第四十話 参戦
※残酷な描写があります。
——ウォール森林——
「嘘なの・・・。おじさんッ!おじさん!!」
「ヒヒーン・・・。」
私は出せる声量を使っておじさんを呼んだの。
でもおじさんは倒れ伏してから微動だにしないの。
今でも血が溢れているの。
それどころか傷場所が酷くなっているの・・・。
「『回復』ッ!」
おじさんに『回復』が聞かないと理解してても唱えざる得ないの。
だが現実は非情なの。
治っていつも通りに笑ってるおじさんがいる未来なんて現れなかったの。
「や、やった・・・、やりました。やりました!遂に私はマルシャを倒しましたッ!」
「まだ分からないの!まだ息はあるの!私の回復魔法が効かなくてもおじさんの自己治癒能力があるの!」
「ふふふ、無駄です。私が唱えた魔法は『光線』。『光線』は魔力を光の粒子にしたレーザーですが、闇属性が対象になると回復出来ない効果があるのです。」
「そんな・・・。」
『光線』の効果でおじさんの治療が出来なくなったの。
これじゃあおじさんは・・・。
悲壮感に打ち拉がれている時だったの。
グサッ
「うっ・・・。」
「偉いですね。悲鳴を上げてもいいのですよ?」
「こんなの・・・、おじさんの痛みに比べたらどうってことないの。」
「ふん・・・。」
相手は私の肩にレイピアを刺してきたの。
相手はおじさんと闘って疲弊しているから最初よりは遅い剣戟だったの。
でも私はそれを避けることすら出来なかったの。
おじさんが私の代わりに傷ついてしまって動揺していたからなの。
相手はおじさんを出し抜いたのが嬉しいのか、私を痛めつけると決めたようなの。
度々私を揶揄うように挑発してくるの。
でもどれもこれも安い挑発なの。
だったら逆手にとって煽ってやるの。
お前は弱い。
お前の攻撃なんか効かない。
お前の攻撃なんか通用しない。
そう相手に思わせるの。
それくらいしかおじさんの仇が取れなかったの。
ザッ、グサッ、グチャ・・・
「今すぐ謝りなさい!〝私のような存在が大天使ソルヴィン様に楯突いて申し訳ございません。〟って言うのです!そうすればこの攻撃をやめましょう。」
「いや、なの・・・。絶対に、お前みたいなトリ野郎に頭なんか下げないの!」
ブチッ
血管が切れた音が聞こえたような気がしたの。
猛攻に耐えるように下を向いていた私は相手の顔を見据えたの。
気障ったらしい不快な面をしていた彼は、般若のような面で私を見下していたの。
「おい。」
「!?」
「お前、私を怒らしたな?」
グチャ、グチャ、グチョ・・・
「〜〜〜ッ!!!」
相手は既に刺さった後の肩にレイピアを再度突き刺したの。
そして無造作に引っ掻き回すの。
肉が抉れる音が耳元に届くと痛みと恐怖、悔恨で涙が零れ出したの。
痛い、怖い、悔しいの。
この肉の抉れる音が鮮明に耳に届くと、より明確に痛覚が鋭敏化するの。
相手の怒り狂った顔を見ていると戦慄してしまい、顔を逸らすことすら出来なくなるの。
現状況に何も出来ないで、やられるままの自分に酷く怒りと無念さが湧き上がるの。
「お前はコイツと同じ方法で殺してやろうと思ったがやめた。お前は最大限苦しませて逝かせてやる。そうだな・・・。まず最初に軽く首を絞めて呼吸困難にさせよう。その後に爪を剥ぎ、目玉を抉り取り、首を刎ねる。どうだ、いい案だろ?」
相手はそう言いながら私の首元を締め付ける。
息が出来ない。
ヨダレも出てくる。
「うぅ・・・、うぅ・・・。」
血が足りていないのか相手の話が入ってこないの。
私の処遇について嬉々として話していることは僅かだが理解出来るの。
あぁダメなの・・・。
意識が遠のいていくの。
おじさん、ごめんなの。
約束守れそうにないの。
さようならなの。
そう思っていたその時だったの。
「——『風針』。」
「ぎゃああああああああぁぁぁ!!!痛い痛い痛いッ!!」
「大袈裟だな。」
「ゲホッゲホッ・・・、あなたは・・・。」
「あぁ話は後でだ。今は休んでろチビ。」
そこには青髪の角の生えた男が立っていたの。
目つきが悪くて愛想も悪いの。
でも彼と話していると不思議と心が暖かいの。
そこで私の意識は途絶えたの。
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「誰ですか貴方は!?」
「ただの通りすがりだよ。」
「そんな冗談通じると思ってるのですか!?」
「ピーピーうるせぇなぁ。こっちは音が聞こえたから来ただけだ。そもそもお前のその翼はなんだ?俺は翼が生えてるやつを見るとあいつを思い出すんだ。ムカつくから1発殴らせろ。」
「いきなり現れてなんて自分勝手な・・・。いいでしょう、私が処理してあげましょう。」
シュンが音の方へと走っていくと、そこには翼の生えた男が銀髪の少女を甚振っている姿を目撃した。
その傍には角の生えた馬が倒れ伏している男を心配そうに見ている。
明らかに面倒事だと察し関わらないようにしようと思った。
だが少女が殺されそうになっている。
見捨てていけるほどシュンは非道ではなかった。
何よりいけ好かないのはソルヴィンの存在である。
ソルヴィンを見ているとアレの存在が脳裏にちらついた。
そう神(悪魔)である。
最初はアレを崇拝する狂信者のコスプレか何かだと思ったが、冷静に考慮すればそんなことはありえない。
それなら神(悪魔)の事について何か知っているかもしれない。
戦争を止める鍵が分かると思ったら、身体は動いていた。
ましてや少女も救うことが出来る。
まさに一石二鳥であった。
ソルヴィンは困惑していた。
いきなり『風針』を浴びせ、少女を救ってしまった。
何より驚いたのは『風針』の正確性である。
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『風針』
使用MP 150
風を束ね針のようにして相手に放つ魔法。
全方向に飛ばしたり一点集中させたりと自由自在に操れるがそれは術者の技量による。
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ソルヴィンも『風針』を使うことが出来る。
だが少女に当てず、正確に自分の腕に当てるなど出来るはずが無かった。
そう思ったソルヴィンは口とは裏腹に警戒心を上げた。
だが遅かった。
「とりあえず翼は貰うぞ。」
「え?」
ザッ
「ぎゃあああああああああああああぁぁぁ!!!翼がー!!!私の!私の翼がーー!!!」
「うるせぇよ。ほらもう1枚。」
ザッ
「うぎゃあああああああぁぁぁ!!!!」
シュンは容赦なくソルヴィンの翼を【ウェンソード】で切り落とした。
最初は切れるかどうか多少の不安もあったがどうということは無かった。
シュンも醜い翼が地面に落ちたので満足そうな表情をする。
ソルヴィンは翼の切り口から多量の血液が流れ出ており感情の通りに動けるほどの余裕は無かった。
回復しなければと思い、口を開こうとした時だった。
「風陣!」
「んッ!?」
「隠れてろって言っただろフィーア。」
「今コイツ回復魔法使おうとしてたよ。」
「本当か?」
「本当だよ。シュンは何処か抜けてるんだよなぁ。やっぱり私がサポートしないとね!」
「言ってろ・・・。」
「あれれ〜?シュン君顔赤いぞー?」
「今日の夕食、デザートにハニータルト焼くつもりだったがやめた。」
「ごめんなさい、調子に乗りました。」
フィーアはいきなり姿を現し、シュンを煽って自滅した。
ソルヴィンは理解出来なかった。
詠唱しようと思ったら口が開かなかったのである。
その原因がフィーアであることは理解出来た。
しかし、その内容が内容だ。
『風陣』を使って口を閉じさせたなど、とんでもない芸当である。
確かに『風陣』は指定した範囲に上昇気流を発生させる魔法だ。
ソルヴィンの顎下に風を発動させることくらいは容易い。
だが並の術者なら発動したとして、対象を200mは吹き飛ばすだろう。
それくらい『風陣』の威力は甚大だ。
それをそよ風程度に調節しピンポイントで放つなど、それこそ神クラスのものであった。
そんなふうにソルヴィンに思われていたがフィーアはそれどころでは無く、どうやって今晩のデザートを作ってもらえるか思案し続けるのだった。
「とりあえず殺すことは容易いんだ。だから知ってること洗いざらい吐け。」
「正直に吐くものですか。私は帰って報告しなければなりません。そのためにはあなた達を倒してでも私は進みます!」
「そうかそうか、凄いな。」
「はい?」
「散々やられといて勝てるって言えるのがすごいって言ってんだよッ!」
シュンは【ウェンソード】をソルヴィンに振る。
ソルヴィンもぎりぎりそれを見極め、レイピアで応戦する。
しかし、
ピキッ
「!?」
【竜玉】の埋め込まれた【ウェンソード】は、埋め込まれていないものと比較すると数段優れている。
【竜玉】は何も魔力を『吸収』するだけではない。
埋め込むだけでも剣そのものの可能性を最大限引き上げるのだ。
ただの【ウェンソード】なら【ミルツェ】には敵わなかっただろう。
だが可能性を最大限に引き上げた【ウェンソード】にとって【ミルツェ】はただの鉄くず同然だった。
そのため【ミルツェ】は【ウェンソード】の強度に耐えられず罅が入ってしまう。
「くそ!『光線』!」
ソルヴィンはシュンに向かって『光線』を放つ。
まずは戦況を整えるために距離を取りたかったのだ。
だがシュンは変わらず無愛想に言う。
「遅せぇ。」
ザッ
「ぎゃああああああああぁぁぁ!!!腕が!熱い熱い痛い痛い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い!!!!!」
ソルヴィンは【ミルツェ】を持っていた右腕を切断されてしまった。
これ以上傷をつければ出血多量で死ぬところまできていた。
だがソルヴィンは諦め深くシュンを睨みつけていた。
「許せませんッ!絶対に、絶対に、絶対にッ!!!」
「そうか、なら死ね。」
ザッ
「ぜった・・・いに。」
ドサッ
シュンは何も躊躇うことなくソルヴィンの首を刎ねてしまった。
それには流石のフィーアも発言せざるを得ない。
「よかったの殺して?色々聞きたいことがあったんじゃないの?」
「コイツに聞いても要領を得ないことしか言わなそうだし、何よりもこの姿が気に入らない。あいつの存在を思い出してしまうからな・・・。」
「シュン?」
「・・・あぁ悪ぃ。まぁ大抵の話ならこのチビから聞けるだろ。」
「そう、だね。」
シュンは話を聞く前にソルヴィンを殺してしまった。
それも呆気なく。
最初はシュンも話を聞く気でいたのだが、実際に触れ合ってみるとシュンやフィーアを倒すしか言わない。
そんな奴がまともに話せるとは思えなかった。
そして何より姿形が気に入らなかった。
その風姿でアイツと関わっていないはすがない。
そう思うといても経ってもいられなかったのだ。
「とりあえずこの子と男の人を家に運ぼう。事後処理は全て済んでからでいいよね?」
「あぁ、でもこの男は・・・」
「うん・・・。でもここで呆然とはしてられないわ。出来るだけの治療はしたいから手伝って!」
「わあったよ。たく、面倒くせぇな。」
マルシャの姿を見てシュンとフィーアも息を飲んだ。
光魔法や闇魔法に詳しくは無いが、彼がこれから完全復活するとは到底思えない姿だった。
少女も傷だらけだがマルシャと比べたらまだマシであった。
フィーアは流石に傷ついている人達を放置していこうとは思えなかったので家に運ぶことにした。
そのためシュンに2人を運ぶよう手伝ってもらうようお願いした。
シュンはブツブツと文句を言いながらも乗りかかった船だと内心諦観しながら作業に取り掛かるのだった。
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