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第四十四話 弱虫

——マルシャ家内——


「どういうことだよ?」

「要はフィーアが魔人とバレなきゃいい話なの。」

「そうは言うけど私『偽装(ダウト)』は使えないし・・・。」

「使えるの。」

「「ッ!?」」

「おいレン、まさか・・・」

「まさかなの。あれを使えば『偽装(ダウト)』が使えるの。」

「どういうことだ。」


少女曰く、【技能の実】と呼ばれるものがあるそうだ。

それは希少性が高く、今ではその名を知らない者も多い。

だが服用すれば、自分の知る魔法をひとつ覚えることが出来るそうだ。

その【技能の実】を少女の義母であるエディシンは所有しているらしい。


「それは便利だな。ん?待てよ・・・」


シュンはここでひとつ閃いた。

元の世界に戻れる魔法も覚えられるのではないか、と。

しかしそう上手くは行かなかった。


「【技能の実】は3つあるの。それをシュンとフィーアにあげるの。でも大それた魔法は覚えられないの。多分シュンは元の世界に戻れる魔法を覚えられるかもとか考えていると思うけどそれは無理なの。」

「なッ!?お前はエスパーか!?」


考えていたことをそのまま当てられて動揺してしまった。

だがそれを聞いてフィーアは黙っていられなかった。


「シュン・・・、元の世界に帰りたいの?」


その声は今にも消えてしまいそうなほど小さかった。

フィーアはシュンが元の世界に帰ってしまうことに対して少なからず不安を抱いていた。

今まで怖くて触れられなかった話題に流れてしまったことを少し後悔した。

だがシュンの答えは予想とは外れたものだった。


「いや別に元の世界に戻りたいとは思っていない。ただ戻れたら色々便利だからな。今更帰れても生活しずらいと思うし、居場所も何も無いからな・・・。」


もし地球に帰れたら神(悪魔)を倒すことも多少は楽になると思っていた。

地球の人達にこの世界について話しても足蹴にされることは目に見えていた。

だが地球と現霊界(セルフィア)を往来出来るなら話は別であろう。


日本政府はこの世界にしかない物を求めて積極的に部隊を配属するかもしれない。

そうなれば神(悪魔)の企みを妨害することも難しくないだろう。


たがどうやって現霊界(セルフィア)のことを伝えるのか。

幾ら往来できる魔法を取得できたとしても信用も人脈も何も無い。

そもそもいきなり地球に戻ってどうするのだ。


シュンは元の世界に絶望してこの世界に来たのだ。

親友と幼馴染の告白や、クラスメイト達への劣等感、今更戻れても居場所は無かった。

両親だって例外じゃない。

シュンは人間と魔人のハーフになってしまったのだ。

偽装(ダウト)』を使って完全な人間の姿を保てても、ずっと隠し通せる訳では無い。


シュンと両親の関係は排他的である。

彼らはいつも仕事に明け暮れていて小さい頃からシュンを放置していた。

ネグレストほど酷くは無いが、教育費の支払いや必要最低限の触れ合いしか無かった。

シュンの祖父母は既に他界している。

そのためシュンはいつもナナや彼女の家族と過ごす機会が多かった。


そのナナも今はいない。

結局の所、現実の世界に未練は差程無かった。


「シュン・・・。」


フィーアは安心した。

シュンがこの世界に愛想を尽きて帰りたいと思ったら、自分は今後どうすればいいのか分からなかった。

そう思えるほどシュンの存在はフィーアの中で大きくなっていた。


「だがその【技能の実】だったか?それを使えば魔法を覚えらるのか?」

「そうなの。規格外な魔法は無理だけど『偽装(ダウト)』くらいなら取得できると思うの。」

「それを聞くと俺が【グリフィルの血】を飲んだ理由付けが弱くなるな。」


シュンが【グリフィルの血】を飲用したのは『偽装(ダウト)』を覚えるためでもあった。

それなら最初から【技能の実】を服用すれば良かったのではないかと少し思った。

だが実際、そう上手い話ではないようだ。


「【グリフィルの血】って言うのは知らないけど、それで魔法を覚えられたならそれに越したことは無いの。」

「ん、どういうことだ?」


シュンは【グリフィルの血】を飲むために数多くの血と涙を流した。

それを無下にするような言い方は黙認できなかった。

だが次の話を聞いて考え直すのだった。


「【技能の実】はとても希少なの。その希少性から今では知る人すら殆どいないの。お母さんが言ってたの。今ある【技能の実】は現霊界(セルフィア)に三つしかないの。これはお母さんが龍の姿で各地を移動して探し続けた結果なの。」

「探してない所とか無いのか?」

「お母さんが【技能の実】を探し続けた中で、【探索晶】というアイテムを手に入れたの。それは捜し物を一回だけ調べることが出来る代物なの。それを使って調べたら水晶にはお母さんが持ってる三つしか反応がなかったらしいの。」

「なるほど・・・。」


どうやら既に【技能の実】はエディシンしか所有していないようであった。

エディシンは長寿であるため、太古に存在していた【技能の実】を所有していた。

そしてエディシン諸共グラガ洞窟の最奥でひっそりと暮らしていた。

だからもし魔王や大魔人がそれを知っていて血眼になって探しても見つかることは無いのだった。

するとフィーアが口を開く。


「ねぇシュン。『偽装(ダウト)』だけを覚えるために【グリフィルの血】を飲んだんじゃないんだよ?そもそも飲む前のシュンが弱かったから、魔王様が危惧為さってお与えになられたんだよ。」

「うっ、それを言われると何も言えないな・・・。」


シュンがフィーアに諭されて口籠もると、マルシャが反応した。


「ん?坊主って最初は弱かったのか?」

「坊主言うな。」

「はい、物凄く弱かったです。最初は一般魔人より弱かったんですよ?」

「ひゃーそれは弱ぇな。ん?てことは()()()()に説教されたのか!?はーそう考えると不甲斐ないな。」


ブチッ


「おい・・・。」

「ん?って痛ッ!!!」

「次舐めた口を聞いたら()()

「は、はいッ!」

「おじさん・・・。」

「マルシャさん・・・。」


調子に乗ったマルシャの脛をシュンは蹴り飛ばした。

多少の手加減はしていても傷だらけのマルシャには大ダメージであった。

フィーアと少女はマルシャをただ悲哀の目で見つめるしか無かった。


「んんッ!それでその【技能の実】はグラガ洞窟の最奥にあるの。最奥に辿り着くには決められた道を歩かなければ行けないの。」

「それは参ったな・・・。」


少女は話題を無理やり戻した。

そして【技能の実】はグラガ洞窟の最奥にあるそうだ。

またそこに辿り着くには、知る人ぞ知るルートを辿る必要があるらしい。

それにはシュンも頭を悩ませた。


「ここで提案があるの。」

「何だ?」

「私も洞窟に連れて行って欲しいの。」

「ダメだ。」

「どうしてなの!!」


少女の提案を即座に叩き斬る。

これには少女も納得出来なかった。


「聞いている限りそのグラガ洞窟って所は危険な場所何だろ?ならそんな場所に連れていく訳には行かないな。」

「そうだけど・・・。でも・・・、私は・・・。ヒック・・・、お母さん・・・。」

「「「ッ!?」」」


泣き出す少女にその場の全員が動揺した。


「レン・・・。」


マルシャは唇を噛み締め、拳を握りしめた。


「何故泣くんだ?頼むから泣くのをやめてくれ・・・。」

「ヒック・・・、お母さんが、お母さんが、死んじゃうの・・・。」

「お母さん?グラガ洞窟の最奥にいる龍のことか?」

「ヒック・・・、そうなの・・・。」


少女はずっと不安だった。

今自分がこうしている間に、愛する義母がどうなっているのか心配でならなかった。

それでもマルシャに迷惑をかける訳には行かないため、ずっとその感情を押し殺していた。


だがシュンとフィーアに出会った。

彼らは間違いなく強い。

あのソルヴィンを造作もなく排除してしまった。

そんな彼らに頼ることが出来るなら、もう一度グラガ洞窟に入洞することも可能であると画策したのだ。


しかし返答は否であった。

【技能の実】を餌にしたことを卑下して拒否されたならまだ諦めも着いた。

だが断る理由が自分の身を案じてのものだった。


自分が弱いから認められない。

それは持って生まれてこなかった自分に対して絶望することでもあった。

こんな結果で終わるのか。

自分には何も出来ないのか。

それがただただ悔しくて涙が止まらなかった。


「ねぇシュン。レンを連れてってあげようよ。」

「だかな・・・。」

「私もシュンに着いて行きたい。そのためには【技能の実】が必要になる。それを手にいるのにレンの案内は必要になるよ。」


フィーアも少なからず不安であった。

今回グラガ洞窟に入らないとなると、シュンは人間界へと向かってしまう。

そうなればシュンとはここで別れることとなる。

それだけは何とかして阻止したかった。


またそれだけでなく少女に同情もしていた。

フィーアも自分の無力さを酷く悔やんだことがある。

出来ることなら支えになりたいと思った。


「レン。」

「おじさんどうしたの?」

「レンはお母さんに会いたいか?」

「会いたいの。」

「会うのに辛い思いをするかもしれないが、それでも会いたいか?」

「それでも会いたいの。」

「そうか・・・。」


マルシャは一拍置いてからシュンに言った。


「坊主、俺からも頼む。レンをエディシン様の元へ連れて行ってくれ。」

「あんたはそれでいいのか。血が繋がって無くとも実の娘のように接してきたんだろ?それを死地に赴くような言い方をしていいのか?」

「言い訳ねぇだろッ!!」

「「「!?」」」

「いい訳無いに決まってるだろ・・・。確かにレンとは血が繋がっていないし、付き合いも1週間かそこらだ。それでも実娘(じつじょう)のように接してきた。」

「なら尚更・・・」

「だがそれでレンをここに引き留めてる理由にはならない!」

「・・・。」

「俺には実の息子と娘がいた。息子は俺の背中を追いかけるくらい真っ直ぐな子だった。娘は俺にはあまり懐かなかった。それでも俺の事を嫌いと蔑むことは一度に無かった。俺はな、度々レンが娘のコスモスに重なるんだ。なんだか似てるんだよ。いつも真面目そうにしておいて、誰も見てないところではいつも怯えている。それでも気高く見せようとする。本当に似ているんだ。」


コスモスは表面上に感情を表さない。

それは相手を信用するのが怖かったからだ。

実の父であるマルシャでさえ、真面に笑顔を見たことが無かった。


だが一人でいる時はいつも泣いていた。

理由を聞いてみても直ぐに逃げてしまう。

今でこそ答えは分からないが、恐らく不安だったのだろう。


誰に対しても心を開くことが出来ない。

自分の思いを上手く伝えられない。

そんな感情が自分の中で絡まりあって、最後にはぐしゃぐしゃになってしまった。


マルシャはそんな娘に何も出来なかった。

いつも彼女を支えるのはマルシャの妻、リンカーであった。


少女もそうである。

少女もいつもは平静を保っているが、内心では焦燥に駆られていた。

エディシンの安否をずっと知りたかった。

だが自分一人ではそれは出来ないし、マルシャに頼ることも出来なかった。


少女がマルシャに懇願していたらまた別だろう。

その時はマルシャが少女を洞窟へと連れていったかもしれない。

だがそうはならなかった。


「俺は怖いんだ。坊主にあれだけ言われてもまだ怖い。また大切な人を失ってしまうんじゃないかって思ったら震えが止まらなくなる。」

「おじさん・・・。」

「それでも、レンが後悔するのはもっと嫌だ。最初から俺が行動すれば後悔なんかさせなかったかもしれない。それなのに何も動かないでレンが苦しい思いをするのだけは絶対に嫌だ!」


マルシャはシュンを見据え、きっかりと言い放った。


「・・・シュンはレンを連れていくのは嫌?」

「・・・本心から嫌じゃない。ただ足でまといがいるのが嫌なだけだ。」

「・・・。」


シュンは態と少女を突き放す。

グラガ洞窟はシュンとフィーアからすれば未知の領域である。

そんな所に幼気な少女を引き連れて闊歩するのは気が引ける。

第一、守りきれる保証がなかった。

だがフィーアはそれを逆手に取った。


「分かった、シュンは怖いんでしょ?」

「何?」

「シュンならレンくらい簡単に守れると思うんだけどなー。やっぱり半魔王のシュンでも無理なものは無理かー。散々マルシャさんに大口叩いてこれだもんなー。——()()()()()()。」


その言葉を聞いた時だった。


「あぁいいぜ、そこまで言われるならなんだって守ってやるよ。ましてや俺の命の恩人だ。そんな人の願いを蹴るのは無粋ってもんだ。チビ、連れててってやるよグラガ洞窟に。」

「ッ!?、ありが、とうなの・・・。ヒック・・・。」

「だから泣くなって・・・。」


少女はシュンの承諾を得られ涙が止まらなくなる。


「俺からも礼を言わせてくれ。ありがとな坊主。」

「坊主じゃねぇ、シュンだ。どうしてこの世界の男衆は俺を坊主って言うんだ・・・。」

「シュンって何だか子供っぽいんだよね。体格に似合わない童顔って言うのかな?」

「童顔か・・・。あんまり嬉しくないな・・・。」


シュンは既に諦めており、これからどうするか思案に耽る。

そんなシュンを全員和やかな笑みで見つめるのだった。


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