↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/100

32 知恵熱。

《はい、あーん》


「あの」

《構いたかった、会いたかった》


「1週間も経ってませんが」

《毎分一緒に居たいのを我慢してるからね、それともコレからさせてくれる?》


「色欲」

《うん》


「はぁ」

《はい、あーん》


 正直、熱が出そうだ。

 世に言う知恵熱。


 急に、一気に情報が集まって、正直考える順番さえ割り振れていない。

 取り敢えずは命を最優先に、そして損失回避の為、頂点に会おうとしてみたけれど。


 どうすべきか中庭で迷っていたら、どう伝わったのか直ぐに目の前に現れてしまって。

 クソ焦った。


「はぁ」

《まだ食べれるでしょ、はい》


「あー」


 そもそも食物連鎖の頂点について、本当に考えていなかった。

 死生観云々の前に考えるべきだった。


 助けられた状況からしても、考える材料は有ったのに。

 向こうの当たり前のままで居てしまっていた。


 人より強いモノが居る。

 人を食べるモノが居る。


 そうしたモノは向こうにも居たのに、考えが及ばなかった。


《ネネ、人種の領域に居る限り、他の領域を無闇に侵さない限りは》

「境界線はハッキリしていますか」


《うん、地図通りだよ》

「無理に領域を侵させられる事件は無いですか」


《有ったとしても、即座に死を、とはならないよ》


「あぁ、失礼しました、向こうは即座に死を齎しても問題が無いとされる国が有るので」

《それは、どう言った場所の場合なの?》


「国民に銃の所有を認めている国の、一国民の私有地です」


《あぁ、ココは大丈夫、猶予と弁解の機会は誰にでも与えられるから》

「だとしても、襲われたんですが」


《アレは保護しようとしての事だよ、巣に持ち帰り幾ばくかしてから、食べられる》

「食べられそうになってますが」


《直ぐには食べないよ》


「教える事が沢山有るのに、抱く暇は無いかと」


《暇は作り出すモノだよ、けど今日は我慢する、ユノに無事を知らせたいでしょ?》

「はい」


《ごめんね、コチラの都合で不安にさせて》

「いえ、未だに正解は出せないので、仕方が無いかと」


《はぁ、比べられても全く嬉しく無いのは分かるけど、ネネは本当に良い子だよ》


 ココで点と点が繋がった気がした。

 ルーイ氏とて、人種以外の血が入っている可能性が有る。


 魔獣同様、居心地の良さを違う感覚で察知しているのかも知れない事に、どうして至らなかったんだろうか。


「分類は、あくまでも外見から」


《うん、僕にもレオンハルトにも、人種以外の血が流れてるよ》


「なら」

《その感覚は僅かだし、それが本当に正しいのかどうか、僕らは比較検討する手段が無いから》


 ココは、自然崇拝に馴染みが無い者にとっては、厳しい世界だろう。

 人が頂点では無く、悪魔の存在が許されているのだから。


「警戒するワケですね、とある者にしてみれば、地獄も同然なんですから」


地獄(ゲヘナ)は国、そこは幾つか地区分けがされてるんだけど》

辺獄(リンボ)煉獄(プルガトリウム)


《うん、詳しいね》

「コチラには八大地獄(エイトゲヘナ)が存在していますから」


《成程、八大地獄(エイトゲヘナ)は東方が発祥なんだね》


「つまりはココも」

《うん、復活を意味する等活(ヴィヴィフィカ)地獄(ゲヘナ)黒縄(ニグルフーゲン)……》


 圧縮を意味する衆合(コンプレッシオ)叫喚(クラマムス)、絶叫を意味する大叫喚(クイリタス)

 焦熱(エストス)、業火を意味する大焦熱(インフエルノス)無間(インフィニトゥマ)


「だけ、ですか」


腫れ物(テュマル)に》

「待った、それ、何処の国の言葉ですか」


《分類はラテン語、とされているよ》

「あぁ、ですよね」


 本来ならたしか、アブダラとか何とか。

 その言葉の意味は流石に知らないけど、どうやらしっかり意味が有ったらしい。


《ネネは博識だね》

「コレも兄のお陰です」


 家族全員で食事をする際、好きな映像作品を家族で共有する、制限時間は1時間以内の何か。

 皆が忙しいくて用意が難しい時こそ、兄は嬉々として様々なアニメやドラマの初回を流した、中にはゲームの実況動画すらも。


 だからこそ、家族の会話は途切れなかった。

 久し振りに会った父とも、常に一緒に居た家族とも。


《怖い?》

「いえ、寧ろ知らない事の方が怖いです」


《行ってみたい?》


「安全に過ごせ、帰還出来るなら」

《王族は滅多な事では行けないんだ、だから僕らは付き添えない》


「でもケントさんは、大丈夫なんでしょうか」

《無闇に食べはしないよ、しかもケントは辺境育ちだから礼儀作法も良く理解しているし、大丈夫だよ》


「じゃあ行きます」


《分かった、直ぐに用意させるよ》

「ありがとうございます」


《ご褒美は?》

「ソチラの損失を回避させるんですから、寧ろコチラが欲しいんですが」


《うん、何が良い?何でも良いよ》


「婚約破棄」


《うん、良いよ》


 成功すれば、それ程の成果になると言う事なのだろう。

 けれど。


「では保留で」


《良いの?》

「未だ後ろ盾の無さには耐えられそうも無いので、保留で」


《結婚して?》

「保留で」


《帰したくないなぁ》

「2号ちゃんとはどうですか」


《意地悪だね?》

「はい、で」


《もう落ちたから大丈夫》


 聞かなければ良かった。

 今まさに湧き起こっているのは、嫉妬心。


 と言うか、安直過ぎる、2号よ。


「はぁ、面倒」

《妬いてくれた?》


「してしまいましたしね、多少は湧きますよ」

《僕はレオンハルトとは違って避けるのも上手だから、何もされて無いしして無いよ》


「流石ですね、夜伽もお上手ですし、一生そうした職に就けば良いのでは」


《ネネ、何が知りたい?》


「本当に、襲われた時だけ、ですか」

《そんなに上手だった?》


「次に質問を質問で返したら暴れ散らかしますよ」

《答えてくれたら答える》


「じゃあ結構です」

《良いの?ずっと気にしてるクセに》


 とても気にはなり続けてはいる。


「でも、気にしたとて、事実は何も変わりませんし」

《女はアレとネネだけ、男も、ネネと。指導してくれた者に、少し触れられただけ》


「実質、座学だけでアレですか」

《そりゃ、見て学んだ事も有るけど、そこに情欲は無いからね?》


「それもそれで苦痛では」

《好いた相手の為にもなるって聞いてたし、他の勉強と同じだよ》


「大変ですね、皇太子」

《向き不向きは考慮されてるから大丈夫、実際、カイルはこうした事に不慣れだから》


「あぁ、カイル氏の同行も不可能なんですよね」

《相当の理由が無ければ、ね》


「そこ、考えに組み込んでも宜しいんでしょうか」

《うん、同行すべきならね》


「どう、しましょうか」

《したら良い案が浮かぶかも?》


「そんなにしたいですか」

《うん、好きだから》


 ダメだ、コレが俗に言うサル化か。


「なら、したのは失敗だったかも知れませんね」


 今のコチラに全く余裕は無い。

 なのにこう。


《ネネ、熱出て無い?》


「確かに少し考えが纏まりませんけど」

《ごめん、今日はもう休んで、後はコッチで出来るだけ考えるから》

《そうだな、コレは上がるぞ、もう休めネネ》


「喉の痛みとかは無いですけど」

《知恵熱だろうな、だから言ったろう、赤子同然だと》


「あぁ」

《レオンハルトに送らせるから、待ってて》

《だそうだ、食いたいモノでも考えておけ、伝えておいてやる》


「はい」


 知恵熱って、本当に出るんだ。




《おぉ、本当に熱いねぇ》

「ごめんユノちゃん、こうなるの初めてで」


《良いの良いの、なんせ赤ちゃんなんだから》

「ばぶー」


《可愛いねぇ》

「お煎餅が食べたかです」


《ちょっと頑張ってみる、もち米だっけ?》

「それと蒟蒻ゼリー、あの歯応えが好き」


《蒟蒻芋から?あく抜きするんだっけ?》

「追々で、何か、眠くて」


《うん、おやすみネネちゃん》

「うん、ごめんね、ありがとう」


 兄弟以外で知恵熱出す人、初めてだなぁ。


 お兄ちゃん、繊細って言うとブチ切れる人だったけど、繊細なんだよねぇ。

 酷い事件とかニュース見ると泣きそうになってどっか行っちゃうし、兄弟姉妹が少しでも無神経な事を言うとマジで問い詰めるし、本当に1人が好きだから寂しそうじゃなくて。


 違う生き物みたいだって思ってたけど、ココの人達の方がよっぽど違う。


 軸とか根幹が違う。

 器官も、感覚も。


 感覚。


《あの、ケントさん》

「ん?どしました」


《ケントさんには、他の種族の血が》

「狼のが入ってるんで、妹はもろ人狼ですけど、分かっちゃいました?」


 全く分らなかった。

 って言うか、全く考えて無かった。


 知ってたのに、何か、流してたんだ。


 きっと、違う生き物だと思いたく無くて、敢えて無視してた。

 違うって事を、敢えて無視してた。


《ごめんなさい、全く考えて無かった》


「あー、そらそうっすよ、人種しか城に居ないんすもん」

《けど、知ってたのに無視してて、今更驚いてます》


「そりゃ向こうには人種か獣しか居ないって聞きますし、上位の貴族のお嬢さんもそうなんで、気にしないで大丈夫っすよ」


 まさか、ううん、ネネちゃんは他にも向こうで知って。

 何かに気付いて、知恵熱出しちゃったんだ。


《ルーイさんに会えますかね》

「うっす、聞いてみますね」


 それからネネちゃんが知った事、気付いたであろう事を聞いて。


《それで知恵熱を》

《ユノ、向こうの者はあまりそうならないのかな?》


《あ、うん、はい。でも兄弟に1人居て、その彼は繊細だって言われてて、そう言われるとキレます》


《繊細は褒め言葉の筈だけど》

《無自覚に無神経な者が皮肉を交えて言う事が多いのと、男で繊細だと、女々しいとして悪しざまに誂われますから》


《そうした部分は、あまり進歩的では無さそうだね》

《ですね、外国の悪い影響も有ると思います、本来は男尊女卑では無かったと思ってますから》


《少し調べてみたんだけど、神道の最高位が居るそうだね》

《女神とも両性具有とも言われてる、天照大神、でしょうか》


《面白い神話だと思う、スサノオノミコトについても、国作りにしても》

《私、あんまり知らないんですけど、かなり破天荒ですよね彼》


《全ての神々を把握している者が、どれだけ居ると思う?》


《私を含め、大多数が知らないかと。ただ、全く知らない者は、極僅かだとは思いますけど。小さい子は、地域によりますね、宗教での揉め事は何処にも有りますから》

《どう言った揉め事が有ったのかな?》


《あ、他とは少し違くて……》




 知恵熱を出さない者は、ココでは寧ろ異端に近い扱いになる。

 その違いこそ、感覚、感じ取る量の差だと思っていた。


 けれど、魔獣の血が入っていないネネが熱を出した。

 情報の処理が追い付かず、体が物理的に情報を遮断する防御反応。


《ありがとうユノ、君も早く休んだ方が良いかもね》

《えっ、あ、いや私は丈夫だし。無神経な方だから、えっ?あ、うん、はい、休みます》


 ユノの妖精が警告を出したらし。


《うん、またね》

《はい、失礼します》


 ユノは天衣無縫な素振りはしても、場を読み身を弁える。

 率先して道化師的な立場になり、違う側面から問題提起をし、時には傍観者に徹する事も有る。


 この2人だけなら、どんなに良かっただろう。


『ルーイ』

《あぁ、ユノも熱を出してたね》


『あぁ』


 僕らは様子を伺いながら、情報を小出しにし続けていた。

 けれども強欲の王から忠告を受けていた。


 いずれ情報が決壊し、彼女達が伏せる時が訪れるだろう、と。


 僕としては、その時期は遅い方が良いと思っていた。

 知恵熱を出せると言う事は、それだけココに適応能力が有ると言う事。


 例え無知であれ、幼かったとしても。

 ココの神々に、世界に認められた者として扱われる事になる。


《折角だ、2号にも同じ情報量を流し込もう》


『任せた』

《うん、任せて》


 明後日まではネネ達は動けない筈。


 それまでに目一杯手を汚して、目一杯褒めて貰おう。

 そして目一杯、甘やかして貰おう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。