第五十五話 必要
字下げをしてみました。
違和感を感じたら教えてください
——ウォール森林——
「ッ!?」
それを聞いた瞬間マルシャは龍になり空を飛ぼうとした。
今ここで逃げなければ間違いなく捕まると思ったからだ。
だがそれも叶うことは無かった。
「『※※※※※※※※』!」
「ッ!?」
キラリの唱えた魔法、それは身体魔法ではなかった。そして驚くことに光魔法であった。
普通魔人で光魔法を唱えられるものはいない。
だがキラリは人間でも天使族でも無く、ただの魔人であった。
だからこそ彼女が光魔法を使えるのは常識の範疇を超えていた。
マルシャは光魔法に弱いため直ぐに捕まってしまった。
「あはは、おじさんだっさーい!」
「いきなり逃げないでくださいよ・・・。と言っても無駄ですかね。キラリこのまま連れていきますよ」
「あはは、りょーかい!」
「待て! お前達の本当の目的は何なんだ!」
「そうですね、簡単に言えばレンさんの気を引く道具とでも言っておきましょう」
「レンの気を引くだと?」
「これ以上話すとキラリの魔法の効力が弱まります。続きは後ほど」
「何処へ連れていくつもりだ! 少なくともこの姿は目立つぞ!」
「安心してください。大人しくしてれば何も起きませんから」
「な、何を・・・、うっ!」
ヴィヴィが用意していたのは注射であった。
中には透明の液体が内蔵されており、龍の姿であるマルシャの皮膚に突き刺した。
するとマルシャは苦しみ出し、人間の風姿に戻っていた。
「お前、俺に何をした・・・」
「体に害はありません。ただ強制的に戻しただけです」
「あはは、さっすがヴィヴィ! マッドサイエンティストだね!」
「研究こそ至高ですよ。おっと無駄話はここまでにして向かうとしますか、魔法国ニーシャへと!」
そう言うとヴィヴィ達は持っていた札を使い、その場から消えてしまった。
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——街道——
「なぁこれ何だ?」
「それはシュンが選んだドレスアーマーだよ」
「はぁ!? 俺が選んだだと!?」
「シュンは酒仙だから記憶が無くなるまで呑んだの」
「確かに俺が酒を呑んだ記憶はある・・・。だがこれを選んだ記憶はない! 一体どうなってるんだ・・・」
「シュン暫くは外で呑むの禁止だからね」
「はぁ!?」
「私達暴れるシュンを抑えるの大変だったの」
「・・・それはすまなかった」
「という訳で暫く控えてね。宿で呑むのは構わないからさ」
「そうなの」
「・・・宿で飲む酒は美味しくないんだがな。仕方ないか」
ケセランが引く荷馬車の幌の中で、シュン達は先程起きた話をしていた。
話題はシュンの酒乱についてである。
シュンは酔った後の記憶を無くすため、城で手に入れたドレスアーマーを忘れていた。
当然自分が選んだとなれば話は別である。
しかし今までの行いを鑑みれば自明の罰であり、何も言い返すことは出来なかった。
そのため暫くは外で飲酒することを避け宅飲みすることに決めたのであった。
「それにしても驚きました。まさかシュン様が破者様だったとは」
「隠してて悪かったな。だがこのことは黙っておいてくれ」
「えぇ勿論です。大切な顧客の個人情報を漏洩するなど御者の風上にも置けませんよ」
「サンソンさんは良い方ですね」
「シュンも見習って欲しいの。あっでも今のシュンが大人しくなったらそれはそれで嫌なの」
「お前らなぁ・・・。まぁあれだ、ありがとな」
「ふふふ」
シュンが破者だということは既にサンソンにバレていた。
それはセルナが公言してしまった為ではあるが、シュンもサンソンに伝えることはそこまで嫌ではなく、伝えられない情報以外はある程度伝えたのだった。
サンソンも最初こそ驚いていたが、シュンが厳しい道のりを歩んできたと知ると多くを語らなかった。
辛い道のりを歩んできたことを悟り、自分が口を出すのは無粋だと空気を読んだのである。
それはシュンも察していたので恥ずかしながらも礼を言うのだった。
「それで行先はロステルラッテでいいんですね?」
「あぁ、途中の小国や町を経由すれば二週間で行けるだろ」
「シュンにしては呑気なの」
「俺だって生き急いでいる訳じゃない。アイツらが無事なのは分かったんだ。そこまで急ぐ必要は・・・」
「シュン!」
「何だ・・・って悪い。気が利かなかった・・・」
「・・・・・・」
今回『風陣』の力を使わなかったのはシュンのクラスメイト達が存命であったからだ。
それをシュンは言いたかっのだが、レンは母親であるエディシンを彼らに殺されたのである。
その事を思い出させる発言はフィーアにとって感心しなかった。
シュンも失言であったと謝る。
「正直シュンのクラスメイトは許せないの」
「うっ・・・」
「でもそれでシュンが気に病むのは嫌なの。一応お母さんを倒したのはハルトって人なの。その人には私が直接想いを伝えなきゃいけないの。でも復讐はしないの。復讐は酷く憐れなことなの・・・」
「レン・・・」
レンはハルトに復讐はしないと決めた。
復讐は負の連鎖である。
やられたらやり返すなど終わりが無い。
最終的に自分のやってきた過去について虚無感に襲われるのが後の祭りである。
そのことをレンは察しているので無闇矢鱈に行おうとは思わなかった。
だが自分の言いたい気持ちだけは伝えたいと思っていた。
それが死んでいった母親への手向けになると思ったからだ。
「・・・レン、ハルトは俺の親友だ。俺の予想だがアイツの裏には何か別の誰かがいて操ってるような気がする。」
「シュン、やっぱり友達を庇うんだね」
「違う。俺はそう言いたいんじゃない」
「じゃあ何を言いたいの?」
「アイツは取り返しのつかないことをしたんだ。その分の責任はしっかり償うべきだ。そして、そうなってしまった原因は少なからずとも俺にもあるんだ」
「どういうことなの?」
「アイツらがこの世界に来た理由、それは俺が原因なんだ」
「「ッ!?」」
シュンがハルトを庇ったのは自分にも罪があると思ったからだ。
シュンが告白を覗かず世界に絶望しなければこの世界に転移しなかったのだ。
そしてクラスメイトすら巻き込んでしまったのである。
だからこの世界にクラスメイト達が影響を及ぼした場合、その根源は自分であった。
そのためハルトがエディシンを殺した時は、シュンも罪悪感に飲まれたのである。
「シュンが原因・・・? シュンの友達がこの世界に来たのはシュンのせいっていうの?」
「そうだ。だからレンは俺を責め立てる権利がある」
「・・・・・・」
レンはシュンの言葉に黙ってしまった。
そこでフィーアが口を開く。
「私はそうは思わない」
「何だと?」
「確かにシュンの友達がレンのお母さんを倒したかもしれない。だからってシュンを責め立てるのはちがうよ。」
「いや合ってるだろ・・・。俺がいなければアイツらがここに来ることなんて・・・」
「それならシュンがここにいちゃいけないみたいになるよ。そんな言い方、私は許さない」
「フィーア・・・」
フィーアの言葉には明らかに確固たる意志があった。
クラスメイト達が来たのはシュンが原因である。
だがそれを否定すればここにシュンがいることすら否定することになるのだ。
それをフィーアは許容できなかった。
「シュン、君がここに来て良かったこともあるんだよ」
「え?」
「私はシュンに何度も命を救われたんだよ」
「そうなの。私の命もシュンに救われたの」
「あ・・・」
「だから君はここにいていいんだよ」
「寧ろいて欲しいの」
「あ・・・あぁ・・・」
フィーアやレンの言葉を聞いた途端シュンの目から涙が零れた。
この世界に来てから奪うことしかしてこなかったシュン。
破者として成しえたことなど未だ何も無い。
この世界に来てずっと存在意義を探し続けていてやっと今必要とされた気がした。
然れどこの世界にいる二人かもしれない。
だがそれでもその二人に必要とされるだけでシュンの心はスっと軽くなったのだ。
「俺は・・・ここにいていいのか?」
「当たり前でしょ! シュンがいない世界に価値は無いよ!」
「そうなの。そんな世界は必要無いの」
「お前ら・・・ありがとう!」
「「ッ!?」」
今のシュンの笑顔には何時もの獰猛さは無かった。
純粋なシュン自身の笑みであった。
その笑みを見た二人は顔を真っ赤に染める。
正に不意打ちであった。
「どうした?」
「な、なな何でもないよ! それとどうしてシュンはこの世界に来れたのかな?」
「それは俺が元いた世界に絶望したからだ」
「絶望? 何に絶望したの?」
「それは・・・」
「すいませーん。そろそろ〝青史の国ヒストル〟に着きます。準備をしていてください」
ロステルラッテへ向かうのにはいくつかの地点を通過する必要がある。
そして現在その一つであるヒストルに辿り着く所であった。
「・・・この話は後でだな。また今度聞かせてやる」
「何だかお預け食らった気分だよー」
「モヤモヤするの」
「正直言うのも恥ずかしいんだがな」
シュンが世界に絶望したのは、自分の失恋と劣等感故のものである。
そんなくだらない理由で転移してきたと知れたら呆れられることもあるだろう。
しかしシュンは知らなかった。
自分の失恋エピソードがどれだけ彼女達に影響を与えるかを・・・
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——ヒストル 商業区——
青史の国ヒストル。
人口70万の小国である。
〝青史〟とは記録や歴史といった意味を持ち、古い文献が残るこの町に相応しい名前であった。
この国は魔法国ニーシャの領土の一部であり、侯爵マンスル=クロニクルが治めている。
有名なものは何と言ってもダンジョンである。
ダンジョンとは古に何らかの原因によって作られた洞窟であり、様々な地域に点在している。
その中でもヒストルのダンジョンは群を抜いての深度であり、その深さは今でも分かっていない。
現在調査した中で最下層は75層であり、それより先に進めることも確認済みである。
しかし、そこまで行くと魔物のレベルも段違いであり一筋縄ではいかない。
普通は10人ほどでパーティを組み、探索するのが常識である。
また魔法国ニーシャの分校として魔法学校も存在しており、この世界の歴史や魔法も教わることが出来る。
だがそこに通うほとんどは立場的にやんごとなき方々が殆どで、下級平民達の識字率は決して高くない。
「ふぅー、長旅も身体が固まるな」
「ここ暫くずっと動いてたもんね」
「たまにはゆっくりしたいの」
「そうも言ってられないぞ。数日後には旅立つ算段だ。あまり自堕落した生活は送るなよ」
「「はーい(なの)」」
「とりあえず宿をとるか・・・」
「あっ! それなら私達に任せて!」
「あ? どういうことだ?」
「シュンは気にせず買い物していて欲しいの。何でもここでしか買えない食べ物やお酒があるそうなの」
「それを早く言ってくれ。それなら宿はお前らに任せる。あ、そうだサンソン、お前も付き合え」
「え!? 私は何も出来ませんよ?」
「一人より二人の方がいいだろ。ほら行くぞ!」
シュンの青髪と碧眼は以外にも目立つ。
そのため一人で出歩くと一瞥されることが暫しあったのだ。
シュンはサンソンが暇そうにしていたのを見逃さなかったので、丁度いいと思い一緒に連れていくことにしたのだった。
因みに引いていた荷馬車は【収納袋】に収納し、荷馬車を引いていたケセランはフィーアとレンに任せることになった。
「じゃあ行こうかレン、ケセラン!」
「はいなの!」
「ヒヒーン!」
フィーアとレンが不敵に笑っていたことをシュンは気づかなかった。
その夜にあることが起きることも知るはずが無かった。
あることって何でしょうか?
評価お願いします。




