第三十一話 皮肉
——セック場 門前——
セック城はロステルラッテ城と比べて一回り小さく設計されている。
これは王が民を信頼し、また民が王を信頼しているため少ない守護で事足りているのだ。
それでも最低限堅牢な砦や要塞で守りを固めているのは建前上必要なことである。
シュン達は宿を取る前にセック王ことロンニーに謁見に来たのだった。
眼前には門番が2人警護に当たっている。
「そこの者達止まれ。ここからの立ち入りには許可がいるぞ」
「許可か、一応ロンニーさんに会いに来たんだが」
「き、貴様、陛下にそのような言葉遣いは不敬罪に当たるぞ!」
シュンは以前ロンニーから武術を教わっていた。
ロンニーは文武両道を心掛けていて、気が向くと部下に伝えずお忍びで武術の稽古をロステルラッテの訓練場で行っていた。
その際シュンと会い意気投合して師弟という程ではないがシュンに武術を指導していたのだ。
「シュンよ、是非また貴公の成果を見せて欲しい」
「り、了解しました」
血を飲む前のシュンは誰にでも敬意を示していたため、礼儀を重んじるロンニーはシュンのことを気に入っていたのだった。
それならシュンの待遇は丁重に扱われるはずである。
しかしは門番は予想外の言葉を放った。
「お前達を連行させてもらう」
「はぁ!?」
門番はシュン達が怪しいものだと考え捕らえることに決めたようだ。
当然シュンは納得出来ない。
「せめて王に俺の事を伝えろ。シュンと名乗る者が謁見を望んでいると」
「それも含めて話は後で聞こう。今は付いてこい」
「チッ、案内しろ」
「生意気なガキだ。素行の悪さからスラム育ちだろう」
舌打ちを打つシュンにフィーアが小声で聞く。
「いいの? そんな素直に言うこと聞いて」
「俺達が連行されたと聞いたらロンニーさんが黙っちゃいない。こいつらにも相応の罰が下るだろ」
「うわー、シュン性格悪・・・」
フィーアはシュンの思惑に引きつつもシュンはお構い無しにほくそ笑むのだった。
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——セック城 地下牢——
「やっぱりおかしい」
現在シュンは投獄されていた。
フィーアとは別の牢屋に入れられて武器や防具は外されている。
魔法も手錠の効果により掻き消されてしまっている。
牢屋の中から辺りを確認すると、シュン以外にも何人かの囚人が収容されていた。
皆、強面で悪人面が染み付いているようであった。
(連行されるとこまでは分かったが投獄されるとは思っていなかったぞ・・・。フィーアもここには居ないしな)
フィーアはシュンとは別の所に連れていかれた。
フィーアのことだから死ぬことは無いと思うが憂慮しない訳では無い。
シュンがフィーアを心配しているとき、階上から2人の兵士が降りてきた。
「おい、そこの青髪!」
「あぁ?」
「う・・・、へ、陛下がお呼びである。着いてこい」
シュンが兵士にメンチを切ったことで兵士は怯んでしまったがなんとか要件を伝えることはできた。
(本当にどうなってんだこの国は・・・)
明らかに普通ではない。
〝順境国〟と呼ばれるセックがここまで囚人を収容し、ましてやこんな悲惨な環境に置いておくことなど何かあるとしか思えない。
シュンはまた面倒事に巻き込まれるのかと内心悪態をつきながら兵士達に付いていくのだった。
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「すまなかった。」
「へ、陛下、頭を下げるなど・・・」
「黙れ、彼らは私の客人だ」
「も、申し訳ございません!」
ロンニーはシュン達に頭を垂れたが、一国の王が軽々しく頭を下げるのは体裁が悪いと言わんばかりに側近が止めようとする。
しかし、それを威厳ある声で諌めたのだった。
「とりあえず服を着ていいか?」
「あぁ、別室に案内せよ」
「ハッ!」
シュンは防具を全て没収されていたので薄い布地を着用しているだけだった。
流石に肌寒く感じるのもそうだが、一国の王の前で見窄らしい佇まいは如何なものかと思ったのだった。
そしてしばらく経った後、フィーアもシュンと同じように元の格好に戻ることができた。
シュンとフィーアが別れていたのは仲間内で情報を収集させないようにという魂胆であった。
2人が身だしなみを整え、漸く王から本題を聞くことが出来る。
「それで俺を投獄したのはどういう要件だ?」
「その前にお前は本当にシュンなのか? 微かな面影はあるが・・・、姿と口調が一致しない」
「あぁそうか。そうだな、ロンニーさん以外の人を下がらすことは可能か?」
「こいつ以外は大丈夫だ。安心しろ。こいつは私が一番信頼している部下で付き人だ」
ロンニーは先程諌めた男を説明した。
彼の名はヨワン=ハーバーと言い伯爵である。
しかし伯爵ではあるが領地は持っていない。
爵位は側近になるためだけで権力も領地も彼自身には必要なく、ただロンニーの忠実なる部下であるための飾りであった。
シュンはロンニーがここまで信頼しているならいいだろうと思い他を下がらせた後魔法を使う。
「『偽装』」
「「ッ!?」」
シュンは青髪碧眼の姿から日本人特有の黒髪黒目に姿を変えた。
身長も少し縮み、筋肉質な肉体が少々萎む。
頭の両脇から生えていた角も霞んで見えなくなってしまった。
まさにその姿はロンニーが最初に対面したシュンであった。
ロンニーもヨワンもシュンの豹変に、驚きが隠せない。
ヨワンに至っては今にも切りかかる勢いであった。
「人間めーー!!」
勢いそのままに抜刀しシュンに切りかかる。
シュンはそれを軽く躱し、ヨワンの脇腹に正拳突きを食らわす。
「ぐふッ!」
ヨワンは3mほど飛び、意識を失わせた。
「いきなり切りかかる奴がいるか」
「その捌きを見るに私が教えた通りだな」
「だから俺がシュンって言ってんだろ」
「あの謙虚さはどこに行ってしまったのか・・・」
「私が説明申し上げます」
眉間に皺を寄せて訝しそうに嘆くロンニーにフィーアがシュンの豹変振りを説明する。
シュンが1ヶ月のデスマーチを乗り切り、初代魔王【グリフィルの血】を飲用したこと。
それにより容姿が変化し、性格にやや変化が見られたこと。
それでも身体能力の向上や莫大な魔力の保有など恩恵もすくなくなかったこと。
「そういうことか、武術ではまだ私が上だが全力でぶつかれば正しく私が負けるだろうな。〝青は藍より出でて藍より青し〟とも言うが早すぎたな」
ロンニーは武術では負けていないと思っても魔法まで加えるなら今の自分では到底シュンに適うまいと思った。
師弟のような関係だったため、弟子に二ヶ月ほどで抜かれてしまったのは師として不甲斐ないばかりであった。
「ロンニーさんには悪いと思ってるが口調は勘弁してくれ。もうまともに敬意を表すのも大変なんだ」
「なら呼び捨てでも構わん。師弟のような関係でも私とお前の仲ならそれもいいだろう」
「いいのか?」
「ははは、構わんさ」
意外な反応に拍子抜けしてしまう。
だが実際、魔王特有の血で謙譲して物事を伝えるのは性に合わなかったので渡りに船であった。
「悪ぃな、ロンニー」
「対等で呼び会える存在は少ないからな。私も友人が欲しかったのだ」
ロンニーは人が良いのでタメ口といった些細なことを気にすることはないのだった。
「それでこの状況はどうなってんだ?」
「うむ、手伝ってくれるなら褒美もあるぞ?」
「・・・、内容と報酬によってだ」
「ははは、そうかそうか。それでは内容を話すか。それはだな——」
現在セックはある産業において打撃を食らっていた。
農業、特に果物である。
この国の農業はウォール森林の近くで集約的に行われている。
肥料が少量で済むほどの肥沃な褐色森林土に、混合農業を採用している。
混合農業は簡単に言うと小麦、家畜、牧草地をサイクルさせ効率的に収穫していく農業である。
肥沃な土地をうまく活かしたやり方で毎年豊作であった。
しかし、去年から凶作に見舞われているのだ。
それを調べた結果、土壌の有機成分が著しく低下していることが分かった。
これは今まででは有り得なかったことである。
そのことから人為的ではないかと特定された。
その事が公に広まったら国民の反感を買い暴動などが起きて治安悪化は言うまでもないだろう。
さらに、作物が不作に陥ったことで物価が高騰し、人々が生活しづらくなっているのだ。
これは「順境国」と呼ばれるには早急に対処しなければならない。
だからこそ秘密裏に犯人を探すため不振な者を片っ端から投獄させているそうだ。
(やり方が極端だろ・・・)
シュンは事情聴取もせずに強制的に牢に収容するのは少し横暴ではないかと感じてしまう。
そのことを王に言うと複雑そうな顔をして答えた。
「私もやり方は悪いと思っている。だが「順境国」と言われるだけあって犯罪事には少々疎い。だからここまで大きな問題となり犯人を探すとなるとうまく処理が行えんのだ。今回シュン達を投獄したのは本当に申し訳なく思っている。だからこそ無実な者を捕まえないようにいち早く犯人を探したいのだ」
セックは「順境国」と呼ばれるだけあって目立った問題事が起きないため平和である。
そのため緊急事態にうまく動くことが出来ないのであった。
平和であるが為に自らの首を絞めるといった皮肉極まりないことになっていたのだ。
「つまり俺たちには犯人を探して欲しいと?」
「そういうことだ。どうだ、やってくれるか?」
「普通なら断るが・・・、ロンニーには色々教わったからな。恩返しするのもたまにはいいだろう」
「やってくれるか!?」
「報酬はしっかり貰うがな」
「構わん。犯人を捕まえてきてくれ」
「任しとけ。行くぞ、フィーア」
「うん!」
武術の指南に報恩するために、面倒事は極力避けるシュンであったが、今回は自ら嵐の中に突っ込むのだった。
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——ウォール森林——
「着いたぞ、起きな」
「——・・・ん」
少女が目を開けマルシャの背中から降りると、眼前には小さいログハウスがあった。
そこにマルシャは入っていく。
どうやら着いて行った方が良いのだろう。
「お邪魔しますなの」
「ようこそ、俺の隠れ家へ」
室内は最低限の生活できるような家具や設備しか存在しなかった。
だが窓から入る陽の光と木の香りはどこか少女の心を安心させるのだった。
「嬢ちゃんはそこの席に座りな。」
「で、でもおじさんが・・・。」
「おじさんは立ってるだけでいいから。」
「分かったの」
少女は遠慮しつつも、1つしかない椅子に腰を下ろす。
「それじゃあ嬢ちゃん話を・・・」
グゥー
「「・・・・・・」」
マルシャが少女に詳しく話そうとした時少女の腹の虫が泣き始めた。
少女は顔を林檎のように赤らめてしまう。
「ご、ごめんなさいなの・・・」
「ははは、生きてる証拠さ。そうだな、話は飯を食いながらにしようぜ」
「で、でも」
「まぁ任せてくれよ。俺はそんなに料理が得意じゃないが男メシを披露してやるよ」
少女はマルシャに申し訳なさそうにするが、マルシャは快活に不安を払拭させるのだった。
「なら私も手伝うの」
「嬢ちゃん料理出来んのか?」
「うっ・・・、お、お皿くらい出せると思うの」
「ならそこの棚に入ってるパンを机に置いてくれ」
「分かったの」
少女は言われた通りに壁際の棚からパンの入ったカゴを机へと置く。
しばらくすると鼻腔をくすぐるいい匂いが部屋中を充満し始めた。
「出来たぞ!」
「美味しそうなの!」
マルシャのスープはどの野菜も不格好に切られ、乾燥肉は乱雑に切断されている。
それでも見てるだけでなんだか心が暖かく感じるのだった。
全ての支度が完了し2人は席に着き、パンやスープに手をつけ始める。
「美味しいの!」
「それはよかった!」
すると少女の目から涙が溢れ出した。
「うぅ・・・、ヒック・・・、」
「ど、どうした!? やっぱり不味かったか?」
「ち、違うの・・・、お母さんが・・・」
少女は不安であった。
龍は強い。
ましてや一番近くで自分の母親の勇姿は見てきた。
それでもそんな母親の必死な形相は初めて見たのだ。
それほど危険な相手である。
そんな輩と一人で争っている中、自分は悠々自適と食事をしている。
悲しくて悔しくて堪らなかった。
(嬢ちゃん・・・)
マルシャは少女を慰めることも叱ることも何も出来ずに少女を見守るだけであった。
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