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第三十九話 撃破

——ウォール森林——


「大丈夫なの?」


私はずっと不安だったの。

おじさんはここで休んでいろって言ったけど、出来ることならサポートをしたかったの。

でもそうしたら足を引っ張ってしまうの。


「ッ!?」


私が逡巡していた時、おじさんの姿が変わったの。

あれは恐らく龍なの。

だってお母さんと同じ姿だったの。

でもおじさんの方が大きかったの。

そしてお母さんは深紅だったけど、おじさんは何もかも吸い込んでしまいそうな漆黒だったの。


「この姿ならお前を殺せるだろ。」

「娘が見ているというのに、それは教育に悪いのではないですか?」

「レンはこれから先乗り越えなきゃいけない壁がある。それを乗り越えるには経験が必要だ。本当はそんな危険な事をさせたくは無い。だが俺が壁を超える時には逃げずに近くで見ていて欲しい。」


私は普通の存在ではなかったの。

誰かに日常を侵されながら生きていくしか無く、平穏無事に暮らしていける確信は無いの。

それで沢山の人を傷つけて迷惑をかけるかもしれないの。

そうなったら生半可な決意じゃ心が壊れてしまうの。

だからこそ今この瞬間、寸暇を惜しんでおじさんの乗り越える壁を見ているの。

おじさんの乗り越える壁が自らが乗り越える壁と同じものになるかもしれないからなの。


「おじさーん!私は見ているの!おじさんが戦って勝つその姿を目に焼き付けるの!!」


私は自分の出せる限りの声援をおじさんに送ったの。


「おう!コイツ倒して飯にしよう!今日はコリアンピッグのスープを作ってくれ!!」

「分かったの!だから絶対勝ってほしいの!」

「任せとけ!」


おじさんは清々しい笑顔をしているの。

これから生死を賭けた闘いをする人の顔じゃないの。

でも緊張して強ばるより断然こっちの方がいいの。

私も少し肩肘を張っていたから安堵の息を吐けるの。

でも相手は本当に空気を読まないの。


「なッ!?」

「龍の姿になったからと言って何になるんです?寧ろ図体が巨大になって的が大きくなりましたよッ!」


相手は話している時にいきなりレイピアでおじさんを刺してきたの。

確かにおじさんは龍になって大きくなったの。

10mはくだらないの。

でもおじさんは相手の攻撃を造作もなく悠々と回避したの。


「・・・。」

「危ねぇなぁ。」

「その図体でよく回避出来ましたね。私も大天使に進化して攻撃速度は向上したはずなのに、大したものです。」

「俺も龍に進化して機動力が上がったからな。その程度の攻撃じゃ俺は倒せない。」

「その減らず口を私のレイピアで塞いであげましょう。」

「その気障な前髪を俺のブレスで燃やしてやるよ。」


なんでお互いに煽ってるの?

でも言ってるセリフは殺伐としているの。


「『激励(チェアー)』、『速度(スピード)』!」


相手は身体強化魔法を使ったの。

これで攻撃と速度、的中のパラメータが上昇したの。

これ以上能力を上げたら然しものおじさんも対処出来ないの。

そう思っていたけどおじさんも負けていないの。


「『黒気(ダークオーラ)』ッ!」


そう唱えると身体を包み込むように黒の靄がおじさんを包んだの。

凄まじい力を感じるの。

恐らく攻撃のパラメータを上げる魔法だと思うの。


「『黒気(ダークオーラ)』ですか・・・。そんな危険な魔法を使うとは正気ではありませんね。」

「正気でお前を倒せるとは考えていないからな。全てを出し切りお前を討つ!」

「なら私もそれに応えましょう!『召喚(サモン)』ッ!」


相手は詠唱すると、おじさんとの間に紋様が浮かび上がったの。

光り輝く紋様は霊妙さを帯びていて、意識していないと見惚れてしまうほどの美しさなの。


「ッ!?」


驚いたの。

紋様から馬が出てきたの。

あれはお母さんから話に聞いていた動物に似ているの。

希少性が高くて、今では幻の魔物と称されている存在。

それは・・・


一角獣(ユニコーン)か・・・。」

「はい、私のペット「ケセラン」です。とても知能が高くて主に従順なんです。」

「その大事なペット様を使ってどうするんだ?」

「こうするんですよ!行きなさいケセラン!」


ケセランは命令を素直に聞いておじさんに突撃していったの。

精悍な顔つきを微塵も変えずに従うその姿は、本当に主を慕っていると思ったの。

その時までは。


「邪魔だッ!」


おじさんが『爆炎砲(ファイアキャノン)』を放ってケセランを牽制するの。

ケセランはその業火を()()()()()()()()()の。

当然炎はケセランを包み込み燃え続けるの。


「ヒヒーンッ!」

「可哀想なの・・・。」


敵であってもケセランが業火に焼かれて悲鳴を上げる姿を見るのはとても辛かったの。

私とおじさんが避けもしないで焼かれたケセランを見ている時だったの。


グサッ


「ぐああああああぁ!?」

「ふふふ、隙だらけですよ。」

「・・・ソルヴィン。」

「おじさんッ!」


相手は隙をついておじさんの左目にレイピアを突き刺したの。

おじさんが叫喚している様は見るに堪えないものだったの。

それに対して相手は愉悦に浸っているの。

私はそんな危機的状況に耐えられなくて叫んでしまったの。


「だ、大丈夫だ・・・。」

「おじさん・・・。」


とても大丈夫には見えない光景なの。

今でも左目からは血液が滴り落ちているの。


「ソルヴィン、お前コイツを囮にしたな?」

「いえいえ、躾のひとつですよ。・・・さて、いつまで燃えている気ですか、この愚鈍が。」

「ヒヒーン・・・。」

「『風陣(フローサークル)』。」


ケセランを(なじ)りながら魔法を使って炎を消したの。

この時に確信したの。

ケセランは主に能動的に動いていない、受動的に隷属されているの。

よく見るとケセランの首に以前本で見た主従契約の紋様が刻まれていたの。


「堕ちるところまで堕ちやがったなソルヴィン!」

「何がです?使えるものがあったら使うまで。そこに私情を挟んでは判断が鈍くなります。私も最初は生物を隷属させるなど愚かなことと思っておりました。ですが大天使セファーラル様はこう仰りました。」


「駒を作りなさい。それも命令に忠実な存在です。我々は神の使徒です。選ばれし存在なのです。そんな高尚な存在に髄順できるなど神聖なことです。」


「——と。そこで我々天使族は様々な駒を集め隷属させました。嫌がる存在もいましたが今では大人しく遵奉しています。ケセランも同じです。最初は喧しいものでしたが今ではこんなに従順です。可愛いものですね。」


一角獣(ユニコーン)はとても大人しい魔物なの。

思慮深く人に懐かない孤高の存在。

それなのに大人しく付き従うのはやっぱりおかしいことだったの。

それも全て強要して隷属させたのだから最低なの。


「チッ、やっぱり狂信者だな。」

「ですから信心深いと・・・」

「死ね。」

「馬鹿の一つ覚えとはこの事ですか。」


おじさんは相手に有無を言わさずに『爆炎砲(ファイアキャノン)』を吐いたの。

だけどいつもの『爆炎砲(ファイアキャノン)』じゃ無かったの。

いつも吐くブレスは灼熱の業火で深紅なの。

でも今吐いた炎は漆黒だったの。


相手は呆れながら躱そうとしたの。

でもそれは叶わなかったの。


「ぎゃあああああぁぁぁ!!熱い熱い熱い熱い熱いッ!!『風陣(フローサークル)』ッ!『風陣(フローサークル)』ッ!『風陣(フローサークル)』ッ!!!」


おじさんの放った漆黒の炎は、途中で軌道を変えて相手の左腕に向かっていったの。

まるで炎自体に意思があるように。


「そいつは『爆炎砲(ファイアキャノン)』とは違う。『爆炎砲(ファイアキャノン)』の進化系『煉獄滅失業火砲(ヘルフレイムキャノン)』だ。吐いた者の意志に沿って相手を追い詰めることが可能だ。今回は〝お前を倒す〟という意思の元でお前を追い詰めたんだ。」

「そ、そんな、ことはどうでも、いい、ですッ。これはどうやったら、消える、んですかッ?」

「消えん。」

「ッ!?」

「そいつは死ぬまでお前を追い詰める。刻々と左腕から全身に燃え移るだろう。」


相手は出会ってからサディストのような表情をしていたけど、今はあまりの苦痛で醜い顔になっていたの。

それでいて一番のチャンスでもあったの。


「くそッ!ケセランッ!私の炎を消しなさいッ!!」

「ヒ、ヒヒ〜ン・・・。」

「何しているのですか!?このノロマッ!!()()()()()()私の炎を消しなさいッ!!!」

「ッ!」


ここで私はいい事を考えたの。

上手く行けば相手を倒せるし、ケセランも救えるかもしれないの。


「おじさんッ!」

「どうした?」

「いい考えがあるの!お願いだから私にやらせて欲しいの!」

「だがこれは実践だ。まだレンに人殺しはさせたくない。」


おじさんの言葉はとても嬉しかったの。

私が普通の存在じゃないと知っても尚、こうやって接してくれるのはとても有難かったの。

でもそれは甘えなの。

いつまでも誰かに依拠してはいけないの。

まだ誰かを頼ることがあるかもしれないの。

でも全てを預けてしまってはただの傀儡に等しいの。

もう自分の足で歩く時なの。

それがこの瞬間なの!


()()()!やらせて欲しいの!」

「ッ!!!、よし、もう何も言わねぇ!レンお前の生き様を()()()()に見せてみろ!」

「ありがとうなの!」


絶対に言わないと誓っていた言葉を言って顔が熱いの・・・。

でも言質は取ったの。

これから作戦を始めるの!


「『封魔解放(セイントリリース)』ッ!」

「「「ッ!?」」」


私のステータス欄にあった光魔法の一つ、『封魔解放(セイントリリース)』。

今まで使う機会は無いと思ってたけど役に立つ機会があったの。



------------------------------------------------------------


封魔解放(セイントリリース)

使用MP 300

奴隷契約、主従契約、強制契約といった契約で、相手の意志を無視した契約を解除することが出来る。


------------------------------------------------------------



ピンポイントな効果だから使う機会が限られるの。

今回もケセランが無理やり主従関係を結ばれたと聞いてもこの魔法が咄嗟には浮かばなかったの。


でも予想通りケセランは強制的に主従契約を結ばれていたの。

それが唱えた直後ケセランの首元の紋様は消えていたの。


「ヒヒーン!!」

「ケセラン嬉しそうなの。」


ケセランは嬉しそうに嘶き、私にお辞儀をしてくれたの。

とても愛らしく人懐っこい笑顔なの。

元々人懐っこくてそれを逆手に取られて契約を結ばれたと考えられたの。

やっぱり相手は碌でもないの。


「ケセラン、そいつに体当たりするの!」

「ヒヒーンッ!!」

「「ッ!?」」

「いけー!」

「いけませんッ!止まりなさいケセランッ!!」

「〝なんとかして〟って言ったのはお前なの。いいからケセランの苦しみを味わうのッ!」


グサッ


「ぎゃああああああああぁぁぁ!!!!!」


ケセランの一角が相手の鳩尾に突き刺さったの。

あれは致命傷なの。

ケセランはその後後ろ足で相手を蹴り飛ばし、此方へ走ってきたの。

相手は地面に転がってしまったの。

恐らくもう立てないの。


「よくやったの!」

「ヒヒーンッ!!」


満足そうに嘶くケセランを見ると余程酷い冷遇を受けたと想像出来たの。


「やったな!作戦勝ちだ!!」

()()()()、姿を戻しの?」


おじさんは龍人族の姿に戻っていたの。

左目も完全治癒ではないけど血は止まっていたの。

相手の武器の効果が消えた証拠なの。


「あぁ俺達の勝ちのようだからな。というか呼び方戻ってるぞ。」

「ケセラン、このハンカチで角を拭いてあげるの。」

「ヒヒーンッ!」

「無視ですか・・・。」


私は照れ隠しでケセランの角を拭いてあげたの。

おじさんは拗ねてしまったけどケセランは嬉しそうなの。


()()()()()()()()

これから先、自分と向き合いながらおじさんを支えて生きていくの。

きっと容易じゃなくて大変なことも多々あると思うの。

でもきっと大丈夫なの。

大変なら皆で力を合わせて乗り越えるの。

今回だって壁を乗りこえたの。

次からはケセランも一緒なの。

皆一緒ならなんだって出来るの。

そう思ったの。

()()()()()()


「『光線(レイ)ッ!』」

「危ないッ!」


ザッ


「うッ・・・。」

「おじさん?おじさーんッ!!!」

「ヒヒーン!」


おじさんが私を庇って倒れてしまったの。

血は止まることを知らないように流れ続け、私もケセランもそれを見るしかない。


——これで本当に終わってしまったの


次回シュンが少女と会います。


面白い、続きが読みたいと思われた方は評価、ブクマ、感想のほどよろしくお願いします。

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