第五十二話 吝嗇
サブタイは〝りんしょく〟と読みます。
意味は酷く物惜しみすることです。
——ロステルラッテ 商業区 路地裏——
「それで私はいつまで正座をしていればいいの?」
「そうなの。フィーアは構わないけど私はそろそろ辛いの。」
「ちょっ!?レン!私は構わないってどういうことよ!」
「そのままの意味なの。」
「レンー聞いたよ。昨晩シュンにあんなことやそんなことをしたそうだね。」
「フィーアが上手く入れないのが悪いの。」
「何ですってッ!?」
「おい。」
「「・・・・・・。」」
「誰が話していいって言った?」
「「すいません(なの)。」」
現在フィーアとレンは正座をしていた。
ここはシュン達がよく訪れる露天の路地裏である。
滅多に人が寄り付かず、それなりの広さがあるのでシュンはここを選んだ。
というのも説教と注意のためである。
「フィーアを気絶させたことは説明していなかった俺が悪いんだが、昨晩の件は別だ。二人とも何故俺の部屋に侵入した?まずはフィーアから答えろ。」
「私!?えっと、そのー、寂しかったから?」
「ふっ・・・」
「レン〜。」
フィーアの言い訳は有り体普通の回答であった。
それを聞いてレンは鼻で笑う。
それはフィーアの反感を買った。
しかし・・・
「そうか寂しかったのか、なるほどな。じゃあ次はレン、どうしてだ?」
「敵の侵入を防ぐためなの。」
「ふっ・・・」
「フィーア〜。」
レンの言い訳も中々に酷く、フィーアを馬鹿にできなかった。
そのため先程とは反対にフィーアが鼻で笑う。
結局フィーアはレンの不興を買ったのだった。
「そうか、だがレン覚えておけ。俺は洞窟の蝙蝠襲撃以来『探索』を常に発動している。だから敵が襲ってくる前に反応できるんだ。」
「そ、そうなの?」
「そうだ。結局の所今回の解決策はこれしかないな。お前ら相部屋だ。」
「「えッ!?」」
「なんだ、不満か?」
シュンは純粋に彼女達の言い訳を信じてしまった。
そこから出された折衷案が相部屋である。
一人じゃ寝られないフィーアをレンがサポートする、これがシュンの考えた案であった。
「ちょっと待って!私、シュンの方が安心するなー。」
「私もフィーアよりシュンの護衛をしたいの。」
「何言ってんだお前ら。いいからこれで決まりだ。ほら次の話に行くぞ。」
「「・・・・・・。」」
フィーアとレンがその案に反対するも、無理矢理流されてしまった。
ここで二人の絆が強くなる。
(レン、分かってるよね?)
(分かってるの。ここまで来たら二人でやるの。)
二人はアイコンタクトを使って言いたいことを伝える。
一応好敵手同士だが、目的が一緒となると話は別である。
今ここに〝シュンの部屋潜入同盟〟が結ばれた。
「おい、聞いてんのかお前ら?」
「聞いてるよー。ねぇレンー。」
「フィーアの言う通り聞いてるの。」
「何かお前ら仲良くなってないか?」
シュンからすれば、いきなり団結力の強まった彼女達に疑問を抱くしかない。
それでもフィーアとレンは微笑するだけであった。
「まぁいいか。フィーア、さっきロン二ー達の前で【技能の実】について話そうとしていたのを覚えているな?」
「う、うん、覚えているけど。確かその時シュンに眠らされたんだよね。」
「そのことだがレンも覚えとけ、【技能の実】は他言無用だ。」
「何なの?」
「理由はだな・・・」
シュンは説明を始めた。
そもそもシュン達はエディシンよりいくつかのアイテムを貰った。
その中にはレンが言っていた【技能の実】もあったのだ。
その数3つ。
現霊界をどれだけ探索しても、これしか現世には無い。
そしてその効果も絶大だ。
国宝級のアイテムで間違えないだろう。
だからこそシュンは幾らロン二ーと言えどもこのことを流布するのは不服であった。
それだけではない。
シュンには考えがあったのだ。
上手く【技能の実】を使う方法が。
「レン、『偽装』は補助スキルであることは知っているか?」
「知ってるの。」
「なら『偽装』に似たスキルも存在するのではないか?」
「うーん、あったような無かったような感じなの。それがどうしたの?」
「俺はスキルを喰らいまくれば技を覚えることが出来るんだ。今回はそれを利用したい。」
「どういうこと?」
「つまりだな・・・」
シュンは補助スキル、『挑みし者』を持っている。
これは血のにじむような弛まぬ努力によりスキルや補助スキルを会得できるといったものである。
だがフィーアとレンはステータスを確認させた際に、ある程度の名前と効果は認識しているが、未だスキル名は文字化けしていた。
それでも効果は表示されているので内容だけは知っていたのである。
フィーアも段々思い出したようで表情が暗くなっていった。
それもそのはずでシュンが風魔法を覚える際に、自分の放った魔法で攻撃する必要があったのだ。
それは気持ちの良い過去ではなく、寧ろ、忘れたい過去の一つであった。
それをまた行うとシュンは言ったのだった。
「シュンまた無茶するの・・・?」
「無茶はしねぇよ。だが一番これが効率が良くて旨みも多い。」
「なるほど、シュンは【技能の実】を極力使わないようにしようとしてるの。」
レンの言っていることは当たっていた。
【技能の実】は数が限られている。
そのため無闇に使用ができない。
そこでシュンはフィーアかレンに魔法を覚えてもらい、それを自分が受けて覚えようと考えた。
そうすれば1つにつき一人しか覚えられない魔法が、1つで二人覚えることが出来るのだ。
「俺はまだ補助スキルを覚える方法を知らない。だがスキルなら覚えられる。『偽装』は補助スキルの上に自分しか効果がない。それなら『偽装』に似たスキルもあると思ったんだ。それなら一人が【技能の実】を食べれば済むし、俺も覚えられる。」
「何かケチ臭いね。」
「何とでも言え。」
「でも効率面では優れているの。」
フィーアの言う通りせせこましく感じるものであるが、一番利のある使い方でもあった。
「それでレンに聞きたいことがある。」
「何を聞きたいの?」
「レンは『頭脳明晰』を覚えている。それで過去に『偽装』に似たスキルがあるかどうか調べて欲しい。」
「分かったの。」
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「頭脳明晰」
今まで自分が知り得た情報を引き出す事が出来る。
ただし使用後の1時間は極端な疲労感・倦怠感に襲われる。
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レンはシュンの願いを承諾し、【叡智の本】を開く。
すると開いた頁から眩い光が解き放たれる。
(『頭脳明晰』)
レンが心の中でそう唱え暫く経つと光もゆっくりと収まっていった。
「ふぅ・・・。」
「どうだった?」
「その前に休ませて欲しいの・・・。」
「あっ、ちょっとレンッ!」
「別に構わねぇよ。」
「もう・・・。」
レンはシュンの身体に寄りかかった。
『頭脳明晰』の副作用を知っているシュンは何とも思っていなかったが、フィーアは知っていても声を上げざるを得なかった。
そして暫し経過すると少しは楽になったようである。
「この格好でいいの?」
「辛いだろ?別にいいさ。」
「ありがとうなの。」
「・・・。」
「それでどうだった?」
「残念だけど分からなかったの・・・。」
「そうか・・・。」
結局レンの力を使っても『偽装』に似たスキルを探し出すことは出来なかった。
だがシュンは諦めていなかった。
「やはりロステルラッテに行く必要があるな。」
「そうだよそれだよ。何で戻る必要があるの?」
「戻る理由は『収納』と『転移』を覚えるためだ。どちらも希少性の高いスキルだけあって【技能の実】で覚えられる確信が無い。だが人間界に行くに当たって覚えて起きたい魔法でもある。」
「でも魔王様とかアハトがいなかったらどうするの?」
「その時はその時だ。」
【技能の実】はどんな魔法でも覚えられる訳では無い。
極端に希少性の高い魔法だと効果が無いのだ。
『収納』も『転移』も持っているだけで一生安泰である。
その分使用者が少ない。
そうなると【技能の実】で覚えられるか確信が持てなくなる。
実際に試すことも出来ないので、最終的に『挑みし者』を使うことにしたのであった。
「フィーアは嫌か?」
「いや、まぁ乗り気ではないかな・・・。」
「何でだ?久しぶりの里帰りだぞ?」
「いやー上級魔人に会うのがね・・・。」
「どういうことなの?」
「いや何でもない、忘れて!」
「「?」」
フィーアは動揺していた。
彼女がシュンに着いていく際に、自分の役目を全て上級魔人の三人に押し付けたのだ。
その時の彼等の顔は呆れ、怒り、侮蔑、と様々であった。
このことはシュンに伝えていない。
フィーアはもし知られたらどうなるかと考えるだけで身体は震えていた。
「レンもそれでいいか?」
「私はシュンのいる所にいるの。」
「そこまで依存されるとあれだがまぁいいか。」
「はぁ・・・、憂鬱だなぁ。」
「フィーアは無理しなくていいんだぞ?」
「いやいや私も行くよ!」
「大丈夫か・・・?」
レンはシュンがいるだけで良いのだが、フィーアも不安を抱きながらも着いていくと決めた。
それこそ自分だけ除け者にされるのは、蔑視されるより嫌だったのだ。
結局ロステルラッテに行く方向に決まるのだった。
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——?——
「集まったかい?」
「いやホエッペンだけいないな!」
「彼に関してはもういいよ。どうせ招集しても来ないしね。」
「そうね、何処にいるかすら分からないものね。」
シュン達が路地裏にいる頃、とある一室で彼らは長机に向かい合い話をしていた。
その数七人。
一人は来ていないようで、その後来ることも無さそうであった。
「それで集めた理由を教えろYO!」
「エレサラック、声が大きいのである。」
「ゴンは図体がデカいYO!」
「肉縁より授かった我が躯体を囃し立てるとは許せんでござる。」
「お前達は相変わらずだな!ハッハッハ!」
「バーン、少しはアンタも自重しなさいよ。」
「フィローラは真面目だもんな!俺も負けていられないぞ!」
「いつ勝負してたのよ・・・。」
彼等は好き放題に会話をしていた。
だがそれを注意する者がいた。
それは彼らを招集した者であった。
「そろそろ話したいのだけれど・・・。」
「そうだYO!教えろYO!」
「あはは、エレサラックの声が大きいから話が出来なかったんだよ?」
「キラリ、それは言わないお約束だYO!」
「あはは、全く反省してないもんね!声帯潰れた方がいいんじゃない?というか息が臭いから話さないでね!」
「キラリ言葉の棘が鋭すぎるYO!俺のハートにグサグサ刺さってるYO!」
「あはは、その割には元気だよね!やっぱりおつむが弱いんじゃないかな?」
「そろそろ話したいんだけど!!!」
「「「「「・・・・・・。」」」」」
私語を慎むことが無い二人を大声で制止させる。
「そもそもエレサラックもキラリもお喋りなんだ。リンを見習え。先程から一言も喋っていないよ。」
「え?、あの、その・・・、あっ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!こんな私が言葉を発するなんてごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
「いやリン落ち着いて!」
「そうですよね!こんな早口だと何を言っているか分かりませんよね、気持ち悪くてごめんなさい、あー死にたいなぁ。私なんていなければいいのに・・・。死にたい・・・、死にたい、死にたい!死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい・・・。」
「あーヴィヴィやっちゃったね。」
「こうなったら収拾つかないでござる。」
「ハッハッハ!これもまた個性だな!」
「そんなこと言ってる場合!?」
「・・・もういいや、勝手に話させてもらうよ・・・。今回集まってもらったのはただ一つ、作戦が失敗したってことさ。」
それを言うと、先程まで騒がしかったこの場は静寂に包まれた。
評価をお願いします。




