第五十一話 報告
新章開始です。
——ロステルラッテ城内 訓練場控え室——
「なんでこんなことになってんだよ・・・。」
「本当に凄いッスね・・・。」
「シュン言葉遣い気をつけて!」
「フィーア、今はシュンじゃなくてアンなの。」
「あ、そうだった。アン、ちゃんと女の子の言葉を使わないとだよ?」
「巫山戯んなー!!!」
現在シュンは女体化しており、そのため風采も変化していた。
身長も155センチまで縮み、目にかかるほどの青髪は清潔感のあるショートヘアーになって、元来小さった顔はそれ以上の小顔になっていた。
元々メンズ装備であり、女体化による胸の膨らみからウェンドラゴンの装備一式を脱衣し、黒のドレスアーマーを着ている。
頭に装着している赤いカチューシャは少しでも可憐さを引き出すためのものであり、実際愛らしさは顕れていた。
しかし言動に難があり、フィーアとレンは何かやらかす度に戒めていた。
「それにしても本当に可愛いよね。」
「それは分かるの。可愛すぎて嫉妬しちゃうの。」
「アンちゃん、自信を持つッす!」
「・・・。」
可憐さに息を呑む3人とは裏腹にシュンは内心こう呟いた。
(はぁ・・・、覚えてろよ魔王様め・・・。)
何故シュン達がこの場にいるのか。
またどうして女体化する必要があったのか。
それを語るには時を遡る必要がある・・・
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——セック場内 謁見の間——
「——シュンよ、ご苦労であった!!!」
「そこは大儀であったじゃないか?」
「はははっ、私とシュンの立場は同格、そのような不躾な言葉は相応しくないぞ。」
「それなら構わないがな。」
現在シュン達はセックの王であるロン二ーに拝謁していた。
理由はワールドウッドについて説明するためである。
順境国セックの農業に影響を及ぼしていたのはワールドウッドであり、それを討伐しておいたと説明した。
またワールドウッドがスティグマの森から来たということも説明する。
「それにしてもスティグマの森からとはな。これは厄介なことになってきたな。」
「確かに今回ワールドウッドを倒せても根本が改善されていませんからね。ワールドウッドかどうかは分かりませんがまた被害を受ける可能性は考慮しておいた方が宜しいかと思います。」
「むぅ・・・。それもそうだな。」
ロン二ーの家臣であるヨワンの言う通り、どういう因果でワールドウッドが侵入してきたのかは謎のままである。
これからはウォール森林のみならず、国の防衛にも力を入れる必要がありそうであった。
「国防力を増幅させるのは争いを好まぬ順境国として躊躇いがあるが民の命には変えられぬか・・・。してシュンよ、その少女は誰だ?何故帽子を被っているのだ?」
「ッ!?」
「はぁ・・・。」
ロン二ーは憂いている表情から一変し、レンへ興味を持ち始めた。
ロン二ーからすればレンとは初対面である。
この場にいることを咎めることはしないが、何も知らない者がシュンのそばに居るので純粋に興味を持ったのだ。
そしてレンはロン二ーへ自己紹介をする。
「は、はは、初めまして、へ、陛下。わ、私の名前は、れ、レンと言いますの。」
「「ッ!?」」
レンが脱帽すると2人は驚愕した。
魔人にはサイズはどうであれ角がついている。
それがレンには無かった。
それもそのはずで、堕神である彼女は角など生えていないのだ。
その事を知らないロン二ーとヨワンは人間だと思い込んだ。
特にヨワンに関しては今にも切りかかる勢いである。
だが今回は不祥事を起こさなかった。
「何だか既視感を感じるな。」
「そうだね。でも今回は大事にならなさそうだよ。」
シュンとフィーアは前回の件を踏まえて軽く身構えていたが、何も起きなかったので自然体に戻った。
だがレンは縮こまり、発言した声は震えていた。
そもそもレンは外の世界に出るのが初めてである。
セックまでの道中様々なことに興味を持っていた。
ウォール森林とセックはそこまで距離が無いので、シュンとフィーアからすれば真新しいもののない退屈な移動であった。
それでもレンにとっては貴重な体験で、ケセランや『風陣』を使えば半日で移動できるのを、態々徒歩で移動し一日移動に費やしたのである。
その移動の中で魔物を倒したり、フィーアやレンの知識を活用した野草取りに明け暮れたのであった。
それはセックに着いてからも変わらない。
ましてやレンにとって初めての国である。
行き交う人の多さに四苦八苦しながらも、ショッピングを楽しんでいた。
レンの着ている服も街中で購入したものであり、薄い布地を着込んでいるだけであったが、フィーアがそれを許さず今では白のワンピースと麦わら帽子を着用していた。
麦わら帽子は角の生えていない頭を隠す意味もあり、今のレンにとって必需品であった。
そしてシュンがロン二ーに謁見すると聞き、三人一緒に拝謁することになったのだが、流石に国のトップに突然会うのは魔人でもないレンにとってかなりプレッシャーに感じたのだ。
「そ、そうか、お前はレンと言うのか。おっと申し遅れたな。私は第三十六代セック王、ロン二ー=セックである。魔王様の配下であり大公でもある。」
「大公様なの!?」
「貴様・・・、無礼であるぞッ!」
「キャッ!」
「ヨワンッ!!!」
ロン二ーに上手く敬称を使えないことが気に入らなかったヨワンはシュンへ怒号を飛ばす。
いきなり大声を出されてレンは怯むが、それをロン二ーは諌めた。
「良い。レンの好きにさせろ。」
「しかし・・・。」
「あー、私が良いと言っておるのだ!それとも何か?セルナにでも伝えた方が良いか?」
「ッ!?、おやめ下さいッ!それだけはッ!それだけはどうかお許しをッ!!」
「なら素直に言うことを聞け。」
「・・・はッ!」
「「「・・・・・・。」」」
ヨワンはセルナという人物名を上げると勢いよく謝辞を伝えた。
セルナとはヨワンの娘であり、多感な年頃でもある彼女は父である彼に日頃強く当たっていた。
セルナは度々ロン二ーに謁見することがあり、その時に王がヨワンの失敗談を嬉々として語るのだ。
その時のセルナは実の親である彼を毎度のように蔑視するのだ。
ロン二ーの性格の悪さは言うまでもないが、既にヨワンはそれに気づかぬほど娘の瞳がトラウマであった。
シュン達はそのことを知る由もない。
「してレンよ。どういう経緯でここに居るのか教えてくれないか?なに、私達がレンに恐喝することなど無いぞ。なんと言ってもシュンが名前を呼ぶ者だからな。」
「それって凄いことですの?」
「凄いなんてものではない。私はシュンが豹変する前に出会ったため実名で呼ばれているが、今は違う。シュンがこの国に居る間は苦情が殺到してな。何でも〝口調の荒い男が街中を闊歩している〟といったものでな?重役会議まで開かれたんだぞ。」
「はぁ!?何やってんだこの国は・・・。」
「それは凄いね・・・。」
「この国は皆名前で呼び合うのが礼儀なんだ。渾名も無くはないが、主に侮辱とされている。恐らくシュンはギルドの冒険者に色々言ったのではないか?」
「うっ・・・。」
図星であった。
シュンはウォール森林に向かう前にいくつかの依頼を熟していた。
その時に知り合った人物をシュンは好き勝手に呼称していた。
デブ、ガリ、短足、棒、ネクラ、アバズレ、年増・・・etcなど下手したら虐めと捉えられるもので呼んでいた。
だが名前で呼ぶのは恥ずかしいので、どんなに頑張って実名を呼ぼうとしても最後には戻ってしまうのであった。
「シュン、結構口悪いの・・・。」
「ほっとけ・・・。」
「私シュンが変わる前に出会って良かったよ・・・。」
「〝ポンコツメイド〟って呼んだほうがいいか?」
「ご勘弁ください。」
軽い寸劇が行われる中、レンは口を開く。
「確かに私も最初チビって言われていましたの。」
「ほう、珍しいケースだな。渾名から実名で呼ばれるようになったのは今まで無かったぞ。」
「シュンに認められたからですの!」
「恥ずかしいこと言うな、チビ。」
「酷いの!」
「はははっ、愉快な奴らだ。それで話してくれるかレンよ。」
「喜んで進言させて頂きますの。ですがこの件に関しては厳粛に厳格にでお願いしますの。」
「あい分かった。」
そしてレンは騙り出した。
今まで自分は龍に育てられていたこと。
天使族が襲撃され母親である龍に逃がされたこと。
実名は伏せたがマルシャに救助され、数日共に過ごし身を隠したこと。
天使族の一人に居場所がバレて危機的状況に陥ったのを、シュン達に救われたこと。
それら全て人神の企みであり、戦争も人神の仕業である可能性が高いこと。
角がないのは自分が堕神であったからであること。
母親の安否を確認した時に、勇者がこの件に関わっていること。
その後母親は亡くなり、シュン達と共に供養したこと。
全て包み隠さずに伝えた。
「・・・、待て、何だその話は。」
「・・・ん?どういうことだ?つまり神や勇者が関わっていると?」
「そういうことなの。」
「「・・・・・・。」」
静寂が流れる。
そして一拍置いた時だった。
「「何だってッ!?」」
「「「ッ!?」」」
「それは由々しき出来事ではないか!」
「王よ!この事が民に知れ渡れば大事になります!」
レンの事情を聞き取り乱すロン二ーとヨワン。
それはレンがどのように生きてきたのかということも大変重要な案件であるが、何より彼らが驚いたのは人神に関してであった。
自分達が人間と戦争をしていたのは神が原因であった。
これには驚かずにはいられなかった。
率爾に頭が回らなくなりながらも、今後どのように対策していこうかと思案に耽ようとしたときだった。
「待って欲しいですの!」
「どうした、何か他にも凶事があるのか?」
「違いますの、さっきも言ったように厳格に対処して欲しいですの。このことが世に知れ渡ったら大変なことになるのは誰でも予想できますの。だからこそ内輪からゆっくりと宣布して欲しいですの。」
レンは今すぐこの件を解決出来るとは思っていなかった。
事が事である。
今までの争いは人神が関わっていた、そんなことが知れ渡れば暴動が起きるだろう。
秩序も何も無く、統治など出来るはずもない。
当然沢山の血が流れるだろう。
だからこそレンは一気にこのことを流布するのではなく、重要人物から中心に伝えることが先決だと考えたのであった。
「・・・そうだな。私としたことが熱くなってしまった。済まないレンよ。」
「私も熱くなってしまいました。お許しください。」
「いいんですの。私もすいませんですの。いきなり爆弾発言をし驚かせて申し訳ないですの。」
ロン二ーとヨワンは取り乱したことを謝罪し、レンは大事をいきなりまとめて話したことを陳謝した。
「むぅ・・・、それにしても困ったな・・・。そんな事が暗躍しているとは。まずは魔王様にお伝えしなければな。」
「その点なんだがいいか?」
「どうしたシュンよ?」
「俺は一度ロステルラッテに戻るつもりだ。」
「えッ!?」
ロステルラッテに戻ると言うシュンに驚いたのは、何故かフィーアであった。
レンと他の男性陣は不思議そうな表情をしている。
「シュン、ロステルラッテに戻るの?」
「あぁそのつもりだ。」
「なんで?レンならシュンのいる所なら何処でも着いていくと思うし、容姿も向こうなら全く問題ないと思うけど、私だってぎのうの・・・。」
「はいストップ、ちょっと寝てようなー。」
「ふぎゃッ!、ふにゅ〜。」
「「「ッ!?」」」
シュンは手刀をフィーアの首にあて眠らせてしまう。
突然の行動に周りは開いた口が塞がらない。
「おいシュンよ、彼女はお前の仲間だろ?」
「あー気にしないでくれ。こいつ昨晩夜更かししていてな。それで寝落ちしたんだろ。とりあえず不遜な振る舞いは謝るから許せ。」
「あ、あぁそれは構わないのだが・・・。」
「嘘なの。昨日の夜シュンの部屋に入り込もうといたけど結局追い出されて、最終的に直ぐに寝たのを見てたの。」
「おいなんで知ってんだ。」
「ずっと見てたからなの。」
「「「・・・・・・。」」」
昨日、大きめの宿で3人分の部屋をとった。
そして夜にシュンの部屋に侵入しようとしたフィーアは布団に入り込む前に追い出されてしまった。
だが厄介なのはレンであった。
今までベッドの下に隠れてチャンスを狙っていたのである。
その後シュンが完全に意識を失ったのを見計らってベッドに潜り込んでいた。
深い眠りについているのでバレることも無い。
当たり障りのないことを行いつつ、目が覚める朝方には自室に戻るレンであった。
因みにフィーアはその事実に気がついていない。
「お前何やってんだよ・・・。」
「ふふふなの。」
「あーそれで何がどうなんだ?」
「まぁ気にすんな。それじゃ俺達はもう行くから、じゃあな。」
「あ、おい待てッ!」
シュンは『気配遮断』を使って、眠っているフィーアと誇らし気なレンを小脇に抱えて出て行ってしまった。
「行ってしまいましたね。」
「そうだな。言いたくないことを無理に聞こうとはしないのだがな。そして何よりあいつら報酬の件忘れてないか?」
「・・・、まぁ孰れお目にかかるでしょう。」
謁見の間には呆れる2人のため息が響いた。
当たり障りのないことです。
この物語は万人に読んでもらうためにそういった表現が使われることがあります。
もしかしたら作者が吹っ切れて普通に描写するかもしれませんがね。
何はともあれ当たり障りのないことです(重要)




