31 説明。
ネネちゃん、気持ちを切り替えて本当に説明を始めた。
絶叫系、キャラクター系、子供用。
移動式遊園地にサーカス、ジェットコースターにメリーゴーランド、それにパレード。
ココの人に分かる様に噛み砕いて、説明して。
「棲み分けが行われていますが、必ずしも子供用の場所に行く事が恥とはされていません」
『成程、それだけ出来が良いと言う事なのね』
「はい、昔は無かったので、私は恵まれていると思います」
《でも、何になりたい、とかには響かなかったって事だよね?》
「まぁ、それは追々で」
『出来れば、働く者も快く労働して欲しいのだけれど、難しいのかしら』
「どの様な事でも、関わる者が多ければ多い程、しがらみも増えるかと」
『そうね、今日はこの位にしておきましょう』
「でしたら、改めて概要を纏めた物を提出させて頂きたいのですが」
『勿論よ、ふふふ、楽しみにしているわね』
「はい」
『では、またね』
そうして陛下が下がった後。
楽しそうだったネネちゃんの表情が、消えた。
「殿下、先ず、安楽死はご存知ですか」
『あぁ、先の見えない者に死を与える事だろう、だがココでは公には行われていない』
「魔獣や身内が行うから、でしょうか」
『あぁ、死を得るべき時が有れば、俺も行使して貰う事になっている』
「死は必ずしも、絶対的に忌避すべき事では無い」
『あまりにも生に執着する事は、恥とされている』
「そこの線引き、どうなってるんですか」
『耄碌したと自覚した段階で、領主であれば座を譲る。それは時に年齢には関係無く、行使が不可能だとなれば、身を引くべきだとされている』
「もっと具体的にお願いします」
『愛する者を亡くした者が生を終える事を、我々は止める事が出来無い』
「それは」
『ネネ、君が観た劇だ』
遠い昔、いずこより黒き女性が現れました。
彼女は、とても怯えていました。
見慣れぬ場所、見慣れぬ服装、見慣れぬ容姿。
聞き慣れぬ筈の言葉は、確かに聞き取る事が出来ました。
ですが、意味の分かる単語は幾ばくかだけ。
善良なる彼女は、城で安全に暮らす筈でした。
彼女は周囲と似た色になりたい、そう願いました。
そして彼女は、白き者になり、悪魔と恋をし。
幾ばくかの後に、城で結婚式を挙げる筈でした。
そこへもう1人、黒き者が現れました。
黒き者は彼女を一目見て、食べてしまいました。
悪魔は男を何度も八つ裂きにし、蘇らせ、再び殺しました。
ですが、失った痛みは消えません。
悪魔は死のうとしました。
ですが死ねません。
眠る事も気を失う事も出来ません。
そして悪魔は、魔獣となりました。
一時の安寧を得る為、今でも殺され続けているのです。
「遥か南の動物の多い国では、今でも、アルビノの体は万病を治す薬だと信じられています」
《あ、そっか、色々な国の人が来て当然だしね》
「コレは、確かに改めて話す機会を伺うのは難しいですが」
『すまない、機会を逃し続けていた』
《今年は豊作でしたしね》
『あぁ、先ずは法律、歴史と。そう覚えて貰うつもりだったんだが』
「魔法だ何だと、とっ散らかってましたからね」
『そこは、問題無いんだが』
「元老院の進めたい順や何かと、擦り合わなかった」
『あぁ』
死ねるのなら、死は安寧。
理解はした。
頭では理解した。
「では話を戻します、遊園地の構想に着手したいんですが、先ずは来訪者を迎え入れる環境を整えるべきかと」
《そこはほら、分担しよう?私がそこは担うから》
「殿下、遊園地が成功したなら、どの程度になりますか」
『間違い無く、ネネが望む事が殆ど叶う筈だ』
「その可能性はどの位ですか」
『ほぼ、確実だろう、今は実行出来無くとも有益な情報だ。経済を回す安心安全な娯楽、しかも種も年齢も関係無く楽しめるのであれば、各国が採用する事は間違い無いだろう』
「ですが、他の国には情報が豊富に有るかも知れませんよ」
『だとしても、そうした有益な情報が共有される事も、十分に評価される事になる』
「なら、既に、ほぼ私達は自由ですね」
『あぁ』
「元老院の方々にお会い出来ますか」
『あぁ、それは最初から問題は無いが』
《ネネちゃん、難しい事だからこそ、気晴らしに遊園地の事も考えて良いんだからね?》
「うん、ありがとう、並行してみよう。陛下に経緯と、ご助力をお願いしてみましょうか」
《うん》
どう表現すれば良いのか分からなかったが、兎に角、不安と焦燥感が有った事は確かだ。
その事について、俺はもっと深く考え、探るべきだった。
『そう、問題無いわ』
「申し訳御座いません、出来ればご助力を賜りたく」
『ふふふ、勿論よ。コチラの迎え入れ方について書かれた書物を、提出させて頂くわ』
「ありがとうございます、では」
つつがなく書簡を受け取り、魔法陣の間までネネが付いて来た事に、疑問を抱くべきだった。
『ネネ、受け渡し後』
「私も付いて行きます」
『何故』
「頂点に会わせて下さい、でなければ一切の協力は致しかねます」
『ネネ』
「同族は同族です、どう扱われるのか、ココに永住するなら私は知るべきです」
ユノと離れた事、ココまで付いて来た事に疑問を抱くべきだった。
そしてネネが如何に優しいか、責任感を持っているかを、忘れるべきでは無かった。
『理解出来るとは限らない』
「対話無くして理解は不可能かと」
「不愉快極まりない答えしか返っては来ないかも知れない」
『意地でもルーイ氏やアナタに噛み砕いて説明して頂きます、どんな理屈だろうと、どんな不条理だったとしても。私には知る義務が有る、次に来る来訪者の為にも、環境整備に着手するんですから』
『すまない』
「いえ、コチラこそ」
『いや、ネネが』
「追々でお願いします、待たせるのは損になるんですから」
『分かった』
上空で旋回し続けている物体が下降を始め、ある程度の距離で姿を消したかと思うと。
『話が有るそうだね』
ルーイ氏に良く似た顔と声、けれども髪や瞳は薄紫色。
年も、幾ばくか上だろうか。
「始めまして、音一 音々と申します」
『ルーイを知っているだろうに、面白い、既にある程度は把握しているらしい』
「物語を幾つかお伺いしましたので」
『けれど、その事では無いのだろう』
「彼女を得に来られたのでしょうか」
『そうだよ、頼まれてね』
「頼まれて」
『魔獣にも不可侵の領分や、決まり事が有る。明け渡すとなれば、改めてココに来る手筈だが。そうか、前は180年前か。だが、作法を尋ねるつもりでも無かったのだろう』
「どの様に扱われるのかお聞きしたかったのですが」
『それはもう、砂糖菓子よりも甘く丁重に扱い、機が熟した頃に頂くのだろうね』
「お相手を良くご存知なのですね」
『あぁ、古馴染みだからね。それにしても、ココに溢れ落ちるとは、世界の仕組みに何かしらの不具合が出ているんだろうか』
「何を仰っているのか全く分からないんですが」
『あぁ、綺麗な事しか聞かされてはいないのか、可哀想に』
「お伺いしても宜しいでしょうか」
『髪を一房くれたら教えてやろう』
「あぁ、どうぞ」
『良い子だね』
何が恐ろしいのか分からない、けれども、とても恐ろしい。
きっと彼は強い、人種の倫理や理の上では生きていない、けれど遊びに付き合ってくれている。
人の姿をしてはいても、全く人では無い。
きっと彼は、竜の頂点。
あ、食べた。
「お味はどうでしょう」
『良い味だね、偏食をせず穏やかに育ち、健康的だ』
「ありがとうございます」
『クソは掃き溜めに行く、それがココの自然の摂理なんだけれど、どう言ったワケかコチラにアレが迷い込んでしまったらしい』
「同じ名を持つ者が既に居り、未だに事情が解明出来無い為、今暫くお待ち頂きたいのですが」
『構わないよ、待つモノは迎え入れる準備で忙しくしていてね、期日の指定はまだなされてはいないけれど。待たせる事は難しいだろうね、既に自分のモノだと思っているのだから』
「損失とは、どの様に齎されますか」
『何処かを閉ざす事になる、川か道か風の流れか、一時でも途絶えれば淀む。淀むと面倒だろう、人種には特に』
「はい、ありがとうございます」
『良い子だ、この顔の事も教えてあげよう。ココでは必ず、常にこの顔を持つ人種と竜が産まれるんだよ、歴史を忘れさせない為にね』
「では竜種にも物語が存在しますか」
『有るよ、けれど知るには掃き溜めに来る必要が有る。もし来るなら、期日に一緒においで』
「無事に此処へ戻れますか」
『良い子にしていれば、ね、お作法を習っておくと良いよ。じゃあね、良き来訪者』
ネネを抱き締めた瞬間、震え出し、手には汗が。
《ネネ、無理をし過ぎだよ》
「愚か者も悪者も、時には本人に責任が無い場合も」
《魔獣の見極めは、それらも加味しての事、僕ら人種とは違う感覚で察知するんだ》
「抱く前に、説明すべき事が有ったかと」
《ごめんねネネ、何でも聞いて》
「掃き溜めとは、どの要な場所ですか」
《掃き溜め》
僕とネネを遮るかの様に、黒蛇が現れ。
《はぁ、古い言い回しだ、コチラでは地獄と呼ばれている》
「地獄」
《詳しく説明したいんだけど、先ずは他に何を話したのか、良いかな》
「その事についても話し合いましょう、損失を出さず彼女の真実を知りたい」
怖い思いをしたのに、真面目で誠実で、強くあろうとする。
やっぱりネネは可愛い。
《分かった、先ずはお風呂はどう?嫌な汗をかいたでしょ?》
「そうしておきます」
《うん、行こう》
冷静であろうとするのが、またいじらしくて堪らなく可愛い。
そうだ、少し早いけれど夕食も食べさせてしまおう、
《へっ?頂点と会っちゃったんですか?》
『あぁ、会話もしていて、今はルーイと話し合いつつ食事も摂らせている』
《そっかー、じゃあ向こうに泊まるのかな》
『いや、報告の為にもコチラに帰って来ると言っていた』
《んー、怒った方が良いと思います?仮パパ的に》
「いやー、絶妙に難しいっすよねぇ、向こうの言い分を直に聞くにはコレしか無いだろうし。過不足も失礼も無く対話を終えられる実力も有って、実際に無事に過ごせちゃってるし、心配させたくなかったって気配りも含まれてますし」
《それに?》
「ぶっちゃけ、どちらが適任かを判断しての事だと思うんすよね、それにケチ付けんの俺には不可能っすから」
《あぁ、私には次も有るから。そっか、こう大切にされるのって、こんな複雑な気持ちになるんですね》
「まぁ、複雑だって事を伝えるだけで十分かなとも思いますけど、そこはお2人の事なんで」
《ですよねぇ》
最初はどうして言ってくれなかったのかって、それからどうして無謀そうな事をしたのか聞こうと思ってたんだけど。
ネネちゃんも、私が持つ情報やコレからの事を重要視してくれてるのは分かるし、そもそもそこまで考えなかった私にも責任が有るなって。
ネネちゃんなら、2号ちゃんの事を心配してるとは思ってたけど。
まさか今日の今日で、しかも直に魔獣の頂点と。
いや、うん、ネネちゃんならする。
私がいっぱいいっぱいになって追い付けなかったから、思い至らなかった、ネネちゃんが動くって思い至れなかった。
あぁ、恋愛沙汰なら、もっと判断が鈍るのかな。
嫌だな、暫くはこのままで居たい。
『すまない、嫌な予感がしていたんだが』
《いえ、だとしても無理ですよ、私だって止める文言が浮かびませんもん》
『だとしても』
「マジなんすね、ネネ様の事」
『だが、護衛の役は考え直すべきかも知れない』
「いや少しの失敗で引かれても困りますって、つか慣れて下さいよ、好きな相手の事で動揺するとか誰にだって有るんすから」
《って言うか、ココで引かれてもネネちゃんが困ると思いますよ、多少無謀だった事は分かってるだろうし。私は、気付けなかったし》
「ほら、次に活かして下さいよ、お気持ちが分かるなら余計に活かすべきなんすから」
《うん、お願いします》
『ユノは、俺を、どう思っているんだろうか』
《良い人だとは思いますよ、でももし次が有れば、同じ事が有ればルーイさんなら止められそうだなって。でもルーイさんが相手でネネちゃんが幸せになれるのかって思うと、そこはレオンハルト様かなとも思ったりで。正直、もう少し情報が欲しいですね、判断材料が欲しい》
『すまない』
《いえいえ》
何か、ふと、だからネネちゃんには大勢が必要なのかなって思った。
多分、似た年の人種には補いきれない位、頭が良くて度胸が有るから。
うん、そうなのかも。
ネネちゃんを活かすには、もっと人手が必要かも知れない。




