表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クズ*ギブ~人間ギライの紙さま。~  作者: 稲穂 実


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/8

★第五話 新世界にて

 時は2×××年。

 ここに来てようやく、世情は【原点回帰】の道に立ち返った。

 この時、大きく働いた力は、政治のそれではなかった。

 その力は、誰もが持ちながら、誰もが顧みない力。

 しかしこの世で最も、世に具現化を齎す力。

 

 目には目を。

 歯には歯を。


 そして、そこには当然、【理不尽を正す働き】が加味されるべきだ。


 親を非道に殺された子どもが、その者に復讐することは、果たして罪か?

 ある者の尊厳ある体を犯し、生きる地獄を味わわせたその侵略者が、世を自由に出回るのが公平な裁きか?

 

 罰を受けるのは、いつでも【被害者】の方だ。

 その命があろうとなかろうと、【被害者】は侵略の傷を負う。

 そして【被害者】の身内の者たちもまた。


 裁きの【機能】は、とても静かに、ごく自然に、現れた。

 それは世の仕組みとして、個々の存在として。

 また、魂の尊厳として。



「君も昨今の世の動向は知っているだろう?」

「YONODOUKOU?」

「そうか、分かった」

 ヌンさんは「そんなことは日常業務だ」という顔で、ひとつ頷いた。

 僕とヌンさんの背景は、先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返っている。というのも、ヌンさんの秘書だという美女が、珍獣たちに美しいデコレーションのケーキとココアを与えたところ、珍獣たちはテカテカの革張りのソファで折り重なる死骸のように眠り込んだからだ。え、なんか混ぜました?

「ここ二十年の間に、刑務所の収容者は大幅に減少した。一方で、検挙率は犯罪の種類に限らず百パーセント。俗にいう【未解決事件】というのは、もはや存在しない世界になった。ほんの少し前からすると、考えられないような理想郷だ」

「理想郷……」

「不躾だけど、君は幾つかな?」

「あ、十八、です」

「そうか、なら物心ついた頃にはもう今のような世界だったわけだ。【理想郷】などと云われても、ピンと来ないだろうね」

「はあ……」

 僕は曖昧に頷いた。そういえば、たまに登校できた時に、そんな話……以前の、犯罪者たちが野放しにされる、理不尽と恐ろしさに満ちた時代の話を聞いたかもしれない。

 けれど、今の世では、犯罪者は当然その身をもって断罪されるべきなのは当たり前の話だ。いちいち説明されずとも、国民の臓腑に染みついている。

 断罪は、犯罪者自身の【賤しさに侵された心身】を救済する為の処置でもある。そして、犯罪者の生命の為に、【良心を持つ市民たち】の生活が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「刑務所の収容者が減った理由は、分かるかな?」

「それはきっと、速やかに死刑が行われるようになったからですよね」

「そうだね。今の()()()()では、冤罪というのが()()。だから、死刑を速やかに行うことにリスクがなくなった。今では一日に、数えきれない犯罪者たちが処刑されている。罪を犯した者に()()()()()()()()

「当たり前です。罪を犯せば、その存在はもう、()()()()()()()()()()()()

「そう。ただの【(ごみ)】だ」

 そのおぞましさ、魂の穢れ具合を想像しただけで、僕の体は身震いする。罪を犯せばどうなるのか? 僕らは何気なく流れるテレビや街頭のヴィジョンで、その末路を何度も見たことがある。特に重罪人の扱いは、元人間の尊厳を根こそぎ刈り取るものだ。

「だが人間は、長い間、理不尽の世界で耐えて来た。私の子どもの頃なんかは、それこそ被害者やその身内が、まるで加害者のように扱われることさえあった。【(ごみ)】が安穏と生き、被害者やその近親者は地獄の泥を啜って生きた。いや、時には自らの命を投げ出した。狂った世界だったんだ、本当に」

「想像が出来ません」

「知らない方がいい。知らない方がいいんだ」

 ヌンさんは立ち上がり、僕の隣にそっと並んだ。そうして、僕の肩に手を乗せた。やはり分厚い手だ。手のひらの筋と肉が、僕のお世辞にも逞しいとは云えない肩を包み込んだ。

「私たちは【神】を取り戻した。そうだね?」

「僕が生まれた時にはもう、神さまは世界におられました」

 二十年前、見捨てられたこの土地に、【神さま】が現れた。

 神さまの裁きは絶対で、間違いがない。

 罪に覆い尽くされた者たちが何をしたのか。

 その凡てを、神さまは常に詳らかにする。

 その姿はどこにも見えない。

 けれど、断罪は必ず()()()

「君は……」

 ヌンさんのくっきりとした二重の瞳が、一瞬、躊躇するように細められた。けれどヌンさんは、口を開いた。

「君は、命を絶とうとしたんだな」

 僕は、ハッと息を呑んだ。後ろで眠るメムさんを、思わず振り返りそうになった。けれど、肩に置かれた手が、先回りするように僕の体を留めた。

「違う。メムは何も云っていない。メムはただ、【神の声】を聞いただけだ。その意思に従っただけだ」

「神の声……」

(みな)、同じなんだ」

 僕は目を逸らせなかった。ヌンさんの瞳に、ヌンさんという一存在を超えた何かの光を感じた。それがきっと、僕らが【神】と呼んできたものなのだろうと悟った。

「私たちは皆、世界から消えようとした。そして」

 そして。

()()()()()()()()()()()()()




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ