第二十六話 出発
※本日2本目です。
——ロステルラッテ 商業区——
朝にもかかわらず大勢の人が行き交う中、シュンとフィーアはロステルラッテの入口に立っていた。
「フィーア、準備は出来たか?」
「うん、バッチリだよ!」
シュンはグレーの鎧や篭手、グリーブ、ブーツを着用しており、その上にマントを羽織っていた。
そしてそのマントの内側には数本の小型投げナイフが内蔵されている。
左の腰にロングソードと短剣が納めてあり、どれも真新しい物である。
フィーアはいつもの〝高性能メイド服〟に加えて、左の腰に小剣が納めてあった。
既にあの宴会から一ヶ月経過しており今日のうちからロステルラッテを出立しようとしていた。
「でも残念だったな。魔王様も不在だし、大魔人もほとんど居ないなんて」
「魔王様は魔界のトップだからね、色々と忙しいんだよ。後大魔人が居ないのは戦争に行ってるからだと思うよ」
シュンは一ヶ月の間で邪竜討伐時に聞いた二つの魔法、『収納』と『転移』を習得すべく魔王城へと赴いた。
だが教えを乞うはずの魔王とアハトは不在で習得は叶わなかった。
大魔人は数人しか居らず、ほとんどが戦地へと向かっているらしい。
戦うというよりは視察をしに行くそうだ。
彼らも魔王と同じで戦争をするのは極力避けたいと考えているため戦場がどうなっているか、兵站は無事かなど確認に向かったそうだ。
シュンは文句こそ言わなかったが期待通りに行かなかったため少し残念そうな表情であった。
「でも『風陣』も含めて私の魔法全部覚えちゃったじゃん。なんかどんどん置いていかれてる気がするよ」
「スキルは覚えられても補助スキルまでは覚えていないからな。それと置いてなんか行かねぇから安心しろよ」
「ふぇッ!?」
シュンの気障な台詞に顔を赤らめるフィーア。
シュンとフィーアは一ヶ月の間、冒険者ギルドで依頼をいくつかのこなしつつその合間にフィーアから魔法を教わっていた。
『挑みし者』の効果では〝血のにじむような弛まぬ努力〟と記載されていた。
ではどのようにして習得したのか。
実際に口で唱えたり、手を翳したりと試行錯誤を続けた結果一つのことに気がついた。
血のにじむようなということは、実際に血が出るほどの努力が必要ということである。
つまり実際に魔法を食らっていけば技が習得できると考えたのだった。
実践する際、フィーアはシュンにそのような稽古はやめて欲しいと懇願した。
だがシュンの意思は固く強くなるには避けられないと我を通したのだ。
ここでお互い喧嘩をしたのだがそれは割愛しよう。
結局技を食らうことになったのだが最初はフィーアの使う魔法の中で安全な身体強化魔法を使用して行くことになった。
フィーアの仕える身体強化魔法は3つである。
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『激励』
使用MP 50
この魔法をかけられた者は攻撃が50%増加する。
『速度』
使用MP 50
この魔法をかけられた者は速度・的中が50~100%増加する。
『硬質化』
使用MP 50
この魔法をかけられた者は防御が50%増加する。
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これらをシュンに幾度もかけ続けた。
するとシュンのステータス欄に薄く文字が浮かび上がったのだ。
そう、フィーアの持つ身体強化魔法である。
これで自分が一定数以上魔法を食らうと覚えることが出来ると分かった。
そして実際に使ってみることにしたのだが・・・、
「『激励』ッ!」
「・・・特に何も変わらないよ?」
ここで分かったのは、ただ魔法を受ければ使用できるのではなく反復して使用しなければならないということであった。
そのためシュンは、繰り返し身体強化魔法を唱えることでようやく会得することが出来たのだった。
だがここで問題が生じる。
いくら魔法が覚えられると言っても幾度も魔法を食らわなければならない。
フィーアはまたもや風魔法をシュンにぶつけるのを躊躇した。
今度こそ怪我をしてしまうからだ。
シュンが傷つくのですら見るに耐えないのに、それを自らが行わなければいけない。
とても心苦しいと感じた。
それでもシュンを想い魔法を放ち続けた。
なぜなら魔法を覚えることがシュン自身の願いだからだ。
せめてもの救いとして魔法攻撃の後には必ず回復魔法もかける配慮も怠らなかった。
結果、風魔法でボロボロになりながらもシュンの補助スキル、『痛覚耐性』と『不屈の精神・上』の後ろ盾により何とか耐えたのだった。
この一ヶ月でシュンとフィーアのステータスは成長していた。
◇◆◇◆◇
アベ シュン 年.16 男
<ステータス>
HP 3000/3000→4000/4000
MP 5000/5000→6500/6500
攻撃 470→650
防御 380→540
速度 560→750
的中 420→590
幸運 600→800
<スキル>
『破者の手』
『魔炎』『魔氷』
『魔風』『魔雷』
『終焉』
『風球』→new『風針』→new
『風陣』→new『暴風』→new
『手当』→new『回復』→new
『大回復』→new
『激励』→new
『速度』→new『硬質化』→new
<補助スキル>
『挑みし者』
『痛覚耐性』『不屈の精神・上』
『剣の達人』
『魔法使い』→new
『偽装』『真視』
『探索』『気配遮断』
『料理人』→new
<称号>
『超越者』『殺戮者』『ストイック』
『急成長』『剣術に長けし者』
『魔王の血を継承する者』『青髪碧眼』
『オレ系』『勘違い系男子』
『鈍感』→new
『バカシュン』→new
『魔法に長けし者』→new
『風魔法の使い手』→new
『巻き込まれ体質』→new
『受け』→new
『竜の装備を纏いし者』→new
『調理狂』→new
◇◆◇◆◇
◇◆◇◆◇
フィーア=グルラージ 年.16 女
<ステータス>
HP 1200/1200→1500/1500
MP 3500/3500→4000/4000
攻撃 250→290
防御 240→260
速度 470→510
的中 380→420
幸運 400→420
<スキル>
『風球』『風針』
『風陣』『暴風』
『魔風』
『手当』『回復』
『大回復』
『激励』
『速度』『硬質化』
<補助スキル>
『小剣の達人』『偽装ダウト』『料理人』
『風攻撃・上』
『治癒向上・中』→『治癒向上・上』→new
<称号>
『風使い』『回復役』『剣術に長けし者』
『貴族令嬢』
『魔王に仕えしもの』『メイド』『ボッチ』
『初めての友達』
『初めての親友』→new
『初恋娘』→new
『おっちょこちょい娘』
『素直な感情』→new
『気の毒娘』→new
『大食漢』→new
◇◆◇◆◇
お互いパラメーターが上昇したことは一目瞭然であり、シュンに至っては数多の魔法を習得した。
称号がアレなのはご愛嬌である。
「とりあえず身支度も出来たし、人間界に向かうとするか」
「そうだね」
シュンの目標は神(悪魔)の撃破である。
だがそれは大まかな目標であり、具体的に何をどうするのかはまるで決まっていなかった。
そこで考えたのはクラスメイト達との合流であった。
まずはこんな無意味な戦争を止めなければならない。
そのためには神(悪魔)がこの戦争に加担していることをこの世界の人達に伝えることが絶対である。
だがシュンの口からは伝えることは出来ない。
伝えてしまってはシュンの肉体が爆ぜたりと、惨たらしいことになってしまうだろう。
それでもクラスメイト達を媒介とすれば現状を伝えることが出来、魔王ヌルの想いも伝えることが可能である。
そしてシュン自体もハルトとナナと再開したいという気持ちもあったのだ。
告白を覗いたことを謝罪したいという気持ちもあったし、クラスメイト達を巻き込んでしまったことも謝りたいと思っていた。
別にシュンはクラスメイト達に侮蔑されていた訳では無いし、シュン自身の勝手な想いが皆を巻き込んでしまったのだ。
性格こそ変わってしまい以前のように素直に謝罪できるかと言われては未だ分からないが、罪悪感だけはしっかりと残っていたのだった。
だからこそまずは人間界に向かい、彼ら達と合流するのが先決であると考えたのだった。
だがシュンは忘れていた。
彼らのシュンの記憶は忘却していることに。
「でもギルドの人達も優しいよね。馬車を一台譲ってくれるなんて」
「宴会で好感度上がったからだろ」
シュン主催のウェンドラゴン串焼きパーティによりシュンの好感度は上がり冒険者達の殆どはシュンとフィーアに突っかかって来なくなった。
さらに旅立ちの日を伝えると彼らの実費で馬車を贈与してくれたのだった。
彼ら曰く、串焼きが今まで食べたものの中で一番美味しかったので立ち寄った際にまた作って欲しい、ということだった。
完全に胃袋を掴まれたようである。
シュンは馬車自体を貰うのは悪い感情を持たなかった。
だがそれで移動するとなると話は別である。
シュンは『風陣』を使用して移動したかったのだ。
一ヶ月の間でまず最初に会得した風魔法が『風陣』であった。
これはシュンが飛行したいと考えていたため喉から手が出るほど欲していたのだ。
そして覚えると矢庭に練習し始め空を飛ぶことに成功したのだった。
その時のシュンは初めて自転車に乗れた子供のような笑みを浮かべていた。
しかし実際は馬車での移動になった。
理由は二つ。
一つはせっかく貰った馬車を使わずに【収納袋】に入れておくのは忍びないと思ったからだ。
【収納袋】の中には沢山の食料や生活必需品、MP回復薬、その他もろもろと入っている。
もちろん馬車くらい入れるのは容易であるし、生きている馬も収納可能なのだ。
だがシュンも人の子である。
笑みを浮かべる者。
恥ずかしそうにしている者。
泣いている者
様々な表情で贈与してくれた馬車を使わず、ただ閉まっておくのは倫理的にどうかと思ったのだった。
そして二つ目の理由は・・・、
「フィーア、後で特訓な」
「えー、だってあれ怖いんだもん。」
「うるさい、拒否権は無しだ」
「うぅ〜」
フィーア自身飛行ができなかったのだ。
そもそも『風陣』を用いて飛行することなど余程の技術とセンスが必要なのだ。
シュンの場合、一心不乱に練習したため習得できたし、称号でも『風魔法の使い手』を獲得していた。
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『風魔法の使い手』
風魔法を極めし者に与えられるもの。
自由自在に風を操れる姿は、自然と一体化していると言っても過言ではない。
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このように風魔法を極められるほどの技量がなければいけない。
だがフィーアは元々風魔法を得意としている。
そのため『風陣』を使って飛行するのは長い年月の修行を積めばできるのである。
しかし、短時間で覚えるとなると厳しい修行が必要となるのだが。
余談だが『飛翔』という補助スキルが存在する。
これは空を飛ぶことが可能であるが人間や魔人が持つことは殆ど無い。
ハーピーやセイレーンといった亜人もとい獣人族は使えるものが存在する。
シュンがこの世界を旅する上において彼ら達と遭遇することになるのだが今は置いておこう。
「じゃあ行くか。頼むぞサンソン」
「今回はよろしくお願いします」
そう言って頭を垂れたのは茶髪の青年であった。
彼の名はサンソンと言い御者を営んでいる。
今回はまずロステルラッテの北東にあるセックという国を目指し、そこまでサンソンが同乗することになっている。
「それではセックまではいくつかの村や町を経由すると思われます。まず最初にグスタという村に向かいますのでそれまでは幌の中でお寛ぎ下さいませ」
シュンとフィーアはそう言われると幌の中で腰を下ろした。
馬車が出発し清涼な風がシュンの体に触れ、心が安らぐのだった。
これからこれくらいの長さになるかもしれません。
次回はクラスメイト達サイドです。
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