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第三十六話 不穏

——ウォール森林——


「おじさん薪を拾ってきたの。」

「おう、お帰り!」

「おじさんは何してたの?」

「俺は窯作りだ。料理にも使えるぞ。」

「それは楽しみなの。」


シュンとフィーアがウォール森林に入る数日前、少女とマルシャは自然豊かな森の中で自給自足に近い生活をしていた。

肥沃な土壌で育った木の実を使用した食事は洞窟内での食事より栄養価の高いものであった。


今までは痩せ細っていたものの、バランスのとれた食事の摂取により健康的な容姿へと変わった。

また長かった銀髪を整え、肩ほどまでに留めた。


少女は今でも義母であるエディシンを心配していた。

エディシンがセファーラル率いる天使族に襲撃されても何も出来ない脆弱な自分に毎晩のように涙を流した。

だがそんな少女の心の支えになったのがマルシャであった。


マルシャは結婚しており愛する妻、息子と娘が1人ずつ()()

妻はリンカー、息子はエルシャ、娘はコスモスと言う。


リンカーはコスモスが生まれたあと亡くなってしまい、小さかったエルシャとコスモスは、母についての記憶は朧気としている。

エルシャは父であるマルシャを尊敬しており、父を目標に日々稽古に励んでいた。

コスモスはリンカーに似て無愛想であり、あまり父に懐くことは無かったが最低限の敬意は向けていた。


マルシャはそんな鎮具破具(ちぐはぐ)とした家族を愛していた。

自分は一生この空間を守りながら生活していく、と思っていた。

その時までは・・・、


その後、ある出来事を機にマルシャの家族は事切れてしまう。

マルシャは今でも後悔している。

あの時助けられなかった自分を憎んでいる。

選択を強いられ、自分が逃げなければ全滅していた理不尽なこの世界の運命を恨んでいる。


だからこそ境遇の似たこの少女には親近感が湧いた。

そして僅かだが表情の乏しい少女が時々コスモスに重なる時がある。

既にマルシャは少女を実娘(じつじょう)のように可愛がっていた。


「なぁレン、()()って呼んで良いんだぞ?」

「おじさん、薪はここに置いておくの。」

「無視しないくれよ・・・。」


少女はぶっきらぼうに振る舞うが、それが彼女の照れ隠しでもあった。

少女は捨て子である。

そのため実母も実父も知らない。

それでもエディシンが母替わりに育ててきたので寂しくは感じなかった。

だが父は結局居なかった。


自分が物心着く前に両親とは離れてしまったので捨てられたのか、何かに襲われ自分だけ生き残ったのかは分からなかった。

だが洞窟内で少女一人眠っていたのをエディシンに拾われたのである。


それからはエディシンが実母のように育ててくれた甲斐あって不自由な病に罹ることも無く生い育った。

不都合も無く生きてきた、そう思っていた。


それでも人の子である。

身体が成長してもまだ精神は脆い。

人間界では12歳で成人となるが、15歳の少女でも完璧に大人になった訳では無い。

そんな少女も父親の存在に憧れていた。


エディシンには口が裂けても言えなかったが、父と言われる存在が欲しく無いと言えば、それは嘘になる。

それでもただでさえ育てられているのに、これ以上迷惑をかけるのは傲慢な考えである、と子供ながらに自制したのだ。


だからこそマルシャとの生活は楽しかった。

マルシャの父のような人当たりに少女は直ぐに心を許した。

だが恥ずかしいのは変わりないので時々冷淡に扱ってしまうのが玉に瑕である。


「家の中でスープ作ってるの。」

「おう、火には気をつけろよ。」

「分かってるの。過保護過ぎるのはどうかと思うの。」

「それでも心配させろよ。レンは俺の()だからな。」

「・・・今日はコリアンピッグの肉を入れたスープにするの。」

「マジか!?よっしゃあッ!!」


ウォール森林にマルシャの歓声が響く。

コリアンピッグはウォール森林で遭遇する魔物で、強いと言うよりも希少性の方が高い。

中々お目にかかることが無く、何かしらの祝い事の席でしか公の場に出ることは無い。


マルシャの家ではコリアンピッグの肉を保存している。

だが保存しているといっても数は限られている。

マルシャはコリアンピッグの肉が大好物であるので、それを一日の食事で終わらせることもあったのだ。


それに見兼ねた少女はコリアンピッグの肉を規制した。

マルシャの健康を気にかけた結果である。


当然マルシャは反対した。

あくまでも家長の自分の食事内容が他者に決められるのは面白く感じなかった。

だが決めるのは紛れもない少女である。


実娘(じつじょう)のように接していた少女に心配されるのは悪い気がしない、寧ろ嬉しかったのだ。

家族を失ってから自分の身を心配してくれる者など居なかった。

そのため少女の決め事は表面上文句を言うも、内心嬉しかったのである。


(レンのお陰で俺も(すこぶ)る調子がいい。今日の昼食にはコリアンピッグの肉が入っているしな。幸先いいぞ。)


マルシャがこれからの未来に僅かな希望を抱いている時であった。


「ギギギギギギギイイイイィィ!!!」

「ッ!?」


耳を劈く声が森林内を轟かせた。

それを放ったのは()であり、そして驚くことに既知の存在であった。


「ワールドウッド・・・、なんでこんな所に。まさか()()のせいか!?」

「ギギギギィ。」


マルシャはワールドウッドがここに居るのは普通では有り得ないことだと思っていた。

確かにウォール森林の奥地はスティグマの森に繋がっていることは間違いない。

実の所マルシャもスティグマの森の出身であったのでワールドウッドは知っていた。


だが人が通れても魔物がスティグマの森を通ることは出来ない。

それはこの世界の理でありルールでもあった。

それが侵されている。

マルシャの中でこのような現象が起きている原因は既に明瞭であった。


()()ならこれくらいするのは容易い。

自分の仲間や家族を殺すよりも造作の無いことであろう。

マルシャは目的を瞬時に理解し拙いことになったと臍を噛んだ。

現時点の自分ではワールドウッドを駆除することくらいしか出来ない。

あの時の自分に力があればと切に思う。

そんな風にマルシャが悔恨の念に襲われている時であった。


「何の音なの?」

「レンッ、ここから離れろ!」

「え?」

「ギギギギギギギギギギィィ!!」


ワールドウッドの声に家の中から顔を出す少女にマルシャは離れるよう叫ぶ。

ワールドウッドはまた一人知らない人間が現れたと思っているだけであった。


それでもワールドウッドはマルシャの実力を()()()()で悟った。

この男に生半可な気持ちで手を出してはいけないと。

それならばこの少女を殺して養分にしてしまおう。


生物は死ねば自然と同化する。

それは自分の葉が落葉し土壌になったり、自分が殺した生物が土に還ったのを過去に見ていたので殺しさえすれば最終的に自分の養分になることは間違いないと思っていた。

そのためワールドウッドは少女に根で突き刺そうとした。


「きゃッ!?」


少女はいきなり襲ってくる根に怯え、目を塞ぐ。


「ギギギギ!!・・・ギギッ!?」


簡単に倒せると上機嫌だったが予想外の出来事が起きた。

攻撃したはずの根がマルシャによって抑えられていたのだ。


少なくともワールドウッドの根は一回り1mはあるのだが容易に対処されてしまった。

これには怒りや焦りと言うより、常軌を逸したことに唖然とするしかなかった。

だがそんな悠長な時間は無かった。


「おい。」

「ギッ!?」


マルシャの声に背筋が凍る。

今まで生きてきた中で経験したことの無いものであった。

生まれてからずっと強者の立ち位置にいた自分が本能で負けを認めている。

この男に逆らっては拙い。

お前に勝ち目は無い、と警鐘がなり続ける。

だが既に遅かった。


「お前レンに何手出してんだよ?」

「ギギギギ。」

「消えろ。」


マルシャがそう言い放った刹那、驚くことに口から火を吐いたのだ。

その火はワールドウッドの根に纏わりつくように燃え広がった。


「ギギギギギギギギギギギギィィ!!!」


熱い。

燃え盛る炎から逃れようと巨体を一心不乱に動かすが、全くと言っていいほど消えることがない。

それどころか動くことで空気にさらに触れ、今まで以上に燃え上がる。


「木炭くらいにはなるか。」

「なんだか可哀想なの。」

「優しいなレンは。」

「でも良質な木炭は欲しいの。」

「前言撤回だ。」


ワールドウッドが悲鳴を上げ、灼熱の業火に燃え続ける最中、少女とマルシャはくだらない話で盛り上がっていた。

少女は木炭でスープを作る気満々であった。


ワールドウッドは考えた。

このままでは全体に火が広がり、内部まで焼けてしまう。

そうなると体内にある【樹珠】まで焼けて割れてしまう。


【樹珠】は人からすれば国宝級の素材であるが、ワールドウッドからすれば核でもあった。

つまりこれが壊れれば死は免れない。

そうなる前に火を消し逃げなければ。

そこからのワールドウッドの反応は流石スティグマの森出身と言うべき動きであった。


「ん?」

「どうしたの?」

「いや、アイツに吐いた火が弱くなっててな。」

「確かに最初より弱いの。というか火が吐けるなんて知らなかったの。」

「龍人族の大抵のやつは火を吐けるからな。一応体内の魔力を元に放ってるから身体魔法の一つだ。」


龍人族は体内の魔力を媒介として火を吐くことができる。

これは元々備わってきたものなので、これといった名前はついていなかった。


普通魔法は詠唱のために名前を言わなければならないが火を吐くことに関しては言葉を放つ暇がない。

結局名前を言うだけ時間ロスになるし、効果が高まるといったことも無いのである。


それでも名前がついていないのは不便なので一応『爆炎砲(フレイムキャノン)』と仲間内で呼ばれていた。

マルシャは何となくダサいという理由で言うことは無かった。


そんな『爆炎砲(フレイムキャノン)』の威力は莫大である。

一度当たれば力尽きるまで燃えると言われている。

だが実際ワールドウッドの火は弱まっているふうに見えた。


「どうなってるんだ・・・。ってあれはまさか!?」

「どうしたの?」

「アイツ脱皮ならぬ脱樹(・・)をしてやがる!」


ワールドウッドは驚くことに自分の樹皮を脱いでいた。

あくまでも『爆炎砲(フレイムキャノン)』が覆われるのは表面上である。

それに気がついたワールドウッドは自分の樹皮を剥がすことに専念した。

それは結果正解で、見窄らしい容姿になってしまったが命には変えられない。


ワールドウッドはこれ以上この男を刺激するのは拙いと思い、最初の頃に比べれば圧倒的に減った根で地面を蹴りその場から逃走した。


「あ、くそッ!待ちやがれ!!」

「おじさんもういいの!」

「な、どうしてだ!、レンはあいつに殺されそうになったんだぞ!」

「それならおじさんが助けてくれたから気にしてないの。しっかりやり返したしちゃんと木炭も手に入ったの。」


少女はマルシャに助けられたことは純粋に嬉しかった。

父が子供を庇うような行動を見て心に安心感を持ったのだ。

それだけで少女は満足であった。

それだけで無くワールドウッドの脱樹した残骸が『爆炎砲(フレイムキャノン)』により木炭になっていた。

これでスープ作りも捗るだろう。


「レンがそう言うならいいけどよ。」

「うん、それで構わないの。そろそろスープを作りたいから木炭を集めて欲しいの。」

「・・・分かった、任せとけ!」


マルシャは納得こそ出来なかったが少女の微笑みに文句を言うのは無粋だ、と思い何も言わなかった。

その後も少女とマルシャはスープ作り勤しむのだった。


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——ウォール森林——


「この奥に彼が・・・。」


彼らを見失って1週間経ちました。

その間私は森の中をさまよい続け漸く足取りを掴むことが出来ました。

そもそも彼が生きていたことに驚きました。

一瞬目を疑いました。


セファーラル様に報告しようと思いましたが、命令では少女の排除でした。

その任が終わった後報告致しましょう。


()()()()()()()()()()()()とね。」


面白い、続きが読みたいと思われた方ぜひ評価、ブクマ、感想のほどよろしくお願いします。

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