第三十三話 犯人
——ウォール森林——
その巨木は一言で言えばトレントであった。
この森林で植物が動くという事例は過去に無い。
今回情報収集でも先程のマッハビー、スナイパーホックスなどの動物や昆虫が関の山であった。
勿論、植物型の魔物はこの世界にも存在する。
有名な植物は「フラワーバイト」と呼ばれるものだ。
フラワーバイトは美しい花弁で生物を魅了し、近づくものを花弁で覆って喰らうのだ。
ポピュラーな魔物で、上手く倒すことが出来れば【フラワーバイトの花】として鑑賞することも出来、漢方薬として使われることもある。
主に魔界の他の森や、特に獣人界に生息している。
だが獣人界は他の種族と距離を取っているため、それらの花が市場に出回ることは滅多にないのだった。
そして植物型の魔物はこの森には存在しない。
だからこそ、目の前に10mほどある大木が根を張って闊歩しているのは有り得ないのである。
闊歩している巨木をシュンとフィーアが観察していると、その木はある行動をし始めた。
「「ッ!?」」
巨木は自分の根を穴に突き刺したのだ。
すると今まで地面は黒土であったが赤黄色土になっていた。
予測するに栄養分を吸収していると思われた。
暫くすると根を土から引き抜き、向きを変え再び元来た道を歩き出した。
シュンとフィーアはあの大きさからして気づいたが、視界が高く背が高いため、小さいシュンとフィーアには気づいていないようである。
あまりにも不気味な行動になかなか動き出せないが、今回の事件に関わってると思って良いだろう。
つまりここであの巨木を倒さなければならない。
だが問題もある。
あの巨木は何なのかということである。
この森にあのような生物は存在しない。
つまり何か原因があってこのような自体を引き起こしているのである。
ただ倒すといってもどれほどの相手なのか皆目見当もつかない。
それでも油断してはならないとシュンとフィーアの脳内では警鐘を鳴らし続けていた。
「シュンどうする?」
「まずはアイツについて調べる」
「どうやって?」
「まぁフィーアはここに居てくれ。危なくなったら叫べ」
「う、うん、分かった」
(『気配遮断』)
「あれ、シュンどこ?」
現在シュンは補助スキル『気配遮断』により存在感を消していた。
そのため近くにいたフィーアは隣にいたはずのシュンがいきなり消えたふうに見えたのだ。
以前シュンのクラスメイトのシズクがケンとサトシから逃げるために『隠密』を使ったがあれは〝スキル〟であるためMPを使用する。
当然シュンは所持していない。
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『隠密』
使用MP 50
かけた対象の存在感を消す魔法。
制限は無いが一人につき一回であり、当然MPが尽きたら使えない。
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因みに『気配遮断』には相手にも効果がある。
つまり、シュンとフィーアは最初からこの魔法を使っていれば敵に襲われることなどなかったのだ。
しかし『気配遮断』を他人と共有するには〝他人との身体接触〟が必要であり、それを聞いたフィーアは、
「まだ無理・・・」
と小声でシュンに訴えた。
効率重視のシュンの頭には無数の〝?〟マークが浮いていたのだった。
さて『気配遮断』を発動し、見つからないように巨木へと接近する。
そして茂みへと移動し巨木を凝視する。
「『真視』」
シュンがそう唱えるとステータスが眼前に現れた。
◇◆◇◆◇
ワールドウッド 年.? ?
<ステータス>
HP 2000/2000
MP 500/500
攻撃 450
防御 350
速度 220
的中 230
幸運 250
<スキル>
『弱体化』
『遅効』
『不運』
『デススラッシュ』
<補助スキル>
『総合強化』
『養分吸収』
『光合成』
<解説>
地属性。
出現地はスティグマの森。
パラメーターは攻撃にやや偏り、速度と的中は低い。
デバフ系の魔法と即死系魔法『デススラッシュ』を使用する。
補助スキルには『総合強化』があり身体強化魔法をノーコストで使用出来る。
『養分吸収』と『光合成』の組み合わせで特殊技を使用出来る。
◇◆◇◆◇
(スティグマの森か・・・)
シュンはスキル『真視』を使用して巨木こと「ワールドウッド」のステータスを覗いた。
『真視』は相手のステータスを見ることが出来るもので、魔物を見る時には人にあった<称号>が<解説>に変化しその魔物の特徴を知ることが出来る。
このことはこの森で先程使用済みで既知だったため早速役に立ったのである。
ワールドウッドのステータスは普通の人なら相手にならないほどの強さを持っていた。
何よりも気になった点はスティグマの森である。
シュンはスティグマの森の知識は既にあった。
そもそもこの世界の地理、人間界は例外だがロステルラッテで生活していた時に学習していた。
魔界は人間界の情報が神(悪魔)によって遮断されているようなものなので人間界の地理は知ることが出来なかったが。
そして、勉強していた時に聞いたのがまさにそのスティグマの森である。
スティグマの森、通称「死の森」。
魔界の北にあるこの世界最大の森林と言われ入るものは必ず生きて帰ってこないと言われている。
またこの奥には未界と呼ばれる土地があるらしい。
シュンは聞いた時に不思議に思った。
誰もこの森には入れていないのだ。
なぜ世界最大の森林や未界があると言えるのか。
これは第三者が介入していると考えていいと思っていた。
そう、神(悪魔)である。
シュンの見立てでは未界には何かがあると思っている。
それに行かせないように強力な魔物が犇めく場所になったのだと予想できた。
何か知られたくないことがあるのだろう。
だがいくつか疑問が残る。
何故わざわざ御伽噺のように未界の存在をこの世界の住民に知らせたのか。
もし神(悪魔)に関係あることならメリットになる要素が思いつかない。
そしてワールドウッドである。
なぜスティグマの森に生息するワールドウッドがこの場にいるのか。
もしかしたらウォール森林の奥地はスティグマの森に繋がっているのかもしれない。
そこから流れてきたとしたらここにいるという辻褄が合う。
だがなぜこの場所に流れてきたのか。
なぜ養分を吸っているのか。
これは全てこの巨木の犯行なのか・・・
(——ダメだな、疑問は腐るほどあるが全く分からない)
シュンは考えることをやめた。
やめた理由は一つだけ確かなことがあったからだ。
それは・・・、
(『気配遮断』解除)
「!?」
「フィーア、こいつを潰すぞ!」
「了解ッ!」
シュンは『気配遮断』を解除し、フィーアに自分の居場所を知らせる。
ワールドウッドはいきなり現れたシュンに驚きが隠せない。
だがスティグマの森出身だけあってすぐに落ち着きを取り戻した。
シュンが分かったことはワールドウッドが今回の土壌成分損失の首謀者であるということ、つまり目標であるということであった。
「やっと気づいたか朽木。図体がデカイのは飾りだけだなノロマよ」
(始まったよ・・・)
ワールドウッドは静かに怒る。
言葉は理解出来ないが自分が馬鹿にされているのは理解出来た。
こいつは自分を見下していると。
「ギギギギギギィ!カンカンッ!!」
「なんて言ってんのか分かんねぇよ。火の用心か?」
「火の用心?」
ワールドウッドは威嚇の代わりに自分の根を拍手のように叩いた。
だがシュンにはその光景は拍子木で打ち合わせて出た高い音が反響しているようにしか見えなかった。
「ギギギギギギギギギギィィ!!!」
「ははは、もっと怒れッ、憎めッ、恨めッ!!」
(どっちが悪役か分かんないよ・・・。でも強気なシュンもカッコイイ・・・)
シュンはワールドウッドの視野を狭めるため挑発を続ける。
その姿はまさに王道の魔王そのものであった。
フィーアはそんなシュンの姿に魅了されており、既に〝シュン症候群〟の患者の一人であった。
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「『※※※※※※※※』!」
「「!?」」
ワールドウッドは聞いたことも無い音を発した。
するとシュンとフィーアは紫色に光り、脱力感に襲われた。
「これはデバフか!」
「デバフって何?」
「デバフ系統はパラメーターを下げるんだ。つまり弱くなるってことだ」
「何それッ!?」
デバフはRPG用語のためフィーアには聞き慣れない単語であった。
簡単に言えば能力低下魔法である。
現在シュンとフィーアの攻撃、防御、速度、的中の全てのパラメーターが減少していた。
(チッ、厄介だな・・・)
シュンは内心舌打ちをしつつ、先程のステータスを確認しスキル説明を開く。
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『弱体化』
使用MP 50
この魔法をかけられた者は攻撃・防御が25~50%減少する。
『遅効』
使用MP 50
この魔法をかけられた者は速度・的中が25~50%減少する。
『不運』
使用MP 100
この魔法をかけられた者は幸運が20%減少する。
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どうやら全てのパラメーターが減少したのは間違いなさそうであった。
そして僅かであるがワールドウッドの樹皮に光沢が出ていた。
「アイツ補助スキル使ったな」
「何か分かったの?」
「フィーア、お前もこれを見ろ。交換」
「スティグマの森って・・・、えぇ!?」
「らしいな、だがまずはスキルを確認しろ。アイツが光ってるのは『総合強化』が怪しい」
フィーアは震えながらワールドウッドのスキルについて調べる。
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『総合強化』
自分の幸運以外のパラメーターを30%引き上げることが出来る。
『養分吸収』
土の養分を摂取することでHPを回復出来る。
質量で回復量が変わる。
『光合成』を所持している場合、※※※※※※※※※※※。
『光合成』
太陽光を浴びることでMPを回復出来る。
雲量で回復量が変わる。
『養分吸収』を所持している場合、※※※※※※※※※※※。
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「スティグマの森とかツッコミたいところはあるけど今私が気になってるのはココよ!」
「言いたいことは分かるが、そこに入るのは多分技だ」
「技?」
見せてもらったステータスで補助スキルについて見ることが出来た。
だが『養分吸収』と『光合成』の最後が分からないままであった。
だがシュンはそこには技が入ると言う。
「何で技って分かるの?」
「しっかり見ろ。って待ってくれないか・・・」
「きゃッ!」
シュンとフィーアが無駄口を叩いているとシュンとフィーア目掛けて尖った根っこを刺してきた。
シュンはフィーアを抱えて避ける。
(また助けられた・・・。この気持ちってまさか・・・)
「おい、しっかりしろ。次が来るぞ」
「ふぇ?」
「はぁ・・・、最近どうしたんだ・・・」
咄嗟に抱えられ赤面するフィーア。
シュンは強敵が目の前にいるのにフィーアがいつもの調子で、完全に気が抜けてしまうのだった。
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