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クズ*ギブ~人間ギライの紙さま。~  作者: 稲穂 実


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★第十二話 明日は我が身

あれれ~?

いつの間にかもう一週間経っちゃってたぞ~~?

ということで、無事書きました!

 お父さんとお母さんが死んだ。

 少し悲しい。それに、不安。

 でも、もっと大きな安心感がある。

 昨日、僕と一緒に住みたいっていう、男の人と女の人に会った。

 ずっとニコニコしてて、嬉しくて仕方ないって顔だった。

 僕を見てそんな顔をしてくれたのは、その人たちが初めてだった。

 でも、あの人たちも、ちょっとしたら、僕にイジワルをするかもしれない。

 ご飯をくれなかったり、ベランダにずっと出てなさいって云ったり、ずっと何日も帰らなかったり。

 まあいいや。

 昨日、すっごく美味しいご飯を食べさせてくれたから。

 これ何、って訊いたら、オムライスよ、って、女の人は教えてくれた。

 美味しくて美味しくて、もっとちょうだいって云ったら、二回も三回も、食べさせてくれた。その後、ちょっとお腹が痛くなっちゃったけど、女の人が、大丈夫よって云って、お腹を撫でてくれた。男の人は、寒くない? って云って、お布団を掛けてくれた。

 温かかった。

 別に寒くはなかったのに。

 これからは、学校に通わせてくれるって、女の人と男の人に会わせてくれた女の人が云ってた。学校は大好き。ご飯が食べられるし、それに『僕は僕で良い』って、教えてくれるから。それは神さまの言葉なんだって。神さまはいっぱいご本を書いてて、それを先生たちに渡してくれるんだって。先生たちはそれを僕たちに教えてくれるんだって。

 神さまは、悪い人は自分のやったことをそのまま受けるんだって教えてくれた。

 お父さんとお母さんが死んじゃったのはきっと、僕にイジワルをし続けてたからだ。

 でも、僕はお父さんとお母さんが好きだったから、お父さんとお母さんにいて欲しかった。ずっとそう思ってた。

 でも、この間、部屋で、独りぼっちで、暑くて暑くて、喉がカラカラで、お腹が空きすぎて痛くて、体がフワーって浮いてしまいそうになって、そしたら、心の中で何かの蓋が開いて、いらない、って思った。

 もう、お父さんもお母さんも、いらない、って。

 そしたら、気付いたら、ふかふかの、いい匂いのするベッドで寝てた。

 もう何日も寝てたのよって、白い服のお姉さんが教えてくれた。

 良かったわね、って笑ってくれたから、よく分からなかったけど、うん、って笑い返した。

 お姉さんは銀色の眼鏡を掛けてた。キラキラしてかっこよかった。

 あの日から、僕はずっとお腹がいっぱいで、それがとっても幸せ。

   

 *


「三組の話、聞きました?」

 同僚に話しかけられて、私はノートパソコンから目を上げた。

「ああ、聞きました。虐めに気付けなかったなんて、恥ずかしいです」

「またまた真面目なんだから。そもそも、先生の担任クラスじゃないでしょう」

「でも同学年のクラスですから。気を付けていれば、もっと早く何か分かったかもしれませんし……」

「無理無理、自分のクラスだけでも精いっぱいなのにさあ」

 筋肉質な彼は、クーラーの効いた部屋なのに、下敷きで首筋を仰ぐ。

 彼の発言はあまりにも開けっぴろげで無責任に思えるが、現実的だと云えばそうだった。私の先の理想論的な発言の方が、よっぽど無責任かもしれない。

 親や世間が期待するような教師なんてものは、まやかしの偶像崇拝のようなものだと、他でもない自分自身を見て思う。体力も精神力も簡単に限界を迎えてしまう私たちは、ただの人間で、無力だ。

「それにしても、虐めなんて言葉、久しぶりに聞きましたよね。俺が小学生の頃って、まだ神様がいなかったんで、結構、見聞きしたもんですよ。ニュースでもしょっちゅうやってたし、増え続けてるって云ってて……」

 同僚教師は感慨にふける様に天井を見上げる。同世代の私としても頷ける話だった。

【神様】は大人も子どもも区別しない。

【はたらき】は、平等に訪れる。

 それでも、多少は、子どもの方が【猶予】を与えられる機会は多いようで、【忠告】のような出来事はしょっちゅう起こる。

「虐めっ子は成敗されたけど、虐められていた子は、登校できるんですかね。担任の先生、一度ご自宅に伺うって云ってたけど」

「門前払いじゃないですかね。今まで何の対処もして来なかったのだし……」

「虐めにはまったく気付いてなかったって云ってましたけど、本当なんですかね? 自分のクラスでもやっぱり見切れないか……」

 私は答えられずに黙る。本心なんて、私たち人間には分かるはずもない。だからこそ【神様】がいるのだ。神様の前では、どんな嘘も暴かれる。真実、本心だけが白日の下に晒される。だからもし、担任教師が虐めに気付きながら見て見ぬふりをしていたのなら……それ相応の【はたらき】が起こるだろう。

「でも、危ないところで、一歩踏みとどまって留まってくれて良かったですよ。何の罪もない人生が奪われるなんて、あってはならないことですから」

「ええ、本当に……」

 虐められていた生徒は、自ら命を絶つ寸前だったそうだ。そこに、加害者側の生徒の交通事故の一報が飛び込んで来た。母親が保護者のSNSグループで一報を知り、娘である被害者の生徒に伝えたのだという。もっとも、母親も虐めのことは全く知らず(生徒は登校し続けていた)、大型のカッターナイフを手首に当てがった娘を見て仰天したそうだが……。

 加害者の生徒は運動神経が抜群で、サッカー部でレギュラーを張っていた。

 部活後、自転車で帰宅途中に、信号無視をした大型トラックと衝突したらしい。奇跡的に死は免れたが、下半身が下敷きになり、今後は歩くことも絶望視されているという。

 ちなみに、大型トラックの運転手は飲酒やゲームをしながら等の危険運転の常習犯であり、これまでも相手に怪我をさせる人身事故を起こし免停処分の履歴もある。こちらも、命は助かったが、事故の衝撃で頭部に重傷を負い、視力を失ったらしい。もう運転は出来ないだろう。

 この巡り合わせは、神の意図と云うしかない。

「今回の決定的なことが起こる以前に、ちょっとした怪我なんかはあったんだってね。それでサッカーの試合に出られないこともあったとか。後から考えれば、それも神様の忠告だったんだろうね。

 その段階で虐めを止めていれば、神様もここまでのことはしなかったろうに」

「怪我で試合に出られないことでフラストレーションが溜まって、余計に虐めが酷くなったということもあったんじゃないでしょうか……」

「そっか。罰が逆効果な人間もいるのか。自己肯定感を高める教育も、神様による罰もあるのに、人間に巣食う悪は抑制できないもんなんだな」

 私は再び黙る。それでも、虐めが劇的に減ったことは事実だし、効果がまったくない訳ではない。情緒的なものが欠落している人間でも、罰という恐れによってその悪意を抑制できるだろう。

 教師として、単なる人間である自分の無力さを日々痛感しながら、自分にできることを続けるしかない。今回のことも、決して他人事ではないのだ。ありとあらゆる意味で、明日は我が身、だ。

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