第四十一話 対等
——ウォール森林 マルシャ家内——
「——ん・・・、ここは・・・。」
「起きたか。」
「貴方は・・・、はぅ!」
「どうしたチビ?」
「なんでもないの・・・。」
少女は家のベッドに横になっていた。
直ぐに自分が気を失ってここに運ばれたと気づく。
そして運んでくれた人物にお礼を言おうとした時、顔を真面に見れなかった。
(うぅ・・・、さっきの光景がフラッシュバックしたの・・・。)
つい先程颯爽と現れて危機を救ったシュンは、二割増しほど美化されていた。
勿論シュンはそんな事知る由もない。
「私の名前はレンって言うの。ちゃんと名前で言って欲しいの。」
「俺の名前はアベ シュン。まぁシュンでいい。お前はチビでいいんじゃねぇか?愛嬌もあるだろ?」
「うぅ・・・。」
自分の低身長をこれ程恨む日が来るとは思っていなかった。
少なからずとも身長にはコンプレックスを抱いていたのでチビ呼ばわりはショックだった。
「出来ればレンって呼んで欲しいの。」
「・・・考えとく。」
いつものシュンは適当に言いがかりをつけて一蹴するのだが少女の表情を見ていると何故か冷淡に扱えなかった。
この少女には自分と似ている何かがある、そう感じたからだ。
「あの・・・私を忘れてない?」
「ん?あぁ悪ぃなフィーア。」
「どちら様なの?」
シュンと少女が分け隔てなく会話しているのが面白くなかったのでフィーアが口を挟む。
「お初にお目にかかります。私フィーアと申します。以後お見知りおきを。」
「えっと、御丁寧にありがとうござますなの。さっきまでいなかったのに何処にいたの?」
「シュンに隠れていろと言われたのでずっと気配を隠していました。」
「なるほどなの、ってそう言えばおじさんはどうなったの!?、うぅ・・・、」
少女はマルシャを心配し、勢いよくフィーアに居場所を聞いた。
だが急激な疲労感と目眩に襲われる。
「まぁそんなに焦るな。いくら怪我が治っても血は足りてないはずだ。恐らく軽い貧血が起きてるだろう。お前の親父は生きている。」
「おじさんは実父ではないの。でも生きていてよかったの。」
「お前の義父はフィーアに介抱して貰うから安心しろ。お前の介抱もフィーアがしたんだからな。」
「そうなの・・・。ありがとうござますなの。」
「ふふふ、良いのですよ。全て治せるわけではないですから・・・。」
この家に来てフィーアは少女とマルシャの看病を手際よく行った。
少女はフィーアに多少の警戒心を抱いていたが杞憂だと思いそれを解いた。
この時シュンとフィーアはマルシャの容態を伝えなかった。
死んではいないししっかり呼吸をしている。
だがこれから先普段通り生活出来る状態ではなかった。
まず傷を治すことが出来なかった。
少女は『大回復』を取得していなかったので使うことが無かったが、フィーアは『回復』を試して意味がなかったので『大回復』を使用してみた。
だが傷が治ることは一向に無かった。
ここでフィーアは気づいた。
この男は闇属性の使い手であると。
それならこの男を治療できる回復魔法は『黒癒』や『暗黒再生』などの魔法が必要になる。
だがそんな都合よく魔法を取得していることなど無いのだった。
「とりあえず容態は変わらない。今後のことを話し合う前にどうしてこうなったか教えてくれ。」
「分かったの。えっと・・・」
「待て待て、せっかく飯を作ったんだ。食いながら話そう。悪ぃが少しだけ食材を使わせてもらった。お代は調理でどうだ?」
「え、えぇ、構わないの。」
シュンはフィーアが看病している間に料理をしていた。
マルシャは食事を与えることが出来ないが。少女が起きた時に少しでも精がつくものを作って置いたのだ。
少なくとも今は夜、もう夕食の時間であった。
流石のシュンとフィーアも空腹であった。
少女は調理出来て機嫌がいいシュンを見て、心臓が痛むのを感じた。
顔が熱い。
心拍速度はどんどん速くなる。
少女はこの感情を知らないので、自分の身体に何か異常があるのではと不安に駆られる。
だがそれをシュンに聞くほど野暮では無かった。
「・・・。」
「どうしたフィーア?なんだか顔が怖いぞ?」
「なんでもないよ。」
「そ、そうか?」
フィーアは初めての感情を抱いていた。
少女が頬を染めてシュンを見ていると何故か心が冷えてくるのを感じた。
別に少女を嫌っている訳では無い。
寧ろ妹のように可愛らしく、銀髪は燭台の火に映えて幻想的な程美しいと素直に思えた。
ではこの感情は何か。
シュンが自分以外の人に笑みを浮かべるのを見ていられなかった。
その時フィーアはそれを表には出さないように、部屋から出ていくシュンと少女の後に着いていくのだった。
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「おいしいのッ!こんな料理食べたことないの!!」
「ですよね!?貴方も分かりましたかシュンの料理の美味しさが!もうかれこれ1ヶ月以上シュンと交代で料理をしているのに敵う気がしません!それどころか月日を重ねるほどにその味は狂気的なほど美味しくなっているのですッ!!これではシュンのサポートとして立つ瀬がありませんッ!!」
「それは大変なの・・・。」
「はッ!?気にしないでください・・・。」
シュンの料理スキルが神レベルまで上がってることに、フィーアのメイドとしての精神が危険区域まで到達していた。
ここに少女が追い打ちをかけたので更にヒートアップしてしまい穴があったら入りたい状態になってしまった。
「まぁ俺は幼少期から料理していたからそこそこな物が作れるんだよ。フィーアの料理も普通に美味いぜ?」
「本当?」
「本当だ。」
「そ、そう・・・。」
シュンに美味しいと言われては自分のプライドなど安いものだった。
一番自分の料理を味わって欲しいのは言わずと知れたシュンなのだから。
少なくともシュンはフィーアの料理スキルが普通に高いことを認めているだけであった。
「シュンが凄いのは何となく分かってたけど、フィーアさんも凄いの。私達を介抱出来て、これだけ料理を作れるシュンに認めてもらってるの。実際に食べたことは無いけどきっとすごいことだと思うの。」
「・・・。フィーアでいいですよ。私もレンと呼びます。何だか貴方とは今後ライバルになりそうな気がします。」
フィーアは少女がシュンを呼び捨てにした時になんとも言えない感情が湧いた。
また褒められたことにむず痒さを感じた。
先程の感情は既に理解していた。
そして少女がシュンをどういう目で見ているかも女の勘で察していた。
恐らく少女もフィーアが自分と同じ気持ちであろうこと推測した。
だが少女は狡猾にシュンだけを褒めることは無かった。
介抱してくれたフィーアのことも少なからず気にかけていたのだ。
何よりも母親以外に初めて会った女である。
是非とも友達になりたいと思っていた。
だが少女は対人関係が少なく、同年代の女友達など居るはずもないので動揺を隠しきれないのだった。
フィーアは自分自身に呆れていた。
今日初めて会った少女に嫉妬の念を向けるなど、恥辱で胸がいっぱいになった。
これしきのことでシュンが取られると不安になった自分が恥ずかしい。
シュンのことは転移して来てから一番近くで見ている。
シュンが色んな女子に言い寄られたことなど何回もあった。
それでもシュンは自慢の鈍感さで全くその好意に気づいていなかった。
それどころか今まで女性と話した事など少なく、少し挙動不審になった姿は可愛いらしいとさえ思えたのだ。
だから今更少女に色目を使われて焦るほど自分は落ちぶれてないと思った
それにこの少女はこれからかけがえのない好敵手になると直感が囁いていた。
なら今ここで自分がこの少女に向ける感情は嫉妬でも羨望でもない、純粋に向き合うべきだと思ったのだ。
「なら私にも敬称を取って欲しいの。それで私達は対等なの。」
「・・・分かったわ。私が敬称を取って話す相手は二人目だわ。レン、これからよろしくね?」
「よろしくなの、フィーア。」
お互い改めて挨拶を交わし握手をする。
「おーい、俺の事忘れてないか?」
「「あ(、なの)・・・」」
シュンは忘れ去られていたことに、少し悲壮感を味わっていた。
それにフィーアと少女は気まずい雰囲気を醸し出す。
「とりあえず食事の説明をしよう。そっちのスープはコリアンピッグがあったからそれを使わせてもらった。持っていた【セック豚の骨】を使って出汁を取ったからコクが出てるはずだ。具も俺達が持っていた【レンホウ草】と【ニンカンジン】を使ったぞ。」
「セック豚って高級食材なの・・・。というか持っていたってどういうことなの?」
「ん?あぁこれに入れてるんだ。」
「それは確か【収納袋】?それを持っているってことは少なくともSランクのパーティを組んでいる冒険者なの?」
「ランクはSSランクだが、これは貰ったんだ。」
「貰ったッ!?」
少女は【収納袋】の存在を母親から聞いていた。
だが普通【収納袋】は、Sランク以上のパーティに貸与することになっている。
個人が所有していいものでは無かったはずだ。
それを聞いてシュンとフィーアが只者ではないと察した。
フィーアは【収納袋】を得た過程を簡単に説明した。
「——なるほどなの。シュンの実力が認められなくて決闘をした。その時にギルドマスターと約束して見事獲得したという訳なの。」
「まぁそういう事だ。」
「でも不思議なの。普通ギルドが要請している本人の素質を計る珠、通称【真相珠】が機能しないなんておかしいの。」
「そうなのか?」
「これはおじさんが色々教えてくれたの。ギルドは【真相珠】があって、触れた者の実力を虚偽無く照らすって言ってたの。」
「そうか・・・。」
「なんで反応しなかったか分かるの?」
「まぁ心当たりはある・・・。、だが今は言えないんだ。悪ぃな。」
「ううん、言えないことを無理に聞くほど愚かな躾をされた覚えは無いの。」
「そうか、ありがとうな。」
シュンは少女に自分が【真相珠】に真実を照らされなかった理由を伏せた。
このことはフィーアも詳しくは知らなかった。
だがシュンはフィーアにすら心当たりを話さなかった。
それは神(悪魔)が関わっているからである。
その事を事細かに話したら神を殺すことは愚か、戦争すら止めることが出来ない。
そう思って今回も話すことが出来なかった。
(くそッ、早いとこクラスメイト達に合って真実を伝えないとな。)
自分がフィーアと少女に伝えられないことを悔やんだが、それより先にクラスメイト達に詳細を語ることが先決だと思い思案に暮れることをやめた。
「俺達の話は置いておいて、チビ達の話を聞かせてくれ。」
「むぅ〜、チビはやめて欲しいの。でもまだいいの。これから呼ばせてみせるの。」
「・・・、話してくれ。」
「分かったの。えっと——」
少女は未だ自分をチビと呼ぶシュンに不満を見せたが、いつか名前で呼ばせると決意した。
シュンは今まで無表情だった少女が、小悪魔のような笑みを向けて一瞬心臓が跳ねたが直ぐに平静を取り戻し再度聞いた。
そして少女は語る。
自分がグラガ洞窟で龍に拾われて育てられたこと。
そしていつも通り人間界に散歩していたら、天使族が現れて襲撃してきたこと。
その時に母親である龍と離れ、今も安否は分からないこと。
離れた道中魔物に襲われ、それをマルシャに助けられたこと。
暫くマルシャと一緒に生活していたこと。
その間にシュンが倒した天使族の一人、ソルヴィンに襲われたこと。
大まかな流れをシュンとフィーアに説明した。
「シュン達がアイツを倒してくれたことは本当に感謝しているの。」
「気にすんな、偶然通りかかって巻き込まれただけだ。」
「巻き込まれたと言うよりは、参戦したの方が正しいのでは?」
「フィーアうるせぇぞ。」
シュンは素直に助けたことを言うのは何となく恥ずかしかったので顔を逸らしてしまった。
それを見てフィーアはシュンを揶揄う。
因みにソルヴィンの遺体はレンが起きた後にどう処理するか聞いた所、燃やして欲しいと言ったのでワールドウッドの木屑を使って燃やし埋葬した。
「だがなんで天使族とかいうのに襲われてるんだ?」
「それは・・・。」
「言いずらいことなの?」
「それを話すには私の事についても話さないとなの。」
「言いたくなけりゃ言わなくてもいい、と言いたいが言えるなら言ってくれ。俺はこの世界の情報が欲しい。」
「・・・分かったの。」
少女はシュンの言った「この世界の」という言葉に少々引っかかったが素直に話すことにした。
「このことは無闇に他言しないで欲しいの。このことが世界に広まったら大変なことになるの。」
「分かった。」
「分かったよ。」
シュンもフィーアも少女の真剣な表情に固唾を飲む。
「天使族が襲った理由は神による龍人族殲滅と私を供物にするため。実は私、堕神の子供だったの。」
レンを少女と描写しているのは態とです。
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