第五十話 決別
50回以上更新していても、実質これで五十話目です。
——グラガ洞窟——
「そんな・・・、嘘だろ?」
「どうしたんだい、そんなに慌てて。」
「——その勇者は俺の知り合い・・・、いや、友人だ。」
「「「ッ!?」」」
その時であった。
キキキキキキキキキキキキィィ!!!
「「「ッ!?」」」
そこには先程シュン達を追い詰めていた大量のミルサラークがいた。
彼らは非常に興奮しておりシュン達に今にも飛びつこうとしている。
しかし、
「『光針』」
ギギギギギギギギギギギギィィッ!!!
少女の放った無数の『光針』がミルサラークを襲った。
『光針』は集中力が高ければ高いほど的中する確率も高くなる。
今の少女は自分とミルサラークしかその場にいないように感じるほど集中していた。
結局殆どのミルサラークを倒してしまった。
「ふっ!」
ギギィィッ!!
また残ったミルサラークはシュンのマントに内蔵された小型投げナイフによって一蹴される。
先程まで彼らから逃げていたのが嘘のようであった。
だがそれはあくまで少女が『光針』を上手く使ったからである。
緊迫した場面を邪魔され、重々しい空気が流れる。
軽々しく何か発言できるような雰囲気では無く、皆話す言葉を探していた。
そして口火を切ったのは少女であった。
「・・・お母さんはシュンの友達に倒されたの?」
「ッ・・・。」
シュンは少女の言葉を聞き、ただ唇を噛みしめるだけだった。
エディシンの身に起きた話を聞いていても別段おかしい点は無い。
ハルト達の容姿の説明を照合してみても彼らであることは明白であった。
「シュン、答えて欲しいの。」
「・・・すまない。」
「シュン・・・。」
シュンの口から出たのは謝罪の言葉であった。
シュン自身エディシンを傷つけた訳では無い。
だが謝らざるを得なかった。
そうしなければシュンの心が持ちそうになかった。
フィーアもシュンに同情していた。
もし自分がその立場に陥った時には真っ先に謝るだろうと思ったからだ。
シュンをフォローしようとするが未熟な彼女の心では適当な言葉は見つけられなかった。
「許せないの。」
「レン・・・。」
「・・・。」
少女からの言葉は辛辣であった。
だがシュンはそれでも仕方が無いと思った。
自分の友人が寄って集って他人の母親を膾に叩いたのだ。
自分がその状況に置かれていたら正気を保てるとは思えなかった。
しかし、少女は意外なことを言った。
「許せないの、私のお母さんを痛めつけた勇者が・・・。」
「え?」
「私は別にシュンを恨んでいないの。」
「な、何故・・・?」
「シュンはお母さんを痛めつけていないの。ただシュンの友達がやったことなの。そこでシュンに対して嫌悪感を抱くのはお門違いなの。」
「だがお前はそれでいいの・・・」
「もうイヤなのッ!!!!!」
「「「ッ!?」」」
シュンが少女に対して聞こうとした時、少女は叫んだ。
その咆哮は少女の母親、エディシンですら過去に聞いたことのない声量であった。
「もうイヤなの・・・。こんなに戦って、こんなに傷ついて、こんなに血が流れて、何が残るのッ!?何を求めて戦うのッ!?私はまだ小さいから分からないの!でもこんなことして幸せになるとは思えないの!」
「「「・・・・・・。」」」
「お母さんがこんな状態になって悲しくない訳無いの!悔しくない訳無いの!だからって、今ここでシュンを恨むのはおかしいの!そもそもシュンは私のことを助けてくれたの!そんな人を!そんな優しい人を私が恨むわけないの・・・。」
「レン・・・。」
「ヒック・・・、ヒック・・・。」
少女は堰き止めていた感情を洗いざらい吐き出した。
この状況を見て悔しくないわけが無い。
だがその悔しさは何も出来ない自分に対してだ。
そして自分やマルシャを救ってくれたシュンに恨みを持つことなどありえなかった。
そんな非力な自分が悔しくて惨めで、それでも誰にもぶつけることの出来ない想いに涙が止まらなくなる。
「レン、泣くんじゃないよ。」
「お母さん・・・。」
エディシンは啜り泣く少女を優しく諭す。
そして彼女は言った。
「いいかいレン、沢山挑戦して経験しな。その経験がレンの生きる糧になる。その糧は財産だ。金や宝石、稀有な鉱物に道具、そんな物はいいんだ。大事なものは何をするかだよ。」
「何を、するか・・・。」
「そうさね。レンはまだ若い。まだ知らないことも沢山あるだろう。そうだね・・・、恋なんか知らないだろう?」
「こ、こここ、恋ッ!?」
「ハハハッ!その反応は・・・」
「ッ!?」
「・・・。」
エディシンがチラッとシュンの方を見る。
シュンは何故だか背筋が震えるのを感じた。
フィーアに関してはジト目でシュンを見ている。
「いや、揚げ足取るのも悪い癖だね。いいかいレン?惚れた男は絶対に捕まえなよ?敵が多いなら1番になる気で行きな。レンはそれくらい魅力的なんだからね。」
「魅力的・・・。」
「そうだよ。あたしだってね・・・、うッ!?」
「「「ッ!?」」」
エディシンが少女に楽しそうに語る中、突然彼女は苦しみ出した。
「大丈夫ッ!?お母さん!!」
「はぁ・・・はぁ・・・、どうやらそう長くないみたいだね・・・。」
「まだ何か方法が・・・。」
「いいや【殺生珠】の瘴気に回復術など無いよ。」
【殺生珠】の瘴気は強力である。
当然回復することなど無く、ただ待つのは死だけであった。
そしてエディシンはシュンに声をかけた。
「なぁ坊や。」
「坊やってのは俺の事か?」
「あぁ名前が分かんないからね。」
「俺の名前はシュン、こっちはフィーアだ。」
「そうかいそうかい、冥土の土産に覚えていこうかね。」
「お母さん・・・。」
少女はまた泣いてエディシンを止めようとした。
だが先程泣いてはいけないと言われ、ぐっと涙を堪える。
ここで泣いてしまったらまたエディシンを困らせてしまう。
「シュン、レンのことを頼めないかい?」
「え?」
突然のことに少女は驚く。
「・・・、それは何でだ?」
「レンは外の世界を碌に知らない。知識だけ一丁前だが自分の目で外界を見ることなんか殆ど無かった。回りくどいね、簡単に言おうか。レンと一緒にいてやってくれないかい?」
「・・・。」
シュンは逡巡する。
これから先、神と戦うため今以上に危険な旅になるだろう。
そんな危険な場所へ少女を連れていくことをシュンは危惧した。
しかし絶対にダメだとは言えなかった。
それはハルト達のことだ。
ハルト達がエディシンを殺そうとしたのは事実だ。
それならその責任を取るのは、この世界で最も近い親友であるシュンだけであった。
そんなふうに葛藤しているとフィーアと目が合った。
フィーアはこちらを見て優しく微笑んでいた。
その目にはシュンが何を選んでも自分は文句を言わない。
そして何がなんでも自分も着いていくといった熱意も垣間見えた。
そしてシュンは決心した。
「なぁチビ、お前はどうしたい?」
「・・・・・・。」
「お前の母親は連れて行って欲しいと頼んだ。だがそれを決めるのはお前だ。」
「私は・・・、私もシュン達と行きたいの。でも私は弱いの。迷惑をかけるかもしれないの。」
「はぁ・・・、お前はバカだなぁ。」
「な!?バカじゃないの!!」
「いいやバカだな、そんなことで俺が見捨てると思うか?」
「あっ・・・。」
「そもそも見捨てるくらいなら最初から助けていない。要はお前次第だ。強くなりたいなら俺やフィーアに頼め。手合わせくらいやってやる。」
少女の目には先程まで迷いがあった。
本当に自分が着いて行っていいのか。
着いて行って役に立つのか。
役に立つ所か足でまといになるのではないか。
そう思っていたが実際は違った。
微笑みながら言うシュンの粗雑な言葉の中には、確かに少女を想っていた。
弱いのが何だ。
弱いなら強くなればいい。
強くなりたいなら特訓をすればいい。
その支えにはシュンもフィーアも力になると言うのだ。
ならもう既に答えは決まっていた。
「私はシュンとフィーアと一緒に行きたいのッ!!」
少女の声が洞窟内に響いた。
誰も少女の決意を貶すことは無かった。
「・・・分かった。ならお前は俺達の仲間だ。」
「シュン・・・。」
フィーアもシュンが少女を仲間に加えたことを素直に喜んだ。
そして自分を含めて仲間と言ったことに胸が熱くなる。
「ありがとうね。この子が大人になっていくのを見ていくのが何よりも楽しみだった。それを見ることが出来ないなんて悲しくなるよ。」
「お母さん・・・。」
「娘は任せろ。少なくとも嫌な思いはさせないと約束する。」
「そうかい、そりゃあ頼もしいねぇ。そうだ、『収納』。」
エディシンは収納魔法、『収納』を唱えると、顔を空間に突っ込み本を取り出した。
「レン、これは【叡智の本】と呼ばれる物さね。」
「【叡智の本】?」
「あぁそうさ、この本を開き魔法を詠唱するだけで魔力が増加する。言わば魔力を増幅させる杖の様な物さね。だが杖と違う所がある。」
「杖と違う所?」
「それは魔法を習得出来るのさ。」
「「「ッ!?」」」
【叡智の本】は魔術師の武器である。
【叡智の本】も一般に売られている杖も魔力を増幅させる点では同じである。
しかし【叡智の本】は先天的に覚えている魔法を習得することが出来るのだった。
「だがこの本を使って魔法を覚えるには、名前の通り、聡明で怜悧じゃなきゃいけない。けれど私が教育した自慢の娘さ、努力すれば良い方向へと導くだろうよ。」
「自慢の娘・・・。」
少女は復唱する。
その言葉を繰り返すだけで誇らしい気持ちになった。
「あんた達にも餞別で何か贈ろうかね。」
エディシンは先程の通り、様々な道具を取り出しシュンとフィーアに贈った。
「良いのですか?こんなに頂いても・・・。」
「あたしがこれを持っていても意味が無いからね。それなら気に入った奴にあげる方が所有者も道具も喜ぶってもんさ。」
「なぁこれは何に使うんだ?」
「あぁそれはね——」
シュンとフィーアは懸命にエディシンの説明に耳を傾ける。
そうするのは段々エディシンの声がか細くなっていくからであった。
「そろそろ・・・、お別れ、だね・・・。」
「お母さん!やっぱり行っちゃ嫌なのッ!!!」
「はははっ、最後まで、レンは・・・、泣き虫だね・・・。」
「ヒック・・・、ヒック・・・、お母さん・・・。」
エディシンはもう少女に泣くなとは言わなかった。
ただ呆れながらも柔和に微笑んでいた。
「シュン、フィーア・・・、あたしは、もう、持たない・・・。だから、あたしの代わり、に頼みたいことが、3つある・・・。」
「・・・言ってみろ。」
「ありが、とね・・・。1つ目は、レンのこと、さね・・・。2つ目は、あたしの、遺体さね・・・。」
エディシン曰く、竜も龍も死体を放置しているとアンデッドドラゴンに姿を変えるそうだ。
ただの竜ならまだ対処出来るが、龍である自分がアンデッドドラゴンになった暁には世界に災厄を振り撒く恐れがあると危惧していた。
それを防ぐために死体を処理して欲しいと頼んだのだった。
「・・・火葬でいいか?」
「構わ、ないよ・・・。ふふふ、ここで、渋られたら、どうしようかと、思ったよ・・・。レン、あたしは、燃えてしまう、けど、辛いなら、見なくても、いいよ。」
「ううん、私は、お、お母さんの最期を、見守るの。」
涙を流しながら精一杯訴える少女。
エディシンはもう何も言わなかった。
そして最後の願いを言う。
「最後の、頼みだよ。それは——」
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「エディシンさんはどう思ってたんだろうね。」
「さぁな。だが最後の願い、それは俺自身にも通じるものがある。」
エディシンの最後の願いそれは〝世界平和〟であった。
人間界と魔界で戦争が起き多くの命が消えている中で、それでも尚エディシンは人々の幸せを訴えた。
人間と魔人が手を取って笑い合い、戦争など無い平和な世界を望んだ。
シュンはこれを聞いて、より一層神(悪魔)を倒すと心に決めた。
これから先も出会いと別れを繰り返すだろう。
それでも歩みを止めることは出来ない。
それは何故か。
それはシュンが最初に神(悪魔)を倒すと決めたからだ。
決めたことは是が非でもやり通す、そんな信念がシュンの原動力となって前を向くことが出来るのだ。
だがそれはシュンだからである。
直ぐに切り替えられる者は少ないのだ。
「レン、まだ洞窟の方を見ているね・・・。」
「そうだな。」
少女は洞窟を出てからも後ろを見続けていた。
火葬の火が上がる訳では無い。
だがそれでも亡き母を想い、前を向いて歩くことが出来なかった。
「・・・ったくしょうがねぇな。——レンッ!!!」
「「ッ!?」」
「早く来い!置いて行くぞ!!」
大声で呼ばれ硬直してしまう。
だが初めて名前を言われた。
今はまだ未来なんて分からない。
だがシュンと一緒にいれば困難はあっても乗り越えることが出来る、そう感じた。
(お母さん、見ていて欲しいの!)
雲ひとつない晴天の青空に亡き母を想って祈る。
もう迷いは無かった。
「今行くの!!」
そう言うとレンは前を向いて走り出した。
そろそろ二章が終わります!
閑話を挟むかどうか考えています。
それとも人物紹介でも書いた方がいいのかな・・・?
何はともあれ、ここまでお付き合い頂いて本当にありがとうございます!
まだまだ物語は続きますので、これからも破者と勇者をよろしくお願いします!




