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第三十七話 襲撃

遅れました。

申し訳ございません。


追記『聖雨(ライトシャワー)』が『光雨(ライトシャワー)』の間違いでした。

——ウォール森林——


「何してるの?」

「見ての通り、剣を磨いているのさ。」

「大事な物なの?」

「そうだ。この剣、刀と呼ばれるものだが【ガラシャ】には幾千幾万と助けられてきた。師匠(・・)から譲り受けた俺の大切な相棒だ。」

「なんだかそういうの憧れるの。」

「だろ?」


太陽が木の葉を照らす昼下がり、少女はマルシャに何をしているか声をかけた。

マルシャは師匠から譲り受けた刀を綿密に磨いていた。


剣の名は【ガラシャ】。

マルシャが師匠に一人前と認められ初めて握ることの許された実剣である。

【ガラシャ】には生死を賭ける場面で幾度と無く助けられた。


だがマルシャの家族が殺された時、多対一の状況【ガラシャ】を用いても手応えなく対処されてしまった。

それは全て【ガラシャ】に頼り切ってしまった自分自身が悪いと自責の念に駆られた。

それでも【ガラシャ】の真価は本物であり、あの悲劇以来自らの能力を自己研鑽していったのだ。

日夜念入りな手入れは欠かすことの無いものである。


少女は魔法は使えても近接戦闘ではズブの素人であった。

そのため自分の相棒だと豪語するマルシャに一種の尊敬と憧憬を抱いたのだった。


「でも外は冷えるの。中で作業したらいいの。」

「これぐらいの風は心地良いもんだ。寒いなら中に戻りな。」

「やなの。私もおじさんが剣を磨くのを見てるの。」

「頑固だな・・・。」


この時少女とマルシャが家に戻っていたら未来は変化していただろう。

だが運命からは逃れることは出来なかった。


「お久しぶりですね。そしてさようなら。」


ドンッ!


「んッ!?」


突然頭上に輪っかを乗せた男が少女の腹部を殴り吹き飛ばした。

少女は飛ばされた衝撃でに呼吸困難に陥る


「レン!!」

「・・・匕、『回復(ヒール)』。」


マルシャは急いで少女の元に向かう。

それでも少女は辛そうに回復魔法を自分にかけた。

それにより一命は取り留めたものの、そのまま気絶してしまった。


「てめぇ・・・。」


マルシャは鬼のような形相で少女を襲撃した者を睨みつける。

だが相手は知らぬ存ぜぬといった風な表情をしていた。


()()()()()ですね、マルシャ。」

「ソルヴィン・・・。」


ソルヴィンは天使である。

頭上には輪っかがあり、白いふわふわな衣装を着込んでいる。

大天使セファーラルほどの大きさではないが肩甲骨から羽も生えていた。

腰にはレイピアを拵え、フットワークの軽い風姿である。


ソルヴィンはセファーラルの忠実なる配下であり、過去にマルシャの出身地、龍人族の里〝ロカファ〟を滅亡させたうちの一人であった。


「なんでてめぇがここにいるんだ。」

「セファーラル様の命でございます。」

「レンを殺すって言うのか。」

「元来そのつもりでおりました。しかし想定外のことが起きました。」

「そうか、()()。」

「ご明察でございます。」


マルシャの理解力が優れていたので説明する手間が省け嬉々とした表情をするソルヴィン。

だがマルシャの表情は如何せん芳しくなかった。


「貴方と少女を仕留めるのが狙いです。然すれば大天使セファーラル様もお喜びになり、私たち天使族が敬虔する()もきっと認めてくれるでしょう。」

「この狂信者共が・・・。」

「信心深いと言ってください。」

「チッ、今すぐ消えろ。そうすりゃ見逃してやる。」

「貴方は冗談を言う性格では無かったはずですが時は流れるものですね。」

「5秒だ、その間に失せろ。5、4、3・・・」

「そう言えば貴方の家族を殺したのは私でしたね。あの時は・・・」


ドンッ!


ソルヴィンが喋っている最中マルシャは地面を蹴り飛ばし、愛刀【ガラシャ】を突き刺した。


「・・・まだ時間は残ってましたよ。」

「最近忘れっぽくてな。」


それに間一髪の所でレイピアで応戦するソルヴィン。

刀身の太さでは明らかに力負けしそうなレイピアだが真正面から受け止めることはせず【ガラシャ】の剣戟を受け流して捌いた。


「老化はいけませんね。そのまま時を重ねて天に召されるのを待つのは時間の浪費のみ。このまま昇天するのを推奨します。」

「俺にはまだ守るべき者がいるからな。逝くならてめぇ一人で逝きやがれッ!」


再び剣戟が繰り広げられる。

【ガラシャ】で交戦するマルシャは一方的にソルヴィンを攻撃した。

それをソルヴィンは空気を撫でるように()なしてゆく。

それでもマルシャのペースは衰えなかった。


マルシャは森での生活で体力に自信があった。

自給自足の生活や日々の稽古により自然と体力が着いたのである。

そのため出し惜しみせずにソルヴィンを切りつけていた。


対するソルヴィンは焦燥に駆られていた。

ソルヴィンは過去のマルシャしか知らない。

今の方が断然強く感じていた。


「・・・驚きましたよ、まさかこれ程とは。」

「そういうお前は弱くなったな。あの時は互角だったが今は違うらしい。」

「舌がよく回りますね。その舌を私の愛剣【ミルツェ】で風穴を開けて差し上げましょう。」

「はっ!、その鬱陶しい羽を俺の相棒【ガラシャ】で切り落としてやる!」


マルシャとソルヴィンの攻防は続く・・・。


------------------------------------------------------------


あの時のマルシャは弱かった。

ソルヴィンもまだ未熟者でセファーラルにただ従うことしか出来ない半端者であったがマルシャとは実力でいい勝負であった。

そんなマルシャの隙を突き、彼の家族を屠った時はソルヴィンがマルシャよりも優れていると優越感に浸ったことは昨日のように覚えていた。


別にソルヴィンが快楽殺人者だったり精神病質者、所謂サイコパスだったりする訳では無い。

では何故このようなことをしたのか。

それは純粋な信仰心である。


天使であるソルヴィンは大天使のセファーラルの命に絶対服従である。

また大天使であるセファーラルにとって唯一神としている神の神託は絶対であり必然であった。

つまり大天使の信じる神は天使にとっても尊い存在である。

その神のお告げを正確に実行したのだ。

神託通りの内容を成し遂げたソルヴィンは神の為に行動できたと涙を流しながら震えていた。


だがマルシャは逃がしてしまった。

多対一の状況でも【ガラシャ】の攻撃により上手く殺すことが出来なかった。

()()()()()()()()()()といった神託内容を忠実に守れなかった。

逃亡後も血眼になりながら捜索しても見つかることは無かった。


もし逃がしたと聞かれたら大天使セファーラルはまだしも信仰する神に顔向けできない。

そう考えていたがセファーラルも龍の存在を逃がしたそうだ。

その時のセファーラルの言葉は・・・


「神は寛容な御方である。我々の失敗も次の糧として微笑みながら見守ってくださるだろう。」

「「「「「おおおおおおおぉぉ!!」」」」」


誰もセファーラルの言葉を疑わなかった。

ソルヴィンも含め自分達の信仰する一柱の神がたった一回の失敗に兎や角言うとは思えなかった。

全ては自分達の理想的な妄想とも知らずに・・・。


------------------------------------------------------------


「はぁ・・・はぁ・・・。」

「はぁ・・・、や、やりますね。」

「お前こそ・・・ここまで粘るとはな。」


マルシャもソルヴィンも体力の限界であった。

マルシャは体力に自信があると言っても攻撃に専念しているので使用するエネルギーは馬鹿にならない。


ソルヴィンはマルシャとは違って攻撃を()なしているのでマルシャ程体力の消費量は少なかった。

だがマルシャと違って体力に自信がある訳では無いのでほぼお互い互角であった。


「ではこれはどうですか?『光雨(ライトシャワー)』!」

「甘い!『岩壁(ロックウォール)』ッ!」


ソルヴィンの魔法により、聖なる光がマルシャを襲う。

だがそれを瞬時に悟ったマルシャは直ぐに詠唱を始め、地面を隆起させ自分の身を守った。


「次はこっちから行くぞ。『暗幕(ブラインドホール)』」

「なッ!?、『発光(フラッシュ)』!」

「翼は貰ったぜ。」


ザッ


「ぎゃああああああああああああぁぁぁ!!!!」


暗幕(ブラインドホール)』でソルヴィンを闇に囲い、視覚を奪い虚をついてソルヴィンの左翼を切断する。


ソルヴィンはあまりの痛みに悲鳴を上げた。

いくら片翼と言えども天使族の弱点は翼である。

天使は翼に神経が集中しており一番敏感な箇所なのだ。


マルシャはそれを知っていた訳では無いが、ソルヴィンに痛手を与えることが出来たことに関しては嬉しく感じた。


「ほら痛てぇだろ。これに懲りたらもう俺達に構うな。大天使の命だとか神の神託だとか()()()()()、もう俺はうんざりなんだ。」

「くだらない?」


マルシャの言葉に許容できない言葉が含まれていた。

だがマルシャは止まらない。


「そもそもおかしいんだよ。神とか言うのは偉いのか?崇め奉られる存在なのか?いいや違うな、あれはただ本能に忠実な()()か何かだ。それなら魔神の方がずっといいね。あの方はこんな()()()()()に加担しない。」

「サル・・・、愚かなことだと・・・?」


自分達が信仰する神をサル呼ばわりされ平静を保てなくなってきていた。

ましてや敵である魔神を神より優れていると(のたま)い神の神託を愚かなことと馬鹿にした。

これは到底許せる発言では無かった。


「それに比べて(アレ)は論外だな。()()()()()。」


すでにソルヴィンの怒りの臨界点をは終点に近く、その言葉を聞いた時()()()()()()


「貴方は必ず排除しますッ!!!」

「何を・・・」

「おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉ!!!」


ソルヴィンが言った直後、叫び声と共にソルヴィンの風姿が変わり始めた。

頭上の輪っかは一回り大きくなり、身長も伸び、体つきも程よい肉付きになった。

そして一番の変化は翼である。

失ったはずの左翼が再生し始めていたのだ。

そして暫くすると輪っかのように一回り大きい翼になっていた。

その外見はまさにセファーラルの様であった。


「お前()()しやがったな・・・。」

「はい。私自身のことならまだしも神への冒涜は許せません。きっとこれは神が貴方を排除しろという神託でありましょう。その任、見事遂行してみせます!」

「ふん、そんなに言うならかかっ・・・」

「遅いですよ。」


ザッ


「うあああああああああぁぁぁ!!!」

「お返しですよ。」


ソルヴィンの動きは先程の比では無かった。

それこそ今までのは遊びだと言わんばかりの速度であった。


ソルヴィンは翼を毟られたお返しにマルシャの尾を貫いた。

レイピアなので切断こそされなかったが、天使の翼と同様に龍人に一番デリケートな箇所は尻尾であった。

ソルヴィンはそれを知っていたので遠慮なく攻撃した。


「くそッ!」


涙目になりながらも唇を噛み締めじっと耐える。

まずはソルヴィンの動きを捉えることから始めようとした。

だがそれすら遅かった。


「遅いですよ。」

「ぎゃああああああああああああぁぁぁ!!!」


尻尾への集中攻撃。

マルシャの尻尾は【ミルツェ】の突き刺しにより針穴のようになってしまう。

この間わずか5秒。

避けようにも高速移動するソルヴィンからは逃げられなかった。


「う・・・。」

「痛いでしょう!辛いでしょう!苦しいでしょう!恨めしいでしょう!それが貴方の贖罪です!神の侮辱を訂正し更なる苦痛を味わいなさい!それが貴方が許される唯一の行いです!」

「そ、そんな、ことするわけ、ないだろ・・・。」

「そうですか、では仕方ありませんね。連れて行こえと思っていましたが殺しましょうか。」


痛みで震えるつつも強気に放つマルシャにソルヴィンは少女に目をつける。

ソルヴィンは最初【ミルツェ】で刺したのではなく、自らの拳で少女を攻撃した。

それは最初から明確な殺意ではなく誘拐が目的だったのだろう。


「やめろッ!、その子に手を出すな!」

「やっと弱気になり始めましたかね。でももう遅いです。貴方はここで死に少女は神への供物になるのですから。」


ソルヴィンは微笑を浮かべそう言った。


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