字に収まらなかった話。

「花とか、山の景色とか。そんな絵ばかり描いていても、頭は良くならないぞ」

 王子が声変わり前の高い声で言う。


 今日は、婚約者の令嬢と山へピクニックに来ている。

 令嬢が花の絵をスケッチしたいと言い出したからだ。


「麓の村の子が、珍しい花が咲いていると教えてくれたんです」

 楽しそうに言う令嬢を、王子は鼻で笑う。


「お前は本当に残念なやつだな。あんな連中の話を聞く暇があったら歴史の一つでも覚えたほうが有意義だ」

 私は最近何々と何々を学んでな、教師にも神童と褒められて……、と自慢話を始めたが、令嬢は生返事でスケッチに集中している。


 退屈した王子は、ふん、と不満げに鼻を鳴らすと、令嬢を放置してひとりで何処かへ行ってしまった。


   *   *   *


「令嬢、逃げろ!」

 王子が叫ぶ。


 王子の声に驚いて立ち上がった令嬢は、その後ろに迫るハチの群れを見てさらに驚いた。


「殿下!」

「のわっ!?」

 思わず駆け寄った令嬢と王子は、お互い止まりきれずにもつれ合って転倒する。そしてそのまま、丘の斜面を川に向かってゴロゴロと転がり落ちた。


 王子の後ろを追ってきた虫たちは、ターゲットを見失い、怒り狂った勢いのまま近くにいた王子の護衛たちに襲いかかる。


 護衛がハチに翻弄されている隙に、川に落ちたふたりはそのまま、下流へと流されてしまったのだった。


   *   *   *


 川の下流。

 切り立った崖に囲まれた小さな河原に、王子と令嬢は流れ着いていた。


「……で、低くまっすぐ飛んでる虫を見つけて、追いかけたり踏みつけたりして……」

 何匹も何匹もまっすぐ飛んでくるものだから面白くなってしまって……、と王子はモゴモゴと言う。


「殿下、低く一直線に飛ぶハチさんはおうちに帰るところです。おうちの近くで暴れたら、ハチさんは怒るんですよ」


「そ、そうなのか」


「そもそもなぜ何もしてない虫さんを踏むんですか……。可哀想でしょう」


「うっ……、うるさい!」

 反射的に怒りながら、王子は考える。


 なぜだ?

 楽しかったからだ。

 虫を殺すことが?

 虫なんてたくさんいるから……。

 でも、命を?

 奪うことが楽しかった?


 なんだこれは。


 王子は自身の残酷さに気がついて、ゾッと身を震わせた。


 子供らしい無邪気な残酷さである。よくある事ではあるのだ。

 だが王子は、自分が化け物になったような気がして、もう二度と命を粗末にはするまいと、強く心に刻んだ。


 そんな王子を気に留めず、令嬢は濡れたドレスの裾を絞り、パンパン、と叩く。


「さてと」

 令嬢は周りを見回すと、岩場の隙間を見つけて上へ登り始めた。


「お、おい、危ないぞ。助けが来るまで動かないほうが……」

「あら、だって、ここ日陰で寒いんですもの。それに、お水がちょっとでも増えたらすぐに沈んでしまいそう」

「……た、確かに」

 そうだ、川は増水したり渇水したりするものだ。歴史に残る大水のようなものではなくても、常に変動している可能性はある。


 知識と現実が噛み合って、ストンと胸に落ちる。

 そうか、知識というのはこう使うものか。


 令嬢は相変わらず王子の様子など見もせず、階段を登るように岩の段差をトントンと登る。ある程度登ったところでまた周りを見回し、今度は川の反対側へ岩を降り始めた。


「おい、上流はあっちだぞ。戻るならあっちだ」

「あら、こっちのほうが景色が良さそうですよ」

「景色ぃ? そんな場合じゃないだろう!」


 王子が怒るのをけろりと無視して、令嬢は楽しげに歌いながら進む。


 やがてひらけた場所に出た。

 登ったり下ったり、あちこち曲がって結構歩いた気がするが、眼下には先ほどの川が見える。


「ほら、いい景色!」

「結局川に戻るのかよ……」

「さあ殿下。上着を脱いで」

「えっ?」

「私のドレスも脱がせてくださいな」

「ええっ!? いやあの、それは……まだ早すぎるというか……いや私は構わないのだが……」

「濡れたままだと風邪をひきますから、外着だけでも干しましょう!」

「……あっ、そういう……」

「あとは、天気もいいし、肌着を乾かすついでにお昼寝でもしましょ」

 令嬢は、ごろりと草原くさはらに横になると、子守唄を歌い始めた。


   *   *   *


「我々がまず探すであろう川沿いから離れず、見通しのいい小高い場所まで移動、目立つように服を木に懸けて、あとは動かず救助を待つ。さすがです王子」


 王子を見つけた護衛が感服したように言う。


「生き残るための最善の行動でしたね」


 王子は、

「……まあな」

 と不貞腐れたように答えた。


 ……遇然だろ。

 王子は令嬢をちらりと見る。


「歌うのも良かったですね。すぐに居場所が分かりましたよ。叫ぶと声が嗄れるので、正しい発声法で歌うのは良いアイデアでした。殿下のご指示ですか?」


「えっ」


「野生動物も臆病なやつなら、声のする方には寄りませんから、安全のためにも良かったですよ」


「ええ?」


「それにしても、よくあの場所に行けましたね。ちょっと複雑な地形なので、迷いやすいんですよ。領地の地形の特徴をよく把握されていたということですね、さすが勉強熱心な殿下です」


「えええっ!?」


 そういえば、令嬢は地元の村の子供たちとよく話すんだったか?


 ……いやまさか。

 偶然だ、偶然。


 そう自分に言い聞かせつつも、王子は、学業以外の事も学んでいかなければ、と心に決めたのだった。



「虫ですら住処を荒らされれば怒るのだ。小国と侮って軽い気持ちで侵略などすれば、手痛いしっぺ返しを喰らうぞ」

 とかなんとか、王になってから偉そうに言ってそう。

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