70 予測。
一難去ってまた一難。
自分にはハーレムなんぞ無理では、と思わされた。
《構って、何か食べさせて》
ルーイ氏の襲撃だ。
どうやら先日、カイル氏とノーク君に料理を振る舞った事が伝わったらしい。
「そんなに暇ですか」
《うん、だって既にココの事は知ってるし、変更点も確認したし復習もした》
「すみませんね飲み込みが遅くて」
《手伝うよ?》
「まぁ、じゃあ、付き添いをお願いします」
《うん》
字を覚え始めたらキリが無いので、今まではココの言葉で解説して頂いていたが。
『はい、では僕が解説させて頂きますね』
ルーイ氏は多少警戒すると思ったが、意外と平気らしい。
と言うか知っているんだろうか、ノーク君とカイル氏の事を。
まぁ、後で確認しますか。
《あぁ、やっぱりそうなんだ》
「勘ですか、情報ですか」
《勘かな、今日でネネに気が無い事が分かったし、なのに敢えて近付く理由って何なのかなって》
「成程」
《コレは何?》
「エビトーストです、どうぞ」
不意に思い出した、家族の好物。
本当に、食に拘りが無かったので、こうして不意に思い出す事が有る。
《うん!美味しいよネネ》
「どうも、母の好物なんです、エビ」
《ココの料理なの?》
「占領されると食文化が変化するので、諸手を挙げて紹介は出来ませんけどね」
《そっか、そう言う事なんだね》
「ただ国に帰ったら広めて下さい、頗る簡単ですから」
《うん、そうするよ》
元気だろうか。
ココに来たら、どんな反応をするんだろうか。
「もし、万が一にも、向こうに飛ばされたらどうしますか」
《死ぬかな》
「あぁ、ですよね」
《ネネが居て覚えていてくれたら良いんだけど、そもそも向こうでは不法移民扱いになりそうだし、見ず知らずの母国に送り返されてもね。生きる意味が無いから》
「ココの人にとっては、向こうこそ地獄で悪夢でしょうね」
《良いね、そうした御伽噺を作ろうか》
「子供の夢見が酷く悪くなりそうなんですが」
《悪い子ならね、最悪を考えてみてよ、ココの者として》
悪い子に育ってしまった子が、星屑の呪いに引きずり込まれ、向こうへと行ってしまった。
幸いにも言葉は通じる場所。
けれど何も証を持ってはいなかった子は、白い制服と見慣れぬ道具の揃う施設へと、送られた。
そうして幾日か過ぎた頃、仮の身分証を渡され、慣れぬ場所で働く事になった。
けれど、何も知らない子は沢山叱られ、怒られた。
メモしなさい。
分からない事が有ったら聞きなさい。
何を聞けば良いか分からなかった子は、仕事場から逃げ出す途中、強盗に遭ってしまった。
更に助けを求めると、今度は乱暴をされてしまった。
そうボロボロになった子を助けた者が居た、どの様な仕事をしている者か分からなかったが、その子に優しくしてくれた。
お金を恵み、仕事を教え、常に褒めてくれた。
けれど、その者が騙され困ってしまった。
助ける為、その子はお手伝いをした。
荷物の配達、掃除、料理。
出来る事は何でもした。
体を見せ、お金を貰い、言われるがままに何でも口にした。
気が付くと、あの気の優しい者は居なくなっていた。
連絡も取れず、その子は閉じ込められてしまい。
どうしてもココから出たいなら、この荷物を配達しろ、体を売れ。
この家に盗みに入れ、動物を殺せ、人を殺せ。
言われるがままにするしか有りませんでした、言う通りにしていれば何も無い。
ですが、少しでも逆らえば殴られる、必要なモノを全て取り上げられる。
逃げ出す、だなんてもう頭にも有りませんでした。
その日を生きるのに、その子は手一杯。
そんなある日、あの人を見付けました。
とても優しかった人。
怒らず常に褒めてくれる人。
その子が笑顔で駆け寄ると、その人は何も言わず、笑顔も無く。
ただ黙って、お金を渡すだけでした。
悲しみのあまり、その子は大切だった者を殺しました。
そして、通りすがりに殺されました。
可哀想な子は、星屑になってしまいました。
「ノーク君、合作と言えど、我ながら後味が悪いしか無いんですが」
『良いと思いますよ、教訓譚なんですし、青髭も後味が悪いですしね』
「千夜一夜物語、ご存知ですか」
『概要だけなら、ですけど』
「似てませんかね、王と青髭」
『あぁ、確かに』
「はぁ、元居た世界の残酷さも、心にきてます」
『なら、どうすれば上手くいくと思いますか?』
「そう、ですね」
昔々、秋色の髪の者が星屑の呪いに巻き込まれ、見知らぬ場所へ落ちました。
周囲には枯れかけた木々しか無く、秋色の子は高い場所を目指しました。
そうして山の頂きに着いた頃、狩人に出会いました。
狩人は、秋色の子を山の神だと思い込み、直ぐに頭を下げ。
獲物を置いていきますので、どうかお許し下さい、と告げました。
ですが、秋色の子は言葉が分かりません。
何とか秋色の子が助けを求め様とした時、お腹が鳴ってしまいました。
狩人は驚きましたが、直ぐに火の用意をし、神様へ食べ物を渡しました。
慣れない味付けでしたが、温かい食事は久し振りです。
秋色の子はお腹いっぱいになると、次は狩人へ食べる様にと促しました。
狩人は躊躇いましたが、空腹には勝てませんでした。
しかも急いで山を居りなくてはなりません、もう幾ばくかで日暮れ。
狩人は秋色の子に頭を下げ、山を降り始めましたが。
秋色の子が着いて来たので、とても恐ろしくなりました。
きっと自分は山の神に食べられてしまうのだ、と。
覚悟を決め、急がず山を降りる事にしました。
1度目を付けられては、無事に村へ帰る事は出来ません。
確かに倒す事も出来ますが。
もし倒してしまったら、100年は山の恵みを得られません。
狩人が哀しみの溜め息を吐くと、秋色の子は野苺を差し出しました。
そこで狩人は気付きました、もしかすれば秋色の子は、山神様と人の子では無いのかと。
村には古い言い伝えが有ります、白蛇と娘が結ばれ、以降は山火事が無くなったとされる言い伝え。
そうして狩人は決心し、秋色の子と共に山を降りました。
秋色の髪をした、秋の山に現れた子は。
神様と人の子として村で大切にされ、いつまでも幸せに暮らしました。
「何だか、贔屓した感じになってしまいましたが」
『良い子にはコチラも併せて聞かせ、そう安心させれば良いかと。どの道、何処でも生きられる様に知識を蓄えさせるのが、親の義務ですから』
「はぁ、昨今は本当に、教育を学校へ依存し過ぎる傾向が強く」
『何故なら、労働中毒にさせられているからだ、と伺いましたが』
確かに。
労働さえしていれば、金さえ稼いでいれば、一定の評価がされる。
そして、その次は結婚、子供。
どう育てたか、は二の次。
犯罪者になれば親のせいでは無く、本のせい、世の中のせいだと。
それが本当なら、もっと似た犯罪者がわんさか居る筈、なんですがね。
「何故だと思われますか」
『平和の弊害、それと資本主義の影響の強さかと。内面、内需の強化が必要、ですかね』
それが何故か叶わない、何かしらに邪魔をされている、とするなら。
陰謀論に繋がってしまう。
兄よ、やっと分かった気がします。
マジだったんですね。
「お祈りがしたいです、無辜の民が向こうへ行かない様に、来るべき者だけがココへ来る様に」
『ではお参りに行きましょうか、そろそろ市井はどうですか?』
「行きます」
『はい、では明日にでも行ける様にしておきますね』
「ではコチラは報告に行ってきます」
『はい、お気を付けて』
コレでも、ネネは自身の能力を認めないだろう。
ルーイに作れと言われ、その日のうちに2つも仕上げた、だが。
《流石だね、ネネ》
「この程度は、民話の組み合わせですし」
《そう知っている事が重要なんだけれど》
「活かせませんでしたしー、褒め言葉より褒美を下さい、市井に行きます」
《構わないよ、楽しんで来て》
「素直、何か企んでますか?」
《して無いよ、僕らも日をズラして行くつもりだったから、美味しいお店が有ったら教えてね》
「はい、では」
《うん、またね》
『随分と素直に送り出したが』
《ココの民族衣装を作るだろうから、そこが楽しみでも有るからね》
『成程』
《ふふふ、君とこうした事が話せる様になるなんて、思ってもいなかったよ》
『すみません、俺が不甲斐無いばかりに』
《それは僕もね、仮初でも婚約者が居れば、もう少し上手く立ち回れた筈だったんだし》
『それはそれで問題になりそうだが』
《仮初だよ、根っから女しか愛せない女を、見繕ってはいたんだけどね》
『そう俺まで誤魔化す算段だった』
《まぁ、そうだね》
ルーイに見合うにはネネの様なモノが確かに理想だが、俺も俺で、譲る事は出来無い。
『ある意味、コレも運かと』
《だね》




