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惚れた相手は敵国の英雄だった  作者: おじゃっち
3章 少女の時辰儀
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47話 黄金拒む

単騎突進した賢者アヴニールの初動で、船が沈没した。神人ソレイユは権能を駆使し、海を足場にして、戦う。無限に存在する海という資源を味方にするソレイユは、津波を引き起こし、一切の容赦なく、賢者を相手にする。神人に相対する賢者は、悠々と宙を動き回り、海の手足から逃げ回り、神人を翻弄する。


賢者には、神人の持つ権能のように決まった能力はない。世界を構築し、常に主導する立場の賢者は万物の創造者であり、調停者でもある。ゆえに、万物に通用する未開の力を扱う。

だが、賢者にも得意分野があり、彼らが使う未開の力は得意分野の影響を具体化させたものが多い。

蓬莱の賢者アヴニールは領域を得意とする。未知の土地の創設、荒廃した土地を肥やし、豊穣を与える、あらゆる空間領域のスペシャリストである。特に、自信が快適に過ごすことを可能にした空間【仙境】の創設を最も得意としている。


アヴニールは海と空全ての空間領域を己の支配下に置いた。

『!』

神人ソレイユの権能”海原”は、海を操る。万物に根付く、世界を構成する元素の一つを操る。ソレイユは権能を応用して、水の媒介が絡めば、水を操作することも可能だ。神人グロワールは防御に徹することで、幾度も彼が齎す危機を脱していた。

普通であれば、神人ソレイユに対抗する術は防御しかない。だが、賢者アヴニールは海その者の空間を【仙境】に置き換えて、空間内にかかった能力全てを解除した。能力全てには、神人ソレイユの権能も含まれる。

『海が反応せんか?』

単騎突進したアヴニールが甲板に足を踏み入れた。ソレイユは賢者を睨んだ。

『なぜ、いつも邪魔をする…』

『邪魔、か…』

『賢者が人間を幸せにできると思っているのですか?』

アヴニールは黙った。彼女の弟リュイヌ卿は、人間と恋に落ちたが、結果、この混戦の原因となってしまった。

『どうじゃろうな。じゃが、ヴェリテの喜ぶ環境は用意できる。この戦いが終わって、朕はヴェリテの魂から脱する。今まで、あの子と共存しておったのは、貴様がおったからじゃ』

『この期に及んで、話し合いで解決するとでも?』

『解決させるんじゃ! その為に、貴様を捕らえる!』

ソレイユは隠し持っていたナイフを取り出し、アヴニールに斬りかかった。刃は賢者の腹に突き刺さった。

『ヴェリテの体から出ていけ!』

ソレイユは、城内で奪っていたヴェリテの魔力を、賢者に流し込む。激痛が全身を巡り、さすがの賢者も眉をしかめた。後退の判断を下すかと思えば、アヴニールは引き下がらず、ソレイユを抱きしめた。

『なにを!?』

『話し合うと言うたじゃろう…貴様の相手は朕だけではない!』

単騎突進に追いついたレーヴが魔法を展開していた。幾千の固有魔法を見てきたソレイユだったが、彼女の魔法には皆目見当もつかなかった。

(私と相手をしていたのは援軍ではなく、あの女の魔法構築の時間を稼ぐためか!)

ソレイユはナイフから手を離し、接近戦でレーヴを殺そうとした。だが、それを良しとしないアヴニールは、より一層、力を強め、神人を離さなかった。

『離せ!』

『ほざけっ!!』

神人と賢者の咆哮が轟く中、レーヴは確実に魔法を使用するために、集中していた。いつもは魔法を遊び道具のように使いこなす彼女だが、生まれて初めて誰かの為に魔法を習得し、使う。その初めての衝動に全身が震え、高揚感が生まれる。

(オレは一人前の魔法使いになりたかった。固有魔法を早く手に入れたかった。ああ、こういうことだったのか。固有魔法は生きたいと強く願う奴にしか現れねえのか…)

レーヴは、儚い少女を想った。口数の少ない少女だが、魔法を生きがいにして、それでいて他者を思いやる優しい子供。ただ、ただ、笑顔を守ってやりたいと決めた。

(守ってやる、必ず!)

現時点をもって、レーヴの固有魔法が完成した。彼女は神人を魔法対象に選択した。その瞬間、空の天井から黄金の鎖が出現し、捕縛した。

『!?』

黄金の鎖は、賢者アヴニールの創った仙境を破壊してしまった。賢者に抑圧されて、権能を使用できなかったソレイユは好機だと判断し、権能を発動した。だが、海は応答しなかった。確実に権能を展開したはずだ。海域で絶対な優位性を誇る権能が一切反応してくれなかった。

『まさか…』

ソレイユは自身を拘束している黄金の鎖に目を向けた。鎖は己の権能を吸い取っていた。原因が判明したころには、時すでに遅し。レーヴが微笑んでいる。

「守れ―簒奪魔法ジュヴテ・プロテジェ(あなたを守る)

神人の権能に対抗できる部類の効力。ソレイユの怒りの矛先は、賢者の他に魔法使いも加わった。

(ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!)

ソレイユはまだ抵抗を続けた。長年の望みが叶う目前で、全てが簒奪される嫌な未来を想像したからだ。彼の復讐心に呼応して、権能の出力は上昇していくが、黄金の鎖に備わった簒奪の効力も比例して倍増した。その事実が、余計にソレイユの怒りを増幅させる。

『邪魔をするな゛ぁぁぁっ!!!』

『終いじゃ』

激昂したソレイユはナイフを握りしめた。麗しい見目が歪み、怪物のような雄々しい形相へと変貌した。恐怖を覚える神人の態度に、真っ先に反応した賢者アヴニールは、神人を殴った。怒りのこもった賢者の拳が、脳に届いて、神人は意識を失った。黄金の鎖が、神人ソレイユを拘束した。

『やりすぎたか?』

腫れた手を見つめ、アヴニールは軽く頷いた。

「やりすぎだ」

『む…』

レーヴが窘めた。固有魔法を発現し、訓練もできなかった上、ぶっつけ本番のような臨機応変な対応が求められる戦況に、神経を尖らせていた彼女は、緩く笑った。

「これでいいんだな」

『うむ…』

「じゃ、さっさとソレイユ様を連れて戻ろうぜ」


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