第二十八話 思惑
※遅れて申し訳ありません。
午前0時にも更新予定です。
——ラリト国 宿屋内——
「それでこれからどうする?」
「そんなに急いでる訳じゃないし観光とかどうよ?」
「でもコトミ、この国そんな楽しめる場所ないよ?」
「そなの?」
「ラリトはね——」
鉱物の国ラリト。
人口は200万で人間界の大国で一番人口数の少ないくにである。
当然一番は帝国ラトスフィアであり、その数は1500万人である。
この国は西にグラガ山脈があり、そこから多種多量の鉱物が発掘されることからその名がついたとされている。
国庫金はこの鉱物を他国などに輸出することで賄っており、工業などが盛んである。
そのため質の良い武器や防具などが数多く取引されており、冒険者が多く集まる国でもあった。
だが観光地と言うには程遠く保養地などは片手で数えられる程しかなく、せめてグラガ山脈の一部が火山であるためその地熱を利用した温泉が有名くらいなものだろう。
「温泉かー、いいかもね」
「ミク行こうよ!」
「まぁ温泉くらいならいいかもね。でもいつグラガ洞窟の龍を倒しに行くか具体的に決めてからね」
「はーい!」
彼らはラトスフィアの貴族派から一つ依頼を請けていた。
それがまさにグラガ洞窟の龍退治であった。
グラガ洞窟は生息する生物のレベルが高いため、民間人は洞窟の入口に近寄ることすら出来ない。
そのため洞窟には近寄らずに登山するものが多いのだ。
ではなぜ龍退治をすることになったのか。
それは洞窟を魔界突入へのルートにするためだった。
確かに洞窟内を通って魔界に行くルートは、山越えをして魔界に行くより断然時間が短縮される。
しかし、洞窟内はグラガ山脈を登るより危険性が高い。
そしてその洞窟内で一番の脅威は龍であった。
他の魔物も危険ではあるが龍程ではなかった。
まずはこの龍を退治しなければ魔界になど突入できない。
当然山越えをすれば魔人、人間界では魔人と呼ばれているのだがそれと争わなければならない。
その被害を考慮すれば矢庭に決断できるものでは無い。
現状、泥沼化しつつあったのだ。
しかしここで勇者介入である。
勇者であれば龍を倒すことが出来る。
もちろん勇者1人では出来ないであろう。
それでも三矢の教えというものがある。
1本で折れてしまう矢でも3本あれば折るのも容易ではない。
それが10人ではどうか。
これを考えた貴族派は騎士派に秘密裏に彼らに龍討伐を依頼した。
貴族派が騎士派に内緒にしたのは諍いを起こさないためである。
騎士派は魔人と戦争するのは悪くないことだと思っているし、寧ろ魔人は悪であるとさえ思っている。
それでも異世界から来た無関係者を危険な目に遭わせるのは良心の呵責に苛まれるきらいがあったのだ。
そんな綺麗事を並べるのは詭弁だと思っていても考えないでいられるのは難しかったのだった。
だからこそ最低限無茶はさせずに穏便に戦争を集結させる方法を模索していたのだ。
しかしそんなことは貴族派が許さない。
彼らは神を崇拝する敬虔な信者である。
そんな彼らが魔人に負けることは愚か、戦争に勝つことに手段など選んでいられない。
利用できる駒は使えるだけ使うと決めていたのだった。
斯くして、騎士派と面倒事を起こさないように、秘し隠しながら冒険者志願した勇者達に乞うたのだった。
当然、龍退治のことなど騎士派は知らないしハルト達も貴族派の思惑など知らないのだった。
「龍討伐出来れば沢山の人を救えるってボルソンさん言ってたよね」
「人間を困らせる龍なんて最低だよな、俺達で成敗してくれる!」
ボルソンとはラトスフィア帝国の大公、ボルソン=デ=二ルーシャ=バンのことである。
貴族派のトップでラトスフィア帝国の影の支配者とも言われている。
彼自身狂信者であり、頻繁にラトスフィア帝国の南西にある信仰国ゴロアに赴き祈祷するほどであった。
そして彼が今回の提案者でもある。
危険な龍退治を秘匿しながら彼らに依頼した首謀者であった。
スバルはシホにいい所を見せようと気高に振る舞う。
肝心のシホは全くと言っていいほどスバルを見ていない。
「とりあえず準備整えて一週間後に出発でいいんじゃない?まだ何も情報もないし、地形すら理解してないもん」
「そうだな。冒険者ギルドでいくつか依頼を熟して信頼も得たいもんな」
「確かに余所者がいきなり戦地の山に行くってどうかと思うよな。まずは実力を見せて山地の魔物でも楽々倒せるようにしないとな」
彼らが勇者と知っているのはこの国にはいない。
そもそも冒険者になる時にラトスフィア王から口止めされたのだった。
やはり勇者という存在は人間界では悪に立ち向かう勇敢な戦士として敬意的に見られている。
そんな勇者が10人も集まって冒険者をしているなどバレた暁には只事ではない。
そもそも勇者には二種類ある。
一つは数々の偉業を成し遂げ、人間界にある大国ラトスフィア、ラリト、グリス、ゴロアの4つの王から承認された者。
これは人間界に3人存在する。
そしてもう一種類は異世界から来たもの達である。
彼らは問答無用で勇者とされる。
それは彼ら自身の能力が人間界の人達より優れているからだ。
彼らが人間界のために行動すれば四つの国から信頼を勝ち取ることなど容易いことであろう。
その手間を省くため否応なしに勇者となるのだ。
勇者はいるだけで人々に安心感を持たせる。
だからこそ異世界から来ていない四つの国から信頼を勝ち得た勇者の1人をめぐって争いが勃発し戦争にまで発展したという過去の事例も存在した。
それ以来三人は姿を隠してしまったのだがそれは置いておこう。
兎に角、勇者ということを知られることは拙いためラトスフィア王はそれを隠すようにと命令したのだった。
ハルト達は勇者と言うことを隠しながら龍退治をしなければならない。
ハルト達はあることを考えていた。
周りの冒険者達に卑下される可能性についてである。
ここはラリトであり、人間界で一番冒険者の多い国でもある。
そしてハルト達が向かうのはグラガ山脈であり、そこは人間界でも危険性の高い魔物の生息地でもある。
ましてやグラガ山脈は今、魔人と戦争中だ。
そんな場所にいきなり来た10代の彼らが簡単に魔物を仕留めてしまってはラリトの冒険者達は立つ瀬がないし、違和感を覚えるだろう。
そうなってはラリトの冒険者達は面白くない。
悪戯をしてくる者も出てくるかもしれない。
それはラリトに来る前に学習済みであった。
ハルト達はラリトに来る前にラトスフィアの冒険者ギルドでかなり目立っていた。
ちょっかいを出してくる者もいて騒ぎも起こし、何回か叱責されたこともあった。
その時に学習したため二度手間は踏まないと決めていたのだった。
情報が1番入りやすいのは冒険者ギルドでもある。
山の地形や、山のどの辺に洞窟があるのか、龍について等々知りたいことは沢山ある。
それらのことを知るには金は勿論のこと信頼も必要である。
そのためにある程度の依頼を熟しつつ、悪目立ちしない程度に信頼を得ていくことに決めたのだった。
「じゃあ一週間後までに龍退治に必要な情報を集めながら準備を整えよう。それでいいかな?」
「「「「「異議なしッ!」」」」」
最後はこのパーティのリーダーでもある学級委員長のミクが意見をまとめる。
そして全員で返事をするのが彼らのルールでもあった。
「じゃあ今日は解散。あんまり遠くに行かないでね。食事前にはみんな集まること、いいね?」
「「「「「はーい!」」」」」
ミクがそう言うとシズクは部屋から出ていってしまった。
シズクは本来単独行動を好むので、大勢で群れることは好まない質だった。
「ちょっとシズクさん待ってくんねー」
「それなー」
シズクにお熱のケンとサトシはすぐに彼女の後を追おうとするが既に彼女は居なくなっていた。
彼女の持つスキルが原因であろう。
「マジでシズクさん早すぎっしょ。恥ずかしがり屋だなー」
「それなー」
シズクはケン達のことが正直言って嫌いであった。
毎回毎回頭に響くような馬鹿でかい声で自分を呼び、つまらなく要領の得ない話を延々と繰り返す。
あの下卑た笑いを聞くだけで虫唾が走るほどであった。
だからシズクは『隠密』を自分自身にかけて自分の存在感を薄めて見つからないようにその場から立ち去ったのだった。
(気持ち悪い・・・。だいたいなんで私が龍退治なんてしなきゃいけないのよ。それもこれもあのサルとゴリラが安請け合いしなきゃよかったのに・・・。というかハルトって呼ばれていた奴、絶対性格歪んでるわ)
ボルソンからの依頼を受けたのはサルとゴリラことスバルとノリヒロだった。
受理した理由は単純明快である。
自分の意中の異性に良いところを見せたかったからである。
だからこそ周りの意見など聞かずに二つ返事で返事をしてしまった。
その時のボルソンはとても良い笑みを浮かべていたが、シズクとコトミを除く女子は不安そうな表情を浮かべていた。
シズクはただ巻き込まれたことに心底煩わしいといった顔をしていた。
コトミはよく分かっていないのかただ呆然としていた。
スバルとノリヒロを除く他の男子のメンバーも一人を除いて不安そうな顔をしていた。
その除かれた一人、ハルトは口角を緩めていた。
ハルトはスバル達と同じでナナに自分をアピール出来ると内心画策していた。
だがそれを言葉にして表に出すことはしなかった。
普通に考えれば龍退治を進んでやりたがるのは、よっぽど戦闘狂かドラゴンマニアくらいであろう。
そんな風に、特にナナに思われたら正気の沙汰とは思われない。
だからこそバレないように、それでもアピールチャンス到来だと言わんばかりに頬を緩めたのだ。
それをシズクは見逃さなかった。
スバルやノリヒロみたいな単純に利己的な考えなのは理解出来る。
それでも隠れて密かにほくそ笑んでるハルトを見るのは少し背筋が凍えたのだ。
明らかに面白いことは言っていないし、シズクやコトミを除く彼女たちみたいに憂慮するのも理解出来る。
だがハルトは笑っていたのだ。
気が狂っているとしか思えなかった。
ハルトには何かしらの思惑があって、例えスバルやノリヒロ達と同じような理由があったとしても、そんな簡単に済ませることができるような感情を抱いているとは到底思えなかった。
(龍退治をする前にバックれようかしら)
シズクは龍退治だけで済むとは思うことが出来ず、面倒事に巻き込まれる前に逃げるかどうか思案しながらラリトの町並みを駆けるのだった。
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——ラリト 大衆浴場——
「あー、気持ちいぃぃぃぃ」
「シホおじさんっぽいよ」
「うん」
「うげッ! また言われた〜」
ナナ、シホ、ミクの三人はラリトで1番大きい大衆浴場に来ていた。
古代ギリシアの大衆浴場を想起させるような巨大な柱などに息を飲みつつも、彼女たちは温泉を楽しんでいた。
「コトミちゃんも来れば良かったのにね」
「別にすっぴんなんか気にしないのにね」
シズクは単独行動を選んだので言うまでもないが、ほかの男子たちは情報収集に出かけた。
コトミはメイクを落とし公衆の場で素顔を晒すのを避けたかったため温泉はパスした。
「でも温泉はいいよねぇ。保養場なんてないとか言ってたけどこんな立派な施設があるもんねぇ」
「確かにショッピングするような施設や娯楽施設なんかは無いけど、リラックス出来る場所はあるのは魅力的だね」
「うん。冒険した後に入ると尚のこと格別かも」
「ナナちゃんそれいいアイディアだよ!」
「うん、それは気持ちがいいかも。いつもタオルで体を拭くか、高めの宿で泊まって小さい浴場に浸かるしかないから良い考えだよ」
「そ、そうかな?」
保養施設の少ないラリトだが、日本人の彼女達からすれば温泉は立派な保養施設である。
そして、ナナの意見にはシホもミクも大賛成であった。
この世界で風呂に入るのは上流貴族や金持ちくらいで、普通の家庭は水で濡らした生地で体を拭くか、水浴びをする程度であった。
だからこそ汗だくになる冒険者家業から帰る時に温泉に入れるのは何よりも魅力的に感じるのだった。
「じゃあ明日からお得意さんになるね」
「そうしよう!」
「私も賛成かな」
彼女達がラリトに滞在する間、この大衆浴場は憩いの場になるのだった。
人間界では人間、魔人、獣人と言います。
魔界ではそういった呼び方はしません。
獣人界では人間界に隷属していた歴史があり人間界と同じ呼び方になります。
魔界で呼ばない理由や、獣人界が人間界に隷属されていた歴史も今後の話にしていけたらと思います。
ぜひ意見、感想等をくだされば嬉しく思います。
今後も破者と勇者をよろしくお願いします。




