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第五十六話 思慕

 ——ヒストル 商業区 宿屋内——


「お前達何処行ってたんだ?」

「あはは、ちょっと買い物してきたんだ」

「雑貨類を少々なの」

「ふーん。にしても結構上手いエールだな。何処で買ったんだ?」

「露天の人が特別に売ってくれたんだ。ちょっと奮発しちゃったけどね」

「金はあるから遠慮せず使っていいぞ」

「計画的に使わないと後で困るの。お金の管理は私がしているからシュンが勝手に決めちゃダメなの」

「そ、そうか。そういう勘定とか細かいのは苦手だからな。レンに任せる」

「任せるの」


 ヒストルの夜は比較的大人しい。

 元々娯楽の少ない街であるので夜に騒ぎは起きにくい。

 また酒場も少ないため、外から来た冒険者で大抵は込み合っている。

 そして酒場で飲むことを禁止されたシュン達は現在宿屋にいた。

 シュンは昼間にフィーア達が手に入れたエールを嗜んでいる。

 しかしそのエールは普通のエールでは無かった。


「ん・・・眠くなってきたな・・・」

「きっと疲れてるんだよ。早く休んだ方がいいよ」

「そうするか・・・。それじゃあお休み・・・」


 そう言うとシュンはベッドに潜り矢庭に眠ってしまった。

 今回シュンが飲んでいたエールには少量の催眠薬が盛られていた。

 それは当然態とである。

 フィーアとレンは目的を達成するために宿をとった後、町中の露天を歩き回った。

 そして見つけたのがこのエールである。


「シュン寝ちゃったね」

「もう少し経ってからがポイントなの」

「本当に詳しいね・・・。でも痴女だと思われないかな?」

「お母さんはこれで沢山の男を落としたって言ってたの。間違いないの」

「そっかー、じゃあ間違いないね。ましてや今回は二人で侵入(・・)するもんね」

「そうなの。シュンの呑んだエールは何時ものエールとはひと味違うの。上手くいけば一線を超えられるの」

「「ふふふふふ・・・」」


 燭台の火が灯る中、不気味に笑う声が反響していた。

 ヒストルの夜はまだ長い。


 ------------------------------------------------------------


「ん・・・、何だか今までにない違和感があるな・・・」


 シュンは眠ってから暫く経つと目が冴えてきた。

 普段のシュンは酒を呑むと直ぐに女体化してしまうので、その後の記憶は全て忘却され、自然と眠ってしまうのだった。

 しかし今回は手順が違う。

 女体化する前に眠ってしまったので、ほろ酔い感覚が抜けていないのであった。

 シュンにとって初めての経験である。


「ん? 何だか両方に感覚が・・・ ッ!?」

「あ!? 起きちゃったよ!?」

「仕方ないの! このまま強制的に進めるの!」

「はぁ!? ちょっ、お前ら、何やって、ッ!!」


 シュンが両脇に謎の柔らかさを感じ確認すると、何故かフィーアとレンが下着姿で横になっていた。

 薄い布越しに当たる胸にシュンの頭の回路はオーバーヒート気味である。

 フィーアとレンからすれば起きてしまうことは誤算であったらしく、このまま進めてしまうという算段になった。


「だあああああああああぁぁ!!!」

「きゃっ!」

「んっ!」


 シュンの下半身に潜り込もうとした彼女達をシュンは追い出すことにした。

 シュンの顔は真っ赤である。

 その後フィーアとレンも、シュンが酔っていてここまで動けるとは思って無かったらしく居た堪れない表情になってしまった。


「・・・なぁどうしてこんなことをしたんだ?」

「シュン・・・」

「はぁ・・・、普通こんなことを男性にするのは決まってるの。それを私達に言わせるつもりなの?」

「うっ・・・、レンは兎も角フィーア、お前は俺の事を友達だと言ったじゃないか・・・」

「それかなり前の話だよ。その間に気持ちが変わってもおかしくないよ」

「そうだが・・・」


 以前シュンは何となくだが自分に好意を抱いていると思い、実際本人に聞いたところ友達だと豪語したのだ。

 だからこそ友達として接してきたつもりである。

 しかし、現実は違った。

 フィーアも何回かシュンに命を救われて以来、一人の男性として意識していたのである。

 それは隠しきることの出来ない想いであった。


「シュンは嫌・・・?」

「俺は・・・・・・」


 沈黙が続く。

 シュンからの返事は中々帰ってこない。

 質問したフィーアの胸は締め付けられるようであった。

 そしてレンはその想いを察していることから、堪忍袋の緒が切れた。


「シュン!男ならビシッと言うの!」

「あ、あぁ、俺は・・・嫌じゃない・・・と思う」

「思う?」

「俺はフィーアやレンに好意を持たれるのは全く嫌じゃないし寧ろ嬉しい」

「それなら・・・」

「だが()()先に進むのはダメだ!」

「何でなの? 私達は既に大人なの。この世界なら珍しくとも何とも無いの。もし違うなら詳しく教えて欲しいの」

「・・・俺には元の世界に好きな人がいた」

「ッ!?」

「前に言ったよな。俺は元の世界に絶望したと。その原因のひとつが失恋なんだ」

「失恋・・・」

「告白したわけじゃないけどな。俺の親友がその子に告白している所を覗き見したんだ。その時のその子の顔は嬉しそうだったんだ。それを見た時には既に逃げていたよ」


 シュンは自嘲気味に語りだした。

 それは転移する数分前の出来事。

 だがその出来事はシュンにとって肝要なことであり、この世界に来た理由の一つであった。

 今でもナナのことを思い出す日がある。

 そして近くに彼女が居ないことでとても寂しく感じるのだ。

 今までいつもそばにいた彼女がいないのは酷く不安だったのである。


「女々しいかもしれないがそれくらい大切な人だったんだ。その子への想いを未だに引きずっている。もう叶わないとしても最後にひと目見たい」

「シュンはその子を見て諦められるの?」

「分からない・・・。だが何時までも過去に縋ってはいられない。前を見なきゃ先には進めないんだ」

「・・・分かったの。今日は部屋に戻るの」

「レン・・・。うん、私も部屋に戻るね」

「お前ら・・・、すまん・・・」


 シュンの話を聞いて冷めたのか、フィーアとレンは部屋に戻るため支度を始めた。

 シュン自身も彼女達のことを大切に想っているので謝罪を口にするしか無かった。

 しかし、彼女達は諦めていなかった。


「シュンさっき〝まだ〟って言ってたよね?」

「え?」

「つまりチャンスはあるってことなの」

「は?」

「シュンの世界は一夫一妻制が主流って言ってたけど、この世界は違うんだよ」

「へ?」

「フィーア、ライバルが増えたけど負けないの!」

「私だって負けるつもりないから!」

「おい!待てって!」

「じゃあおやすみー」

「シュンも早く寝るの」

「・・・・・・」


 先程まで厳かな雰囲気が立ち込めていたが、今の会話でそれが嘘のようになっていた。

 シュンも様々な考えが拮抗していたのだが、何も伝えることなく終わってしまった。


(アイツらだって辛いはずなんだがな・・・。俺も見習わないとな)


 フィーアとレンの精神面の強さに感心する。

 それでも先延ばしにしてくれた彼女達には感謝を忘れずにこの日は深い眠りへと誘われるのだった。


 ------------------------------------------------------------


 ——ヒストル 宿屋内 フィーアとレンの部屋——


「あー残念だったなー」

「確かに驚いたし残念だったの。でもシュンは私達の好意を嬉しいって言ってたの。まだチャンスはあるの」

「そうだよね。私達にもチャンスはあるもんね」


 フィーアとレンは自室に戻り、二人揃って眠っていた。

 それは以前彼女達が部屋に忍び込んだ際に言った言い訳が原因である。

 フィーアは寂しかったから。

 レンは悪の手から守るために。

 それらの理由を合致させた結果が相部屋であった。


「フィーアはシュンのどういう所に惹かれたの?」

「私? 私もレンとそこまで変わらないけど・・・そうだね、()()かな」

()()?」

「シュン、最初の頃は本当に弱かったんだ。それにあんな風に口調も荒く無かったんだよ」

「それは以前聞いたの。私も見てみたかったの」

「ふふふ、それでね。辛い訓練があったんだ——」


 フィーアはレンに訓練内容を語った。

 午前中は回復魔法を起用しながら筋トレに励み、午後は殺しに慣れるために囚人を処刑する。

 それを1ヶ月間休み無しで行ったことを伝えた。

 最初は少しオブラートに包んで話そうと思っていたが、敢えて包み隠さず教えた。

 それはレンと対等に勝負したかったからである。


「・・・シュン大変だったの」

「そうだね・・・。私も殺すことに躊躇する頃があったからその大変さは痛いほど分かる。でもシュンはそれをやり通したんだ」

「凄いの。私なら途中で投げ出すかもしれないの」

「私はそれを見て思ったんだ。この人は決意したことを最後までやり通す、確固たる意志を持ってるんだって。何でも人の言う通りにしてきた私はそういう所に憧れたんだ・・・」

「フィーア?」

「・・・!? ごめんごめん! ちょっと()()()()を思い出してね」

「妹? フィーアは妹がいるの?」

「うん。双子の妹がいてね。性格が真逆なんだよ」

「一人っ子の私からすればとても羨ましいの」

「あはは・・・」


 フィーアは乾いた笑いを出すだけだった。

 それはフィーア自身、妹について思うことが色々あるからである。


「フィーアの妹さんについて教えて欲しいの」

「うーん。まぁレンにならいいかな。でもあまりシュンに言わないでね」

「どうしてなの?」

「シュンと魔王様は仲がいいからフィローラとは馬が合わないと思うんだ。」

「フィローラっていうのは妹のことなの? それと馬が合わないってどういうことなの?」

「そうだよ。フィローラ、フィローラ=グルラージ。実は私グルラージ伯爵の長女なんだ——」


 そしてフィーアは自分の立場を語りだした。

 フィーアはグルラージ伯爵の長女として産まれ、風魔法の素質の高さから英才教育を施された。

 グルラージ家当主でフィーアの父であるウィグル=グルラージは魔王信仰派の一角であり、フィーアを大魔人にすることを考えていた。

 そしてフィーアの妹であるフィローラは紛うことなき風魔法の天才であった。

 その力はフィーアより高く、ウィグルの周りでは彼女を大魔人に推す声が募った。


 しかしそうは出来ない問題があった。

 フィローラは風魔法以外、全てフィーアに劣っていたのだ。

 学業から立ち居振る舞いまでフィーアの下にいた彼女はある日問題を起こす。


「——フィローラは私達の師匠を()()()んだ」

「ッ!? どういうことなの!?」

「師匠の詳細を話すと長くなるから割愛するけど、とても私にとって大切なことを沢山教えてくれた人だったんだよ。でもフィローラは師匠が気に入らなかったんだ——」


 ------------------------------------------------------------


 ——ロステルラッテ グルラージ家の庭——


「——凄いわ! フィローラ! 『風針(フローニードル)』は百発百中ね!」

「ポロッソさん当たり前です! 私は世界最強の風魔法使いになるのですから!」

「フィローラ凄いなぁー。私も頑張らなくちゃ!」


 ここはグルラージ家の庭園であり、そこでフィーアとフィローラは師匠であるポロッソから指南を受けていた。

 ポロッソは一昔前の風使いの達人で、今ではグルラージ家に仕えるメイドであった。

 見た目は白髪頭に丸眼鏡をかけた老婆だが、魔法の腕は確かであり、毎日風魔法で彼女達に新鮮な経験を与えていた。


「フィーアもいずれ上手くなるわ! 貴方達は姉妹なんですもの! そして私が師匠なんだから出来ないことは無いわ!」

「そうですね! 私もフィローラに負けないように頑張ります!」

「フィーアに出来るかしら? 風魔法で私に勝てたことなんて一度も無かったじゃない」

「そうだけど・・・。でも努力(・・)すれば分からないよ!」

「努力ね・・・。私の嫌いな言葉だわ。結局最後には才能が勝つのよ。『風陣(フローサークル)』」


 そうフィローラが言うとその場から飛んで行った。

 フィーアとポロッソの表情は悲しそうな顔をしている。


「ポロッソさん、私は本当に上手くなれますか?」

「フィローラは努力を馬鹿にしたけどそんなことは無いわ。努力し続けるのも才能のひとつなのよ」

「そうなんですか・・・。よし! 練習します!」

「その意気よフィーア!」


 そう意気込むとフィーアは再び風魔法の練習を再開した。

 それから数年後、悲劇が訪れるとは知らずに・・・


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