49話 歴戦の現実
「ドラゴンじゃない?」
ラジュネスが珍しく声を上げて驚いた。普段、感情を出さない彼女の反応に、周りの者も驚いてしまう。
「すまない」
「いえ…無理ありません」
ロクザンが宥める。
メル・オセオンを制圧し、神人ソレイユも捕縛した。実質、メル・オセオンは戦争から離脱。次の相手は、天空国家セゾニエだ。
海洋国家と相対し、天空国家と呼称されるかの国の兵器はドラゴンを起用した空軍にある。催眠魔法でドラゴンを胃のままに操作し、騎手を失えば、破壊を行うように洗脳された野良の兵器である。セゾニエが空軍に特化しているのは、地形が深く関係している。地続きの大陸は山脈などを国境として、五つの国が存在している。
セゾニエの場合、広大な土地をぐるりと囲うように、大河が蛇行し、流れている。海洋国家メル・オセオンの海の地の利とは異なる水の分野。大河というだけあり、対岸を渡るだけでも一時間は使わなければならない。人力の消耗も激しい。ゆえに、セゾニエは空を道路に選び、交通面を強化した。自ずと特出した飛行技術と空での戦いで、セゾニエの戦力の要は空に移り変わる。
山脈に囲まれていようが、それを上回る高度で進軍すれば、アバンチュールもヴォク・ラテクも大打撃を受ける。幸い、両国とセゾニエは遠い地であったため、ドラゴンの制御が上手くできなかったのだろう。
(でも、今回は違う。セゾニエの空の下で踊ることになる。航空兵器がドラゴンであれば、既成の情報と照らし合わせて、対策が練れる…)
ラジュネスはロクザンに視線を移す。
「ドラゴンの魔力じゃ…なかった?」
「はい。ドラゴンの魔力も混ざっていました」
返しに、ラジュネスは再度嘆く。
「ロクザン以外、下がれ」
彼女の言葉に、各部隊の隊長が本部テントから退席する。残ったロクザンとラジュネスの間では同期としての親しい口調で話し合う。
「ラジュネス、報告を続けても?」
「ええ」
「あなたに頼まれて、セゾニエの軍部居地に目と耳を潜入させました。国の兵力は完璧であり、つけ入る隙がありませんでした。なにより、城の特別収監室に移送されるジュレ様を確認しました」
「…魔法波長は?」
「試みました。軍部の奥深く、大将が集う場まで視ることはできました。が…」
ロクザンは思い出す。セゾニエの情勢を魔法で盗み見ようと、深く魔力を張り巡らせていた時のこと。幹部が揃う会議室に辿り着いた。その瞬間、ターコイズブルーが光を帯び、鋭く直視してきた。魔力越しで、遠くにいる自分に魔力返しのカウンターを仕掛けてきた。
カルム貴だ。温厚な彼からは想像もできない黒く淀んだ魔力に中てられ、心を覗かれている恐怖を今でも忘れない。
「逆探知されました」
「カルム貴に?」
「いえ、ウラガン侯爵です。侯爵は魔力に長けた精霊の出自。まあ、私個人にカルム貴は警告をしてきましたけどね」
「危険な目に遭わせてごめん。もう少し考えればよかった」
「…気に病む必要はありません。情報収集には危険がつきものです。今は魔力探知を防ぐ防壁を張っていますので、こちらの話は聞かれていません」
ロクザンは得意の詮索技術が格上に通用しないことは初めてだと、そう物語る。戦争の挫折が現れている。
「セゾニエの所有する航空兵器ドラゴンは、先の大戦でエテルネル卿が討伐を完了させています。残党がいる可能性は大いにありえますが、そのドラゴンの個体数を大幅に上回る魔獣を、セゾニエは隠し持っているでしょう」
「でしょうね…ジュレ様の場所は確認できたが、国内の空戦が勃発するのは確実。新しい航空兵器の詳細を見つけるまで迂闊に攻めるのは止めた方がいい」
「そうですね。アルカンシエル公爵をお呼びするにも時間が必要ですし、各隊の編成も改める必要がありそうだ。ラジュネス、あなた個人としてセゾニエの空軍を模した魔獣は生み出せますか?」
ロクザンは生命魔法の詳細に迫る。ラジュネスの有する生命魔法は回復魔法だけでなく、ありとあらゆる生命を操作する異次元の魔法。ラジュネスは笑いを溢して、返答する。
「荒いな。一週間はかかるよ」
「十分です」
二人の折り合いがついた。
「一週間後、突入する。それまでに整えよう」




