第二十五話 宴会
——ロステルラッテ 工業区 鍛冶屋内——
「それでどこの部位を持っているんだ?」
「頭、目、牙、鱗、鉤爪、両翼、尻尾そして【竜玉】だな」
「【竜玉】だと? それはまたレアな物を手に入れたな」
「たまたま運が良かったんだ」
実際【竜玉】に関しては、最初から知らなかったので偶然手に入ったというのは正しかった。
「頭や目はすり潰して煎じれば薬になる。鍛造には向かんから坊主が持っていろ。ほかの素材は店の裏に置いておけ。それなりのスペースがある」
マルクスの言う通り、頭や目は武器や防具に使われることは少なく研究材料や薬品になったりする。
そしてマルクスに案内され店の奥へと通された。
金床の上には金槌や様々な金属や素材などが乱雑に置いてあり、綺麗とはお世辞にも言えなかった。
だが、マルクスの弟子と思われる者達は汗を垂らしながら一心不乱に金属を打ったり、鋳造をする様はどこか霊妙さを感じさせた。
つい見とれてしまったが、歩みを止めることはせず店の裏へと向かう。
店内よりそこは広く、空き地のような空間で部品やら金属やらが点在していた。
「ここに置いてくれ」
マルクスがそう言うと、シュンは【収納袋】に手を突っ込み、ウェンドラゴンの素材を想起する。
そして次々に素材を取り出してゆく。
「おお〜!」
ウェンドラゴンの素材を【収納袋】から取り出す光景などなかなか見られるものでは無い。
マルクスは堪らず感嘆の声を上げる。
最後にウェンドラゴンの尻尾を取り出すと全ての部位を出し尽くしたようで、シュンは【収納袋】を逆さにして振りながらもう出てこないと合図を送る。
地面にはウェンドラゴンの部位がシュンの足元に偏在していた。
この時【収納袋】の中にはウェンドラゴンの肉も入っていたが、これを奪われる訳にはいかないと卑しいことを思い取り出すことは無かった。
「すげぇな、確かにウェンドラゴンの部位だ。ちゃんと【竜玉】も確認出来る」
「まだ信じてなかったのか」
「百聞は一見に如かずってやつだ。もう何も言わねぇよ」
マルクスは既にシュンを疑うという非生産的なことはしなかった。
シュンもやっと開放されたと愁眉を開いたのだった。
「それで坊主はどんな武器がいいんだ?」
「坊主じゃねぇ。まぁそうだな、ロングソードと小型投げナイフを数本、後は短剣があると助かるな」
シュンの考えでは主力はロングソードであり、防具はマントを羽織ると想定しているため小型投げナイフを隠しておきたかったのだ。
これは態々ロングソードを振るう程の価値の無い適用に所持したかったのだ。
短剣は直ぐに接近して命を摘めるように、暗殺用として備えておきたかった。
説明するとかなり物騒だが、効率を考えての装備なので仕方のないことであった。
以前のシュンなら片手剣と盾とでも答えていただろう。
「あい分かった。それで嬢ちゃんはどうする?」
「私も造って貰ってよろしいのでしょうか?」
この時フィーアは少なくともマルクスに申し訳ないという気持ちを持っていた。
マルクスがシュンのことを悪く言ったため、フィーアは角を出しかなり醜悪な台詞を吐いたと思っているようだ。
そのため自分まで武器や防具を鍛造してもらうのは烏滸がましいと感じていた。
「当たり前だ。そもそも俺の目が節穴だったのが原因だ。寧ろ嬢ちゃんは俺に気づかせてくれたんだ。その御礼はさせてくれ」
しかし、マルクスもフィーアには悪いことをしたと思っていたのだった。
自分が最初からシュンの実力に気づいていればここまで手間なことにはならなかった筈なのだ。
だからこそ、それに気づかせてくれたフィーアには感謝しており、贖罪というのは猪口才だが自分の鍛造したものが彼女の役に立つならと思っていたのだった。
「分かりました。それでは私は防具は必要ありませんので小剣を一つ拵えて頂ければ幸甚です。」
「あい分かった。嬢ちゃんの防具はウェンドラゴンよりも良いものを使ってそうだからな。そっちの方が良いに決まってる」
マルクスはフィーアのメイド服の質は理解していたようで防具に関してはとやかく発言しなかった。
「じゃあ坊主、防具はどうする?」
「だから坊主じゃねぇって。それで坊主は、あーもう! 紛らわしいなッ!!」
坊主と防具の語呂が似ているせいもあってストレスを蓄積していきながらも、マルクスに自分の望む装備を伝えのだった。
「——よし、全て出来上がるには1ヶ月ほど有する。それまでは俺の弟子が打った防具をくれてやる。ギルドで借りたやつより数十倍いいぞ」
そういうとマルクスは一度店内に戻り、様々な武器や防具を持ってきたのだった。
「好きなやつを持っていけ」
「いいのか?」
「実力があるやつがレンタル装備など噴飯ものだ」
実力が認められたシュンがレンタル装備などしていれば指を刺されることは容易に想像出来る。
舐められることを嫌うシュンは装備を貰うことを快諾したのだった。
それでも貰ってばかりいるのも少々心苦しいと感じたのかシュンはあることを考えた。
「今夜暇か?」
「ああ? まぁ晩酌するくらいだぞ」
「ならお前の弟子でも連れて冒険者ギルドにでも来い」
「何するんだ?」
「来てのお楽しみだ」
シュンはニヒルに微笑むのだった。
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——ロステルラッテ 冒険者ギルド内——
日も沈み酒場や食堂が冒険者達で忙しくなる頃、シュン達は冒険者ギルドの中で酒池肉林の如く宴会と洒落こんでいた。
「おい!、マジでこの肉美味いぜッ!」
「だよなッ!、この肉とエールが滅茶苦茶あうんだよ!」
「そこはワインだろ?」
「いやいや、ミードだろ!」
そう笑い合いながら串焼肉に被りつく冒険者達が大勢いた。
中には冒険者だけでなく、受付嬢や黒ずんだ革エプロンを着ている男達も何人かいるようだ。
「おい坊主、マジで美味いなこの肉!」
「次坊主って言ったらもう焼かねぇぞ」
「お、おぉ悪ぃ悪
そう気楽に声をかけるのは鍛冶師ドワーフことマルクスであった。
肉を焼いているのはシュンであった。
流石のマルクスも美味い肉を前に低頭平身を崩す訳にはいかなかった。
「それにしても色々驚いたよ。シュンがギルドで宴会を開いたのもそうだけど、シュン自らが料理するなんて」
現在冒険者ギルドではウェンドラゴンの串焼きが振る舞われていた。
提案者はシュンでありスージョに今日冒険者ギルドを宴会場に使いたいと頼んだのであった。
スージョも昨日の件があり、何よりもウェンドラゴンの肉が食べられると聞けば承諾しないわけにはいかない、ということで会場は確保出来たのだ。
では何故態々冒険者ギルドを貸切にしてまで串焼きパーティーを開催したのか。
それにはいくつかの理由がある。
一つ目はマルクス達への感謝の印である。
口では言わないがやはり装備を一式、さらに新調して貰えるとなると素材はこちらから持ち込んだとしても申し訳ないという気持ちは払拭されない。
だから今回宴会に招待しウェンドラゴンの串焼きを楽しんでもらうことにしたのだった。
二つ目はこれからの立ち位置だ。
大勢の野次馬にシュンとキャサリンの模擬戦を観られて実力が認められたのはまずいいだろう。
だが、冒険者ギルドに登録して二日でSSランクに到達するなど異例のことである。
当然面倒事に絡まれることもこれから少なくないだろう。
それならば目立つことは嫌でも既に顔は知られているので美味いものを食わせて下手なことを言わせないようにしたのだ。
要するに、大多数へのご機嫌取りである。
いちいち絡まれるのも面倒くさいが悪絡みよりはマシである。
実力もあって料理を作るのも美味いとなれば、誰もシュンのことを馬鹿にすることは無いのだった。
そして、最後の理由だが・・・、
「美味しいわん。シュン調理するの上手ねん」
「ウェンドラゴンの肉自体美味いのは食べたことのある奴の中では周知の事実だが、この串焼きは本当に上手い」
「シュンさん、美味しいですッ!」
キャサリン、スージョ、カルナがそれぞれシュンに感想を伝える。
しかし・・・、
「うるせぇッ!、話しかけんじゃねぇッ!!」
「「「「「ッ!?」」」」」
「よしッ!、ここで返すッ!」
シュンはそう言いながら馴れた手つきで串焼きを返してゆく。
何を隠そうシュンは、調理マニアである。
食べるのもそうだが作ることに関してはかなり五月蝿い。
別に相手の作ったものが不味いと怒鳴りちらすという訳では無い。
ただ自分が作る料理に関してはかなりシビアな部類に入る。
小さい頃から料理を作るのが好きでナナと一緒にホットケーキを焼いたのが何よりも楽しかったと本人は語る。
それ程料理に対して愛情を注ぎ、唯一の特技とも言える調理スキルは高校卒業後に調理の専門学校に進もうと考えていたほどであった。
シュンの才能は調理だったのだろう。
本人が知るはずもないのだが。
話を戻すと魔界に来てから一度も調理をしていない。
いつもフィーアや他のメイド達が作ってくれるため自分が作る暇が無かったのだ。
血を飲む前は当然そんな度胸もなく伝えることすら出来なかった。
調理への熱望が高まるのを抑えられなくなったのはウェンドラゴンの肉を見た時だった。
絶対に自分の手で調理してやるといった感情が湧いてきたのだ。
それがやっと今叶ったことで現在、極限まで調理に集中している。
シュンがここまでの調理狂だったことにフィーアすらも知らなかったためその場にいる人達全員が少し引いているのだった。
「よし、焼けたぞ!10秒以内に取れッ!」
シュンが劈く声で発言すると一斉にみんな炭火の前に群がり串をとっていくのだった。
そして、10秒持たずに串焼きの姿は忽然と姿を消すのだった。
シュンの顔はどこか満足そうな顔をしている。
因みに本人は一本も口にしていない。
それなのにこのような表情ができるのは本当に調理への愛がなせる技だろう。
「はい、シュン」
「ん?、おぉ悪ぃな」
「だってシュン一本も食べてないでしょ?」
「そういうフィーアは何本食べたんだ?」
「うぐッ!? 美味しかったから・・・」
フィーアの手には何も刺さっていない串が何本も存在した。
それを指摘され少し籠もってしまう。
「ははは、野菜も焼いてやるから食えッ!」
「なんかシュンテンション高いよッ!?」
フィーアが串焼きを気に入っていることに気分がいいのか、見たことの無いテンションの高さに動揺してしまう。
だが、シュンが笑顔で自分のために何かをしてくれる様子は何よりも嬉しいのだった。
そしてシュンがフィーアから串焼きを受け取り、自分でも味わっているとマルクスが声をかけてきた。
「今回は誘ってもらい感謝する。久しぶりにこんな美味いもんを味わった」
「そんな言葉より俺達の武器や防具をしっかり鍛造してくれ」
「はっはっはっ、そうだなッ!」
マルクスはシュンが言葉より装備を欲したことに何よりも感銘を受け高らかに笑うのだった。
その後もウェンドラゴンの肉や野菜が無くなるまで宴会は続き、シュンやフィーアも舌鼓を打ち、時間は過ぎてゆくのだった。
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