第四十九話 狂気
※残酷な描写があります。
——グラガ洞窟——
「なッ!?何故生きているんだい!?」
エディシンは声を張り上げハルト達に聞いた。
「これですよ。」
「それは【守護札】!?」
「王様がいざと言う時にって持たせてくれましてね。これが身代わりになってくれました。」
ハルト達の身を守ったのは【守護札】と呼ばれるものであった。
エディシンが驚く通り希少性が高く、普通は世間に流通するものでは無い。
一枚あれば土地が買えるとも言われていた。
それをハルト達が持っていたので驚愕してしまう。
「これは驚いたね・・・。まさか【守護札】を持っているとは・・・。」
「王様がねー、持っとけって言ってたんだー。そしてそれが燃えたら拙いって、直ぐに逃げなさいって言ってたんだよー。なんでも私達が死んだら魔人を倒せないって・・・」
「シホちゃん!そんな敵にペラペラ話しちゃダメだよ!」
「あ、ゴメンゴメン!あははっ!」
シホは快活に笑いながら所持している理由について話してしまう。
それをナナが慌てて止めた。
だがそこまで聞けば頭のいいエディシンに十二分に伝わっていた。
「そうかい、あんた達があたしを倒す理由とかもろとも分かった気がしたよ。根幹が腐ってやがるのかい。」
「おい、龍。」
「なんだい?」
「お前、ナナを殺そうとしたな?」
「ッ!?」
(なんだい!?この男の殺気!さっきとは別物じゃないかッ!)
ハルトは怒り狂っていた。
自分や他のクラスメイト達がどうなろうと彼からすればどうでもいいことである。
しかし、ナナだけは別である。
ナナを傷つけるものだけは許すことが出来なかった。
ましてや今回はナナに明確な殺意を向けてきた。
その時ハルトはエディシンを必ず殺そうと決意した。
エディシンは焦燥に駆られていた。
汗が止まらない。
喉が渇く。
数千年生きてきて、ここまで鋭い殺気を当てられたのは初めてであった。
そしてその殺意が酷く粘着質で自分の身体を纏っている感覚に襲われていた。
「ナナ、怪我はないかい?」
「う、うん。大丈夫だよ。ハルト君こそ辛そうな顔をしているけど平気?」
「平気だよ。ねぇナナ。俺は君を殺そうとしたこのトカゲを許せない。」
「トカゲ?」
「あぁ、だから俺は絶対にコイツを殺す。なぁお前らもそう思うだろ?」
ハルトは後ろにいた尻もちをついている男子陣に声をかける。
しかし全員血の気が引いていた。
「ハルト、さっきの技見てただろ?あんな化け物倒せるわけ無いだろ。逃げようぜ。」
「そうだぜ。流石の俺も立つことすらままならないんだ。身体中の筋肉が痙攣してるんだ・・・。」
「俺もスバルとノリヒロに賛成だ。こんなやつ倒せるわけがねぇよ。」
「そ、それな。」
ハルトを除く男達は適当な御託を並べるだけで逃げ腰になっていた。
先程の炎は物理的には効かなくとも、確実に精神を抉った。
それを見て真面に立っていられるのはハルトと女子達だけであった。
正直に言えば女子達は何が起きたのか理解出来ていなかった。
思考が止まったのである。
だから男子達のように後退することすら出来なかった。
それ故の硬直状態である。
「またナナって言ってるし・・・。」
(まだそんなこと言ってるよ・・・。)
コトミは心配されているナナを睨みつけていた。
しかしそれに気づいているのはシズクのみであった。
「チッ、腰抜けどもめ・・・。」
苛ついているのかハルトの口は悪くなっていた。
普段舌打ちなどしない彼だが平然と男衆に吐き捨てた。
そんなハルトにナナは声をかける。
「ね、ねぇハルト君。倒すって言ってもどうするの?」
「うん、委員長達も聞いてくれるかな。」
そしてハルトは男子を除いて作戦を伝えた。
「そんな物何処で手に入れたのよ。」
「これはラリトに着いた初日に街を歩いていたら偶然貰ったんだ。」
「その人はどんな姿だったの?」
「うーん、なんかオーブを被ってて顔はよく見えなかったな。」
「大丈夫なの、それ?」
「大丈夫だよ!だって絶対に効くって言ってたんだ!ねぇそう思うでしょ?コトミさん!」
「え、えぇそうだと思うし!つーかあーしアンタのこと気に入らないんだよねー。アンタいつもあたし達のこと馬鹿にしてるっていうか?気に入らないんですけど。」
「・・・・・・。」
ハルトはエディシンを倒すのに要となるある物を女子達に教えた。
これはラリトで出会ったある人から貰った物で、それに対してシズクは不審に感じた。
理由は明白で貰った人物の情報が全く無いのだ。
そして何故か力説するハルトの目には生気を感じられない。
まるで何かに操られているようであった。
(この男、態とコイツを嗾けたな。この女なら反論することが難しくなる・・・。おつむの弱い奴に何を言っても効かないから。というかこの男にそんな芸当出来るわけがない。普段から人の感情を理解する事が苦手そうだからね。)
シズクは頭の中でハルトへ文句を垂れていた。
シズク自信、人の感情の機微を読み取ることが得意で何となくだが察することが出来た。
そしてハルトは人の感情を読み取ることが苦手だと直感的に読み取っていた。
だからこそハルトが自分の嫌がるタイプを上手く押し付けたことに違和感を感じた。
「じゃあよろしく頼むよ、特にシズクさんはね?」
「・・・あぁ。」
和やかな表情を崩さずにシズクに同意を求める。
するとハルトは持っていた物をミスリルの剣に押し付けた。
するとミスリルの剣にそれは溶け込み、悍ましい黒いオーラを纏い出す。
「何だか不気味だね・・・。」
「そういうもんなんだろうな。」
「そういうもので片付けていいのかなー?」
「よし!作戦開始だ!!」
剣の禍々しさに不安を持ちながらも、各々ハルトの指示通りに動き出すのだった。
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「あんた達、何をするって言うんだい!」
「お前の相手は私たちだよ!」
エディシンの眼前にはシホ、ミク、コトミがいて、その奥にナナとシズクがいた。
何故かハルトの姿がいない。
「さっきの男はどこいったんだい?」
「そんなことを聞いている余裕は無いですよ!『水砲』!」
「『光針』!」
「『岩球』!」
「『炎砲』!」
「『雪崩』」
女子達は一斉に詠唱を開始し、エディシンに向けて魔法を放った。
「あー!」
「またあーしの魔法が!」
先ほどと同様にミクとコトミの魔法がタイミング良くぶつかり相殺してしまう。
そしてエディシンは同じ手は喰わないというふうに、他の魔法も避けてしまった。
「あんた達にはちと大人しくしてもらうかね!『牢屋』、『睡魔』!」
「「「「「ッ!?」」」」」
地面で尻もちを着いていた男子達と女子達は、『牢屋』により捕まってしまう。
そしてエディシンの状態異常魔法により拘束された彼らは深い眠りについてしまった。
「はぁ、殺しはしないけどどうしようかね・・・。——ん?」
眠りこけている彼らを見ると違和感を感じた。
数が足りないのだ。
最初彼らは10人いたのだ。
それが今9人しかいない。
自分の記憶を辿るとハルトと呼ばれる男だけいなかった。
ハルトは女子達に作戦を伝えた後、姿を消した。
エディシンは何故か嫌な予感がした。
背筋が凍る。
まるでハルトを野放しにするのが作戦で、彼女達が囮だとしたら・・・。
だが既に遅かった。
「眠らせてくれてありがとな。」
「ッ!?」
「だあああああああああぁぁぁッ!!!」
グサっ
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!」
エディシンが油断していた刹那、背後から声が聞こえ振り向こうとした時には既に切られていた。
その痛みは先程の稚拙な剣術で切られた傷とは雲泥の差であり、流石のエディシンも絶叫した。
「あ、あんた・・・、どこにいたんだ・・・。」
「まだ話せる余裕があるのか・・・、そうだな、冥土の土産に教えてやろう。」
ハルト達の作戦はシンプルであった。
簡単に言えば囮である。
女子達がエディシンを引き付けている間に、背後からハルトがとどめを刺すという構図であった。
そしてこの作戦の要、実はシズクであった。
シズクの魔法、『隠密』により気配を遮断していたのだ。
これによりハルトは見つかることなくエディシンを攻撃出来たのであった。
「なるほど・・・、『隠密』を使えるのがいたのかい・・・。誤算だったね・・・。だがまだ分からない点があるね。私の皮膚はミスリル如きで致命傷を受けるほど脆弱じゃないって自負している。どうやって私に傷を負わせたんだい。」
「この剣を見てみろよ。」
「なッ!?、なんだいその瘴気は!?まさか・・・、【殺生珠】じゃ・・・。」
「ご名答。」
「ッ!?、なんて危険なものを!そもそも【殺生珠】はもうこの世には無いはずだよ!」
「何処で手に入ったなんか関係ないだろ?お前はもう死ぬんだからな。」
「ぐっ・・・。」
【殺生珠】は禁具と呼ばれる物のひとつである。
太古に制作され、余りに危険なため廃止されたと言われており今ではその姿を見るものはいない。
それは武器に浸透させると瘴気を纏い、傷をつけられた生物は魂魄を乖離されると言われている。
魂魄、生物には魂が存在しており、人や生物の大半はそこに魔力が貯蔵されている。
そして魂魄自信が乖離されると筆舌に尽くし難い倦怠感と疲労感に襲われる。
これは魔力の使い過ぎにも該当し、一日中魔法を使えばその日は寝たきりになる。
そのような状態がエディシンを襲っていた。
既に彼女は倒れ伏していて動くことすらままならなかった。
(魂魄を乖離されるだけじゃない・・・。あの瘴気が体内に回れば確実に終わる・・・。)
「その顔はもう分かったようだな。【殺生珠】の効果は二つ。一つは魂魄の乖離、二つは瘴気に含まれる強力な神経毒だ。因みに解毒薬なんかは無いぞ。」
「ぐッ・・・。」
明確に死の宣告をされたが恐怖より悔恨の念が勝っていた。
勇者と言えども人間風情に負けた自分が情けなかった。
「なぁ、なんで俺がお前を苦しめたか分かるか?」
「それは・・・、お前らの倒すべき標的が私だったからだろ?」
「違うな。」
「え?」
「お前が・・・、お前がナナを、ナナを殺そうとしたからだああああッ!!!」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
怒り狂ったハルトは止まらない。
【殺生珠】により瘴気を纏ったミスリルの剣で何度も何度もエディシンに切りつけた。
エディシンは悲鳴を上げることしか出来ず、切られていく傷からは夥しい血が流れていた。
「はぁ・・・はぁ・・・、だが礼だけは言うぜ。こんな光景を皆に見せられる訳ねぇからな・・・。」
「お、おまえ、狂っているぞ・・・。」
「ハハハハハハハハッ!!!」
「ッ!?」
突然笑い出したハルトにエディシンは驚愕する。
ハルトは愉快そうに高笑いした。
「狂っているか・・・、俺はナナのことになればどんなことだってやれるんだ・・・。アイツになんか・・・。」
「アイツ・・・?」
「・・・ん?俺は誰を・・・。まぁいい。この鱗を貰っていくぞ。」
ブチッ
「ぐうううぅぅッ!!」
「ハハハッ!今俺は気分がいい!どうせお前は放置していても死ぬだろう。このまま見逃してやる。どうせ持ってわずかな命だ。孤独のまま眠らせてやろう。」
ハルトはそう言うと鱗を持ちながら踵を返し、仲間の方へと向かっていった。
その時に剣は元の輝きに戻っており瘴気は消えていた。
だがハルトの手には先程までに無かった禍々しい紋様が刻まれていた。
「まっ、待ちな!眠っている子達を起こしたらどう説明するんだい!」
エディシンの傷を見て引かないものは居ないだろ。
ましてや10代の少年少女である。
この凄惨な光景に耐えれるとは到底思えなかった。
「「大丈夫です。」」
「なッ!?あんた達・・・。」
紫の髪をした二人の天使がそこにはいた。
そう、ソフィアとサフィアであった。
「後はよろしくお願いします。」
「「了解。」」
「あんた達知り合いなのかい!?」
「「「・・・・・・。」」」
エディシンの質問には答えずソフィアとサフィアは作業に取り掛かった。
「「『隆起石』。」」
彼女達がそう唱えると倒れている勇者達の足場が盛り上がり、そのまま波のように動きだした。
そのまま隆起した足場は出口の方へと向かっていった。
「「完了しました。」」
「ありがとうございます。話はここを出てからにしましょう。」
「「了解。」」
「ま、待ちなッ!うッ!!」
「ふん・・・。」
「ッ!」
ハルトの表情は確実にエディシンを嘲笑していた。
そして何も言わずその場から退場して行った。
ハルト怖・・・




