69 歪み。
「先日のハグの余り、如何ですか」
レオンハルト氏の私室に電撃訪問し、提案すると。
カイル氏を部屋に出す前に、無言で抱き締められてしまった。
《失礼、します》
「あの」
『すまなかった』
何だろ。
こう、感極まるとは別の。
えっ。
もしかして、泣いてらっしゃる。
何故。
何故泣いてらっしゃるか、全く分からない。
「あの、何故」
マジで何故泣いているのか教えて下さい。
『少し、不安定だったらしい、すまなかった』
「何で言ってくれませんか」
顔を掴んで目を合わせると、反らした。
まさに犬、いや狼か。
『嫌われたく無いんだ』
「言え」
悲しそうな顔を。
犬か。
『こう強気なネネを好いた筈だったんだ』
「ほう」
『それが、弱気な、頼るネネにも惹かれ。もっと、弱ければと、頼られたいと思っていたんだ』
純粋な中学生も驚きの真っ直ぐさ。
あぁ、カイル氏と似てるのは寧ろ、レオンハルト氏だろうに。
「それを聞いて、私が嫌悪すると」
『愚かな考えだと分かっていても、消せなかったんだ』
「でも消えた」
『いや、だがこう剛胆な所も、十分に愛しいと思う』
いや、強いだけの方が良いとかより、余っ程良いんですが。
中学生か。
「ノーク君も剛胆ですけどね、アレはカイル氏が好きなんです」
『そう、なのか』
「はい、なので味方に引き入れたんです、殿下に押し負けない為に」
『そうだったのか』
「相談が遅れました、すみません、殿下と同じ様に考えていました」
『正直な所も好きだ』
「言わないと不安定になりますか」
『あぁ、かも知れない、確かに』
「良い年をしてウブで、良く引き受けましたね、ハニートラップ」
『正直、ルーイ任せだった。それに、こう揺さぶられる筈が無いと、信じ込んでいたんだ』
「口説かせないが罰になるとは思いませんでした、ハグも許可します」
『そう甘やかされると襲うかも知れない』
「しないでしょう、そこは信じてます」
『ありがとうネネ』
こんなに嬉しそうな顔は、久し振りだ。
ノーク君の忠告が無ければ、コレはルーイ氏みたいに爆発してたかも知れない。
危なかった、全然、気付けなかった。
「本当に、良く殿下と一緒にいられましたね」
『ルーイは身内には甘いんだ、しかも1度認めたら決して疑わない』
「強さですよね、そこは羨ましい」
『俺も信じる、ネネもノークもカイルも』
「勘を磨く為に、多少我慢して、ダメそうなら言って下さい。出来るだけ察せられる様になりたいので」
『分かった、程々に我慢する』
「よし、終わり、カイル氏に説明しないと」
『まだこうしてたい』
「すみませんでした、望まぬ苦痛を与えました、出来るなら目の前で苦しんで下さい」
『ルーイから聞いた通り、ネネは本当に変態らしい』
「な、はい変態です、イジメて楽しいですしね」
『抱きたい』
「ですよね、溜まって大変でしょうし」
『女性は排卵日前が高揚するらしいが』
「そこはマジで分かりません」
『訓練らしい』
「何か訓練してます?」
『いや、座学だけだ』
「性欲熱心」
『ネネを良くしたい』
「カイルさーん、もう大丈夫ですよー」
来たらパッと離す紳士。
やっぱりカイル氏と似ているのは、レオンハルト氏だと思う。
《お疲れ様です、ネネ様》
「うむ、疲れました」
《ですが宜しいんですか、あの小鳥》
「信用すると決めたので、曝け出します」
《ふふふ、ココ数日ネネ様を乱されて、少し意地悪がしたいです》
ネネ様には、秘された依頼心が有る。
味方に敵を攻撃して欲しい。
けれども、滅多な事では発露しない願い。
それは善人だからこそ。
自ら言う事は無い。
「ダメ、なら黒蛇さんにさせる」
《“呼んだかネネ”》
「“玉響ちゃんがノーク君に少し意地悪したいんだって”」
《“ほう、実に良い案だ”》
「“そんなに不愉快だった?”」
《“あぁ、だがネネのせいと言うよりは外因、あの小鳥のせいだ”》
「“小鳥ちゃんか、玉響ちゃんも言ってたわ”」
《“まぁ雛だからな、タマユラの見える場所でしてやるか”》
「“ありがとうお祖母ちゃん”」
《“本当に化けてやろうか”》
「“いや遠慮しておきます”」
《“追々しておく、そう伝えておけ”》
「“了解です”」
《ふふふ、乗り気でしたね》
「うん、追々しておくって、そんなに不快だった?」
《過保護なんです、神霊種も魔獣も》
「強くなる方法有りますか」
《理解、ですね》
「確かに」
私は、お兄様を通じて、ネネ様の事が幾ばくか知れます。
ですが、人種は口にしてこそ。
確かにネネ様は少し不器用ですが、それは毒が回っての事。
いつしか毒が排され、本来の素直さ、器用さが発揮される筈。
ですがまぁ、私はこのままのネネ様でも、全く構わないのですが。
ネネ様の望みは、もう少し高い位置に有る。
《ふふふ、何処まで素晴らしい方になるつもりですか、ふふふ》
ノーク君の件以降は、落ち着いて学習出来る様になり、憤怒の国の歴史がかなり学べた。
文明文化の再現は勿論、実際の統治にも活用出来る為、各国は向こうと似た様な状態を再現している。
ココは紫禁城を中央とし、分割統治を行い、王族を支える民の構造が完成している。
けれど悲嘆や色欲、そして虚栄の国は統一されており、ココまで王族色が強いのは珍しいらしい。
そしてココの特色は多産を良しとし、バロンやガルーダが聖獣として存在している為、仏教の他に聖獣信仰が有る。
それは強欲や色欲の国でも似た状態では有る、一神教も僅かに存在はしているけれど、多神教や魔獣信仰と多彩に入り乱れている。
ただ東の国は元から八百万信仰なので、違いが有るとは言い難い、既に皇族と幕府と宗教が独立している。
異世界なのにさして変わらないって、強度がエグい。
『ネネ様』
「はい、何でしょう」
『王族は、やはり必要だと思われますか?』
「勿論、王族の居ない国は軒並み破綻をきたし、中には戦争をふっかけまくったりしてるので」
『王族の存在程度で、そこまで変わるのでしょうか』
「信仰も関わると思います、組み合わせが悪ければ、どちらかが潰れ。結局は新たな信仰に呑まれるか、新たな支配者に呑まれるか、本当に恵まれていると思います」
『何か欠点は』
「比較すればする程、無いんですよねぇ。完璧では無いにしても、何でも上位ですし。偉人の輩出もですが、成果も各国に知れ渡る程ですから」
『こう、食事の些細な欠点等は、どうでしょう』
「魔改造してしまいますけど、原点も大事にしますし、起源を主張しませんし。ココまで多国籍な料理が狭い範囲で食べられるのは、かなり珍しい方だそうです」
『ネネ様、あまり僕の土地の料理を、召し上がって頂けていないかと』
「あ、それは純粋に味付けです、辛さに弱いんです」
『そうなると、やはり紫禁城まで行かれた方が、合いますかね』
「ですね、すみません、正直楽しみです」
『実はカイルは、辛いものが好きなんです』
「あ、カイル氏のお気に入りの料理、お教えしましょうか」
『はい、是非』
遠回り可愛い。
いや、実際に意義の有る質問も有ったとは思いますけど、可愛いですねノーク君。
「はい、良く出来ました」
『ありがとうございます』
「さ、食べさせに言って下さい、私からの命令です」
『はい、行ってきます』
ネネ様は、やはり良き友人だ。
勉強が疲れたからと少しして切り上げ、料理を教えてくれた。
よりカイルが気に入るだろう味付けをした、春巻きなる料理を教えてくれた。
《どうしたんですか、まだ》
『ネネ様の命令です、はい、あー』
《分かりました、自分で》
『あー』
カイルは押しに弱い。
いや、僕の押しに弱い、それが良い。
《美味いですけど》
『教えて貰ったんだ、勉強の息抜きに』
《あまり、ネネ様を良い様に利用しないで下さい》
『して無いよ、邪魔もして無い』
《では誘導ですか》
『必ず上手くいくワケじゃないし、ネネ様は寧ろ気分を害さなかったよ、面白いねネネ様は』
《だとしても、程々にして下さい》
『うん、もうしない、あんまりあざといのは殿下に譲るよ』
立場を奪う利が無いし。
ネネ様は本当に僕を信用してくれている、そんな者を試す程悪趣味でも無いし。
《追々食べますから、そろそろ》
『あー』
《もう、コレでさっさと帰って下さい》
『ふわぃ』
今まで気付かなかったけれど、カイルにも歪みが有った。
意外と僕らは、大丈夫かも知れない。




