第四十二話 大喝
——マルシャ家内——
「神だとッ!?」
「どうしたのシュン?」
「・・・いや、なんでもない。」
少女から予想外の言葉が飛び出し驚愕する。
今少女は神と言ったのだ。
今回の件は少なからずとも神が関与していることが分かった。
「とりあえず続けてくれ。」
「わ、分かったの。」
少女は驚きながら詳細を語り出す。
まず最初に神が龍人族を殲滅する理由についてだ。
少女曰く、龍人族は魔神を、天使族は人神を崇拝している。
人神とは神(悪魔)の名前である。
天使族や人間界の民は魔人より信仰心が強い。
そのため本当の神は人神であるという風潮が世間に広まり人神を神と呼ぶことになったのだ。
だが魔界はそんな風聞が広まることは無かったので今でも人神と呼称することが多い。
ここで重要になって来るのは龍人族の存在である。
天使族が人神から神託を授かることが出来るなら、龍人族も魔神から神託を授かることも可能であった。
魔神は人神が戦争を企てていることを察していた。
(このままでは世界の秩序が揺らぐ。このままにしていられまい。)
そう考えた魔神は龍人族に神託を授けた。
〝これから人間界の神、人神が戦争を企て諍いが起こる。それによりこれから先、惨憺たる未来が待ち受けるだろう。お前達はそれを世界中に広め、事前に戦争を食い止めなければならない〟
それを聞いた龍人族は急いで世界に広めるため策謀を開始した。
魔神が神託を授けることは滅多にない。
だがその希少性から内容の真意はかなり高いものであった。
今の話が本当なら急いで行動しなければならない。
そう思いながら準備をしていた時であった。
人神は戦争を企てていることを魔神に知られたと悟り、天使族に神託を授けた。
〝龍人族を殲滅しなさい。彼らは私の子供である人間達を危機に貶めようと画策しています。それを止められるのは貴方達しかいません〟
天使族は人間のことを良く思っていない。
それでも神が人間を子供と言っている以上、自分達が人間達をどう思おうと関係無い。
全ては神がどう思うかである。
神の采配で自分達の未来は決まる、そう考えていたからこそ彼らは神託を容認した。
それから彼らは龍人族の里ロカファを襲撃し、マルシャの家族も含めて里人を殲滅し始めた。
龍人族も抵抗したが男衆が狩りに出ている間に襲撃されたため、最終的に里は凄惨な光景となった。
その時にマルシャは命からがら生き延びウォール森林に赴いて、今居るログハウスを建設してひっそりと暮らしていたのである。
だが天使族は神託を成し遂げようと少女の義母である龍、エディシン討伐を掲げた。
その時にマルシャはエディシンの存在を聞きつけグラガ洞窟に入洞した所、逃げていた少女と出会いその場を後にした。
真相は謎だが偶然ソルヴィンが彼らを見つけ、マルシャと少女を片付けるために彼らを追いかけ、現在に至るという。
「・・・大事になってるね。というか魔神や人神が今回の件に関与しているなんて驚いたよ。」
「だからこのことを公に漏洩されたら大問題になるの。」
「でも魔神はこのことを世界に伝えて欲しいって神託を授けたんでしょ?それなら宣布した方がいいんじゃないの?」
「それについては俺が話そう。」
「おじさん起きてたの!?」
「あぁ身体中軋んで歩くことすらままならないが問題ない。」
「おじさん、ごめんなさいなの。私このことを勝手に話して・・・。」
「いやコイツらは恐らく言っても構わないだろう。後は俺が話すからレンは食事を続けてくれ。」
「分かったの。ありがとうなの。」
マルシャはそう言いながら空いていた椅子に座り語り出した。
マルシャは今回の件を流布することに肯定的では無かった。
当然、人神のやっていることは非人道的で恐ろしいことであるし、最初は世界に宣布しようと意気込んでいた。
だが人神が介入し、龍人族の里が襲撃された時にマルシャは思ったのだ。
(これ程惨い状況に何故自分が陥っているのか。)
マルシャは自分が龍人族であることを、これ程悔やむ事は生涯無かった。
愛する家族を奪われて、自分の生まれ育った里を滅ぼされた。
そして最後は自分だけ仲間に生かされた。
それも全て魔神の神託を忠実に行おうとした末路である。
自分達の勝手な正義感を世界に押し付けた結果がこれである。
マルシャもそのうちの一人であるが、全てが終結し、ふと鑑みると酷く浅ましく感じたのである。
天使族ならその敬虔な信仰心で再度挑戦していたかもしれない。
だが龍人族のマルシャにはその神託を容認して成し遂げるほど信仰心は無かった。
結局マルシャは宣布することを諦め、過去に縛られながら今を生きていた。
「——このことを伝えたら今まで以上に被害が出る。ならこのままひっそりと何も知らずに生活した方が良いに決まってる。」
そうマルシャが口にした時だった。
「巫山戯んな・・・。」
「「「え?」」」
「巫山戯んなって言ってるんだッ!!!」
シュンは怒号を飛ばした。
全員、いきなり怒鳴ったシュンに動揺を隠せない。
「魔神に対して信仰心が弱いから?自分達が魔神に仕える立場に生まれたから?自分の全てが奪われたから?、巫山戯んなッ!そんなの関係ねぇ!!お前は最初に宣布しようと決めたんだろ?どうしてそれを途中で投げ出すんだ!!ましてやお前一人しかその事実を知らないのだろ?なら最後までその決意を貫けッ!!お前の浅慮な行動でどれだけの人が苦しむか考えたことはあるのか?お前が諦めるってことは救える命も見捨てるってことだ!!」
「だ、だが俺が伝えたら今までの戦いはどうなる。全部神の仕組んだことだと知られたらそれこそ天変地異に見舞われるだろう。それなら今まで通り知らないままで生きていた方が・・・。」
「逃げるなッ!!!」
「ッ!?」
「お前はただ怖がっているだけだ。周りにこの事実を伝えるのが怖くて恐れているだけだ。」
「・・・。」
「あのなぁ、未来なんか分かるわけねぇだろ。それでも俺達は前を向いて進まなきゃ行けないんだ。それともお前はそれでいいのか?お前のために死んだ奴らの顔に泥を塗るんだぞ?」
マルシャはシュンにその事を言われ目が覚めた。
今まで自分は過去の未練に縛られて縮こまっていたに過ぎないのだ。
自分を逃がすために声を張り上げていた家族を思い出す。
敵を引連れてくれた仲間たちを思い出す。
彼らを想起していると不意に涙が零れ落ちた。
「お、おれは・・・、俺は今まで、何をして・・・。ヒック・・・、ヒック・・・。」
「逃げるな、前を見ろ。自分が決めたことは最後まで突き通せ。自分の決めたことすら守れない奴に守れるものなど何も無い。」
シュンの心根は自分の決めたことは最後までやり通すことである。
シュンはデスマーチを思い出していた。
確かにあの時に殺した奴らは悪逆非道で厚顔無恥な輩の集まりだったのだろう。
それでも何かしらの心根を持っていたはずだ。
シュンは殺した命を粗末にすることは許せなかった。
それはシュン自身の性分でもあった。
マルシャの失ったものは掛け替えのないものであるし、その事はシュンも分かっていた。
だがそれを失ったからといって逃げ出すことは許せなかった。
ましてやここに来て〝神が戦争を企てた〟という話題が出たのである。
それをシュンは伝えたいのに伝えられない。
だが眼前の男は伝えられるのに伝えない。
その事に酷く腹が立ったのだ。
「俺は神が戦争を企てたことをしっ・・・」
この時シュンはそのままの勢いで神(悪魔)について話そうとした。
しかしシュンは忘れていた。
クラスメイト達以外に話してはいけないことに・・・
「・・・うおおおおおおおぉぉぉッ!!!」
「ちょっとシュン大丈夫ッ!?」
「シュン大丈夫なのッ!?」
「おいお前大丈夫か!?」
シュンは座っている状態から地面に倒れた。
頭を抑え叫び続ける。
(痛てぇ!頭が割れそうだ!!このままだと死ぬ!!)
「うぅぅ・・・。」
「『大回復』ッ!」
フィーアは『大回復』を唱える。
しかし、一向に症状は改善しない。
(だ、だめだ・・・。意識がと、ぶ・・・。)
シュンはそのまま白目を向き、口から涎を出しながら気絶してしまった。
「シュンッ!シュンってばッ!!!」
「落ち着くのッ!!まずは呼吸を確認するの!!」
「だ、だめ・・・、動いてない・・・。」
フィーアは項垂れる。
いきなり苦しみ出して倒れてしまい呼吸停止に至ってしまった。
唐突な現状に理解が追いつかない。
「どいて欲しいのッ!」
「何を・・・。」
「救急蘇生法をするの!」
少女はそう言うとシュンの胸に掌を合わせ心臓マッサージを行う。
そして2人がいる前で何の躊躇もなく人工呼吸を行った。
「な、なななな、何やってんのよッ!!!」
フィーアはいきなり人工呼吸をする少女に様々な感情が沸き起こる。
しかし少女はそれに耳を傾けず、ただ一心不乱に救急蘇生法に努めた。
少女はシュンに感謝していた。
ひとつは自分がソルヴィンに殺されそうになった時に颯爽と現れ敵を倒したこと。
そしてもうひとつは以外にもマルシャの事だ。
少女はマルシャから神の企てについて聞いていた。
その時に過去の出来事の柵に捕らわれて逃げ続けたマルシャを何とかしてやる気にさせようと思っていた。
マルシャがエディシンのいるグラガ洞窟に来たのだって、このままでは拙いと思い行動した事なのだ。
根から宣布することを拒んでいる訳では無いと少女は思っていた。
それでも説得は困難を極め毎夜毎夜、屁理屈を言われてきた。
だがこの瞬間にシュンの言葉を聞いてマルシャは目を覚ました。
マルシャの流した涙には今まで堰き止めてきた彼自身の想いが籠っていると思った。
そしてマルシャを目覚めされてくれたシュンに、より一層敬愛の念が深まったのである。
しかしそんな矢先、シュンが何か言いかけた途端にいきなり苦しみ出して倒れたのだ。
息もしていない。
それはあまりに呆気なく、まるで最初からそうなる運命であったかのような流れであった。
だからこそこのままシュンを殺す訳にはいかない。
そう思った時、少女の身体は動いていた。
そしてその原動力がシュンの歯車を再び動き出させる。
「うっ・・・。」
「シュンッ!」
「シュン、大丈夫なの!?」
「俺は一体・・・。」
「良かったよー!」
「わぁっ、泣くなフィーア!ってチビ、お前も泣くなよ!」
「本当に良かったの・・・。」
「何がどうしてこうなったんだ・・・。」
目が覚め周りを見渡すとフィーアと少女が涙を流していた。
まだ完全に頭が働かないのか、さっきの出来事を思い出すことが出来ない。
「お前が何か言おうとしたら倒れたんだ。それをレンがあーしてこーしてそうなってるんだ。分かったかこの助平。」
「はぁ!?何言ってんだお前は?」
「シュン、レンがき、きき、だめ!言えない!!」
「はぁー!?」
「シュンがいきなり倒れて心肺停止状態になったのを私が人工呼吸をして助けたの。」
「ッ!?」
シュンはそれを聞き顔を林檎のように赤くした。
シュンにとって真面に女子と触れ合うことなどナナしかいない。
女子と手を繋いだのも小学生時代に林間学校でキャンプファイヤーをした時くらいだ。
その時何故かナナがシュンと手を繋いだ女子を冷淡な瞳で見つめていたのを鮮明に覚えている。
シュンはそんなふうに女子と触れ合うことの無い密閉された空間に長くいたため、女子に免疫のない状態になってしまった。
そもそもそうなった根本はナナのせいである。
ナナはシュンに近づく女子を徹底的に排除した。
だがそれは物理的ではなく、陰湿にそして気づかれぬようにである。
シュンはどちらかと言うと可愛い系に含まれ、顔立ちは女顔である。
そのため同級生の女子からも小動物を可愛いがるように扱われていた。
酷い時には文化祭で女装をさせられた時もあった。
その時に女子から痛く気に入られたのだ。
ナナはシュンが女子に気に入られることに嫌悪感を抱いていたので、あの手この手を使い女子生徒を近寄らせないように試みたのである。
結果として見事女子に免疫のない奥手なシュンが出来上がったのは言うまでもない。
「き、きき、キスしたのか!?」
「シュンを蘇生させるために必要だったの。」
「そ、そうか・・・。その、なんだ・・・、ありがとう・・・。」
「う、うん・・・、なの。」
(シュン、女の子みたいで可愛いの・・・。)
純心なシュンはその時に限って強い口調で言えず弱々しくお礼を言った。
その時の様子は元の世界にいたシュンのままであり、つり上がっていた目元が垂れていた。
正直普通の女子よりも女子感が強かった。
女である少女がときめくほど魅力的であった。
「私を忘れるなー!!」
「い、いや、忘れてない!」
「嘘よ!だってシュン心ここに在らずって感じだもんッ!」
「なッ!?それじゃまるで俺が動揺してるみたいじゃないか!」
「してる!」
「してるの。」
「うぅ~、もう知らんッ!」
シュンは動揺を隠しきれなかったのを指摘され拗ねてしまった。
だがフィーアはその様子を見て、いつものシュンが戻ってきた、と涙ながら安堵した。
少女もシュンとは今日の出会いであったが、シュンが無事息を吹き返した事には胸を撫で下ろした。
「あのー俺のこと忘れてない?」
シュン復活で盛り上がる中、マルシャの声は誰も聞いていないのだった。
良いこと言ったのに台無しですね笑
もしかしたら1番のヒロインはシュンなのかもしれませんね。
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