第三十四話 油断
——ウォール森林——
「ギギギギギギ!」
ワールドウッドの根を使った猛攻が2人を襲う。
しかし、フィーアを抱えたシュンは歯牙にもかけずにそれを避けてゆく。
「ギギギィ」
「フィーア、立てるか?」
「う、うん・・・」
ワールドウッドが悔しそうにしている中、シュンはフィーアを下ろす。
フィーアは何処か名残惜しい気持ちを持ちつつも切り替える。
「ウェンドラゴンと同じでフィーアはフォローを頼む。ただ危険になったら避けろ。絶対に突っ込むな。」
「了解!」
シュンは前回と同様にフィーアにサポート役に就かせる。
だが今回は前回の反省を生かしてフィーアは下手に敵を刺激させずに回避を優先させた。
「行くぞノロマ!」
「ギギギギギギィ!」
シュンはそう言いながらワールドウッドに向かって走り出す。
ワールドウッドもそれに応えるように吶喊した。
「『激励』、『速度』、『硬質化』!」
フィーアはシュンに自分の出来る身体強化魔法をかける。
するとシュンに纏っていた紫のオーラが消えた。
恐らくワールドウッドのデバフ系魔法と相殺したのだろう。
「『激励』、『速度』、『硬質化』!」
フィーアは再びシュンに魔法をかける。
今度は淡い光がシュンを包む。
身体強化魔法は重複して使えないが帳消しされた今の状態なら再度使うことが出来る。
フィーアが自分にも身体強化魔法を使っていると、
ザッ、バキッ、ザッ、ボキッ
シュンは左の腰からロングソードを取り出し、攻撃してくる根を切り落としてゆく。
ロングソードの切れ味は鋭く刃こぼれも全くしていない。
シュンは鍛冶師のマルクスからこのロングソードを貰った時のことを思い出していた。
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——ロステルラッテ 工業区 鍛冶屋店内——
「——坊主これがお前の相棒になる剣だ」
「これが俺の・・・」
シュンは既にマルクスに文句を言うのをやめていた。
マルクスに再三注意してもシュンを坊主と呼ぶことはやめなかった。
マルクスはシュンのことが気に入っていたので愛称を込めて読んでいたのである。
結局言う側も無駄に体力を浪費するだけだったので諦めてしまったのだ。
因みにシュンはマルクスを「チビジジイ」と読んでいた。
お互い様である。
チビジジイことマルクスから貰ったロングソードは灰色をしていた。
だが色褪せぬ事のない光沢とシンプルだが華々しさも持ち合わせていた。
そして何より目がいったのはこの剣の鍔の中心に青く煌めく珠が埋め込まれていたのである。
「チビジジイ、この青いのはなんだ?」
「それは鍛造の過程で埋めた【竜玉】だ」
【竜玉】は竜の体内で生成されるもので言わば〝魔力の蔵〟だそうだ。
竜はそこに魔力を収蔵し技を放つ。
だが【竜玉】を持つ竜は極めて稀でほんのひと握りしか存在しない。
それこそ竜の中でもトップクラスの猛者しか持つことがない。
それもそのはずで魔法を使える竜が少ないからだ。
今回倒したウェンドラゴンも竜種の中でも無類の強さを持っていた。
ウェンドラゴンが纏っていた瘴気も、吐いたブレスも全て【竜玉】に蓄積されていた魔力が元である。
「そんな【竜玉】には特殊な効果があってな、それが『吸収』だ」
「『吸収』?」
マルクス曰く、『吸収』は魔力を吸引し武器の威力を引き上げることが出来るそうだ。
自分の魔力を直接注いでも良し、相手の纏うオーラ、すなわち魔力を取り込むも良しである。
溜まった魔力は様々なことに使うことが出来るらしい。
「例えば何が出来るんだ?」
「そうだな、例えば——」
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「——『吸収』!」
シュンは自らの魔力を剣に注ぐ。
これは対象に自分の体内の魔力を入れていくイメージを構築出来れば可能である。
一応高レベルな技術だがシュンからすれば赤子の手をひねる程度であった。
魔力を帯びた剣は淡く光っている。
そしてシュンは放つ。
「『ウェンソードレイ』ッ!」
シュンがそう言うと剣の穂先から光の光芒が放たれた。
それはワールドウッドの幹を切断する。
「ギギギギギギギギャャャャャャャ!!!」
ワールドウッドは聞くに耐えない叫び声を上げる。
どうやらかなりのダメージを受けたようだ。
それでも今の攻撃なら普通の魔物は一撃で消滅しているだろう。
シュンの放った『ウェンソードレイ』は圧縮した魔力を剣の穂先で放つ、つまりレーザー光線である。
剣の名前は【ウェンソード】と名付けられ、そこに光線の意味を持つレイを付けただけの技名だった。
安直な名前にフィーアもマルクスも若干引いていたが、名付け親の本人は満更でもないようだった。
【竜玉】に魔力を注げばこのような技を放つことが出来る。
それは技を使う者の裁量で決まるので、発想の限り無限大である。
「ギギギギギギィ」
「流石の巨木も『ウェンソードレイ』は辛かろう。今楽にしてやるぜ?」
シュンは楽しそうに嘲笑う。
先程まで一方的に攻撃してきたワールドウッドだが、いきなり形勢逆転したので焦燥に駆られる。
だがここで終わるほどワールドウッドも弱くなかった。
シュンが再び【竜玉】に魔力を注ぎ『ウェンソードレイ』を放とうとした時、ワールドウッドに異変が生じた。
「なッ!?」
なんとワールドウッドの幹が修復されているのである。
シュンは『ウェンソードレイ』を放つことをやめ、その光景をじっと観察する。
(アイツ、回復してるな・・・)
ワールドウッドは今まで剥き出しだった根を地面へと
穿孔した。
すると幹が淡緑に光り、それを覆うように淡青に輝き出した。
上を見ると葉が淡青色に染まっている。
ここで合点がいった。
ワールドウッドの持つ『養分吸収』、『光合成』の効果である。
これでHPとMPを回復しているのである。
HPは先程のシュンの攻撃で回復していると理解する。
そしてワールドウッドのMPは高くない。
シュンとフィーアにデバフ系魔法を放ち、魔力が窮乏化していたのだ。
そこで『光合成』を使用して回復したのだろう。
シュンもこの現象を止めるために大きい技を放ちたいと考えた。
だがそう上手くいかない。
『ウェンソードレイ』を再び放つのもいいがそれには制限がある。
【竜玉】は利便性の高いもので国宝級のものである。
だがそれにも限りがある。
無尽蔵に魔力が湧き出るものでも無く、当然収容量が存在する。
収容量は1回につき1000MP貯めることが出来る。
しかし魔力を注げる回数は一日に3回であると事前にマルクスから聞いていたため、考え無しに放つことは気が引けたのだ。
魔法を放つにしてもシュンの場合威力がピンキリである。
魔系を放つにしても威力が大きすぎるし、フィーアから教わった魔法は決定打に欠ける。
そうこうしているうちにワールドウッドは全回復してしまった。
「ギギギギィ! 『※※※※』!」
ワールドウッドは再び魔力を練り、シュン目掛けて魔法を放つ。
「なんだ? んッ!?」
シュンに紫色のオーラが纏わりつく。
それはデバフ系魔法とは違い、シュンの周りを漂っていた。
まるで幽霊や火の玉が夜道を揺蕩うように。
するとシュンに異変が起きた。
胸が苦しい。
息ができない。
脳に酸素を運ぶため心臓の鼓動が早まる。
(な、なんだ、これ・・・!)
いきなり呼吸困難に陥り膝から倒れる。
必死に息を吸うが何かに阻まれているように酸素を供給できない。
その様子をワールドウッドは見て愉快そうに葉を揺らしている。
暫くして涙やヨダレが出始め意識が飛びそうな時であった。
「『大回復』!」
「はぁ! はぁはぁ・・・」
「大丈夫、シュン?」
「すまん、フィーア。」
「良かった!いきなり倒れるんだもん。」
フィーアの回復魔法で峠を超えたシュンは悔しそうな表情をする。
完全に見下していた相手に殺されそうになったのだ。
恐らくワールドウッドの使った魔法は『デススラッシュ』だろう。
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『デススラッシュ』
使用MP 400
かけた対象に低確率で即死効果を与える。
怒り、苦しみ、悔やみ、恨みの念が強ければ強いほど効果が高まる。
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先程はMPが窮乏していたので使えなかったが、『光合成』でMPを回復したのでシュンに対して使うことが出来た。
さらに挑発での怒り、『ウェンソードレイ』での負傷による苦しみ、思うように攻撃が当たらない悔やみ、シュンが存在するせいで倒されそうになっている運命への恨みが混同したので『デススラッシュ』の効果は高まったのである。
ワールドウッドは目を疑った。
過去に『デススラッシュ』を使い、即死効果が付与された時に復活することなど見たことないからだ。
フィーアの唱えた回復魔法、『大回復』
は回復系統の魔法でも上位の効果を持つもので、使用出来る術者は少ない。
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『回復』
使用MP 100
かけた対象のHPを30%回復する。
かすり傷や擦過傷等を癒す。
応急処置の解毒効果がある。
呪術の解除は出来ない。
『大回復』
使用MP 300
かけた対象のHPを70%回復する。
『回復』同様、かすり傷や擦過傷等を癒し、四肢欠損や解毒、即死魔法の打ち消しも可能である。
しかし、呪術の解除は出来ない。
『手当』
使用MP 30
痛覚は消せないが消毒・止血は可能。
応急処置の解毒効果もある。
呪術の解除は出来ない。
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今回フィーアはシュンが戦っている間にワールドウッドの情報を整理し、『デススラッシュ』の効果を見ていたのですぐさま『大回復』で即死効果を打ち消すことに成功した。
シュンも『デススラッシュ』については目を通していたし、『大回復』が即死効果を打ち消すことも知っていた。
しかし実際『デススラッシュ』を食らうと声を出すことが出来なくなったのだ。
これでは『大回復』を唱える所か助けすら呼ぶことが出来ない。
それでもフィーアが瞬時にシュンの危険を察し、回復魔法を唱えたので今回は大事に至らなくて済んだのだ。
(チッ、一人なら死んでたな・・・)
シュンはキャサリンとの模擬戦の時もそうだが、油断をしている時に足元をすくわれることがあった。
全てはシュンの未熟が招いたことである。
(反省は後だ、今はコイツを殺す)
いつまでも過去の柵に囚われていては居られない。
反省は後でも出来る。
そう切り替えると少し冷静さを取り戻した。
どうやら少々昂奮していたようだ。
「その、なんだ、ありがとな、フィーア」
「え?」
普段礼などしないシュンが素直にフィーアに感謝する。
フィーアも豹変してから殆ど言われたことの無い素直な言葉に呆気に取られてしまう。
「ほ、ほらコイツを殺すぞ!」
「う、うん!」
殺伐とした言葉とは裏腹に、照れているのは傍から見れば一目瞭然であるがフィーアはそれを伝えなかった。
素直に礼を言われるのは悪くない。
ましてや好きな人からの礼である。
恥ずかしさを隠しているのがフィーアの庇護欲を擽られいっそう暖かい気持ちが湧き上がった。
「おい朽木」
「ギギギ?」
「さっきはよくもやってくれたな」
「ギギ」
「だがな・・・」
「ッ!?」
シュンから湧き出る膨大な魔力にワールドウッドは怯む。
「これからが本当のゲームの始まりだ」
シュンはそう悪戯する子供のように笑った。
活動報告にも上げましたが改稿した点があります。
文量調整のため、
第五話と第六話
第七話と第八話
第十一話と第十二話
第十三話と第十四話
最初の閑話と次の閑話
第二十話と第二十一話
を合わせました。
内容に一切変化はありません。
既にお読み頂いた方々にはご迷惑をおかけしましたことお詫び申し上げます。
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また初めてレビューを頂きました!
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これからも破者と勇者をよろしくお願いします。
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